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ワイバーン討伐

 帝国とを繋ぐ街と言うだけあって、街道を行きかう人は多い。

 特に行商の馬車が一段と多く感じる。

 彼らから見ると実に不思議な光景なのかもしれない。

 もう少しで街だと言う場所にテントを張って野営している冒険者と言うのは……。

 

「ねえ君たちここで何しているの? もし良かったら乗せてってあげようか?」


 そう声をかける馬車には声をかけてきた男と数名の女性が乗っている。

 女性のほうはこちらを見ると手を振ったり笑顔を向けてきたりするが、着ている服がかなり独特だった。

 薄着、というかほとんど裸に近いというか。


「悪いが警戒任務中だ、シッシッ!」


 テントからいそいそと出てきたクラインがそう言って追っ払っていた。


「ねぇクライン。 今の人たち何?」


 エルビーがクラインに尋ねる。


「ん?ああ、子供は知らなくていい人たちだ」

「何それ」

「いいんだよ。 世の中には知らなくていいことがいっぱいあると言うことを知ってくれ」


 そう、いろいろな人がこの街道を通るのだ。


「お嬢ちゃん、どうしたの? もし良かったら……」

「さっさと行け。」


 声をかけてきた男にクラインが剣を抜きつつ言い放つ。


「チッ! んだよ、子連れキャンパーかよ……」


 グリムハイドに居たときには見かけないような人たちを、この街道では目にする。

 ちょっと楽しいかも知れない。


「あは。ちょっとみてくださいっすよー。 かわいい子たちがテント張っていまっすよー。 こんなところで何してるっすかねー」

「あれは冒険者だな」


 馬車に乗る少女に同じく馬車に乗る男が答えていた。


「ええー、あんなに小さいのに冒険者なんっすかー」

「ああ、帝国じゃ子供の冒険者は珍しいが王国じゃよくいる」

「それって、貧しいってことなんですかー?」

「そうじゃない。 王国の領内は森が多く、出る魔獣も比較的おとなしいものばかりだ。 だから子供でも薬草の採集で小遣いを稼いだりできる。 子供たちにとっては遊びの一環なんだろうな」

「へぇ、たくましいものですねー」


 そんなことを言いながら通り過ぎようとする馬車。

 しかし、その馬車を追いかけるかのように近づいてくる複数の気配。


「クライン、来た。 たぶんワイバーン」

「え?ほんと? ワイバーンどこ?」


 ノールの言葉に先に反応したのはエルビーだった。


「ほ、ほんとか? どこだ? 数は?」


 遅れてテントから出てきたクラインが若干焦った様子で聞いてくる。


「あっち。12匹」


 そう言って東側の山を指す。

 ノールが指さしたほうをエルビーとクラインが、そしてなぜかノールの言葉に反応して止まってしまった馬車の二人も見ていた。


「あのー、あの子ー、ワイバーンって言ってますけど……。 冗談ですよね?」


 疑問を投げかけた少女に、男は答えず、ただノールが差した方角をずっと見続けている。


「12匹?! いやノール、さすがにそれは間違いだろ?」

「ワイバーンは会ったことないから分からないけど、飛んでくるのが12匹いる」

「んん~? ダメだ。 わたしも分からない」

「まだ距離がある。 けど移動速度は速いから着くのはすぐ」


 その場の5人がただ同じ方角を眺めている。

 そんな光景を不思議に思いながら何台かの馬車が通り過ぎて行った。


「……!! アーディ! ラゥミー! 戦闘準備だ! ワイバーンが来るぞ! 12体!!」

「は!? 何よワイバーンって!」

「いや、それはちょっとまずいんじゃないか?」

「いや、いやいや、いやいやいや。 ちょっと待って欲しいですー。 ワイバーン12匹って、それはなんでもおかしくないですか?」

「おかしかろうとワイバーンなのは間違いない!」

「な、あんたたち。 俺たちはワイバーン討伐のために張り込んでいたんだが。 さすがにあの数はまずい。 できれば協力してもらえるか?」

「もとよりそのつもりだ」

「それは助かる」

「それより、そっちの子供たちは大丈夫か? かなり乱戦になるぞ。 この人通りもかなり厄介だな」

「あの子たちは大丈夫だ。 あれでかなり強い。 人通りは、まあ戦闘が始まれば逃げてくれるだろう。 最初を踏ん張れば何とか……」

「12体のワイバーン相手に踏ん張れるか?」

「それは言わないでくれ」

「クライン。 魔法の気配。 撃ってくる。 それとあの魔獣、悪魔に憑依されてる」

「はあ!? ちょっとノール、どういうことだ!?」

「前にレッサーデーモンに憑依されたウェアウルフと戦ったことがある。 それに似た感じ」

「それは、聞いてはいたが、まさか本当に……」

「ちょっとぉ!? ヘイゼルさーん! あの子ぉ! レッサーデーモンに憑依されたウェアウルフと戦ったって言ってますよー!? 遊びの一環って!? 王国の子供! わんぱく過ぎませんかー!?」

「俺が知るかよ! ってヤバイヤバイ! 魔法来るぞ!」

「いやーーーーあーーー、あー、あー、あれっ? 来ないっすよ?ヘイゼルさん」

「えーと、そうだな、全部防がれてるからな」

「だから言っただろ。 あの子たちは普通に強い。 俺はクラインだ。よろしくな」

「普通ってレベルじゃねえぞ、あれは。 俺はヘイゼル」


 クラインは自己紹介をしつつ弓を構え放つ。


「ああ!くそっ! スキル使っても外れちまう」

「相手が悪魔憑きなら仕方がないんじゃないか。 あいつらスキルを妨害することも出来るらしいし」

「うぇっ!? マジか!」

「じゃこっちの攻撃の番と行くか! ラゥミー! 魔法ぶちかませ! アーディと俺は魔剣で攻撃! ビリエーラ! 少し黙ってて!」

「いや、ちょっ!? ひどくないですか!! ヘイゼルさーん!」


 ヘイゼルと名乗った男は風の魔法で。

 そしてアーディと呼ばれた男は雷の魔法で攻撃する。

 魔剣か、後で触らせてもらおう。

 エルビーはと言うと……。

 そんな魔剣持ち二人を羨ましそうに見ている。


「エルビー。 どんな魔法がいいの?」

「えっ? どういう意味?」


 ノールは魔剣持ちの二人を見る。


「え、出来るの?」

「それは魔剣じゃないから効果は一時的だけど」

「やった! じゃあ火がいいわ!」

「わかった。ちょっと貸して」

「ええ」


 そしてエルビーから剣を受け取り、剣に火の魔法を込める。

 刀身が赤く煌めき、音と共に炎が生まれ膨れ上がる。

 ノールの、いや大人の数倍の高さに届くかと言う大きさ。

 扱いを間違えれば、持ち主をも焼き尽くさんばかりの灼熱。


「すっごーい! 何それ!」

「はい、やけどしないように気を付けてね」

「わかったわ!」


 炎を纏った剣をエルビーに渡す。


「なんなんっすか?! なんなんっすか?! 今のっ! えっ!? なんなんっすか?! へいぜるさーん!」

「いや、だから! 俺が知るかっての!」

「あれは付与魔法よ、たぶん。 ただ威力が桁違いだけど」

「俺の知っている付与魔法はもっとかわいらしい炎だよ?」

「そうよ! だから桁違いなの!」

「っていうか付与した時の炎で2体ほどワイバーンが消し炭になってるけどな」

「王国の子供、マジ半端ないっすよ~……」

「それじゃ! 行くわ!」


 エルビーが叫び、そして駆ける。

 空を飛ぶ敵に近づき、上空に向かって剣を横なぎに一閃した。

 剣に纏う炎はまるで爆発したかのように轟音を立てながら大きく膨らみ敵を包み込む。


「あれ。 ねえノール。 炎消えちゃったよ?」

「付与魔法だから一時的。 もうちょっと制御して小出しにすれば、その分持つようになる」

「ああ、そうなの……」

「エルビーも覚えればいい」

「え、わたしは無理よ」

「でも前に似たようなことしたし」

「ん? なんのこと?」

「ブレスに魔法乗せたでしょ。 基本はあれと同じ」

「え、マジか……。 出来るようになるかなあ……。 魔法は好きじゃないけど、よしやってみるわ!」


 ワイバーンの気配は無し。

 今のエルビーの攻撃ですべて倒せたみたいだ。


「なんか、王国怖くなってきました」

「ビリエーラ。 キャラ忘れてないか?」

「いや、もうそういう気分じゃないんで」

「俺が知る限り、王国の子供はあんなにヤバくないから安心しろ」


 そんな二人の会話にクラインが割って入る。


「ヘイゼル、助かったよ、ありがとう」

「いや、倒したのほとんどあの子たちだけどな」

「それ言ったら俺は1体も倒してないんだが……。 けどまあでも、Aランクの魔獣12体は普通に快挙だ。 とりあえず報酬を分けようと思うんだが、一緒に来て来てくれるか?」

「いや、だから、俺たちはそんなに貢献してないしさ。 別に俺たちに気使ってもらわなくていいぜ? 全部そっちで受け取ってくれよ」

「でもそれは悪いような……」

「気にするなって。 俺たちもこの先に向かう予定だから、あまり悠長にしている時間はないんだ。 ほんと、別に俺たちのことは気にしなくていいからさ」

「ヘイゼルさん。 逆らったらあの子たちに食べられちゃうかもしれませんよ?」

「ってお前がそれ言うのか! 依頼者!」

「いや、だって……」

「あの子たちは猛獣じゃないから安心してくれ」

「はあ~あ。 まあいい、依頼者がいいって言う以上俺らに拒否する理由もないわけだしな。 お言葉に甘えるとするか」

「そうかそうか。 じゃあノール、エルビー。 テント片付けて街に帰るぞ」

「わかったわ。 でもクライン。 テント、さっきの攻撃で吹き飛んじゃったわよ?」

「え? 何してくれてんの!?」

「大丈夫よ! 荷物はノールが回収済み! テントが壊れただけだから安心して」

「あのテント、ギルドからの借りものなんだが……」

「犠牲は付きものよ」

「もういいよ……、じゃあ帰るぞ……。 ほんと、ゲインの苦労が良く分かるな……」

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