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聖王国の刺客

「やっとクルクッカが見えてきたか。 それにしても、なあビリエーラ。 もうちょっとマシな馬車無かったのか? こんな安馬車じゃなくてさ。 さすがに長距離の移動だと腰が痛てぇわ」

「なんでもいいって言ったのヘイゼルさんじゃないですかー。 それに、貸馬車にはこの安馬車か馬鹿みたいに高い超高級馬車しかなかったんですよ。 しかも御者付きだし」

「じゃあその高級馬車で良かっただろうに」

「僕は下級貴族なんですっ! そんなお金ありませんよ。  それに盗賊にだって目付けられますよ?」

「追加で護衛雇う金はあるのにか?」

「超高級馬車を借りる余裕はないと言うことですっ! だいたい戦力は増えれば成功率も上がるじゃないですか。 そっちは必要経費です」

「いざ戦闘になった時に、みんな腰痛めてたらどうする気だ」

「フフ~ン。 それは大丈夫ですよ。 さっきノールさんもエルビーさんも余裕で寝てたじゃないですか」

「で、お前は?」

「肩が痛いです」

「ほれ見ろ。 というかエルビーも良く平気で寝られるな、こんな揺れまくる馬車で。 ノールも寝てるし」

「え? 別にわたしは何とも思わなかったわよ。 でも、その話聞いて思い出したんだけど、わたし小さい頃、風で揺れる木の上で寝るのが好きだったわ。 特に嵐の日がさいこーね!」

「やっぱ王国の子供は気合いが違いますね……」

「そいつは特殊だから参考にするなよ」


 王都への伸びる街道を外れ、クルクッカの東門に繋がる道へと入る。


「あんたたち街に入るんだろ? 今こっちの門は閉じたままになっているよ。 街に入るなら正門か南門に回ってくれってさ」


 おそらく自分たちと同じく東門から入ろうとして入れず引き返してきたのだろう、その馬車の御者が親切にも教えてくれた。


「そうなのか? 何があったっていうんだ?」

「まさか、また魔獣の襲撃ですかね?」


 ビリエーラがそんなことを言っている。


「ただの補修工事だよ」

「補修? なんだ、そうか。教えてくれて助かったよ」


 ヘイゼルはそう言って軽く手を振った。


「しかたがない。 一旦街道に戻って南門から入るか」


 ヘイゼルは馬車を転回させ街道に向かう。


「そういえば、エルビーたちがゴーレムに襲われたのってこの先だろ?」

「ん? そうよ。もっと先だけどね」

「ゴーレムの他には誰かいなかったのか? 術者とかさ……」

「ん~、術者はいたみたいだけど、離れたところから呼び出していたみたいなのよね。 そもそも、ゴーレムに襲われる前に盗賊に襲われてたし」

「え? 襲われたのってゴーレムだけじゃないんですか?」

「違うわ。最初は盗賊が襲って来たのよ。 ただそっちは隠れていた盗賊にノールが火の魔法で先に攻撃しちゃってね。 いっぱい出てきたのよ、うじゃうじゃと。 出てきた盗賊も前のほうに居た冒険者チームと戦いになっちゃったから、わたしやること無かったのよね。 どうしようかな? って思ってたら、ゴーレムが現れて、その後黒い装束を着た人間が襲って来たの」

「まさかそいつら全員ノールさんとエルビーさんで倒しちゃったとか?」

「盗賊を倒したのはたぶんクラインたちよ、あ、先頭にいた冒険者って言うのが、クラインたちだったみたいなの。 それで、わたしは黒い装束の人間と戦ったけど逃げられちゃったのよね。 ゴーレムを倒したのはノールだし。 あれ? わたしだけ何もしてない?」


 そんなことを話しながら街道に出ると、後ろの方から馬車が勢いよく追い越していった。

 その馬車は御者一人しか乗れない小さいタイプだ。

 車が軽いので馬の負担も小さくて済むし、実は座席が良く出来ているため疲労対策も充実した良い馬車である。

 とは言え、速度を出せるような代物でもなく、無理に速く走るのは車への負担も大きいだろう。

 案の定、ノールたちを乗せた馬車を追い抜く時に車輪が道から外れてしまったのだろう、その時の衝撃で車輪が外れてしまった。

 そしてそのまま馬車は街道の外に出てしまっている。

 幸いにも馬車が転倒することは無かったが、馬にも乗っている人にも影響がないとは言えない。


「おい、なんだあの馬車……。大丈夫か?」

「あ~あ、車輪壊れちゃいましたね、大変そう」

「言ってないで助けに行くぞ」

「え?絶対面倒ごとですよ?」

「だとしても放っておけないだろ」

「ほんとですかー? はぁ~あ」


 近くに寄り、街道から外れてしまった馬車のもとへ歩いて向かう。

 すると中から深い緑色の髪の女性が出てきた。


「あ、あの! どうか、どうか助けてください!」

「ほら~ヘイゼルさ~ん」

「うるさい!」

「今、追われているんです!」

「追われてる? なんだ? 盗賊か?」

「わかりません。 でもきっと盗賊だと思います。 私は急ぎ魔法共生国(レイアスカント)へ向かうところだったのですが、そんな時に襲われてしまって……」

「えー! ちょっと! ヤバくないですか? ねえ? ちょっと! あ、この服ってそうですよ、魔法共生国(レイアスカント)の服ですよ!?」

「あ、あなたは!?」


 てっきりビリエーラに向けた言葉かと思ったがその女性はいつの間にか起きて来ていたノールを見ていた。


「もしかして、あなたも魔法使いですか? ならちょうどいい。 お願いです! 協力してもらえませんか?」


 そう言って半ば無理やりノールの手を引く。


「いや、ちょっと待ってくださいよ! 今はこちらの依頼の最中なんですよ? 横取りはダメですよー!」

「ビリエーラ、わたし一人でもちゃんと守ってあげるわよ?」

「エルビーさん、そういう話じゃなくてですね!?」


 さらに後を追うようにやって来た馬車が近づく。

 その馬車はノールたちとエルビーたちの間に割り込むように止まり、そして……。

 また勢いよく走りだして行った。


「あれ? ああ……。 ねえ。 ノール、また誘拐されちゃったわ」

「ゆ……、え? えええええええええええええええ!!?」

「ちょっとビリエーラうるさいわよ」

「だっ……な! なんでそんな呑気にしているんですか!」

「別に前にも一度、ノールとわたし、盗賊に誘拐されたことあるし」

「え? 二人がですか!? ああ、もう、なんなんですかぁぁぁ……」


 泣きながらビリエーラはその場にへたり込んでしまった。


「え? ねえヘイゼル、ビリエーラ大丈夫?」

「ん?ああ、まあ、あれだ。 感情のダムがいっぱいでな。 もう決壊しそうなんだわ、たぶんな」

「だから! なんでそんな平然としているんですかぁ! エレメンタルメタルゴーレムを倒すような子を誘拐するんですよ? 王国の子供だけじゃなくて王国の盗賊までヤバいじゃないですかぁ!!」

「って、もうそれはいいだろ。 いつまで引っ張るつもりだ」

「だってぇ~……」

「違うわよビリエーラ。 別にあの時も無理やり攫われたわけじゃなくて、付いて行っただけよ」

「そ、そうなんですか? でも盗賊に付いて行っちゃだめですよぉ?……ぐすんっ」

「ん、まあ、ノールの心配は後でしましょ。 今は先にやることがあるから」

「へっ? やることって何ですか?」

「決まってるわ。敵の討伐!」


 突如出現した魔法陣が光り輝く。

 現れたのは……。


「そうそう、あれよ、あれ」

「おい! あれって、まさか?!」

「そんなぁ、嘘だと言ってぇ、かみさまああ!!」

「ええ、あれが! タルタルゴーレムよ!!」


    ◇


 馬車の中。

 まるで馬車に荷物を積み込むかのように、ごくごく自然に馬車に乗せられてしまった。


「おかしな真似はするな。 お前に巻いたそれは魔法を封じるものだ。 お前がどんなに凄腕の魔法使いでもそれは破れない」


 男の一人がそう言う。

 魔法を使えないのか。

 なるほど。

 そういうことなら今は魔法を使わないほうがいいかな。

 帯状の、布ようなもの一面に魔法陣が描かれている。

 おそらくこの一つ一つが重なり合って特殊な効果を発揮させているんだろう。

 乗せられた馬車はいまだに揺れている。

 こうしている間にもどこかに連れて行かれているようだ。

 しかし、どういうことだろうか。

 助けてと言った女性、そう言う女性に手を掴まれた自分、そして女性を追っていた男たち。

 今、捕まっているのはなぜか自分だけだ。

 男たちの横に立っていた女性は、ノールに目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「こんにちは。 小さな魔法使いさん。 キミ、エレメンタルメタルゴーレムを一瞬で消滅させたんですってね。 そんな報告を受けたときは驚いたわ。 けど彼らがわざわざ嘘の報告をするとも思えないし。 あなたは放っておくと邪魔だから先に捕まえさせてもらったってわけ。 エレメンタルメタルゴーレムを召喚してもまたあなたの魔法で消されちゃったら困るものね。 あなたを失った彼らに、あのゴーレムは倒せるかしら? ねぇ? ふふふっ。 今頃あなたのお仲間も大ピンチでしょうけど、安心してね。 みんな揃って、同じところに送ってあげるから。 そうね、自己紹介でも、と言ってあげたいけど、どうせ死ぬ人間に教えても意味はないし、私もあなたに興味ないのよ。 そういうことだから。 じゃあ、先に逝きなさい」


 そう言う女性の目に優しさは感じられない。

 その女性は立ち上がりノールから少し距離を取ると、男が持っていた剣を取りノールに向かって振り下ろした。

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