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エルフの統率者2

 エルフの頭目サティナが加わり、一行はノエラミルースに向かい馬車を走らせる。


「皆、本当に無事でよかった」

「ご心配をおかけしてすみません頭目。 実はこちらのお二人、エルビーさんとノールさんに助けていただいたのです」

「ほう。人族などに礼を言うのはすっごく嫌なんだが、しかし同胞の窮地を救ってくれたことには感謝の意を示さねばなるまい」

「いや、頭目、普通にお礼を言ってください」

「それはどうでもいいけど、さっきからお腹が鳴っているけど大丈夫? パン食べる?」

「食べる」


 サティナはエルビーが差し出したパンをものすごい速さで奪うとそのまま口いっぱいに頬張った。


「おいしい?」

「ほいひー(おいしい)」

「そう、それは良かったわ」

「ほんと、アホじゃなければ欠点のない完璧な人なんだけどなぁ」

「ん?あひはひっは(何か言った)?」

「何も言ってません。 それより食べながら喋らないでください。小さい子が真似します」

「相変わらず口うるさいな、メイフィは。 あと水はあるか?」


 乾いた口にパンを詰め込みながら言うサティナにノールは水を差し出した。


「ああ、すまぬな。 それで、今はどこに向かっているんだ?」

「ノエ……ノイ……ん? まあなんかそんな名前の港町よ」

「ノエラミルース」


 エルビーの言葉にノールが補足する。


「なるほど、そこから帝国に向かうと言うわけか。 しかし、私たちは無事に通してもらえるのだろうか」

「それはどういう意味ですか? 頭目」

「いやな、私も人族の街に来るとき、最初から小舟で海を渡ろうとしていたわけではない。 ドワーフの国から人族の街に、そう思っていたんだが。 あいつら許可の無い者は通せないとうるさいんだ。 それでしばらく揉めて、捕まりかけたんでぶっ飛ばして逃げてきたと言うわけだ。 そのあと仕方がないので渡る手段を模索していると―――――」

「え?ちょっと待ってください頭目! ドワーフぶっ飛ばしてって何してるんですか!? それ後々問題になるやつじゃないですか!?」

「心配するなメイフィ。 ちゃんとこうして……な?」

「な? じゃないですよ。 口元隠してフード被っただけじゃないですか。 絶対エルフってバレてますよ? それ」

「私だとバレなければそれでいい。 それよりもだ。 戻る時も許可の無い者は通せないとなるのではないか?」

「おそらくですが、帝国に寄るのはただ経由すると言う意味だけでなく、帝国側から許可を取ってもらうと言う意味合いもあるのだと思います。 私たちは帝国から発行してもらった通行許可を持ってドワーフの国に入ることになるかと」

「へえ、なるほどね」


 メイフィの言葉に最初に納得したのはエルビーだった。


「なぜ冒険者のお前がそこで納得する……」

「だって聞いてなかったし、そんなこと。 ねえ、そんなことより、エルフの森ってどんなところなの? 以前聞いたことあるんだけどエルフって草しか食べないって本当?」

「草って! 失礼な奴だな。 まあ我々は違う。 森で暮らす。 森の恵みで命を繋ぐ。 ただそれだけで狩りもするし、森の中の物は何でも食べるさ」

「へえ、そうなんだ。 でも落ちているもの食べちゃだめよ? お腹壊すから」

「なんでも食べるってそういう意味じゃない! というかメイフィはなぜ涙ぐんでいるんだ?」

「すみません。 あの頭目がツッコむ側に回る日が来るなんて。 嬉しくて、つい。 成長、されたのですね」

「それじゃ、ドワーフの国ってどんな感じなの?」

「ドワーフ? ふむ。ドワーフがいっぱいいる国」

「はあ。前言撤回。 エルビーさん、私がご説明いたします。 多少の差はありますが人族の街と大きく変わることはありませんよ。 ドワーフの国は帝国と交易していますので、帝国の、つまり人族の使う物をドワーフの国でも見かけるわけです。 逆に帝国やこの王国でも、ドワーフの国で作られた製品が数多く存在しています。 ですので、今となっては人族の街と似たような生活様式になっているのです」


 メイフィはピンと立てた人差し指を口元に当てると、おそらくドワーフの国の街並みを出しながら話を続けた。


「そうですね、その中で大きく違う点は建造物でしょうか。 帝国もドワーフの国も古くからある国ですが、建築技術の違いかドワーフの国はいまだ古い建物が多く残っているんです。 この辺りは人族とドワーフの寿命の違いも影響しているのかも知れません。 ちなみに、我々エルフはそういう文明や文化から離れて暮らしています。 ですので、人族の街で見かけるエルフは古い風習を嫌った変わり者だと思っていただいて大丈夫です」

「へぇ。メイフィはしっかりしているのね。 どうしてメイフィが頭目じゃないのか、ちょっと不思議だわ」

「それは、他の集落の者から良く言われます。 ですが先ほども言いましたが、我々の集落は皆がサティナ様を慕っているのですよ。 アホであることに目を瞑れば何一つ欠点のない方ですから」

「わたしはそこ一番目を瞑っちゃいけない欠点だと思うけど……。 まあいいわ」

「え? よく言われるって……」


 メイフィの言葉に憮然としつつ、サティナはなんとか言葉を絞り出した。


「そんなことより頭目! この先、おそらく帝国の偉い人たちと会うことになります。 その際にエルフごときと舐められぬように、それでいて相手に失礼にならぬように振舞わなければなりません。 よろしいですか? 頭目」

「あ、ああ、任せなさい。 フンッ、たとえ帝国皇帝が相手だろうともこのサティナ、負けることなどありえない!」

「さすがです、頭目! さあ皆も」

「サティナ様すごい!」

「頭目!いつもお綺麗です!」

「サティナさま、こうていなんてやっつけちゃえ!」

「ハッハッハッ! この私、サティナにすべて任せるがいい!」



    ◇



「後ろの馬車はなんか賑やかですね」


 ビリエーラは後ろを振り返りながら言う。


「まあいいことじゃねえか。 長いこと軟禁されていたようなもんだろうし、元気を取り戻してくれるなら言うことはないだろうさ。 あのサティナって頭目のおかげだろうな。 皆から慕われているってのもなんとなくだが頷けるってものだ。 もしかしたらすべて演技で、ああやって周りの心を掴んでいるのかもしれないよな」

「仮にそうだとしたら策士ね。 まあ到底そのようには見えないのだけれど。 ところで確認しておくけど、ノエラミルースから船でフォーノフィードまで行って、そこから陸路で帝都ベルペチカを目指す、で良いのよね?」

「そうですね。 可能な限り船で近くまで行った方が時間の短縮にもなりますし。 あとは王国の貴族、リングーデン卿がどこまで船を出してくれるかにもよりますが」

「そこは心配いらないんじゃないか? リドマイガスの旦那も言っていたし。 さてと、もうすぐでノエラミルースが見えてくるはずだな」


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