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冒険者ギルド

「さて、ノール。まずは合格おめでとう。そんじゃコーラスのねぇちゃんのところ行って冒険者カード貰ってきな」


 討伐試験が終わり冒険者ギルドに戻ってきたノールとビッツ。

 ギルド長への報告に離れていたビッツが戻ってくると開口一番にそう言ってきた。

とりあえず冒険者にはなれるようだ。

 しかし冒険者になったあと、何をすればいいのだろうか。


(ぐぅぅ……)


 ん? 何かが鳴いている。お腹の辺りで。


「あ……?」


 ビッツは音の主がノールのお腹だと確認した後、今までで一番大笑いしていた。


「なんだ? この街に来てから何も食べてなかったのかよ? まったく。あーちょっと待ってな、軽く食べられる物買ってきてやるよ。あー気にすんなって。これは俺のおごりだ。新冒険者誕生のお祝いだと思ってくれ」


 そう言い残し速足でギルドを出ていくビッツ。

 リスティアーナの言っていたのはこれなのか。こんなの分かるわけがない。

 ビッツが買ってきてくれたものはサンドイッチというものだ。

 シャキシャキしていておいしい。

 神でいたとき食事は不要だった。

 ノールにとって神となったあの時から、今までの中で初めての経験。正直言うともう少し食べたかったが…。

 サンドイッチを食べ終え、ノールはコーラスのもとに向かう。


「ノールさん!まずは合格おめでとうございます。しかしびっくりしましたよ。Dランクの魔獣を10体も倒してしまうなんて! 最初はどうなるかと思ってたのに!」


 それはどういう意味だろう。


「あ、おほんっ。失礼しました。えーと、それではこちらが冒険者カードとなります。あ、あと、仮の冒険者カードは引き取らせていただきますね。それで冒険者ランクについてですが、ノールさんはDランクの魔獣を10体、脅威度で言えばCランクに匹敵する状況での合格でした。この点を踏まえ、ノールさんには特別にFランクではなくEランクとして登録をさせていただきました。とはいえ、まだ初心者の面もありますのでギルドにご用向きの際はFランク窓口のご利用をお勧めします。これからも当ギルドをよろしくお願いします」

「よしノール。これからは同じ冒険者だ。またどこかで会うこともあるかも知れねぇ。もし何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれよな」


 そんなビッツの言葉に無言で頷く。

 おそらく、ビッツは人間について最初に知ることができた人物かもしれない。

 こうやっていろんな人間を知っていく。

 自分がやるべきことはそういうことなんだろうと改めて思う。

 決して面倒ではない。神であった時はただ見ているだけでしかなかった。

 でも今は違う。自分から行動する、そんなことだがノールには少し楽しく思えてきていた。

 今度はあそこに貼ってある依頼を自分で選んで解決していく。

 そこではどんな人に会えるのだろうか。

 楽しければいいな。

 気づけば外は暗くなり、ギルドに出入りする人の数も急激に減っていた。


 ――カランカラーン――


 鐘の音が鳴る。


「もうそんな時間か」


 誰とも知らない冒険者の一人がそうつぶやいた。

 窓口には営業終了の看板が掲げられる。

 ギルドと言うものはずっと開いているものだと思っていた。それが夜は閉まると言う。

 どこに行けばいいのだろう。そうだ、ビッツは言っていた。

 困ったことがあったら頼ってくれ、と。

 冒険者は冒険者ギルドが閉まった後どこに行けばいいのか聞こう。

 あたりを見渡すがビッツの姿を見つけることは出来なかった。

 そんなとき、コーラスが話しかけてきた。


「ノールさん、どなたかお探しですか?」


 まさにそれ。


「ああビッツさんを。ビッツさんでしたらたぶん酒場のほうに行ってらっしゃるんじゃないでしょうか?」


 コーラスから酒場の場所を教えてもらいギルドを後にした。

 今頃明かりがついているのは酒場ぐらいだから行けば分かるらしいが。言われた道を進み何とかその明かりの元へと辿り着くことが出来た。


――はるかぜ亭――


 看板にはそう書かれている。ノールは扉を開け中に入る。

 良い匂いがする。どうやらここは食事をするところのようだ。

 そんな中で探していたビッツを見つけたノール。

 左の奥のほうで他の人間たちと共に、泡の浮いた飲み物を飲んでいた。

 ビッツと同じテーブルにいる人間の一人がノールに気付く。

 そしてビッツに向かって何やら合図をしているようだ。

 人間の合図に合わせてビッツがこちらを振り向く。

 やはりビッツで間違いない。

 ノールを見つけたビッツはなぜか上機嫌になりながらもそれを隠すかのように話しかけてきた。


「ようノール。まさかこんなところで再会するとは思わなかったぜ。とはいえこのあたりで食事できるのもここぐらいだし、言うほどおかしなことでもないか。フハハハッ」


 何やら他の人間もビッツと自分のやり取りを泡の浮いた飲み物を飲みながら黙って見ているようだ。


「冒険者ギルドが閉まってしまった。どうしたらいいかわからない」


 ノールがそう告げるとビッツの動きが止まった。

 黙って二人のやり取りを見ていた他の人間は、互いに顔を見合わせる。


――ブファッ――


 ビッツが飲んでいたものを突然噴出した。

 それにつられてか他の人間も噴出した者、吹き出しそうになって何とかこらえた者、いまだに飲み続ける者と様々なようだ。


「おいなんだよ急にビッツ!こっちまで吹いちまったじゃねーか!酒弁償しろ!あと料理も弁償しろ!」

「危ねぇ。危うく俺まで吹き出すところだったぜ」

「いや、お前それアウトだから」


 一人だけやたらと怒っているのが気になる。

 自分のせいだろうか。


「知らねーよ!あと料理は関係ねーだろ!」

「あほか!吹いた酒が料理にもかかったんだよ!」

「どうせお前が食う飯だろ!なんだかんだ理由付けて俺に払わせようとするんじゃねぇ!」

「ちぇっバレたか」

「ああすまねえノール。ちょっと確認したいが、それはあれか、今日泊まる宿が無いって話で合ってるか?」

「宿?」

「ああそうだ。今日寝る宿さ。そういえばノールは今日この街に来たって言ってたな。行き当たりばったりもほどほどにしないと大変だぞ。まあそれも旅の醍醐味なんても言うけどな」

「寝る? 冒険者は寝ないとダメ?」

「ダメってそりゃ、冒険者に限らず夜は寝なきゃダメだろ。食事と同じで欠かすことのできないものさ」


 まただ。

 リスティアーナは寝ることが必要だなんて教えてくれなかった。


「なあノール、どうせまた何も食ってないんだろ? せっかくだからここで食ってけ。金は心配するな。出世払いにでもしといてやるよ。フハハッ」

「おっ?なんだビッツよ、気前良いじゃねーか。なら俺の料理も弁償してくれよ」

「寝言は寝て言え。」


 言われるがままに椅子に座るノール。

 ビッツが適当に料理を注文する。

 それとは別にビッツの前にあった料理を自分の前に差し出してきた。


「今混んでて注文してから来るのに時間がかかるからな。まずこれでも食っててくれ。まだ手は付けてないから安心していいぞ。あと酒もかかってない」


 ビッツたちの見よう見まねで料理を食べる。

 ギルドで食べたサンドイッチというのもおいしかったがこれをまたおいしい料理だ。

 ノールがその料理を食べ終わるかどうかというときに、新しい料理が届けられる。

 出来立ての料理はさらに良い匂いをさせている。

 ビッツは何かを言うこともなく、その料理のすべてをノールの前に置いていく。


「なあノール。食べながらで構わんから聞いてくれ。宿についてだが、ここはるかぜ亭の上の階は宿になっていてな。ここが冒険者のたまり場になっている理由でもある。宿屋兼食事処兼酒場ってわけだ。で、どうする? しばらくここに泊っていくかい? たぶん部屋ならまだ空いているはずだ」


 言われた通り、食べながら無言で聞いて無言で頷く。


「わかった。じゃあ部屋は取ってきておいてやるからそのまま食べていてくれ」


 そういってビッツは席を立つ。

 横目でそれを見送り、言われた通り料理を食べ続けた。

 皿の一つが空になるかというぐらいでビッツが戻ってきた。

 部屋は手配できたと言う。


「それで、ノール。明日からはどうする? 見た感じまだ一人で行動するにはいろいろ不安があるようだし。もし良かったら俺らと一緒に行動してみるかい?」


 その提案にビッツの仲間は何も言わない。

 ビッツの仲間は二人のやり取りを眺め、時折ビッツのほうを見てニヤニヤしたり、互いに見合わせてやっぱりニヤニヤするだけだった。

 食事も終わり手配してくれた部屋に着く。部屋の中は決して広くない。


「ここがノールの部屋だ。で、明日は7時起き。まあ起こしに来てやるからそこは心配するな」


 こうしてビッツたちとのしばしの冒険が始まった。

 チームリーダーで弓使いのゲイン、重装戦士のルドー、探検者のダーン、そして軽装戦士のビッツ。この4人のチームに加わる。

 後から聞いた話によると、ビッツはノールがすごかったという話を仲間内にしていたらしい。ところが仲間はなかなかそれを信じてはくれなかった。

 そこでビッツは、ならノールを連れてくるからとりあえずチームに入れて実際どんな魔法使いか自分の目で確かめてみろ、と言い切ったそうだ。それに他のメンバーは了承した。

 ノールがトントン拍子にチーム入りしたわけである。

 実際のところノールの魔法はそれなりに高レベルであることを伺わせた。

 まず何より反応が速い。

 ゲインも攻撃系の魔法を使えるが、弓を射るよりも断然に遅いため滅多に使うことはない。

 弓で射抜けない敵と戦う時ぐらいだ。

 魔法使いは属性によって得手不得手があるそうなのだがノールはそれを感じさせなかった。

 とは言え、開けた場所でもないので使われる魔法は限定されてくる。

 ノールは比較的氷系の魔法を多用する。


 そんな生活を始めて数日たったある日のこと。

 いつものようにビッツたちと仕事終わりの食事をしていると街の外が騒がしくなっているのが聞き取れた。それは少しずつ、そして確実に大きくなっていく。

 ビッツたちもその変化にただ事ならぬ状況を感じたのだろう。

 まだ何か行動を起こすわけではないが聞き耳を立て状況を把握しようとしている。

 すると冒険者ギルドの職員が数名、このはるかぜ亭になだれ込んできた。

 そんなことに緊急事態を予期して立ち上がる者、一体何があったんだと内心ビクビクしている者、久しぶりの騒動にちょっと興奮しかけている者、そして何事もないかのように食事を続けるノールなどがいた。


「た、たいへんだ! どらおん、どらおんが出た!!」


 職員の一人がそう叫ぶ。


「は?どらおん?」


 はるかぜ亭にいる冒険者一同はその言葉になにひとつ理解することは出来なかった。


「違う!ドラゴンだ! 南の山、封印の地、ドラゴンズ・ピーク! おそらくそこからきたドラゴンが街の東の岩山に現れた! ギルドは冒険者をかき集めている! お前たちもギルドに集合してくれ!」


 その言葉を聞いた冒険者一同は、やはり何も理解できずにその場に立ち尽くしていた。



「ドラゴンって? だってはるか昔勇者が封印したんだろ? なんで今更?」


 冒険者ギルドで一人の冒険者がそう口にする。


「皆さん、聞いてください。私は冒険者ギルド、ギルド長のバルドと申します。噂は聞いているかと思いますが、すべて事実です。ドラゴンが東の岩山に出現しました。この街で、いえこの国家の危機です。いかなる犠牲をもってしてでもあのドラゴンを打倒(うちたお)さなくてはなりません。そうしなければ、滅ぶのは我々です」


 淡々と、バルドと言う男は告げる。


「倒すって……、勝てるかよドラゴンに!」


 叫ぶ冒険者。

 口々に叫ぶ冒険者たちだが、その誰もが勝てるはずがないと言う。

 ビッツたちも例外ではなかった。ただ叫ぶことはしない。

 今後どうするか、それを考えているようだ。

 ドラゴンと戦い死ぬか、ドラゴンと戦わずして死ぬか。

 ノールはビッツの顔を見上げる。一度も見たことが無い表情をしている。

 忘れていた。自分は神だ。

 他種から人間が襲われるならそれを助ける、アズラエルはそう言っていたではないか。

 ここは自分の世界ではない、でも自分が世話になっている世界だ。

 何もしないと言うのは、またあの時と同じになってしまう。


「ビッツ。ちょっと行かなきゃいけない場所ができた。たぶん。すぐ戻る。」


 ノールはビッツに告げる。

 ビッツは少しの間の後、「ああ……」と頷いた。

 ノールは少し前にビッツに買ってもらった黒いローブを身に纏う。

 これから暑くなるので日除けとして買ってくれたものだ。

 ドラゴン。

 そう言っていた。

 そう、知っている。

 前の世界にもいた。

 とかげの大きいの。

 とかげは小さいのにそのドラゴンと呼ばれたものは大きく国を一つ滅ぼした記憶がある。

 もう滅ぼさせてはダメだ。神として、やるべきことを全うしよう。

 ノールは魔法を発動した。

 世界を渡る魔法ではないがそれに似た魔法だ。

 離れた場所を瞬時に移動することができる。

 ドラゴンの前を狙って飛ぶ。

 赤い、ドラゴン。

 ただ、残念だが昔見たドラゴンとは違っていた。

 色も形も。

 これがこの世界のドラゴンなのだろうか。


『君は、ドラゴン?』


 目の前のそれに語り掛ける。

 人間はドラゴンに恐怖していた。

 もしこれがドラゴンではなかったら、これは脅威ではない。

 目の前のそれからは何の反応もなかった。

 そうか、人間と同じで念話は通じないのかもしれない。

 今度は普通に、そう普通に聞いてみる。


「君は、ドラゴンなの?」


 到って目の前のそれからは悪意を感じない。

 以前見た魔王のなり損ないは悪意の塊だった。

 これからはそれを感じない。

 言うほど危ないものではないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、目の前のそれは念話で話始める。


『だとしたなんだと言うのだ? 人間ごときが気安く話しかけるな。なんならお前とお前の後ろの街も、すべてわたしが消し去ってやるぞ?』


 どうして?

 なぜ人間を?

 違う。

 人間はそんなに悪いものではない。

 ビッツは良い人間だ。

 その仲間も皆。

 冒険者ギルドの受付の人間も良い人間だった。

 このドラゴンはどうして人間を嫌っているのだろうか。

 そうか、そうだ。

 このドラゴンも自分と同じなのだ。

 人間を知らない。

 知ればきっと分かってもらえる。

 知らなかった自分に後悔することだろう。

 なら、一緒に人間になろう。

 僕と一緒に人間を知っていこう。

 ノールはそう想いを馳せ、そしてドラゴンに向け、手をかざしたのだった。

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