ビリエーラと仲間の想い
「あの、盗賊たちが話していたの聞いたんですけど。 エレメンタルメタルゴーレムを倒したのって本当なんですか?」
「ええ。本当よ。 私たち疾風迅雷の魔剣と、エルビーとで見事倒して見せたわ」
ラゥミーが誇らしげに言う。
「まあほとんどはエルビーの力のような気もするけどな」
それに突っ込むのはヘイゼルだ。
「私は十分に役立ったわよ!」
「まあ、そうだけど」
「いいのよ。 エルビーだってみんなで倒したって言ってくれているんだから」
「エルビーさんだったら、余裕そうですね。 ところで……。 その人誰ですか?」
「ん?ああ。忘れてた。 この子はネリア。 魔法共生国の学生さんだそうだ」
「はあ。 私は……、あっ。 僕はビリエーラでっすー。 帝国の、下級貴族でっすー」
「なんだよそのポーズ。 そのキャラ作りももう良いだろ」
「私は聖王国、上級貴族エリアルモイドの娘、ネリアと申します。 以後、お見知りおきを」
対するはネリア、見事なまでのカーテシーだ。
そして先ほどのポーズのまま固まるビリエーラ。
「えっ?ちょっ!? 上級貴族って言いましたよ!? エリアルモイドの娘って言いましたよ!? 身分が! 身分が違いすぎませんか!?」
「なんだ、一瞬でキャラ壊れたな。 それ持芸か?」
「違いますよ! 普通にびっくりしているんです! というかヘイゼルさん驚かないんですか!?」
「別に。 帝国の侯爵とか言うならそうだな、驚いた上に剣で殴り飛ばしているところだ」
「どんだけ帝国嫌いなんですか……」
「帝国が嫌いなわけじゃねえ。 帝国の貴族が嫌いなんだ」
「じゃあ……私のことも嫌いなんですか?」
「お前は下級だろ? そんなの貴族と言うより平民みたいなものだろ。 そもそもお前の場合、本当に貴族かすら怪しいからな」
「なっ! 失礼な! 歴とした正真正銘の貴族ですよ」
「なら、帝国に戻ったら皆でお前の家に遊びにでも行こうかな」
「それは……勘弁してください……」
「なんで目を逸らすんだよ」
「あの、そろそろよろしいですか?」
二人のやり取りにネリアが割って入る。
「あ、スマン」
「お聞きしたいことがあります。 もう一人いたという、逃げた者について」
「あ、はい。 会話から察するにゴーレムを召喚した本人で間違いないと思います。 名前はえ~と。 あっ、ミハラムと言っていましたね」
「ミハラム!?」
「は、はい!」
「ごめんなさい、大声を出してしまって。 しかし、そうですか、なるほど」
「あの、もしかして知っている人物ですか?」
「隠しても仕方がないのでお話しします。 知っている、と言うより名前は知っていると言う程度です。 ですが、彼自身は有名で、遥か昔、勇者と共に戦った英雄の一人、大賢者ミューリの生まれ変わりではないか、そう称される人物です」
「そんな人物がなぜ盗賊たちと?」
「それは、私にもわかりませんが」
「しかし、なるほど。 それほどの魔法の使い手、と言うことですか。 けど、ちらっと見た限りでは小物感ハンパ無かったですけどね。 エルビーさんが倒した拳王にもちょっとビビっている風でしたし」
「帝国の拳王は圧倒的な武の強さを持つと聞き及んでいます。 ミハラムは魔法の才はありますが、戦いに富んだ才ではないと聞きます。 それに、魔法使いは数に押し負けることが多いですから」
「ふ~ん。 けど、そんな人物なら取り逃がしたのはちょっと痛いですね。 王都に着く前にまた襲ってきそうで……」
「それは、たぶん大丈夫です。 ミハラムにとってもエレメンタルメタルゴーレムは切り札だったはず。 策を練って少年を分断までして、それでも負けた以上、彼に次の策はありません」
「大丈夫よ。 今のわたしなら、一人であのタルタルゴーレムにだって余裕で勝てるわ。 それより、なんでノールはまた誘拐なんてされちゃったの?」
「助けてくださいって、言われたから」
「ああ、まあそうだけど。 どうしてすぐ戻ってこなかったのよ?」
「それは……。 最初は後から来た馬車が盗賊なのかとも思った。 だけど、助けてくださいと言った人も一緒に乗り込んだので、追ってくる盗賊は別にいるのだろうと思った。 そうしたら、自分だけ魔法封印術式をぐるぐる巻かれておかしいな?って思ってたんだけど……」
「フッ、なんだか珍しいな。 ノールがエルビーに叱られてるなんて」
ヘイゼルがそんなことを言い出した。
「別に叱ってなんかいないわよ。 捕まるなら何か理由があったのかなって、そう思っただけ。 ただ、ああなるとみんな心配するから、そういうことしちゃだめよ」
「うん。分かった」
「ハハハッ…、ほら、やっぱり叱ってるじゃないか。 遊びに来た街で迷子になった弟を心配するお姉ちゃんって感じだな、まったく」
「だって、わたしは大丈夫だって分かってるけど……。 ビリエーラが居なくなった時、わたしすっごく心配しちゃったんだから。 だからね、ノールのこと、よく知らない人たちからすれば、きっと同じように心配しちゃうんじゃないかなって、そう思っただけよ」
「だ、そうだぞ。 分かったか? ちゃんと心に刻んどけよ? ビリエーラ」
「えっ? ちょっ!? なんでそこで僕なんですか? ノールさんの話でしたよね!?」
「お前は紛れもないピンチだっただろ! ほんと、俺たちがどれほど心配したと思っていやがる!」
「いや、ん、もう、それは本当にすみませんでした」
「まったく。けどノール。 お前が強いのは知っているし、心配無用だと言うのも分かる。 けど大人が子供を心配するのは当然のことだ。 そうだな、人間、いや生物に刷り込まれた性みたいなものだ。 お前が子供であるうちは、それを忘れないでくれ」
「うん」
「あ、そうでした」
と、ネリアが突然声を上げた。
「ん?どうしたんだ? ネリア」
「いえ、少年の話で思い出しましたが、ミハラムが改めて行動を起こす可能性は少ないとは思います。 ですが、あの者たち、つまり少年を誘拐した者たちがどう動くかまでは分からない、と言うことです。 ミハラムの指示で動いていたなら、同じように大人しくしているはずですが、別系統の指示である可能性がまだ残ります」
「ノールを誘拐した連中か。 あいつらは結局盗賊だったのか?」
ヘイゼルが疑問を口にする。
「それでしたら、誘拐はデスモルスの指示だった可能性が高いと思いますよ」
「それはどうしてなんだ?ビリエーラ」
「デスモルス自身が言っていたんですよ、ガキはちゃんと攫った、そういう報告を受けているって」
「なるほどな。 しかし、指示を出した者が捕まったとなると、よほどのバカじゃなきゃ潜伏するのが普通、だよな?」
「そうですね、よほどのバカじゃなきゃ」
「二人ともずいぶんと余裕ね。 特にビリエーラ。 いつもならフラグ立てないでくださーいって叫んでるでしょうに」
「いやいやラゥミーさん。 これほどのメンツが居ればフラグの一本や二本、余裕で折っていけますよ。 今の僕、全然怖くないです」
「そう。 それは良かったわね。 けど、どれも憶測だし油断は禁物だわ。 注意は怠らないように。 ビリエーラとノールは特に注意してね」
「はい。肝に銘じておきます……」
「さて、依頼者。 今日は疲れたし移動再開は明日で良いよな?」
ラゥミーに釘を刺されてしまったビリエーラにヘイゼルがに話を振った。
「え?あ、はい。 僕も疲れました」
「じゃあ決まりだな。 それでネリアはこれからどうするんだ? ほら、礼の件もあるし。 もし良ければ食事とか奢るぜ?」
「すみません。 私はこのまま魔法共生国に戻ります。 今日のうちに済ませないとならない用事もありますので。 お食事はまた、別の機会にでも」
「そうか、それは残念だ。 けど、ほんと世話になったな。 俺たちは時々王国に来るし、もしネリアが帝国に来るようなことがあったら是非俺たちを訪ねてくれ。 礼はその時にさせてもらうぜ」
「はい。それは楽しみです。 皆様方も魔法共生国に立ち寄る機会がありましたら、是非、私に案内をさせてください。 それでは」
ネリアはそういうと一礼し、そしてその場を立ち去って行った。
「ヘイゼルさん。 良かったんですか?」
「は?何がだ?」
「いや、お礼とか、食事の約束とかですよ」
「なんだ? 自分との待遇の違いにやきもちでも妬いてんのか?」
「はあ……。 ヘイゼルさん、忘れたんですか? 彼女は上級貴族の令嬢ですよ? 庶民の食事で満足できるとでも?」
「あ……。 え~と……。 お前貴族だろ。 あと頼むな」
「ちょっと!? 約束したのヘイゼルさんですよ!? うちで上級貴族の令嬢をお出迎えなんて絶対無理ですよ! 僕ぜっっっっったいに、嫌ですからね」
「あ、そうだ。 じゃあ、お前が皇帝に言って、皇帝に接待させるってのは?」
「馬鹿ですか?」
「ダメか……」
「いや、どうしてイケるって思えるんですか。 そんなこと陛下に言ったら私もヘイゼルさんも断頭台の上ですよ。 だいたい陛下に直訴なんて私の身分で出来るわけがないんですから」
「二人とも。 くだらないこと言ってないで宿屋行くわよ。 あとギルド職員から、明日街のギルド寄ってくれって」
「あ、ああ。そうだな。了解だ」
◇
聖王国、外務局局長エインパルド。
彼は指示を出していたネリアからの報告書に目を通していた。
恐ろしいものだな。
エレメンタルメタルゴーレムを2回も撃破する者たちがいるとは…。
そして、その報告書にある名前に目が留まる。
「ノール……か」
聖王エルマイス14世が出席される、御前会議にて話に出ていた人物。
偶然だろうか。
しかし、これは使えるな。
エインパルドは敬虔な信者ではない。
ただこの国に生まれ、人生を豊かにすべく上を目指しただけに過ぎない。
だからこそ、神託などと言うものに興味もない。
今重要なのはこの国の安寧だ。
神に祈ったところでこの国の将来は約束されないのだ。
内務局の横暴を白日の下に晒す。
そのためにこのノールと言う人物には大いに役立ってもらわなくてはならない。
「ふ~む。 ネリアにはノールのことを他言しないよう厳命しておかなくてはな」
そもそもノールの捜索や調査は神務局が行うこととなった。
つまり我々外務局には関係のないことだ。
しかし、問題はやはりネリアか。
ネリアは命令には忠実なので厳命することで他言はしないはず。
そして今、神務局は極秘に動いているはずで神託によってノールを探している事実が彼女の耳に入る可能性はかなり低い。
ただ彼女の立場からすると情報を完全に制限するのは難しいだろう。
もし、彼女がノールのことを知った時どう動くかが予測できない。
いっそのこと、嘘の内容で先に話しておくか。
報告書によるとネリアのノールに対する評価は良好だ。
さらにミハラムの一件で内務局に対する不信を強めている。
これも都合が良い。
あとは神務局、または肉親からの情報だ。
しかし、逆にネリアに嘘の神託の話をした場合、親族から事実を告げられる危険もあるか。
その場合、外務局、いや私への不信感も抱いてしまうことになりかねないな。
「もう少し、様子を見るとするか」
ネリアからの報告書を燃やしながらエインパルドは呟く。




