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エルフの大樹8

「皆様、どうか、よろしくお願いします」


 声をかけたのはユエンファミルの長だ。

 他にも集落の者たちが集まっている。


「なんか知らないうちに集落総出で見送りみたいになってるわね」

「まあここの連中からすればバミリオンとの関係に決着をつけるいい機会だからだろうな。 まったく我らエルフにとって危機的状況だと言うのに……。 そっちのほうは何か他人事な雰囲気だな」


 ユエンファミルのエルフに見送られながら、ノールたちは精霊の道案内を頼りにバミリオンを目指す。


「ねえ! ノールのゲートって一度見たことある場所なら行けるんでしょ? バミリオンの近くまで移動して、そこから歩けば早く着けるんじゃない?」

「なるほど。 エルビーの言うことももっともですね」

「でしょ? ヴィアス様」

「近くってどこ?」


 エルビーの提案にノールが尋ねる。


「ふぇっ?…… えっと……それは……近くったら……近くよ……」

「あ、あぁ、そうだね……一番近い……場所……」

「二人して何を言っておるのじゃ。 バミリオンの正確な場所が分からぬ以上、どこが近いかなど見当つかぬであろう」

「はい……仰る通りです……」

「まったく、これだから人族は……。 森と言うのは似た景色が延々と続くから迷いやすいのだ。 便利な魔法ばかりに頼ってズルしていると足をすくわれるぞ」

「ごもっともで……」


 それから何度か野宿をし、どのくらい歩いたのだろうか。

 距離だけでなく時間さえ分からなくなる。

 日の光がほとんど入らず全体的に薄暗いのも原因のひとつだろう。


「気のせいでしょうか。 なにか不穏な空気に包まれているような……」

「ふむ。 気のせい、というわけでもないのじゃろうな。 邪な気配が集まっておるわ」

「木々の育ちは同じに見えるのにね。 なんでこんな薄暗く感じるのかしら」

「ううひぃ~……。そう言われると何か肌寒くなってきた感じがする」

「サティナの場合は薄着過ぎだからでしょ……。 ねえ、ところでさー。 ノール何持ってるの?」

「弓の矢」

「ふーん。 そんなの持ってたっけ?」

「飛んできた」

「あ、そうか、飛んできたのね。なるほど」

「……ってなるほどじゃないだろ! 飛んできた!? どこから!?」


 サティナはあたりをキョロキョロと見渡しながら叫ぶ。


「あっち」

「ほう。わしとしたことが気付かんかったわい。 わしも、まだまだ修練が足らんようじゃな。 ほっほっほっ」

「また来た」

「ひゃっ!」


 サティナの小さな悲鳴を他所にノールは何の音もなく飛んでくる矢を無造作に掴む。

 そんなノールを見てヴィアスは疑問を口にした。


「矢を素手で取るのは危ないのでは? 毒とか塗ってあるかもしれないですし」

「毒は嫌。 次は気を付ける」

「いや……そういう問題でもないんだがな……。まあ、もういいや」


 ヴィアスとノールのやり取りを聞いたサティナは額に手を当てあきらめ気味に言い放った。


「大丈夫です。 次は撃たせませんから……」


 メイフィはその言葉とともに風の精霊に語り掛ける。

 風の刃は隠れ潜む射手の足元を穿った。


「落ちたわね」

「そうだな。 逃げられる前に行くとするか。 他に伏兵がいるかもしれない。 気をつけろよ」


 サティナはそう言いながらあたりを警戒している。


「ねえ、ノール。 他に誰かいる?」

「攻撃の範囲にはいない」

「攻撃の範囲? それって範囲の外には誰かいるってこと?」

「この先、たぶん集落」

「ふ~ん。 ちょうど矢が飛んできた方角ね。 じゃあ回収ついでにそのままお邪魔しましょ」


 弓の射手、襲撃者は……落ちて気を失ったようだ。

 少し怪我もしている。

 逃げられないように拘束した上でメイフィの魔法により怪我を癒す。


「まあこんなところでしょうね。 だいたいの傷はふさいだと思います。 後は、本人が意識を取り戻すのを待つだけでしょう」

「なあ、本当に伏兵はいないのか? 定石通りならこういう事態に備えて一段二段と備えるものだが」

「集落のほうに向かう者ならいた」

「あ、いたのか……。 いや…なら増援の可能もあるし注意はしておこう」

「そうですね、頭目」

「あ、目覚ましたみたいよ」

「クソッ……お前たちは……何者だ……」

「フンッ! 誰何するより先に攻撃して来たくせに何を偉そうに! まずは貴様が名乗れ!」


 サティナは細い剣を抜くと捕らえたエルフに突きつける。


「お……俺はバミリオンの戦士ユイズだ。」

「戦士……なるほど。 私はエルマイノスの長、サティナだ」

「エルマイノスだと? なぜそんな連中がここへ?」

「お前たちは今この森が危機に瀕していると言う事態に気付いているのか?」

「は? ……危機だと? 何を言って……」

「わからないのであればお前に話すことはない。 お前たちの長に話す。 案内しろ」


 少しの沈黙、その男ユイズは口を開く。


「わかった。 だが、会えるかどうかは俺が決めることじゃない。 あくまで話を通すだけだ。 それでいいな?」

「ああ、それで十分だ。 メイフィ、拘束を解いてやれ」

「はい」

「なあ、ひとつ教えてくれ。 あんたたちはエルフのようだが、他の4人は人族だよな?」

「そうだが、何か問題でもあるか? 彼らは今回の件の協力者だ」

「いや、そうか、わかった。 じゃあ……その……行ってもいいか?」

「ああ、行け」

「あの、頭目。ここで待ちますか?」

「まさか。 どうせ集落に入るのだ、近くまで行く。 ノール。一応、近づく者たちがいるなら教えてくれ」

「わかった」

「では、行くぞ」


 集落に向け歩く。


「これは、ふむ……」

「どうかされましたか?長老」

「うむ、感じていた邪な気配じゃが、どうやら集落のほうでは薄まっているようじゃのう。 大樹の影響、と言ったところじゃろうか」

「来た、4人」

「来たか。さて、奴らどう出るかな……」


 やってきたのは特に武装していない一人と、武装した3人。

 この3人はおそらく護衛だろう。

 となると……。


「ようこそ、エルマイノスのサティナ殿。 お噂はかねがね。 私はピースライル、このバミリオンの長だ」

「またか……」

「どうかされましたかな? それで、森の危機……とのことですが?」

「それもだが、この気配はなんだ? 普段からこうなのか?」

「ふ~む……。 まあここで立ち話も何だろう。 どうぞ、こちらに。」


 案内されたのは長の家、…ではなく集会所という場所だった。

 中はまあまあ広く、すでに数名のエルフが座っていた。


「さあ、そちらにお座りください。 ここにいるのは重要な役職に就く者たち。 共に、話を聞かせていただきたい。 よろしいですな?」

「ああ、構わないさ。 まあ、要件があって来たのは我々だ。 先に話をさせてもらおうか。 今、ここまでいくつかの集落に立ち寄った。 そしていずれの集落も大樹の力が弱まっているのだ。 それについて把握はしているか?」

「ええ、それでしたら把握しているとも。 もしかしてそのために?」

「それもあるが、その件にケルケの遺跡が関わっているかもしれない、というのは?」

「それは……」

「その感じ、やはり何かあると言うことだな。 我々はケルケの遺跡を調べにここまで来た。 そして、近くにあるバミリオンならば何か情報があるのではないかと思ってな。 それで、だ。 先ほどの話、この気配はなんだ?」


 バミリオンのエルフたちは、互いに顔を見合わせていた。

 どうやら話すべきかどうか迷っていると言った感じもする。


「なんだ? 話しにくいことなのか?」


 サティナはここぞとばかりに攻める。


「まあ……いいだろう……。 遺跡の調査は我々も必要性を感じている。 だがケルゲァルに占領されているため手が出せないのだ。 それからこの気配のことだが……。 我々にも判断がつかん。 遺跡の中の物が関わっていることは間違いないはず。 ただ、遺跡に何があるのか、その中の物がどうしてこのような事態を引き起こしているのかに関して、我々は何も把握できていないのだ。 それで……。 あなた方には、あのケルゲァルの群れをどうにかして、遺跡内を調査する算段があるとでも言うのかね?!」

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