49話 潜入?ビリエーラがいる場所
「とは言ったものの。 誘拐されているとしたら、もうほんとどこに連れて行かれたかまったく分からないぞ。 それ以前にあの状況で誘拐なんて出来るのか?」
「さあね。 そもそもあの場から誘拐したというわけじゃないかもしれないし。 逃げようと離れた際に連れ去った可能性もあるわ」
「ヘイゼル。ビリエーラは街の中」
「ん?それはどうしてだ? まあ俺たちも街の中だとは思ったが、南門の門番は見ていないって話だ。 見逃した可能性がないとも言い切れないが」
そんなヘイゼルの言葉にノールが話始める。
「さっきの話。 ゴーレムを召喚した者は街の中にいる。 街の中以外で人の反応がないなら街の中から召喚した」
「いや、でもどうやって見えない場所に召喚させるんだ? タイミング悪ければ俺たちが通り過ぎた後に召喚される可能性だってあったはずだ」
「それは、偶然じゃないから。 襲撃ポイントは予め決められていた。 街の中から召喚できる位置を襲撃ポイントとして選んだ。 東門が通れなかったのも、僕たちがここを通るように強制するため。 馬車が目の前で壊れ、中から盗賊に追われているという人が出てくれば、よほどのことが無い限り立ち止まって話を聞く。 僕たちが近寄るまで中から出てこなかったのも、そこが襲撃ポイントだったから」
「つまり、全部が全部相手の思惑取りだったってことか。 それならおそらく補修工事ってのも嘘だったってことだろ? もしかしてあの親切に教えてくれた奴も仕込みだったのか?」
「それは分からないけど、可能性は高い。 普段門番がいる門を一時的にでも閉じて、出入りさせないように細工することは難しい。 門を破壊するなどして、偶然にも補修工事をするように仕向けることは出来たかもしれないけど、それで門が通れなくなるとは限らない。 親切なふりをして早々に追い返す方が合理的」
「くそっ。俺の感謝の気持ちを返せよ」
「それでノール。 精霊召喚者が街の中にいるのは分かったわ。 ビリエーラが中にいる、と言うのは?」
「たぶん、ゴーレムとの戦闘中にビリエーラもそれに気づいた。 戦闘で手が離せないみんなの代わりに街に探しに行ったのだと思う。 南門の門番がビリエーラを見ていないのも、そもそもビリエーラは本当は閉じていない東門から入ったから」
「マジか。 いや、言われてみればその可能性は十分にあるよな。 ああ、俺ってば……。 そんなあいつのことを疑ってしまったのか……。 もし、会うことがあったら、ちゃんと謝ってやらなくちゃな……」
「ヘイゼル。 ビリエーラが居たらフラグ立てないでくださーいって怒られてるわよ」
「じゃあ怒りに来てくれよ、まったく。 もしノールの推測が正しければ、ビリエーラは東門を通ったことになる。 また戻ることになるが、まずは東門の門番に話を聞くべきだろうな」
「ええ、そうね」
馬車は反転し、東門を目指す。
「これで東門が本当に閉じていたら、いよいよ手詰まりだな」
「開いていたとしてもビリエーラが通ったとは限らないし、通ったとしても門番が覚えているとは限らないわよ?」
「そうなんだよな。 何か決め手になるものがあれば、な」
街道を進み、やがて東門への道の入り口に差し掛かる。
「なあ、門が開いている可能性、かなり高いよな」
途中、遠目から見ていても街道から東門に向かう馬車を数台見かけた。
しかし引き返し南門に向かう馬車は一台もいない。
今もアーディが御者席に座っているが、馬車の速度が少しずつ上がっているのが分かる。
アーディもまた心配で仕方がないのだろう。
「門、開いてるな」
言葉通り、東門は閉まってなどいなかった。
「なあ、忙しいところ悪いな。 ちょっと聞きたいことあるんだが……」
南門の門番同様にビリエーラについて尋ねる。
服装や髪形など、可能な限りの特徴を添えて。
「ああ、その子ならたぶん見たぞ。 ものすごく挙動がおかしかったから覚えている。 なんか背後から何かに襲われるんじゃないかってぐらいに後ろを気にしていたよ。 大丈夫かって声を掛けたら、大丈夫じゃないけど大丈夫だと言っておきますので大丈夫です!ってかなり意味不明なことを言っていたな」
「あ、ああ、そうか。 情報ありがとう。 助かったよ。 あと、俺たちも通っていいか?」
「ああ、問題ないぞ」
馬車は東門から街に入る。
「なんか、ビリエーラもビリエーラだが、あの門番も大概だな」
「まあそのおかげで印象に残ったんだから良いじゃない。 ビリエーラが中にいることは判明したわけだし」
「しかしなあ、街に入ったは良いが、いったいどこから探せばいいんだ?」
ヘイゼルは独り言ちる。
そんなヘイゼルの独り言に答える者が一人、ネリアだ。
「エレメンタルメタルゴーレムは強力な精霊召喚魔法です。 強い魔法はそれだけ術者が近くにいる可能性が高い。 少年の話を総合するとおそらく、襲撃ポイントの外壁を基点にして捜索するのがもっとも効率的です」
「なるほど、じゃあその辺りに行ってみるか」
正確な位置が分からないためおおよその見当を付け、その場に向かう。
「なあ、魔法を使うとしたらやっぱり人目に付かないところだろ? こんな街中で人目に付かない場所なんてあるのか?」
ヘイゼルは疑問に思う。
「そういう怪しいところを探すんでしょ? それに見られたとしても目的が達成できていればいいと考えている場合もあるわ。 まずは、ビリエーラと怪しい者の目撃情報を聞いて回るしかないわね」
ヘイゼルの疑問にラゥミーは当然でしょと言わんばかりに答えた。
「まあ、そんなもんか。 とりあえず、この辺りで探してみるとするか」
とは言っても手掛かりがあるわけでもない。
それぞれが思い思いに捜索する。
「ねえノール。 ビリエーラの気配とか何も感じない? わたしは残念だけど、何も感じないわ」
「たぶん魔力が断たれている。 さっきの魔法封印術式と言うものと同じ」
「それってビリエーラが捕まっているってこと? じゃあ、ビリエーラの居場所は分からない?」
「そうとも限らない。 ヘイゼルが使った魔法。 風の微精霊を飛ばす魔法で探す」
「けど、あれって人かどうかは分かってもビリエーラかどうかまでは分からないんじゃないの? 男女の違いすら判別できないんじゃ」
「ちょっと違う。 風の微精霊は魔力を持つ。 普通の場所はどこでも魔力、つまり風の微精霊を通す。 けど風の微精霊が通れない場所、遮断する場所があればそこが怪しい。 おそらくそこにビリエーラはいる」
ノールはヘイゼルが使った魔法を模倣する。
ただし、さらに広く、そして隈無く。
「見つけた。 あっち」
そう言って向かった先は何の変哲もない場所。
人通りはほとんどなく、魔法を使っても誰にも気づかれないだろう。
「あそこ。 あの建物の地下が魔力遮断されている。 ビリエーラがそこに居る可能性は高い」
「ビリエーラ、無事かしら? わたしね、約束したのよ。 わたし一人でもビリエーラは必ず守るって。 なのに……」
「エルビーがした約束なら、ビリエーラはエルビーが守らないと」
「ええ。分かってるわ」
この前の魔法封印術式は何重にも重ね掛けされてて面倒な感じだったけど、ここに展開している魔法封印術式はかなり簡素な物。
簡単に破壊できる。
破壊した後、ビリエーラの位置を特定してエルビーを転移させる。
まずは、破壊。
土の精霊魔法により壁に亀裂を入れる。
この魔法封印術式はそう言った対策はしておらず簡単に無効化できる。
ただし、全体を一つの魔法封印術式で遮断しているわけではなく、複数の魔法封印術式を繋ぎ合わせてひとつに纏めているみたいなのでそれは注意が必要。
いくつかの、魔法の起点となる箇所で行えばそれでこの魔法封印術式の効力は消える。
魔法封印術式が消えることで相手側にも侵入を気づかれるかもしれないけど、どうせエルビーが中で暴れるから同じことだろう。
「じゃあ、エルビー。 頑張ってね」
「ええ! 行ってくる!」
ノールは魔法を発動する。
土の精霊魔法による破壊。
そして転移の魔法。
行き先は……。
◇
おっとどうしよう。
ノールとエルビーの姿が見えたので声をかけようとした。
だがあまりにもびっくりなことが目の前で起きたために、ヘイゼルは物陰に隠れてしまった。
ノールがエルビーに手を向け、そしてエルビーが忽然と消えてしまったのだ。
ノールがエルビーを消した?
消したって何?
手品?
なんで今ここで?
ヘイゼルは考える。
しかし考えることがループしてまったく纏まる気配が無かった。
そして、もう一度様子を伺おうと振り返る。
そこには無音で近づいていたノールが立っていた。
「うおっ!? ってびっくりさせるなよ! な、なんだよ急に!」
「ヘイゼル、こっち見てたから。 なにか用があるのかと思って」
「べ、別に用事とかあるわけじゃねぇけど……。 そ、それで…さ……。 エルビーは……。 どうした?……」
何かに怯えるかのように恐る恐る尋ねるヘイゼル。
「ビリエーラのところ」
「は?え?まさか。 それって天国ってこと? じゃあビリエーラはもう……」
「違う」
そう言ってノールは地面を指さした。
「地獄ってことか!」
「地下」
「あ、地下? ああ、そういうこと。 ビリエーラは地下に居るのか?」
「そう」
「そうか。 つまり見つけたってことか。 よし、じゃあ俺たちも乗り込むぞ!」
「行くの?」
「当然だろ。 心配しているのはエルビーだけじゃないぜ?」
「わかった。 じゃあ連れて行く」
「おう! お、おう? えっ?ちょっと待っ――――――――――」




