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涙の別れ

「よろしかったのですか? 陛下」

「エルフ達がそれを望んでいるならそれでいいだろう。 こちらとて兵を出す必要がなくなったのだからな」

「承知しました」


 信じて送り出したビリエーラがエルフを引き連れやって来た。

 まあ定期報告でそういう話は聞いていたから知ってはいたが。

 今回エルフ達8名。

 なぜか一人増えている気もするが、その8名を帝国の名のもとにドワーフ公国の国境まで送る、というつもりでいた。

 しかしエルフ達はこちらの申し出を断ってきたのだ。

 ドワーフ王国への通行許可さえ出してくれれば良いと。


「それにしても、報告が事実ならば帝国貴族の関与と言う話は疑わしく思えてきましたね」

「おそらく、今回の件についてはいくら探ってもボロは出ないだろう。 今のところ王国領内だけで動いているようだが帝国領内に入り込んでいないとは断言できない。 注意はしておけ」

「はっ。その点は抜かりなく」

「しかし……」

「どうかされましたか?陛下」

「いやな、例の二人のことだ。 たしかノールとエルビーと言ったか、まさか二人の通行許可までエルフに請われるとは……」

「そうですね。 エルフが自治領に人間を招くことなど、聞いたことがありません。 子供だったから警戒心が緩んだのか、それとももっと別の理由でもあったのでしょうか」

「さあな。 まあいいさ。 それでエルフが納得して帰ってくれるなら安いものだ。 通行許可なんてタダだしな」



    ◇



「ああ、ごほん。とりあえず。 ノールにエルビー。 Cランクへの昇格おめでとう」

「えっへん! ところで、Cランク冒険者って何が出来るようになるの?」

「それはな、なんとっ!! Cランクの魔獣討伐依頼を受けることが出来るようになる」

「なんかどうでもいいわね、それ」

「いや、もっと喜べエルビー」

「だって……隣がものすごく暗い」

「って、ビリエーラまだ気にしているのか?」

「そりゃ気にしますよ……。 BランクかAランクにしてみせますって約束したのに」

「まあそう落ち込むなってビリエーラ。 さっきのエルビーの反応見ただろ? こいつはランク昇格とかより肉食べ放題とかのほうがよっぽど喜ぶんだからな」

「それ欲しい!」

「それは私も欲しいぞ」

「いや、例えだしやらねえし、なんでサティナまで加わってんだよ」

「「ケチ」」

「うるせえよ。 あとハモるな」

「まあ冗談はさておき……」

「ヘイゼルってだいたい冗談で片付けようとするのよね」

「……ギルマスの言っていることも分からないわけじゃないしな。 Aランクの子供なんて逆に信用してもらえないぞ。 今回、ノールもエルビーもCランクには上げてもらえたんだしさ。 このぐらいのほうがあり得るかも、って思えるもんだよ。 なあラゥミー」

「そうね、ただ、私としてはノールたちの通行許可をポンと出した皇帝のほうにちょっと驚いたけど。 しかも理由が観光でしょ? 普通なら許可されないわよ。 形はどうであれノールやエルビーの功績はちゃんと評価されているんだと私は思うわ。 ギルマスが言っていたように、ちょっと世間的に評価を積み上げる必要があるってだけの話よ。 あなたたちには早いとこAランクなりBランクに上がってきて欲しいものだわ。 じゃないと私たちの噂に尾ひれが付きまくりなのよ……」


 ラゥミーはそういうとサティナへと向き直る。


「ああそれと、人間嫌いのエルフ、サティナ様がどうしてノールやエルビーは許可したのかも気になるわね」

「そ……そんなもの! メイフィ達にあれほど懇願されては断れないというものだ。 それにメイフィたちの命の恩人を無碍にしたとあればエルフの沽券にかかわるし」

「ありがとうございます頭目……。 私たちの想いを汲んでくださって。 エルビーさんたちには何か恩返しが出来ればとずっと思っていたのです。 エルフの森を見てみたいとエルビーさんが仰るのでここしか機会はないと思いました。 ただ、私はてっきり頭目がドワーフたちをぶっ飛ばしてしまったせいでお一人で通るのが怖いから、お二人に守らせようという魂胆なのかと訝しんでしまいました。 そんな愚かな私を、どうかお許しください」

「ばばばばばばばばーか! そんなはずないだろ! この私が? ドワーフごときに? ハハッ! そこの二人などおらずとも私があのずんぐりむっくり共を橋から海に叩き落してやる!」

「じゃあ先陣はサティナに切ってもらうとして。 ねえサティナ。 エルフの森って他の集落の者たちに会わず、あなたの集落まで辿り着けるものなのかしら?」


 ラゥミーの疑問にサティナは気を取り直した。


「ん? ああ、可能だぞ。 エルフの森とは言ってもすべてが共有というわけでもなく、それぞれの縄張りで生活しているに過ぎないのでな。 他所の集落の者が近づくだけで警戒するような連中もいるし、好戦的な者もいる。 意図的に近づかない限りまあ会うことは無いさ。 まあもっとも、その二人なら返り討ちに出来るだろうけどな。 あと先陣は切らんぞ」

「ふ~ん。 まあそれならいいけど。 けどそういう連中なら侵略行為的なのはないの?」

「ないな。 エルフの森は広大だ。 その中で皆住みやすい場所に住み続けている。 侵略したところで得られるものなどすでに持っているものだけだ。 それに排他的な面が強く支配欲を持つ者もいないのでな」

「ほう。 けどそれじゃ支配欲を持つエルフが出てきたら面倒そうだな」

「ん? んー……まー……そうだな」


 話が落ち着いたころ合いを見計らったかのようにヘイゼルが切り出した。


「さてと、今までは王国の依頼でエルフを帝都まで護衛してきたわけだが。 今回はエルフの依頼でドワーフ公国との国境の街セイザリカまで、そのエルフ達を護衛するのが任務となった。 ま、エルフの依頼ではあるが、その支度金は帝国からのものなので遠慮なく吹っ掛けさせてもらう。 というわけで。 今回の馬車は! これだ!!」

「ヘイゼルさん……これものすごく高いやつ……」

「へっへっへっ。 なんと、御者付6人乗り馬車を2台も借りちゃいましたー。 さあ拍手拍手」

「ちょっとヘイゼル……。 私たち全員で14人だって知っているわよね? これ、合わせても定員12名しか乗れないじゃないの」

「そこはあれだ。 子供は3人で大人二人分としてカウント」

「…………。ってちょっとヘイゼルさん!? 僕まで子供扱いですか!?」

「じゃあわたしはエルフの子供たちと同じで良いわよ」

「いやーエルビーすまん。 エルフの子達を分断するのは可哀そうなので3人でワンセット。 余り物のノール、エルビー、それとビリエーラでワンセットだ」

「そうなの?残念ね」

「余り物って。ひどく失礼ですね、ヘイゼルさん」

「で、そうなるとだ。 そのセットに大人が4人付くことになるわけだが。 それはエルフの子供たちに選んでもらおうと思う。 さあ子供たち、同じ馬車に乗りたい大人を4人選んでー」

「子供に選択させるとか悪魔か貴様は……。 まあ、頭目であるこの わ た し が、選ばれるのは言うまでもないことでは……、ある。 フフーン。 さあ子供たち、来るが良い」

「サティナ。 子供たちは残酷にもすでにメイフィと他のエルフ3人を選んでいるわよ?」

「エルビー。あまり心の傷を抉るようなこと言うのは止めてあげなさい。 子供は時として残酷な生き物なのよ」

「と……頭目! 違うのです! この子たちも頭目のことが誰よりも好きなのですよ。 ですが、今回は、そう共に誘拐されたという絆が勝ってしまったといいますか、この子たちも私たちの気持ちを察してくれているだけなのです。 ね、あなたたちも本当は、頭目……サティナ様と一緒のほうが良かったわよね? ……ね?」

「わたしメイフィさまみたいになるー」

「い……今、その話はしてないわよぅ?」

「メイフィ……。私は……もう……頭目ではない……。そう……今日から……チーム疾風迅雷の魔剣の……メンバーだ…………」

「いや、要らん」

「そう? 私はサティナかわいいと思うのだけど」

「では間を取ってラゥミーさんが子供たちと一緒に乗る、というのはどうでしょうか。 で、私は頭目と同じ馬車に……」

「ああ、収集付かんぞこれ。 どうすんだ」

「ヘイゼルさん自分で蒔いた種なんで自分でどうにかしてください」

「じゃあわたしは前の馬車に乗ればいいのね。行きましょノール」

「ほら、全員さっさと乗り込め」

「意外に7人乗れなくもないんですね」

「だろ? 高級な馬車だから一人当たりの座席が広いからな。 子供なら4人掛けも可能と言うわけだ」

「で? なぜ客であるはずの私が4人掛けのほうなのだ?」

「いや、俺もアーディも体格的に厳しいし、俺やアーディの隣に美しきエルフの姫君を座らせるわけにも行かないだろ? 我慢してくれ」

「なるほど。 なら仕方あるまい」

「あの子、ワザとなのか分からないけどほんとにチョロいわね」

「あの子って……。言ってもエルフだぞ? ラゥミーより何倍も年上だろ?」


 セイザリカまでの道のりは長いものだったが、街道は整備され王国と違い治安も良いようで盗賊が出ることは無かった。

 ヘイゼル達は無事にセイザリカへと辿り着く。


「ふぅ……。 さすが高級馬車。長旅でも疲れ知らず。 あっという間の移動だったな。 あと、この馬車、一台は帰り分も予約済みだから安心しろ。」

「皆様、この度は大変お世話になりました。 もしまた会う機会がありましたら、その時は何かご恩返しできればと思います。 エルフである私たちと皆様方が会う機会と言うのもなかなか無い気もしますが……」

「気にしなくていいさ。 どうせならその分をノールやエルビーにしてやってくれ」

「ええ、それは大いに。 それと、実を言いますと頭目がここまで人族と打ち解けるとは思ってもいませんでした。 頭目に話を合わせてくださってありがとうございます。 あんなに楽し気に人族と会話しているのは何やら新鮮な感じで……」

「最初の頃、あんたが言っていたように本心から人を嫌っているわけじゃないのだろうな。 それに、慕われている理由もなんとなく分かる。 さてと……。 ノール! エルビー! お前らメイフィに迷惑かけんなよ。 あと帰ってきたらちゃんと寄れよ。 俺たちがいなかったらビリエーラのところな」

「ちょっとヘイゼルさん!?」

「じゃあ、あんまり引き留めても悪いから、俺たちは行くぜ。 達者でな、エルフさんたちよ」


 そう言うとヘイゼルは振り返ることなく、馬車に乗り込む。

 ラゥミーもアーディも振り返ることは無かった。

 冒険者とはこういうものなのだろう。

 ただビリエーラだけは振り返り、何度も手を振る。

 そして返すようにエルビーも。


「は~あ。なんだかんだで楽しかったな」

「何? ヘイゼル寂しいの? フフッ」

「そうだな。別れが寂しいものだと感じたのは、いや、思い出したのは久しぶりかも知れねえ」

「そうね。茶化してごめんなさい。 ビリエーラも泣かないの、これ使って。 ところで一つ気になることがあるのだけど」

「ん? なんだ?」

「国境の街からエルフの森までって結構あるわよね?」

「まあ出回っている地図を見る限りはそうだな。」

「サティナたち、歩いて帰る気かしら?」

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