再訪の王都
クルクッカから王都に伸びる街道。
朝と言う時間なせいか、自分たち同様王都に向かう馬車や徒歩で向かう人を多く見かける。
馬車は何事もなく順調に進む。
「ねえ。あの壁って全部魔法共生国の壁なのよね?」
「ああ、そうだぞ。 ところでエルビー、知っているか? あの国には王様ってやつがいないんだぜ?」
「えっ? どういうこと? それって長老様がいないってことよね?」
「え?ああ、そうだな。 たぶんそういうことになる」
「じゃあみんな好き勝手しているってことなの?」
「いや、あの国は議会制と言ってな。 要するに何人かの代表者が話し合って国の行く末を決めているってわけさ」
「へえ。 どこでも国には王様がいるものだと思っていたわ。 王様がいない国もあるのね。 あの壁の中はどうなっているのかしら。 やっぱり王様がいる国と違う感じになっているのかしら?」
「そういや、俺たちも魔法共生国には行ったことが無かったな。 まあ戦士系の俺たちからすると魔法使いの国ってのはちょっと行きづらい感はあるし。 ラゥミーは行ったことあるのか?」
「ないわよ。 あそこはなんだかんだ言って、貴族たちの子供が通うようなところよ。 昔はそんなことなかったみたいだけどね。 今じゃ学生も、お貴族様、ただの優等生、それ以外って感じで3つぐらいに分けられているみたいね。 私なんかが行ってもそれ以外の分類だろうし、自分が惨めになるだけよ」
「惨めになるって……。 今ってそんなひどいのか?」
「まあ、そこは憶測だけど。 けど才能を認められないとほとんど独学と変わりないぐらいらしいわよ。 独学でも豊富な魔導書を読めるのだから、やる気があれば良いところまで行けるのでしょうけど。 お貴族様はもちろん、優等生には優秀な魔法使いが指導に当たってくれるらしいの。 お貴族様の子供なんて、優秀でもないのに貴族ってだけで威張り散らしているのが目に見えているわ。 そりゃ惨めにもなるってものでしょ」
「そりゃまた、相当偏見に富んだ内容だな。 でもネリアみたいな例もあるし、意外にまともなんじゃないか?」
「馬鹿ね。 ネリアはお貴族様でも、おそらく本当に優秀なのよ。 他のお貴族様の駄作と一緒にしちゃいけない存在なのよ」
「お、おう……辛辣だな……。 ラゥミーの貴族に対する偏見というか、その貴族大嫌いっぷりは時々怖い時があるな。 ちょっと心配になる……。 というか、ラゥミーから見てビリエーラはどうなんだ?」
「また、すぐそうやって僕を引き合いに出す……」
「ビリエーラはかわいいわよ! いい子だし。 ね、ビリエーラっ!」
「あ、ありがとうございます……。 それって僕が下級貴族だからですよね……。 あの、あと抱きつくの止めてもらっていいですか?」
「はあ、ビリエーラはビリエーラで卑屈になってるし」
「別に卑屈になんてなってないですよ! 上級貴族の話の後に必ず僕の名前を出すヘイゼルさんが悪いんですよ」
「仲良いわね……」
ラゥミーに抱きつかれているビリエーラを見て、エルビーがボソッと呟いた。
「え、ちょっとエルビーさん。 助けてくださいよー」
「あ、スマン、エルビー。 話の途中だったな……。 ああ…えっと…あれ?どんな話だった?……」
「街の中、でしょ。 まあ確かに、聞いた限りでは帝国とも王国とも違う雰囲気らしいわね。 あの国の住人は基本魔法使いだし。 入国も許可制で普通の人が観光で行くこともないから、そういう観光者向けのお店って言うのがないらしいのよ。 宿屋は一軒もないって聞いたわ。 ああ、でも冒険者は冒険者カードで入国できるけど」
「宿屋ないんじゃ、みんなどこに泊まるの? まさか野宿?」
「ふふっ。 さすがに街の中で野宿は無理よ。 冒険者は入国できるって言っても、その大半は依頼が前提だからね。 依頼者の家に泊めさせてもらうとか、近隣の村とそんなに距離もないから日帰りで行ってしまうかってところみたいよ」
「へえ、行ってみたいわね」
「エルビーさん、なんだか楽しそうですね」
「わたしいろんな街を見てみたいのよ。 いろんなものがいっぱいあるし、街ってどこも一緒なんじゃなくて、それぞれの個性みたいなのがあるでしょ? そういうのがね、結構好きなのよ」
「エルビーさんは冒険家気質なのかもしれませんね」
「若いうちはみんなそんなものよ」
遠い目をして言うラゥミー。
「そうなんでしょうか。 僕は帝国でまったりと暮らしていたいですけど。 あの、ラゥミーさん。 いい加減そろそろ離れてもらっていいですか?」
「あ、ごめんなさい」
「ねえ、ビリエーラは王都って行ったことあるの? わたしもノールも前回一度行ったきりだけど」
「いえ、国外に出るのがまず初めてなので。 こう言っては何ですが、皆さんに会えてほんと良かったです」
「そう。 じゃあ王都はわたしたちが案内してあげるわ」
「へぇ、それは楽しみです」
「まずは、肉料理が美味しいあの店に寄って。 次はパンが美味しいあの店。 その後は、そうだ、フルーツのデザートが美味しいあの店に……」
「え?ちょっとエルビーさん? 全部食べ物屋さんじゃないですか? 僕そんなに食べられないですよ?」
「大丈夫よ。 全部わたしが食べるから。 それと、ちゃんと武器屋も案内するわ」
「それ案内と言うか自分が楽しみたいだけじゃないですか」
「……」
「いやちょっとエルビーさん。 何のことか分からないって顔して話し終わらせるの止めてくださいよ。 あっ、そうですよ。 ノールさんもちゃんと言ってあげてください」
「サンドイッチが美味しい店が良い」
「……。 ああ、もういいです……」
「けど、王都まで退屈ね」
そんなことを言うエルビーを無言で見つめるビリエーラ。
そして、そんなビリエーラを見てヘイゼルは……。
「なんだ? 今日はいつものフラグ芸はしなくていいのか?」
「ヘイゼルさん、僕のこと馬鹿にしているでしょ?」
「し、してねぇよ! ただ、あれだ、いつもの元気がないのかなとちょっと心配になったんだよ」
「いや、最近ですね。 フラグを気にすること自体、フラグな気がしてきて」
「お前も……、大変だな……」
それからと言うものの、王都への旅路は順調に進んだ。
途中、以前ゴーレムに襲われた場所を通る際にエルビーがビリエーラに説明したりもして。
目前には、今回で二度目となる王都が見えてくる。
「ねえ。王都についたらどこに行くの?」
「あ?それは、ああ、あれだ……」
「王城に行きます」
エルビーの質問に言っていいものなのかと言葉に詰まるヘイゼルだったが、当のビリエーラは何も気にする必要はないと言った感じで答えてしまった。
「え? 観光じゃないの?」
「いやエルビーさん。 目的があって王都まで来ているのに、着いていきなり観光に行くわけないじゃないですか」
「そうなんだ、残念」
「すんなりとことが進んだら、一日ぐらいは観光の時間も取れると思いますよ」
「そう。分かったわ! さっそく王城に殴り込みね!」
「エルビーさんたちは宿屋で待っていてもらったほうが良いかも知れませんね」
「良くないわよ。わたしも行くから」
「変な事、しないでくださいよ。 不敬罪で逮捕とか絶対に嫌ですから」
王都に無事着き、ノールたちは王城へと向かう。
おそらく前回エルネシアと別れた場所、そこが目的地だろう。
そうちょうどこの辺り。
しかし……。
「いや、どうして入れてもらえないんだよ。 こっちは帝国から直々に親書を持って来てるんだぞ? これって外交問題じゃねぇのか?」
「いや、別に入れないと言っているわけじゃない。 ただ、今はいろいろ立て込んでて、使者を送るからそれまで宿屋などで待っていてと、そういう話をしているんだ」
「だから、緊急なんだって」
「緊急なの? クルクッカで存分に休んでた気がするけど」
「いや、エルビーさん。 存分って一晩ぐらいしかいなかったですよ? 実際は」
「その前の港町でもゆっくりしていたって聞いたわよ?」
「それはまあ、その通りです」
「ちょっとお前ら、俺が今一生懸命交渉しているんだから静かにしていてくれ」
「だって」
「僕が急ぎましょうって言ったときは、なんだかんだと理由を付けてゆっくりしていたのにひどい言い草ですね」
「ああ、もううるさい!」
「ともかくだ、そちらが緊急かどうかの事情は関係なしに、今、城内を案内できるものが空いていないんだ。 それでもうちの上司が上に掛け合っているから、もう少しだけ待ってくれって」
「その上司さんが案内するのじゃダメなのか?」
「俺たち下っ端兵士に客人を持て成す権限はないよ、スマンな」
お城も人手不足なのだろうか。
ヘイゼルは頭を抱えている。
「あの、もし」
女性の声だ。
「姫様!?あの姫様がどうしてこのような場所に」
「どうかされたのですか?」
「あ、はい。 実は、この者たちが国王陛下に謁見したいとのことでして。 しかしながら、隊長らも手が空いていないとのことでして。 少し街で待機するようにお願いしていたのですが」
「お願いじゃなくて命令だったじゃねーか」
悪態をつくヘイゼルをキッと睨む兵士。
「それは、それは。 申し訳ないことをしました」
「ひ、姫様が謝られることではっ!?」
「いえ、実はこの方々をお呼びしたのはわたくしなのです。 ですが、皆様にそのことを伝えるのをすっかり忘れておりました。 どうか、ここはわたくしに免じて、穏便にお願いできませんか」
「姫様がですか?あ、いや、そういうことでしたら」
「ありがとうございます。 それでは皆様。 わたくしが城を案内いたしますので。 どうぞ、こちらに……」




