表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/166

ケルケ遺跡の怪物

「あなた方には、あのケルゲァルの群れをどうにかして、遺跡内を調査する算段があるとでも言うのかね?!」


 バミリオンの長、ピースライルは語尾を強め若干ではあるが不快感をあらわにした。


「まあ、大丈夫よね、たぶん」

「ほう……。その根拠は?」

「だって、わたしたち、強いわよ?」

「ずいぶんな自信だな、人族の娘よ。 エルフにも劣る種族に何が出来ようか。 ふんっ、笑わせてくれる……」

「そう?じゃあ試してみる? ふふっ」

「エルビー。これはエルフたちの問題です。自重なさい」

「ひぎっ……しゅみません……」

「ピースライル殿。 そうは言うがこの者たちは強いぞ。 エルマイノスの長としてそれは保証しよう。 それに、実際あなた方の戦士が負けたではないか」

「それはこちらはたった一人で……」

「必殺の弓。 風切りの音もなく、気配さえ感じさせないと言う我々エルフの技。 奴は自身を戦士と言っていたぞ? 我らにとって戦士とは……言うまでもないだろう。 その攻撃を二度も防がれたというのにか? それにだ、仮に失敗したとして……死ぬのは我々だけだ。 他に我々を引き留める理由があるのか? 勘違いしないでほしい。 我々はここに許可を求めに来たのではない。 ただ情報を集めに来たに過ぎないのだ。 あの遺跡についてあなた方が知っていることを教えてくれ」

「な…何を勝手なことを!」

「待て……。 サティナ殿、あなた方の言い分は分かりました。 ただ成功失敗に関わらず、見たこと聞いたことの他言は無用にしていただきたい」

「ああ、もちろんだ」

「ではお話ししましょう……」


 あの遺跡を進んだ先、その終点はケルケ、バミリオン、そしてもう一つの大樹を結んだ三角形の中に存在している。

 位置的にはケルケよりバミリオンのほうがかなり近いようだ。

 そしてこの3つの大樹の結界により中の物を封印する形になっていたのだと言う。

 ケルケの崩壊により遺跡の入り口は結界から外れ、結果ケルゲァルに占拠されてしまった。

 中の物の封印に関しては主にバミリオンの大樹と補助的にもうひとつの大樹の結界のおかげで弱体化こそしているが消失には至ってない。

 ただ結界の弱体化は、まあおそらくだがその不穏な気配が充満する原因となっているのだろう。


「我々とてただ指をくわえてこの事態を静観していたわけではない。 遺跡の調査をするべく戦士を送り込んだのだ。 だが……あの数のケルゲァルだ。 無駄に被害を出すだけになってしまった。 今は集落の警戒、この大樹を無事守り抜くことのほうに戦力を割くようにした……というわけだ」

「つまり、ここバミリオンが他の集落の者にやたらと攻撃的だったのは、この事態を悟らせないためだったということか」

「大方その通りだ。 ケルケが無事だったならそこまで気にする必要もなかっただろうがな。 ケルケが滅んだ理由がわからない。 何者かが遺跡の中の物を狙っている可能性がある。 その状況下でエルフと言えど敵か味方かわからぬものに情報を与えるわけには行かなかったのだ」

「なるほど。 それが自分たち集落の者しか信用しないと言う話に繋がるわけか。 しかし、エルフの裏切り者……か……。 まあ止むを得なかったとは思うが。 私としては余計に問題を大きくしただけにも思えるがな」

「まったく、サティナ殿は歯に衣着せぬお方ですな。 噂通りの……」

「私の噂はもういいよ!!」

「は?はあ……ともかく、我々は調査より大樹の結界の維持に全力を尽くす」

「だが遺跡の問題のせいでその大樹の結界が弱まっているわけだがな。 まあいい。 我々の調査は認める、と言うことでいいな? ああ許可を求めているわけではないとは言ったが、邪魔をされても困るのでな」

「いいだろう、我らバミリオンの者は手を出さない。 約束しよう。 その代わりと言っては何だが、遺跡の調査で分かったことは我々にも教えていただきたい。 知らずとも守れる、今まではそう考えてもいた。 だがさすがにこの状況ではな。 適切に守っていく方法を探るべきだと、まあそういう話だ」

「承知した」


 これでバミリオンとの話し合いは終わった。

 あとはケルケの遺跡に行き中を調べてくるだけだ。


「なんとかバミリオンの連中は説き伏せたな。 とは言ったものの、本命はケルケの遺跡のほうなんだが……。 正直面倒ごとは嫌だが、何も無いでは振出しに戻るだけだし……。 はぁ……」

「大丈夫ですよ、頭目。 ノールさんたちもいますから、いざとなればゲートで逃げられます」

「逃げてどうするんだ。 とにかく、まずはケルケの遺跡。 それでどうする? 少し休んでいくか、それともこのまま行くか」

「このまま行っていいんじゃない? どうせ今までと同じで、途中野宿することになるんでしょ?」

「まあ、な」

「そうじゃな。 猶予がある、とは言い切れんからのう」

「わかった。 じゃあ行くぞ」


   ・

   ・

   ・


 精霊の案内に道なき道を進む。

 目的地までほぼ一直線に進んだようだ。


「あれが遺跡のようですね」

「うわぁー、何あの数……。 どうすんの?これ」

「そんなの、私が知るものか」

「いっぱいいますね」

「あれじゃ襲われたらたまったものじゃないな」


 遺跡は崩壊し瓦礫と化していた。

 ただところどころ建物だった痕跡は残しており、数は多いが死角がないわけではない。

 そして中央にぽつんとある建造物に穴のようなものが開いている。

 おそらくあれが遺跡への入り口だろう。

 遺跡の周辺には見ただけでかなり多くのケルゲァルたちがいる。

 遺跡内部までケルゲァルが入り込んでいることを考えると、おそらくこの比ではないのだろう。

 まずはしばらく様子を見るということになった。


「ケルゲァルたち、遺跡の中に入っていっているようですね」

「そうだな。 と言うより何匹か出てきたら何匹か入るって感じだな」

「なんとなくですが、あのケルゲァルたち、遺跡の中に入ったきりの者もいるようですね。 入っていく数と出ていく数が合わない気がします」

「ふむ。 しかし……出てくるケルゲァルからは嫌な感じがするのう。 これはもしや……」

「悪魔」

「え?また悪魔なの? あいつら暇なのかしらね」

「なんじゃ? エルビーは悪魔を見たことがあるのかの?」

「はい、何度かあります。 弱い魔獣に憑依してちょっとだけ強くなるって程度でしたけど」

「ちょっとって……悪魔の憑依による強化はちょっとどころじゃないんだが……」


 サティナは独り言ちる。


「しかし、あの数を全部憑依させているんでしょうか? だとしたら……」

「そうじゃのう。 あそこには大悪魔がおる、と言うことやも知れぬ」

「なら、入ったきり出てこないケルゲァルは?」

「おそらくは、憑依に失敗したのじゃろう」

「しかし、悪魔付きのケルゲァルをあんな生み出して何する気なんだ? も……もしかして、我らの集落を襲う気か?」

「さすがに見てるだけじゃ埒があきませんね」

「そうだな。 中に大悪魔がいると我々で対処できることもないし、一度引くか」

「ですが頭目。 他の者の協力は、たぶん得られないですよ? 私たちだけでどうにかするしか……」


 何か情報を得られるものはないだろうか。

 

「無茶を言うな。 だからと言って連中のところに行って、何してるんですかぁ? なんて聞きに行けとでも? そんなの自殺行為だ。 私は絶対に嫌だ」


 そうか。

 ケルゲァルに聞いてみればいいのか。

 けどどのケルゲァルに聞こう?

 そもそも言葉が通じるのかどうか。


「ねえ、ちょっとノール。 ま~た変なこと考えてない?」

「そんなことはない。 それよりあそこのケルゲァルが不自然」

「あそこ? ああ、なんか物陰でこそこそしている3匹ね?」

「そう」

「ふむ。 なにか隠れているようにも見えるのう」

「逃げてるのかしら? あ、そっちに行っちゃうとバレるー……ってバレちゃった……。 ねえ、どうする?」

「どうするも何もないだろ。 相手はケルゲァルだぞ? 放っておけばいい」

「んー、そうなのかなぁ? って、ノール?」

「助けに……行く。 もしかしたら話が聞けるかもしれないし」

「ちょっ、おい! 何を馬鹿な……え!?……消え……た……? どういうことだ? 落とし穴?」


 サティナは文句を言うとしたが、その前にノールは消えてしまった。


「あ、えーとね、なんだっけ? 転移とか言ってた気がする。 ゲートが空間を繋ぐ魔法で、転移は物を移動させるって言ってたかな?」

「転移って……もう……なんでもありだな……」

「ね、びっくりよね。あははは」


 軽い感じで笑うエルビー。

 転移したノールは逃げるケルゲァル3匹と自分を囲むように結界を張る。

 悪魔は厄介だが、これで話す時間は確保できるだろう。

 さて……。


 グァーグァー。


 話すのは無理だった。

 どうしようか……。

 ここにいても仕方がないし、こちらに敵対する様子もない。

 なら……。


「……と、いうわけで連れてきた」

「この子はアホなのかな?」

「え、サティナがそれ言うの?」

「どういう意味だ!」

「ふむ。言葉が通じぬのか。 いや、まあ仕方もあるまい。 しかし、獣人族と言うからにはそれなりの知能があるはずじゃが……。 試してみるかのう」


『獣人族の者よ。 わしの言葉が分かるかのう』


 ヴァルアヴィアルスが試したもの。

 それは念話だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ