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長老の思惑

『ヴィアスよ。お主、人化の魔法についてはどの程度だったかの?』

『なんですか?急に』

『まあまあ、ちと見てやるからやって見せよ』

『はあ』


 ヴィアスは魔法を発動させた。

 魔法の光がドラゴンの巨体を包み込み、そして消えた後にはまだ若々しい青年が立っていた。

 人間では20歳前後、と言うあたりか。


『ほう。なかなか見事なものじゃの。 ではヴィアスよ。 ちと用事があるのじゃ。 お主も付いてくるが良い』

『え、この格好でですか?』

『そうじゃ』


 長老はそう言うとヴィアスと同じく魔法を発動し、そして人の姿となる。

 こちらは白髪に白い髭といかにも長老と言った風体であった。


『では行くとしようか』

『え、これからですか? どこに行くんですか?』

『ヴィアスよ、心配することは無い。 少し留守にすると言うことは他の者に言っておる。 安心して出かけられると言うものじゃ』

『いや、あの。ですからどこに……』


 ヴィアスには目的地を告げずに歩きだす。

 人間の感覚で数日も歩けば到着するだろう。

 人化の魔法とは言っても人間になるわけではない。

 あくまで見た目を人のように変化させるだけの魔法。

 つまるところはドラゴンなのだ。

 人間ならば休んだり食事をしたりと面倒だろうがドラゴンにとっては些末なこと。

 まあ休養は必要ではあるが、人間ほどではない。


『あの。長老。 大丈夫なんでしょうか。 こんな森の中を出歩いて』

『大丈夫、とは?』

『あ、いえ、女神に見つかったりはしないのかと』

『ドラゴンの姿ではないからのう。 よほど目立つ行動をせねば大丈夫であろう』

『はあ……』


 二体のドラゴンは人の姿となり目的地を目指す。

 出発してから数日。

 その目的地は目前となっていた。


『あの、まあここまで来ると薄々は分かってはいるんですが。 どこに行くおつもりですか?』

『分かっておるなら言う必要もあるまい』

『人間の街、ですよね? しかしなぜ今なのでしょうか』

『なぜ今、か。 そうじゃな。 目的はエルビーじゃ』

『やはり、エルビーに会いに行くおつもりだったんですか』

『そうとも』

『しかし、本当に大丈夫なんでしょうか。 あの勇者がドラゴンの穢れを滅ぼした時のように、突然上から、なんてことないでしょうね?』

『ヴィアス、お主、意外に小心者じゃのう』

『な、なにを言っておられるんですか!? あんなの防げるドラゴンなんてそうそういませんよ!』

『ああ、それには同感じゃ。 あと、ヴィアスよ。 以前にも言ったがあの少年が勇者と決まったわけではないぞ』

『あ、申し訳ありません』

『それはともかく、エルビーが人間の街におるなら、わしらが出向いても大差はなかろうて。 女神リスティアーナもエルビーを排除しようとはしていないようだしのう』

『し、しかし長老、それはエルビーがあの者と共に居るからでは? 我々が出向くことまで許してくれるとは限らないのではないですか?』

『ほっほっほっ。 ならばわしらもあの者に挨拶しておこうではないか』

『え、長老……もうどうなっても知りませんからね……。 ところで、エルビーがどこにいるのか、当てはあるのですか?』

『そんなものあるわけなかろう。 じゃが安心せい。 そういうのを調べてくれる場所があるのじゃよ。 ほれ、見えてきたぞ』

『あの、長老。 なぜ、そんなことをご存じなのですか? 街の中、ここまでの道も迷わず進んでおられた様子でしたが』

『それはお主、決まっておる。 わしは何度も来ているからな、この街に』

『えっ?! ど……どういうことですか長老!』

『念話でそのような大きな声を出すでないぞ、ヴィアスよ』

『も、申し訳ありません。 ですが……』

『わしとてエルビーが居なくなって何もしてなかったわけではないのじゃ。 あの子はわしらの希望でもある。 もし人間の街でひどい目にでも合っているようなことがあったなら、わが身を犠牲にしてでも助け出そうと考えておったのじゃよ』

『そんな……。 まったく、そういうことはおひとりで考えずに相談してください。 私、いや皆が同じ気持ちなのです』

『いやいや、済まなんだな。 だがな、ドラゴンが総出で出歩いてはそれこそ言い訳が立つまい。 わし一人ならば、わし一人の責任で済むかと思ってな。 それに人間の姿とは言えドラゴンじゃ。 魔力を押さえたりとしなければ女神や力ある人間に気取られる危険もあったしのう。 それが出来るのは一握りじゃろうて。 万が一にも、力ある者を皆失うという危険は避けねばならぬからな』

『たしかにそうですが、それなら私に捜索をお命じになられればよろしいものを。 長老はまだまだ皆にとって必要なお方なんですから』

『自己評価の低さはお互い様じゃな。 ほっほっほっ』

『はぁ……』

『さて着いたぞ。ここじゃ。 ここは冒険者ギルドと言ってな。 冒険者と言う者たちに金を払って頼みごとをする場所なのじゃ。 わしもエルビーの情報を得るために何度か来たのじゃが……。 まさか魔法の修練を嫌って逃げ回っていたあの子が魔法で人化しておったとは驚きじゃわい。 それでは見つかるはずもないわけじゃよ』


 二人は念話で会話しながら受付窓口までやって来た。

 この窓口は外来用。

 つまり依頼をする専門の窓口だ。


「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ。 本日はどのようなご用件でしょうか」

「ああ、こんにちは。 実は人を探しておりましてな。 一人は女の子、背格好は、そうじゃなこのぐらいか、そして大きめの剣を携えておる」


 あの時、背格好など遠目で判然としなかったが、それでもおおよその大きさを目ぶり手ぶりで伝えてみる。


「それとその女の子より少し小さい男の子と一緒じゃと思うわい。 男の子のほうは黒いローブを着ていたかのう。 そうそう、男の子のほうは魔法を使えるはずじゃな」

「え~っと。 それは魔法使いと言うことですか。 そんな小さな子で魔法が使えるとなると……。 それって、もしかしてノールさんとエルビーさんのことではないですか?」

「なんと!! そうじゃ、そのエルビーを探しておるのじゃ。 しかし、そなたはエルビーを知っておるのか?」

「あ、はい。 冒険者のノールさんといつも一緒におられますので。 何度かお話したこともありますよ」

「そうかそうか。 それで、エルビーがどこにおるのかは知っておられるのかのう?」

「えーと、たぶんですけど、はるかぜ亭にいるのではないかと。 はるかぜ亭にはギルドを出て右にまっすぐいけば着きますよ。 もしご本人が居らっしゃらなくても、店主さんに聞けば分かると思います」

「なるほど。 では、依頼料のほうはいかほどお支払いすればよろしいのかのう?」

「あ、いえいえ! 冒険者の方に依頼するわけではないので必要ありませんよ」

「それはそれは。 感謝しますぞ」

「いえいえ。 またのご利用、お待ちしております」


 ふむ。

 あの少年はノールと言うのか。


『では、はるかぜ亭と言うところに行くとするかの』

『あの、そこは何をする場所なのでしょうか?』

『さあ、わしも行ったことが無いものでな』

『そう、ですか』


 店主、と言っていたからには何かの店だろうことは想像できる。

 もしかしたらその店で働いてでもいるのだろうか。

 そんなことが脳裏に過る。

 途中、道行く人間にはるかぜ亭という場所を聞いていく。

 人間の書く文字と言うのはドラゴンにはいまいちわかりづらいので、万が一にも通り過ぎてしまわないようにと。



 そして、おそらくここがそのはるかぜ亭と言うところのようだ。

 最後に聞いた人間がここを指さしてくれた。


『では、入るぞ、良いな?』

『はい』


 あの少年は一体何者なのか。

 今回の目的はエルビーを連れ帰ることではある。

 ヴィアスにはああ言ったが、あの少年が勇者で無かった時には厄介なことだろう。

 それはつまり、エルビーが人間の街にいる件に女神リスティアーナは関わっていないという可能性が出てくる。

 ドラゴンの穢れとの一戦、あの子はあの時、ドラゴンの姿で人間の前に現れてしまっている。

 もしそれが女神の耳に届いた場合、あの子がどういう目に遭わされるか見当もつかない。

 あの少年ならばエルビーを守ってくれるかも知れないが、勇者と少年どちらが強いかは不明だ。

 そして、もし少年が勇者であったならば、可能な限り女神の真意を聞いておきたい、と言う意図もあった。

 今、我々は多少の危険を背負ってでも、この人間の街に来るべきだと判断したのだ。

 中に、居てくれればいいのだが……。


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