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エルフの統率者5

 出発の日。

 屋敷の者や船員たちは出発準備のため慌ただしく働いている。

 特に荷物など何もないノールはそんな準備の中でも暇を持て余していた。

 そんなノールの目の前には大きな船がさらに大きな海に浮かんでいる。


「不思議よね。 こんな大きなものが浮かんでいるなんて。 どんな魔法がかかっているのかしら」

「魔法はかかっていない」

「そうなの? じゃあどういう仕組みなの?」

「分からない」


 ラビータでも船は見かけたがやはり良く分からない。


「そっか。 まあ聞いたところで理解できないかもしれないし別にいいわ。 それよりノール。 船の中見た? 船ってね、こうね、ゆらゆら揺れるのよ。 こっち来て」


 そう言いながら両腕を左右に広げ揺れる。

 左右に揺れる船を表現しているのだろう。

 エルビーに手を引かれ船内に入るノール。

 そこにはエルフ達を始めヘイゼル達もすでに乗り込んでいた。


「エルビー。 浮かれるのは良いが船から落ちるなよ。 まず間違いなく死ぬからな」

「そんな間抜けなことしないわよ!」


 そう言ってエルビーは船の手すりから身を乗り出し下を眺める。


「だから! 危ないっての! 船ってのは時々大きく揺れることがあるんだよ。 そん時にそんなことしてたら海に落ちるからな」

「はーい。 ノールもやっちゃだめよ」

「僕は最初からやらない」

「ねえ! 次はあっち見てみましょ!」


 そしてまた連れられて行く。


「元気ねえ。 私にもああいう若々しい時があったのかしら? もう覚えてないわ」

「ラゥミー、返答に困ることを言わないでくれ」

「ただの独り言。 というか、あの子達船酔いとか大丈夫なのかしらね。 ねえメイフィ。 エルフさんたちは大丈夫なの? 船酔い」

「私は平気ですが、ただ他の者はどうでしょうか。 王国に連れて来られた時は小舟だったので、こういう大きな船は皆初めてだと思います」

「へえ、メイフィは過去に乗ったことあるのかしら?」

「はい、実は……。 私も、変わり者(・・・・)の一人だったので」

「変わり者? 人間の街で見かけるエルフは変わり者って話? それじゃあ、もしかしてメイフィって人の街で暮らしたことあったりするわけ?」

「はい、と言ってもほんの少しの間です。 私は魔法共生国(レイアスカント)で魔法を学んでいたのです。 エルフが人族に魔法を教わるなどありえないと周りからは反対されましたけど。 そんな時、頭目になられたばかりのサティナ様が庇ってくださったのです。 それはもう凛々しいお姿でした」

「あなたがあの頭目さんに入れ込むようになったのは、もしかしてその頃から?」

「い、入れ込むだなんてそんな!…… ただ、そうですね。 私が頭目を素晴らしい方だと知るきっかけだったのは事実です」

「あらあら、愛されているのね頭目さんは」

「ええ、集落の皆があの方を愛しております」

「なんかこっちが恥ずかしくなってきたわ。 その頭目さんは船酔い大丈夫なのかしらね。 まあ密航してくるぐらいだから大丈夫だとは思うのだけど。 と言うか、その頭目さんの姿が見えないけど、ちゃんと乗っているのかしら?」

「一緒に乗船はしましたから、たぶんどこかにいるんだと思います」

「サティナだったら、さっき食料とか運び込んだ部屋で見かけたぞ。 なんか小さく縮こまっていたけど」


 割って入ったヘイゼルの言葉にラゥミーとメイフィは互いに顔を見合わせていた。


「それって……。 なんか、ダメっぽいわね」

「そう、ですね……」



    ◇



「中すっごく広いわね。 これってあれよね、ダンジョンって言うんでしょ。 あ、あっちは何かしら?」


 ダンジョンは違うのではないかと思いつつ、もしこんな感じなら楽しそうな場所なのだろうとノールは考えていた。


「ここはー、なんだっ?」


 まるで中身の分からない箱を開けるかのようにして遊んでいるようにも見える。

 王城やリングーデン卿の屋敷もそういえば似たような感じだった。

 入り組んでいて扉を開けた先は思いもよらぬ場所だったりと。

 今エルビーが開けた扉の先は薄暗く様々な物が置いてあった。

 おそらく今回のために運び込まれたものだろう。

 どのぐらいの日数がかかるのか分からないが、予定では目的地までどこにも寄らないらしい。

 予定では、と言ったのは何かしらのトラブルは付き物だからでもある、とヘイゼルが教えてくれた。

 食料がほとんどのようだが、その中には一人エルフの姿もあった。


「ぎゃあ!? えっ!? 何っ!? え?サティナ!? こんなところで何しているのよ!」


 部屋の片隅、荷物の隙間にすっぽりと収まるように座るサティナ。

 完全に気配を消しているわけではなかったがエルビーは気付いていなかったようだ。


「ああ人族の娘か。 フッ……。 まあ私のことは気にしないでくれ……」

「いや! 気にするわよ! というか普通にびっくりしたわ。 いったいどうしたのよ」

「大したことではない。 帝国からここに来るとき、忍び込んだ船のことを思いだしてな。 あと少しで着くと言う時に、見つかってしまって。 帆先に縛り付けられた時は、あ、もうダメかなって思ったのだがな。 なんか海から出てきたでっかい生き物に帆柱を折られて。 一緒に縄もほどけたので後はずっと船の中を逃げ回っていたのだ。 そしてたどり着いたのがここ。 だからここにいると落ち着くのだ」

「よくそれで生きていたわね。 ノール、次行きましょ。 ああびっくりした……」


 それからも二人で船内を散策する。

 大きな部屋、おそらく食事をする場所だろう。

 小さな部屋、ベッドがあるから寝室だ。

 開かない鍵のかかった部屋。

 何に使うのか分からない部屋。

 船長室と書かれた部屋。

 エルビーがきっと偉い人の部屋だと言って入ろうとしてたけど、ここも鍵がかかっていて入れなかった。

 ふと耳を澄ますと鐘の音が聞こえる。

 確か出航の準備が整ったら鐘を鳴らすと言っていた。

 聞こえたら全員甲板に集合のはず。


「エルビー、鐘の音が聞こえるから甲板に」

「どうしたの? お腹空いたの? 乾パン食べるならスープも欲しいわね」

「そっちじゃなくて船の上に集合」


 エルビーと共に甲板に向かう。

 さきほどサティナいた部屋の前を通る。

 いまだに部屋の中から気配を感じるので、一緒に連れて行くことにする。


「エルビー、サティナも連れて行く」

「え、まだここにいるの? どうしたのかしらね」


 扉を開けたがサティナは一度もこちらを見ることなく、ただ目の前の一点を凝視するのみだった。


「大丈夫なの?あれ」

「サティナ、鐘の音が聞こえたから一緒に甲板に行こう」

「フッ。 私のことは気にしなくていいと言っただろ。 お前たちだけで行くと良い……」

「全員が甲板に集合しないと出発できない。 エルビー」

「は~い。 よっこいせっと」

「ぐはっ! ちょっと待て! 服が! 服がはだけるって!」

「その服じゃ取れても一緒でしょ。 嫌なら自分で歩く」

「一緒なわけがあるかぁ!! って、わかった! 分かったから離せ!」

「もう、我がままなんだから」

「どっちがだ! これだから人族は!」


 3人で甲板に上がると、そこにはすでに他のメンバーが集まっていた。


「エルビーさん遅いですよー。 何かあったんですか?」

「ちょっとね、手こずって」


 と言いながらサティナを指さすエルビー。


「頭目。 何かあったのですか?」

「し、心配するようなことは何もないわ! それより、こんなところに呼び出して何のようかしら?」

「サティナ様の口調が変よ」

「あれは! 過度に動揺するとそれを隠すためにされる演技だわ!」

「ここまで身内にモロバレで恥ずかしくないのかしらね?」

「ラゥミーさん、相変わらず辛辣っすね」

「いや、用があって呼び出したんじゃなくてだな。 これから出発するのに乗り遅れが居ないかの点呼だ。 とりあえず全員いるようだな。 じゃあ船長さん、出発してくれ」

「船長!!」

「なんだよ急に。 どうしたエルビー」

「あ、いや、船の中見ていたら船長室って書かれた部屋があって、でも入れなかったから。 どんな部屋かなぁと思って。 あの人が船長なのね」

「それで、出発していいのかい?」

「ああ、済まない船長。 出発してくれ。 あとエルビー。 だとしても突然大声を上げるな。 皆びっくりする。 特に俺と船長が」

「ゴメンゴメン。 わたしも自分でびっくりしちゃったわ」

「頭目。 船酔いは大丈夫ですか?」

「ぜんぜんだいじょうぶじゃない」

「じゃあ船酔いに効く魔法かけましょうね」

「そんなまほうがあるのか。 ああよろしくたのむ」


(そうか、外に出ないエルフにとっては未知の魔法、と言うわけか。 あの時の判断は間違っていたのではないかと思うこともあったが……。 しかしメイフィ、お前が人族の世界で学んだことは決して無駄ではなかったというわけだな)


 サティナがふと昔を思い出しているうちにゆっくりとだが船は動き出した。

 まだ見ぬ初めての地へ。

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