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エルフの大樹4

「そうと決まれば話が早いわ! 攻め込むわよ!」


 一人窓の外を見ながら高らかに宣言するエルビーは置いておくとして。


「サティナ。 大樹から精霊が居なくなる問題を調べよう。 もし結界が消失したら僕が対処する」

「出来るのか?」

「たぶん。 攻め込むよりはいい」

「そうか、しかし調べるとは言ってもな。 何から手を付けていいのか」

「そもそも、なぜ大樹の周りに精霊が多くいたの?」

「それは逆だな。 精霊が多く集まるところだったからあのように樹が大きく成長できたのだと言われている」

「なるほど。 なら精霊が多く集まる理由があったわけで、今はその理由が失われつつあるということかな」

「そうだな、問題はその多く集まる理由が分からないということではあるが」

「ねえ。 夜、街灯の周りにはいっぱい集まってくるわよね」

「エルビーさん。 精霊は虫じゃないです」

「んー……。 あのね。 え~と。 ドラゴンってみんな知っているでしょ?」

「ええ、かつて人族に滅ぼされてしまったと言う……」

「いや、滅ぼされてはいないから。 まあいいや。 でね、そのドラゴンの住処って言うのはね、こう地面から湧き出す力の強い場所があるのよ。 そういうところにドラゴンは住んでいるの」

「それって龍穴のことですか?」

「そこまではわかんない。 けど長老様はそういう場所にドラゴンは住んでいると言っていたわ」

「なるほどな。 つまりエルフの森にも龍脈や龍穴が存在し、そこに精霊が集うことで、偶然にもそこに自生した樹が大樹となったと」

「そう! そう言いたかったのよ!」

「ならその龍脈からの力が弱まっているってことでしょうか?」

「可能性はあるな」

「そもそも龍脈って何でしょうか?」

「さあな。 その昔に死した者の魂が流れているのかもしれんぞ?」

「うげぇー。 想像したくないわね」

「その想像はたぶん違うと思います」

「ノールは何か知らないの?」

「ううん。知らない。 けど長老が知っているのなら聞きに行くのも良いかも知れない」

「え? いやいやノール。それはいろいろマズいんじゃ……」

「どうして?」

「いや、だって……」


 エルビーは横目にサティナたちを見やった。


「ああ。うん、わかった。 じゃあちょっと行ってくるから待ってて」

「へっ……? いや、ちょっ……分かったって何が?……」


 エルビーの動揺を無視するかのようにノールはゲートを開き、そして消えていった。

 消えたゲートのあった場所を呆然と眺めつつ、残された3人はため息をつく。


「あの、エルビーさん?」

「なに?」

「ノールさんはどちらに行かれたのでしょうか」

「それは……だいたい予想は付くのだけど聞かないで。 わたしの口からは言っちゃいけない場所だと思うから」

「なるほど。 じゃあ聞かずにおりますね……」

「ありがと……」


 エルビー達は仕方がないとばかりにハーブティのお代わりを飲んでいた。

 ほどなくすると、ゲートがまた開く。

 するとゲートから現れたのは……。


――ブファッ――


 エルビーはちょうど口に含んでいたハーブティを盛大に噴いた。


「エルビーよ、久しいな。 元気じゃったかな?」

「あの、ここは一体どこなんでしょうか……」

「ちょっ! 長老様ぁ!? えっ?ちょっ、うわっヴィアス様まで!? えっ? どういうこと?」

「ほっほっほっ。 相変わらず騒がしいのう、エルビーは。 もう少し落ち着きと言う物をだな……」

「いや、長老。 突然こんなところに連れて来られてその落ち着きようのほうがおかしいと思いますよ?」

「なんじゃヴィアス、お主まで。 いやなに、この者に頼まれての。 ちょっと龍脈について聞きたいから付いてきてとな。 どこに行くのとか何も言わなんで、ちょっとばかり驚いてしまったわい。 そこにおるのはエルフ族じゃろう? まさかエルフ族の森に来ることになるとはのう。 ちょっとだけわし、ワクワクしておるのう」

「エ……エルフ族って! ここエルフの森ですか!? いや、ノール殿! せめてもう少し説明を!」

「お互い久しぶりに会えるだろうからちょうどいいかなと思って。サプライズ」

「あの! 長老様! ノールがほんとごめんなさい!!」

「ほっほっほっ。 気にすることでないのう。 おっと、わしとしたことが失礼した。 わしはそこに居るエルビーが住んでいる村の長、ヴァルアヴィアルスと言う名じゃ。 よろしく頼む。 ところで、全身びしょ濡れのようだが大丈夫かの?」

「あ、ああ問題ないわけじゃないが問題ない。 私はこの集落の頭目で、エルフ、エルマイノスのサティナだ」


 そう言いながらメイフィに手渡された布で顔にかかったハーブティを拭い去るサティナ。


「私はエルマイノスのメイフィです」

「エルマイノス? ほう。 エルマイノスのエルフと言えば、かつての精霊魔法の使い手、ラフィーナを思い出すのう」

「なっ!? あの、失礼だが、それは私の曾祖母だ。 あなたはラフィーナを知っているのか? いや、しかし曾祖母はずっと昔に……。 あなたは一体何者なのだ?……」


 長老の口からこぼれた名を聞きサティナは動揺を隠せずにいた。

 

「ほっほっほっ。 なに、死にぞこないの爺じゃよ。 それより、龍脈について知りたいと聞いたのじゃが?」

「あ、ああ。そうだ。 知っているのか?」

「まあのう。 長く生きている分、知識だけは貯まるからのう」


 ドラゴンの長老、ヴァルアヴィアルスは語る。

 龍脈とはつまるところ力の流れなのだそうだ。

 それは世界を循環し世界全体に行き渡らせる。

 そしてドラゴンもまたそういう場所に住処を作る……と。

 幼きドラゴンは生物を食べ生命力を補充するが、成長するに従い龍脈から力を直接得るようになるのだと言う。

 そう言った意味でも龍穴付近に住処を作ることで多くの力を得ることが出来るようになるわけだ。

 そしてそれは当然エルフの森にも流れている。


「龍脈というのは一本の道ではないのじゃ。 時には枝分かれして、そしてまた集まったりする。 それに平面的な流れではなく上へ下へと流れも様々じゃ。 地表付近を流れているところもあるし、地中深く、または海の中を流れている場合もあるのじゃよ。 さすがのわしもどうしてそのような流れが発生しているのかまでは分からぬ。 ただお主らの危惧する通り、今まで順調に流れていた場所でその流れが滞ると言うことは稀にあるのじゃ。 流れと言うのはだいたい向きが決まっておってな、つまり、流れを辿れば、滞っている原因が掴めるやも知れぬな」

「しかし、どうやって流れを辿ればいいのか……」

「なに、お主たちエルフ族は精霊に使い手。 そして樹精霊や土精霊にとっては地中深くなど自身の領域と言えようぞ。 ならば彼らに頼むのが良かろう。 龍脈と言うのは海とか土とか岩だとか、そういったただ(・・)の物質には左右されぬ。 龍脈の流れが変わったり、滞ったりする原因のほとんどは何かしらの魔力干渉と思ってよい。 そうよな、森の中でまだ問題なく精霊が集まっておる大樹を探し、そこから龍脈を辿るのが良いのではないかのう。 おそらくその先に、原因となるものがあるのじゃ」

「なるほど……。 ヴァルアヴィアルス殿、感謝する」

「いや、気にすることではないわい。 しかし、このハーブティは美味しいのう。 さすがエルフと言ったところじゃの」

「そうだろうとも。 曾祖母から受け継いだ自慢の一品なのだ」


 サティナは自慢のハーブティを褒められてご満悦のようだった。


「ほほう。 これも何かの縁なのかも知れぬな」

「まったくだな」

「ハッハッハッ」「ほっほっほっ」


 サティナは嬉しそうに、そしてヴァルアヴィアルスのカップにハーブティを注ぐ。


「長老様、ものすごく意気投合してるし……」

「エルビーよ、正直私は今でも混乱しているぞ」

「ヴィアス様。ノールってば、なんと言って連れてきたんですか?」

「突然だ。 私が長老と話をしているところに突然ゲートの魔法とやらが開いて。 龍脈のこと聞きたいからちょっと来てと言われてな。 事情の説明やら何にもなしにだぞ? 長老様も二つ返事で承諾してしまうし。 さすがにそのままの姿ではまずいと思ったので準備(人化)はしたがそれだけだ。 まさか着いた先がエルフの森だとは夢にも思わなかったぞ」

「わたしもてっきり話だけ聞いて帰ってくるのかと思ってました。 まさか長老様連れてきちゃうとは思わなかったです」

「ヴィアスよ。 何をコソコソしておる。 エルフの森にお邪魔する機会など滅多にないのだぞ。 もう少し楽しめばよかろう」

「ああ、その通りだ。 二人ともゆっくりして行くと良い。 なんなら集落の中を好きに廻ってもらって構わないぞ。 頭目である私が許可する」

「ほう、それはそれは、ありがたい。 では、お言葉に甘えさせてもらおうかのう。 ヴィアスよ。 お主も行くぞ」

「あ、私もですか……」

「良いかヴィアスよ。 知識だけに頼るのは愚かしいこと。 知見を広げるのは何より大切なことじゃ」

「あ、はい。分かりました。 ではお供いたします」

「うむ。 ではエルビーよ。案内を頼むぞ」

「あ、わたしですか……ですよねー……」


 そういうとエルビーたちは外に出て行ってしまった。


「どうした?メイフィ。そんな顔して」

「いえ、その。 頭目の曾祖母様が亡くなったのって数百年前ですよね? あの方はなぜ曾祖母様をご存じだったのでしょうか。 人族の寿命では決して……」

「メイフィ。 世の中触れぬ方が良いこともある。 その件については忘れろ。 そして詮索もするな。 これは命令だ」

「……はい……承知しました……」

「お前はまだ若い。まあいずれ分かる時が来るさ」

「もしかして、頭目はあの方が何者かご存じなのですか?」

「ん?……さあな……ハッハッハッ」


 そしてノールは、何事もなかったかのようにハーブティを啜る。

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