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二人と、1つの課題

「それでノール。どうするの?」


 さて、どうしよう。

 悪魔を倒すためとは言え、ビックルたちの前で無詠唱で魔法を使ってしまった。


「しょうがないわね。ちょっと行ってくるわ」


 ノールの返事を待つことなくエルビーはそう言ってビックルたちのもとに向かう。


「ねえちょっといい?」

「あ、はい」


 少しだけ、ビックルたちが引いている感じがする。


「あのね、今日のことなんだけど。誰にも話さないで欲しいのよね」

「それは別に構わないけど……。理由を聞いても良いかな?」

「理由は、そうね。ノールってEランクでしょ。えーと、目立つと面倒になるから、ってゲインたちが言ってたわ。ま、そんな感じ」

「ああ、うん分かった。誰にも言わない。皆もそれでいいよね?」

「ああ」「ええ」


 エルビーの言葉にビックルたちが答える。


「で、でも、何でまだEランクなんですか? あれだけ強いのならCランク、いやBランク以上にだってなれるはずなのに」


 そんな疑問をコルクが口にした。


「冒険者にはなったばかりだから」

「で、でも、あれほどの魔法が使えるなら、ギルドだってすぐにでもBランクにだってしてくれますよ? もったいないですよ!」


 答えたノールにコルクが食いつく。


「そうね、ノールだったら簡単よ。けどゲインたちが目立つのは良くないって言っていたわ。ランクは地道に上げるしかないって。冒険者って面倒なのね」

「でも、本当もったいないですよ。あれだけの魔法が使えるならトップチームだって入れるはずですよ」


 無詠唱のことかと思ったけど魔法そのものの話だった。

 暗かったのと、ビックルたちとの間にエルビーがいたおかげか、無詠唱のことは気づいていないのだろうか。


「ところで、誰に魔法を教わったのですか? 僕あんな強力な魔法初めて見ました。ほんとにすごいですよ。もしかして、魔法共生国(レイアスカント)で学ばれたんですか? あ、でも、そうなると……」

「コルク。コルク!」

「あ、はい、なんでしょうリーダー」

「少し落ち着け。ノールたちも困ってるだろ」

「え?あ、ご、ごめんリーダー」

「謝るのは俺じゃないだろ」

「そ、そうでした。ごめんノール、エルビー」

 

 自分の世界に入ってしまったコルクをリーダーのビックルが諫める。

 さすがにビックルの声で我を取り戻したのか、周りを見る余裕は回復したようだ。


「コルク。お前がこと魔法に関して一生懸命なのは知っている。けど、これは彼らにとって今触れてほしくないことなんじゃないか? 俺たちは、彼らに二度も助けてもらっただぞ。彼らが望まないことをするのはダメだ。恩を仇で返すわけには行かないんだ」

「う、うん、ごめん」

「二人とも。コルクがすまなかった。連絡用魔符(メッセンジャー)の時に話したこういうが好きな奴ってのが、このコルクなんだ。まったく普段は大人しいくせに魔法関連になると目の色が変わる。こいつの悪い癖だ。でも悪気があったわけじゃなくて、純粋な好奇心なもので。もしよければ許してやって欲しい。頼む」


 そう言って頭を下げるビックル。


「大丈夫よ。気にすることじゃないわ。わたしだって、正直なんでダメなんか分からないぐらいだもの。ノールは強いんだからそれでいいと思うのよね」


 いや、エルビーの前でも何度かゲインが説明していたはずなんだけど。

 無詠唱が知られると困るって話。


「それは、ありがとう。けどコルクの反応を見て、秘密にしておきたい理由が良く分かった気がするよ。たしかにこれじゃ、面倒に巻き込まれる未来しか見えないね」


 そう言って苦笑するビックル。

 他の面々も全くだ、と言うような表情をしている。コルクを除いて。

 とりあえず、ビッツたちに怒られることはなさそうだ。

 少し安心した。

 すっきりしたところで、疑問だったことを聞いてみる。


「あの悪魔たち、強さはどの程度?」

「え? 強さでずか?」

「そう。強さ、悪魔の」


 ノールの疑問。

 それに答えたのはコルクだ。


「そうですね……。あの悪魔が言っていたレッサーデーモンと言うのはまだ悪魔としては弱くて、自我を持っていないか、持っていてもとても弱いんです。なので召喚魔法で使役されたり、上位悪魔に呼ばれて行動したりするんです。それに対してグレーターデーモンと言うのはレッサーデーモンの上位種となります。自我を持ち、さっきみたいに人と話をするだけの知能も持っているそうです」

「じゃあレッサーデーモンを呼び出して使役していたあいつがグレーターデーモンってことなのか」

「はいリーダー、おそらくは。強さはレッサーデーモンの憑依体がCランクからEランク、グレーターデーモンの憑依体はAランクからBランクぐらいと言われてますね」

「はぁ、もし俺たちだけで出会っていたなら間違いなく全滅してたよな。ほんとノールたちに会えて良かったよ」


 リーダーのビックルは胸を撫で下ろしながらそうつぶやく。

 そんなリーダーの言葉に苦笑しつつ、コルクは後を続けた。


「レッサーデーモンの範囲が広いのは悪魔の強さより憑依するものの強さに左右されるので評価しづらいのが理由だそうです。グレーターデーモンは、基本的に憑依したものの強さを大きく底上げします。今回のようにDランクのウェアウルフでさえAランクかBランクぐらいにしてしまうほどに」


 コルクの話を聞いて少しわかった気がする。


「なあコルク、あの悪魔は洞窟に封印されていた悪魔とは違うのか? 逃げたことを隠すために嘘をついているってことは無いのだろうか? 俺たちは結界に異常はなかったと思ったが、実はもうすでに破壊された状態だったとか……」

「それは僕にもわかりません。ただ今回の調査も入口の封印の確認だけですし、幾重にも封印を施している相手がグレーターデーモンとは思えないですし」

「洞窟の悪魔とあの悪魔は別物。結界もおそらくちゃんと機能している」

「それは、やっぱり封印された悪魔ではないと言うことなんですか? でもノールはどうしてそう言えるんですか?」

「洞窟からもずっと気配を感じていた。あの悪魔とは異なる気配。だから同一個体ではない」

「そうなんですか。上位ランクの冒険者は相手の気配を感じることができるとは聞いたことがありますが……。僕にはさっぱりですね」

「俺にも分からないな。もしかして、今まで俺たちが気づくずっと前から、あの悪魔たちや魔獣の存在を発見してたりしたのか?」


 コルクの言葉にビックルが続けた。

 それに頷くノール。


「わたしも知ってたわよ」


「エルビーも? 二人ともやっぱりすごいですね。それって相手の強さも分かるものなんでしょうか。ああ、でも結界がちゃんと機能しているというのは?」

「洞窟の悪魔はあの悪魔より少しだけ強い感じ。でもあの悪魔は洞窟の悪魔を従うべき上位者と認識していた。洞窟の悪魔の力が強く感じられないのは、多重の結界のせいで弱く見えてしまっているのか、実際に中の悪魔が結界で弱まっているのか。だから今感じている力は洞窟の悪魔の実力ではないと思うけど、実際に結界によって封印されている悪魔がいるのは事実と思う」

「なるほど。それで結界自体はしっかりと機能している、と言えるわけですね」

「しかしなあ、正直、この先やっていけるか自信無くなっちゃうよな。ウェアウルフ1匹にも後れを取るレベルって」

「いやでも、ビックル。あれは不運が重なったというか」

「何言ってるんだ、カミット。命かけた戦いで不運だとか言ってる場合じゃないだろ。ただの実力差だよ」


 そんなビックルとカミットのやり取りだが、しかし思うところがある。


「あの時のウェアウルフも、おそらくレッサーデーモンが憑依していたと思う」

「あ、そうか。Dランクのウェアウルフではなく、悪魔憑きのウェアウルフなら場合よってはCランクの可能性もあるわけですね」


 ノールの指摘でコルクが理解したようだ。


「すべての個体がそうだったかは分からない。基本群れたり不意打ちをしたりしないウェアウルフが異常な行動に出たのは、悪魔に憑依されていたか、憑依された個体に他のウェアウルフが統率されていた可能性はある」

「あれ? でもノール。あの時ウェアウルフにレッサーデーモンが憑依していたかどうかって分からなかったんですか?」


 ノールはコルクの疑問に少し考えた。


「悪魔を見るのは初めて。だからその気配を知らなかった。それと以前戦ったウェアウルフとで強さに差は感じなかった。次からは気付けると思う」


 そう言った後、もしかしたらあのウェアウルフも憑依されていた可能性があったのではないかと気づいた。

 その場合憑依されていないウェアウルフの気配を知らないから気付かなったとも言える。


「あ、なるほど。やっぱりノールからすれば雑魚扱いなんですね」


 ちょっと複雑そうな表情を浮かべるコルク。


「けどさ、それって俺たちはDランク以下ってわけじゃなくCランク以下ってことだろ? ちょっとだけ安心した」

「カミット、いや、そりゃ俺だって自分たちが弱かったというより、相手が強かったから負けたってほうが心のダメージは小さくて済むけどさ。やっぱり負けは負けなんだよ」

「そうは言うけどよ、ビックル。俺たち全員Eランクだぜ? Dランクに負けるのとCランクに負けるのとじゃ全然違うだろ」

「そうですよリーダー。エルビーも言っていたじゃないですか。ランクは地道に上げるしかないって。Eランクの僕たちがCランクを倒そうとするのは分不相応ってやつですよ」

「お前ら……。ま、そうだな、いっぱい経験を積んで強くなっていくしかないものな」

「そうそう」

「それにリーダー。僕分かっちゃったんですけど、ノールやエルビーと比較するのは間違っていると思います」

「それには同意だ」

「エイレも何か言ってやってください」

「コルク、くだらない話に私を巻き込まないで」

「はい。すみません」

「わたし、寝るわね」


 最後はエルビーだった。

 悪魔、そして魔獣や人への憑依。

 あの悪魔はレッサーデーモンをたくさん放ったと言う。

 そもそも憑依させたのがウェアウルフだけとも限らない。

 今後は悪魔憑きの魔獣にも警戒しないといけないだろう。

 ところで、エルビーにつられて全員寝ちゃったけど見張りとか大丈夫なのかな?

 もうすぐ夜も明けるし、魔獣が近づいても自分が気づくから大丈夫だけど。

 この4人の今後をちょっと心配に思いつつ、結局自分も寝ることにした。

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