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エルフの大樹2

 エルフの森。

 広大なその森の中、エルマイノスの大樹は一際大きく目立っていた。

 泥まみれになった時には気づかなかったが、こうして見てみると他の木もかなり大きいと気づく。

 この大樹を囲むようにしてサティナ達の集落は存在している。

 大樹の近くは精霊が活発になるらしく、精霊魔法を使うエルフにとって大樹の近くに住むことは当たり前のことなのだとメイフィは言う。

 エルフにとって重要な大樹だが人間たちはエルフの神樹(・・・・・・)と呼んでいるらしい。

 ただし、エルフ達はその呼称を好ましく思っていない。

 なぜなら、神の樹……この世界で神とはリスティアーナを指すから。

 エルフを守ってもくれない神に喩えることに忌避感を抱くようだ。

 もっとも、人間がそう呼んでいることを知っているエルフと言うのは非常に少数なのだとも言う……。


「サティナ様だわ!」

「いつお戻りに!?」

「行方の分からなかった者たちも一緒にいるぞ!」

「サティナ様が連れ帰ってくださったのだわ!!」


 エルフ達は突然のことに驚き、歓喜し、そして涙した。


「サティナ様! 本当に……本当にありがとうございました……」


 ここに辿り着くまでの間、幾度となく見たエルフ達7名の笑顔。

 そんなエルフ達が今は泣いている。

 大切な人を失ったのだろうか、そう思ったがそうではないみたいだった。

 家族と言う者たち、会うことが出来た喜びで泣いているのだとメイフィ言う。

 そういえばミズィーと言うドラゴンもエルビーと会えた時に泣いていたっけ。


「今回ばかりは大変だった。 だが、人族の協力もあって無事助け出すことに成功したのだ。 礼ならば、そうだな、あの人族の子供にするとよい。 彼の二人も協力してくれた者たちだ」

「人族が?……」

「そうだ、不満か?」

「いえ、そういうわけではなく……」

「複雑な気持ちなのは理解できる。 連れ去ったのも人族ではないかと、そう思っているのだろう? しかし人族のすべてが我々エルフと敵対するわけではない。 彼らのように我々に手を差し出してくれる者たちもいる。 いきなり受け入れろとは言わない。 少しずつでいいから、歩み寄って行こうじゃないか」

「サティナ様の仰る通りだ。 君たち。 娘を助けてくれたこと、感謝する」

「ありがとう」

「どうってことないわ!」


 エルビーは少し照れ臭そうに言葉を返した。

 ふとサティナが近寄ってくる。


「ああ、その、スマンな。 あの者たちを連れ去ったのは同族、エルフかも知れないのに。 恩人である人族に濡れ衣を着せてしまったかもしれない。 今、エルフ族の中で不和を生じさせるわけには行かないのだ」

「気にする必要はない。 連れ去ったのがエルフだとしても監禁していたのは人間で間違いないのだから」

「そうか。感謝する」


 その言葉は、おそらく自分にしか聞こえていなかっただろう。

 いや、自分にしか聞こえないように話したのだろうと思う。


「二人とも。 今日は私の家に泊まるといい。 というかここに宿屋なんて洒落たものはないからな。 メイフィ、お前たちも疲れただろう。 二人のことは私に任せて今日はもう休め」

「わたし、お腹空いたのだけど」

「それぐらい私が作ってやる」

「え?それはちょっと心配なのだけど……」

「食べられる食材さえあれば私にだって料理ぐらいできる!」

「エルビーさん、安心してくださいな。 頭目のお料理は本当においしいですから。 食べられる食材さえ使っていれば……」

「うわっ……。最後の一言がものすっごく不安……」

「大丈夫です。 以前は時々自分で食材を見つけたと言って肉の毒草焼きとか作ったことがあるだけですので。 食材選びに難があるだけでお料理自体は本当に美味しいんですよ」

「……致命的ね」


 結局メイフィが少し手伝うことになりエルビーも納得したようだ。

 実際、サティナの料理はおいしかったけど。

 サティナは食事中あまり喋らなかった。

 エルビーも同じ。

 どうやら二人ともよほどお腹が空いていたようだ。


「少しがっかりしたか?」


 サティナは突然そんなことを言い出した。


「いやな、エルフの集落とはどんなところか興味があったのだろ? しかし周りは森だらけで何もない。 私たちにとっては落ち着くのだが人族にとっては退屈なのだろうなと思ってな」

「確かに人間の街と比べると、なんていうかこう賑やかさが足りてないわね。 けど退屈っていうわけじゃないわ。 ドワーフの国もエルフの森も初めてだし」

「そうか、それは何よりだ」


 サティナはそう話を締めくくると席を立つ。

 その表情は何か浮かない様子だった。



    ◇



 翌朝、目を覚まし部屋から出るとサティナが一人何かを飲んでいた。


「起きたか。 ん?ああ、これはハーブティだ。 寝起きにはこれがいいんだ。 お前も飲むか?」


 そう言いながら答えを待つまでもなくカップにハーブティを注ぐ。

 空のカップがもう一つあるのでこれはエルビーの分と言うことだろう。


「ところで。 今日は予定ないだろ? 少し……私に付き合え」


 静かな朝。

 ノールとサティナの間にそれ以上の会話はなくただ静かにハーブティを飲む。

 しばらくしてエルビーが起きてきた。


「ふあぁ~……。よく寝たわ。 ここは空気がすっきりしていて気分がいいわね。 あ、何飲んでるの? わたしにもちょうだい」


 サティナは空のカップにハーブティを注ぐ。


「それ飲んだら行くぞ」

「ふぇ? 行くってどこへ?」

「すぐそこだ」

「ふ~ん。まあいいわ」


 そう言い終わるとエルビーはカップの中身を一気に飲み干した。


「お前……情緒とかないのか。 ハーブティだぞ……。 まあいい。 ついて来い」


 サティナは目的地も言わずに歩き出す。

 朝も早いせいか他のエルフ達はまだ寝ているようで集落の中は静かだった。

 そんな中を集落の中心に向かって進む。

 そしてたどり着いた場所、まあ想像はしていた。

 集落の中心にあるもの、それはエルマイノスの大樹だ。


「お前たち。 この樹を見てどう思う?」

「えっと、すっごくおっきいわね。 あと、そうね。 とってもおっきい。 って何よ、その表情は」

「いや、実にお前らしい感想だと思ってな。 それで、そっちは?」


 サティナの表情を見やる。

 今まで接してきていたサティナとは別人のような表情をしている。

 物悲しい気な、そんな表情。

 大きいのはエルビーが言った。

 たぶんそういうことではないのだろう。

 自分たちをここに誘った理由とは……。

 そうか……。


「精霊が……いない」

「ふふっ……。あははは……。 さすがだな。 我らの誰も気づかないというのに」

「え? どういうこと?」

「言葉通りだ。 昨日、ここに来るときメイフィが言っていただろう。 大樹の近くは精霊が活発になると。 だが今、大樹の周りには精霊がいない。 森全体を見れば精霊はいる。 しかしなぜか大樹の周りだけ寄り付かなくなってしまっているようなのだ」

 

 その後もサティナは説明を続ける。

 曰く、広大なエルフの森にはエルマイノスのような大樹がいくつもあり、それぞれに名がついている。

 エルマイノスの大樹とはその内の一本なわけだ。

 そしてエルフ達はそれら大樹の周りに集落を築く。

 特にルールがあるわけでもないが、だいたい一つの大樹には一つの集落があるのだと言う。

 森の中で見つけた大樹のもとに集落が作られて行ったのだろう。

 集落同士での交流でさえほとんど無いエルフ族ではあったが、メイフィ達の誘拐事件をきっかけとしてサティナは情報を集めるため近場の集落に出向いたのだ。

 そこで聞かされた話。


「私は3つの集落を訪れたが、どの集落でも精霊の力が弱まっていると聞かされた。 このエルフの森には結界が張ってある。 それは昔、我らの先祖が張ったもの。 その結界は大樹に集う精霊の力にとって維持されていたのだ。 その大樹から精霊が居なくなると……」

「結界が消えちゃうってこと?」

「そういうことだ。 ただまだ消失はしていない。 だが時間の問題だろう」


 サティナは深く深呼吸をする。

 そして意を決したのか、想いを言葉にする。


「私は、人族は好きじゃない。 はっきり言って嫌いだ。 それは、私が人族に何かされたとかそういう話ではない。 ただ、昔からそうだったように、私もただそうあるだけだ。 だが、今我らが置かれた状況は切迫している。 もし、このまま結界が消失することがあれば、我々はきっと滅びるだろう。 人族に頼るつもりなど無かった。 しかし、お前たちの強さを垣間見た今は……」


 サティナは涙を浮かべながら続ける。


「私たちを助けてほしい。 少しでいい。 協力してくれ……頼む……」


 神は人間を守る。

 神は人間以外を守らない。

 けど僕はこの世界の神ではない。

 なら守ったっていいはず……。

 言葉にしかけたとき、エルビーがサティナを抱きしめた。


「わたしたちに任せなさい! どうしたらいいのかわたしには分からないけど、きっとノールが何とかしてくれる!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 神の思考というか価値観が人間が主、他が従な世界だしね 人間が好きとかいう異種族は居ないよね
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