二人と、それぞれの戦い方
食事を終え、目的地ベルギスラーデンヒルに向け出発する。
食事の間、結局は魔獣に襲われることもなかった。
チーム青炎の槍、リーダーで軽装戦士のビックル、中装戦士のカミット、治療魔法使いコルク、元素魔法使いエイレ。
彼ら4人は全員Eランクで最近になってFからEにランクアップしたらしい。
そしてEランクになって初の依頼。
依頼に失敗してもペナルティは特にないらしいが、やはり評価には影響が出るとのこと。
とは言え、彼らの場合Eランクに成り立てなので影響は少ないらしい。
それでも成功させたかったようだ。
途中、Fランクの魔獣、一角狼に遭遇する。
数は3匹。
自分たちが戦うというのでビックルたちに任せることにした。
その戦闘を見ていて思ったことがある。
魔法使いとして人間らしく戦う、Eランク冒険者らしく戦う、それにはどうすればいいのか。
ビッツたちはBランク冒険者であり剣技など戦闘技術はそれなりに高い。
そんな高ランク冒険者と一緒に居たせいかそれが当たり前と思ってしまっていた。
ところがEランクに成り立ての彼らの戦闘はまだまだその域に達していない。
例えば剣技。
最初にエルビーに教えたのは自分だった。
自分はビッツたちの戦い方を見て覚え、それをエルビーに教えた。
その後もエルビーは自分なりに人間の動きを見て覚えたらしい。
そんなエルビーと目の前の戦士2人を比べると明らかに差がある。
エルビーの体は人間と変わらないとは言え、魂や魔力はドラゴンそのもの。
おそらく戦闘においてもその違いが影響しているのだと思う。
そして魔法については特に、ビッツたちでは参考にならなかったのだ。
ビッツたちは魔法をほとんど使わない。
ゲインが治療魔法と付与魔法を使うぐらい。
そして今、エイレの戦い方を見ていて気づいたことがある。
まず詠唱。
さほど大きな声で詠唱するわけではなく、すぐ近くならともかく、離れるとその声を聞くことは出来ない。
そして詠唱の長さ。
エイレはあまり移動せずに同じ位置から魔法を使うが、口元を見ると詠唱を始めたとか今詠唱しているとかが分かる。
使用する魔法で口の動きは同じ、おそらく同じ言葉から同じ魔法が発動していると思う。
そして詠唱を始めてから魔法が発動するまでの時間もだいたい分かった。
基本的に連発は出来ないのと、強い魔法はその分時間も延びる。
つまり、ローブで口元を隠し人間から距離を取れば、無詠唱で魔法を使っていても怪しまれることは無いのではないか。
それにもし、なぜ口元を隠すのか?と聞かれたら口の動きで魔法を先読みさせないためと言っておけば良い。
次の戦闘は参加させてもらって、ちょっとこの方法を試してみよう。
今回、誘ってもらえて良かったのかもしれない。
おそらく、ビッツたちと行動している間は気づかないことだっただろう。
エルビーの剣技については隠す必要はない。
ビッツたちはエルビーを褒めていた。
それは不自然ではない、ということだから。
ビッツたちから言われたのは自分の無詠唱を隠すこと。
そんなことを考えながらしばらく森の中を歩く。
進む方向に魔獣の気配を感じる。
ビックルたちは……気づいていないみたい。
となれば、今度は自分たちに戦わせてもらう。
もうすぐ見えてくるぐらいだが、魔獣はこちらに気付いたっぽい。
しかし、特に動くような気配はない。
前回は後ろから近づくのもいたけど今回はそういうことはないみたいだ。
ゆっくり、正面から近づいてくる。
ウェアウルフ5匹。
ビックルたちも発見したようで警戒している。
「ビックル。今度は僕たちに戦わせて」
「えっ?でも5匹相手に……」
「平気。エルビー」
「わかったわ!」
言葉と共に駆けるエルビー。
自分はビックルたちと距離を取ってローブで口元を隠す。
エルビーが一番手前にいる魔獣に向かう。
しかし直前で進路を変え、その先にいる油断していた感じの1匹に向かい剣を振り下ろす。
切り倒したと同時に後ろに飛び、背後に向かって横なぎに剣を振り2匹目。
その間にやっと氷の矢の魔法発動で3匹目。
エルビーが4匹目に接近し切り倒し、その勢いのまま5匹目。
1匹しか倒せなかった。
「ノール。どうしたの?調子悪いの?お腹空いた?」
「違う。無詠唱だと分からないようにエイレの戦い方を参考にしたら1匹しか倒せなかった」
「ああ、ゲインたちが言ってたことね。ノールも剣で戦えば? その合間に魔法使えばいいんじゃないの?」
なるほど、その手があった。
「次からそうする」
とは言っても口の動きは見られないように注意は必要と言うこと。
そんな話をしながらビックルたちの元に戻る。
「す、すげー」
「エルビーすごいね! ウェアウルフを一瞬で4匹も倒しちゃうなんて」
「かっこよかったぜ」
ビックルたちがエルビーを褒める。
「ノール君は魔法使いだったんだね。小さいのにすごいね」
エイレが褒めてくれた。
「当然よ!ノールは強いから!」
「へ、へえ、そうなの……」
そこは僕のことじゃなくていい気がする。
しかし、このペースだと帰り、グリムハイドに着くのは夜になってしまいそう。
そう思っていたらビックルもまた同じことを思ったらしく、声をかけてきた。
「エルビー、それとノール。このまま洞窟を目指すとなると帰りは夜になってしまう。夜の森は危険だし、今回は諦めようと思う。皆もそれでいいだろ? 二人には迷惑をかけてしまって、ほんとすまないけど」
「え?大丈夫よ。野宿は慣れているわ! ね、ノール!」
そういうことではないと思う。
けど野宿に慣れているのは確か、夜の森は経験済みだから問題ない。
ただ料理が未経験なのは怖い。
「夜、遅めになるけど、今日のうちには帰れるんじゃないかと思う。洞窟ってまだかかるの?」
「いや、あとちょっとで着くけど」
ビックルが答えた。
「じゃあ先に進もう。あと今日は野宿しない。食材ないし料理も出来ないし」
「あれ?ノールって料理作れないの?」
「作ったことない。必要な時はいつもビッツやゲインが作ってる」
街を出るときはなんとかなるように思っていたけど、今はなんともならないように思う。
なので料理をするなんて無理はせず、封印を確認後そのまま街まで帰り食事をするほうが良いだろう。
街に着くのは夜にはなるが問題はないはずだ。
「そうだっけ。えっと、ビックルたちは料理作れるの?」
「料理?まあ作れるよ。食材さえあれば」
「今日は野宿してもいい。食材さえあるなら」
料理できるならそれを食べて野宿をすればいい。
急いで帰る必要もない。
「じゃあ野宿しちゃおう!食材探しー!」
「いや、でも夜の森は魔獣が出やすいし、襲われたらどうしようもなくなるよ?」
「大丈夫だって。わたしもノールも野宿の経験あるし、魔獣なら私たちだけで倒してあげるから安心して寝てていいわよ!」
「えっ、でも……」
「そんなことより食材狩ってきたら料理してくれるのよね?」
「あ、うん、それは良いけど……」
エルビーの勢いに押されてビックルが弱腰になっている。
「じゃあ決定ね!このまま洞窟目指しましょ。それで洞窟付近で野宿、夕食よ!」
エルビーはそう宣言した。
しばらく進むと森が開けてくる。
その先は丘になっていて、今いる場所と頂上の中間ぐらいのところに洞窟の入り口らしきものが見えた。
なるほど、グリムハイドはこの封印の洞窟を見張るため、と言うのも頷ける。
洞窟の向きがほぼグリムハイドに向いている。
「それじゃ俺たちは調査に行ってくるから、二人はここで休んでいて」
依頼内容は洞窟入り口の結界の調査。
それを受けたのはビックルたちのチームなので、自分たちにすることは無い。
暇なのでその場で寝ころんでいた。
しばらくするとビックルたちが戻ってくる。
異常はなかったようだ。
「じゃあ食材調達ね!」
「そうだね、でも全員で行く?」
「別々の行動は危険と思います」
「そうだね、じゃあ……」
エルビーの言葉に青炎の槍のメンバーが意見を言い合う。
最後の一人の言葉をエルビーが遮った。
「平気よ!二人付いてきて! ノールはお留守番よ!」
「うん」
ということでエルビーとビックル、カミットは食材調達へ。
自分と魔法使い2人は留守番。
エルビーが帰ってくるか魔獣が襲ってくるまで寝転がることにした。
森の中、3つの気配。
しかしエルビーたちではない、魔獣の気配だ。
遠くからこちらを伺っているだけでまだ襲ってくる気配はない。
とりあえず今はそのままでいいだろう。
しばらくしてエルビーたちが帰ってきた。
ビックルとカミットは中型の獣を担いでいる。
何の獣なのだろうか、エルビーに聞いてみた。
「何捕まえたの?」
「分からないわ」
エルビーに聞いたのは失敗だった。
「ウッドボアさ。肉質も良いし味も良い」
エルビーの代わりに答えてくれたのはカミット。
「本当は大きな鍋を使ってじっくり煮込むのが美味しいんだけど、今回は簡単な道具しか持って来ていないんだ。あ、でも焼いた肉も美味しいからそこは安心していいよ」
カミットは料理好きらしい。
ウッドボアの肉を厚く切って焼いたものはとても美味しかった。
今回は大きな鍋が無かったことを残念に思いながら食事を終わらせる。
さっきまでいた魔獣3匹の気配だが、食事をしている間に離れていった。
そんな魔獣の行動が気になるけど、ビックルたちが行った結界の調査というのも少し気になる。
誰にも侵入されていないことの証明にはなっているのかも知れないが、警戒すべきは中の悪魔のはず。
中から壊されている可能性は無いのだろうか。
洞窟から気配はする。
ただそれ以上のことは結界に阻まれているからか良く分からない。
悪魔とはいったいどんなものなのか。
なぜ封印されたのだろうか。
そんなことを考えつつ、ノールたちは眠りについた。




