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エルフの大樹6

 次に目指す集落ユエンファミル。

 道と言った道のない森の中、どうやって迷わずに集落を目指すかと言うと。

 そこに大いに役立っているのが精霊魔法と言うわけだ。

 精霊魔法の精霊(・・)とは言わばその地に住まう者。

 つまり地理ならば把握しているのが一般的と考えられているらしい。

 なので精霊に道案内を頼む、そんな魔法がすでに存在しているわけだ。

 ただ、その魔法も完全なものとまではいかないらしい。

 時々おっちょこちょいな精霊がいて、道を間違えることがあるのだとか。

 そういうときはいったん魔法を解き別の精霊に道案内を頼んだりするそうだ。

 ただしここで注意が必要。

 焦ってすぐに精霊を呼ぶと、結局同じ精霊が道案内を買って出るなんてこともあるのだと言う。


「もうすぐ集落につくようですね」

「なんかずいぶんとジメジメしている感じがするわ……」

「森の中では比較的低地にあるようですね。 それだけ水が集まりやすいのかもしれません」


 それから進むとほどなくして声をかけてくる者がいた。


「止まれ。何用だ」

「私はエルマイノスの長、サティナ。 ユエンファミルの長にお目通り願いたい」


 サティナはシリエルオランの長から紹介されていることを伝える。

 待つように言われ、しばらくするとその者は戻ってきた。


「長がお会いになるそうだ。 ついて来い」


 その者、まだ子供のように見えるが実際の歳は分からない。

 サティナをまだ若いと言ったシリエルオランの長も見た目だけなら十分若く見えたからと言うのもある。

 集落に入ってもまだ家らしきものは見当たらなかった。

 しかし、しばらくしてふと気が付く。

 すでに家はあったのだ。

 それは木の上、器用に家を建てていた。

 ノールはそれを見上げる。

 それにつられてかエルビーも見上げた。


「うわっ! 木の上に家があるわ!」

「ほう。これは気が付かなかったわい。 しかし、あのような場所に家を建てるとは器用なものよのう」

「ここは大雨が降ると大地が水没するんだ。 だから家は皆、木の上に建てる」

「ほほう。なるほどのう。生活の知恵と言うやつかのう」


 エルフの少年の説明に驚きの声を上げていた。

 それはエルフでも同じようだ。


「これは確かに驚きだな。 あの時シリエルオランの長が教えてくれなかったのも頷ける」

「そうですね。 これは聞くより見たほうが一層驚きがありますし」

「見えてきたぞ。 あそこが長の家だ」

「まさか家まで梯子登っていくわけ?」

「そんなわけないだろ。 こっちに昇降装置がある」

「ほう。そんなものがあるのか」


 案内されたそこには上から縄で繋がっている1~2人が乗れる簡易的な箱状の物があった。


「クリブ! 頼むよ!」

「ん?シーラか。分かったぜ。そいつらが客人か?」

「ああ、そうだよ」


 最初に乗ったのはエルビー、そして引き摺られるかのように乗せられるノールの二人。

 縄の反対側には重しが付いておりそれでバランスを取っているのだろう。

 船についていた舵輪のようなものを廻すとゆっくりとだが浮かび上がっていく。

 無事上に着いたわけだが、大人なら一人程度しか乗れず6人を運ぶのは大変に思える。

 ノールはおもむろに左手を虚空に向けた。


「あっ……」


 エルビーがそれを見て小さな声を上げる。

 ノールの左手の先、それとサティナの前にゲートが出現した。


「うわっ! なんだ!?」


 サティナ達とともに下にいた少年が驚きの声を上げる。


「ほっほっほっ。 しかしこの魔法は便利じゃのう」


 ヴァルアヴィアルスはそういうと何の遠慮もせずにゲートを潜り抜けた。

 サティナ達もそれに続く。


「あの、あなたも付いてきてください」


 メイフィは入る直前、少年に声をかけた。


「え? 大丈夫なのか……」


 疑問を持った少年ではあるが、上に現れたサティナ達を見て問題ないと判断したようだった。

 それでもまったく不安がないわけではないようだが。


「今のは一体……」

「ゲートの魔法と言うそうです。 離れた空間を繋ぐ魔法。 便利ですよね」


 上にいたクリブと呼ばれた青年は呆気に取られたのか呆然としている様子。


「少年、案内してもらえるかのう」

「あ、はい……」


 シーラはクリブに声をかけることなくその場を後にした。

 サティナはユエンファミルの長、シェルバに挨拶をした後、事情を説明する。


「なるほど。 そんなことになっていたとは思わなかった。 確かに精霊の反応が鈍いとは最近思っていたのだが」

「それで、構わないだろうか」

「ああ、無論だ。 好きに調べて行ってくれ。 これは我々にも影響のある話だ。 集落の者には協力するように伝えておくので、必要なものがあれば言うが良い」

「ところで、大樹はどこに?」

「ん?何を言っている。 目の前にあるではないか」

「は?…… え……もしかして……」

「ユエンファミルの大樹、それがこの樹だ」

「大樹の上に長の家作ったんですか……」

「でも大樹と言うわりにあまり大きく見えないわね」

「ここは雨が降れば水没する。 そのせいもあってか、多くの樹がもともと大きいのだ。 大きくて根がしっかりしてないと流されてしまうからな。 周りの木々が大きいから相対的に大樹が小さく見えるのだろう。 まあそうは言っても実際他の大樹からすると小さい方らしいがな」


 ヴァルアヴィアルスは大樹に触れる。


「ふむ。もしよろしければ他の樹も確認させてほしいのじゃが、よろしいかな?」

「ああ、問題ないとも」


 樹の家から隣の樹の家に移動するのに地上に降りる必要はない。

 それは樹と樹を複数の縄で結び、足場となる部分に板を通して簡易な橋が架かっているからだ。


「落ちたら痛そうだな」

「いえ、頭目。痛いじゃ済まないと思いますが……」

「こら! エルビー! 揺らすな!!」

「何よ、別に揺らしてなんかないわよ。 この橋が揺れやすいだけじゃないの」

「揺れないようにゆっくり行けと言っているんだ! 危ないだろうが!」

「ほっほっほっ。 エルビーよ、もっと落ち着いて渡りなされ」

「は~い」

「あの爺さん、手すりにも掴まらずになんで平然と渡っているんだ?」

「頭目、爺さんなんて失礼ですよ? 人族と比べたら私たちエルフのほうが年上なんですから……」

「ひぃぃぃぃ……エルビー! だから……揺らすなって……」

「いや、わたしはもう渡り終わってるっての」

「じゃあ誰が!?…… おい…メイフィ……」

「あ、すみません。頭目。 ビビる頭目が愛らしくて、つい……」

「この……メイフィ……私が渡り終えるまでそこから動くな!」

「承知しました」

「サティナ、この集落じゃ暮らしていけないわね」

「暮らすわけがないだろ! こんなところ! ……うをぉっ……と、はあ……やっと渡り切った………。 さて、メイフィ! さっきの仕返しだ! この揺れの中を見事渡り切って見せるがいい!」

「はい! 頭目! では参ります。

 ・・・

 ・・・

 きゃっ、とても怖かったです、頭目」

「いや、ものすごく軽快に渡り切ったように見えたが? あと最後、私に抱き着く必要はあったのか?」

「何してんの?あんたたち……」

「どうでもいいけど、うちの橋壊さないでくれよ? 修理するの大変なんだからな」

「ほっほっほっ。 皆仲良しで良いのう。 さて、こちらの樹を見てみるとするかの」


 樹に手を触れる。

 ヴァルアヴィアルスは気になることがあったのだろうか、他の樹も調べ始めた。

 結局、集落の半分以上の樹に触れて……。


「いかがですか? 長老……」

「ふむ。 この地は確かに不思議じゃな」

「それはどういう意味なのだ?」

「他の集落では一本の大樹が龍穴と繋がりを持っておった。

 しかし、どうやらここは複数の樹が龍穴と繋がりを持っておるようじゃな。 もちろん、もっとも強く繋がっているのは最初の樹ではあるがのう」

「つまり、集落の樹のほとんどが大樹(・・)であると言うことでしょうか」

「そうさな、そういうことになるかのう。 それと力の低下は確かに感じるのじゃが。 他の集落に比べずいぶんと余裕があるようにも感じるのう」

「この集落ではあまり影響が出ていないのか?」

「ですが、先ほどの話ではやはり異常を感じていたようですが……」

「おそらく異常は感じておるのじゃろう。 しかし、それがサティナ殿の郷と同程度とは限るまい」

「複数の大樹が成長しているのですから、もともと吹き出す力が強かったのではないでしょうか。 そのせいで他の集落のように弱まったとしても大きな影響までは出ていないだけなのかも知れませんよね。……どうでしょうか」

「ふむ。 ヴィアスの言うことも一理あるのう。 ただ、一本一本の成長具合は他の集落より小さいと思うのじゃ。 力が弱まった後も複数の樹に分散して力を与えているならば、結局一本の樹に流れる力は他の集落同様に減っていないと辻褄が合わんようにも思うのじゃよ」

「なるほど。 確かに長老の仰る通りですね」

「なんにせよ、わしに確かめる術は無いからのう。 精霊と会話でもできれば、また違ったのじゃろうがな」


 精霊と会話……。

 そんなことが出来るのだろうか。

 馬は会話できなかった。

 魔獣と会話することを試みたこともあったが念話も言葉も通じなかったし。

 かつて出会ったあの悪魔とは会話できたけど。

 謎は深まるばかり……。

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