二人と、四人
街道の左側、森の奥の方から気配を感じる。
人間の気配、それとその奥に魔獣の気配もある。
追われている感じなのだろうか。
ならば。
「エルビー。あっちに行く」
「わかったわ」
エルビーも人間や魔獣の気配に気づいたのだろうか。
疑問を持つことなく付いてくる。
ノールたちは気配のする方へほぼ一直線に移動する。
いた。自分たちと同じ冒険者だろう。
戦っている。
ただ数名負傷しているためか攻撃を回避しながら逃げるので手いっぱいみたいだった。
相手は魔獣のウェアウルフ。
以前自分が倒したことのある魔獣で弱い、Dランクの魔獣。
手を出すべきか考える。
魔獣である以上、あれは魔石を持つ。
商人が商品で稼ぐように、冒険者は魔石で稼ぐのさ、とビッツは言っていた。
横取りするのは良くないと思う。
サンドイッチを横取りされてビッツは怒っていたし。
「助けてあげないの?」
様子見している自分にエルビーが聞いてきた。
「横取りになったりしない?」
「大丈夫じゃない?なんかあの人たち大変みたいだし」
「そうかな」
などと考えているとウェアウルフがこちらに気づき咆哮を上げる。
それに合わせて向こうの冒険者たちもこちらに気づいたようだ。
助かった、そんな表情をした気がする。
ただそのあとすぐ、そこにいるのが自分たち二人だけだと気づいたようでまた険しい表情に戻った。
なら、助けよう。
魔法を使おうとしたが、向こうの冒険者に見られているのでやめた。
「エルビー。やってきて」
「いいわよ」
そう言ってエルビーは歩き出す。
ウェアウルフはと言うと、自分に向かって無警戒に歩いてくる少女を見てちょうどいいとでも思ったのだろうか。
狙いをエルビーに切り替えて襲いかかろうとしていた。
「キミ! 逃げて! こいつはウェアウルフ! Dランクの魔獣だ!」
冒険者の一人が叫ぶ。
「へえ。そうなんだ。わたし魔獣のランクとかよく知らないわ」
冒険者の声に笑顔で返すエルビー。
あ、教えてなかった。
自分が知っているとどうしてもエルビーも知っているだろうと思ってしまうようだ。
注意しないと。
ウェアウルフが手を振り上げ、そしてエルビーに向かって振り下ろす。
エルビーは魔獣の攻撃を躱しながら剣を抜き、そのまま両断した。
エルビー初の魔獣討伐はあっけなく終わった。
やっぱり弱い。
「そんなことより、あなたたち怪我大丈夫?」
「え? あ、うん。あ、いや、治療魔法使える者が先に攻撃されちゃって。あ、でも傷はそんなに深くないから大丈夫だ」
どうやら回復役を先に潰されたことで回復が間に合わなくなり、追いつめられる結果になったようだ。
「ありがとう。本当に助かったよ。君たちはその、まだ小さいのに強いんだね。あ、俺はビックル、このチーム青炎の槍のリーダーだ。そしてカミット、コルク、エイレ。全員Eランクなんだが、ウェアウルフ一匹に追い詰められてしまうなんて思ってもみなかった。もう一度、礼を言わせてくれ、ありがとう」
「大したことじゃないわよ。私はエルビー。あっちはノール。ノールは冒険者だけどわたしは違うわ。暇だから付いてきているだけ。そういえばノールもEランクだからあなたたちと同じね。じゃあ、もう大丈夫そうだし、わたしたち行くわ」
「あ、ちょっと待って」
「何?」
「あ、いや、君たちは何か依頼の最中だったりするのかな?」
「いいえ、ただ街道沿いを歩いて魔獣討伐よ」
「そうか。その、もし君たちが嫌じゃなかったらでいいんだけど、俺たちの依頼を手伝っては貰えないだろうか。情けないことを言うようで申し訳ないんだけど、この先ウェアウルフ以上の魔獣に襲われる可能性もある。」
「……。」「リーダー…。」
ビックルの言葉に他のメンバーも思うところがあったようだ。
「普段ならウェアウルフ1匹程度はこのチームで討伐出来たんだ。でも不意打ちとは言え、その1匹にここまで追い詰められてしまった。もちろん成功報酬は2チームで山分けにして、魔石もそっちが討伐した分は持って行って構わない。どうだろうか……」
手伝うのは構わないが、問題が一つある。
ビッツたちに連絡しないとまた怒られる。
「どうする?ノール」
「手伝うのは良いけど、変更するなら連絡しておかないと怒られる」
「ああ、以前ゲインに怒られたものね」
なんか怒られたの僕だけで自分は関係ないみたいな言い方だけど、怒られたのは二人だよ。
「あ、それならいいものがある。これ。これは連絡用魔符と言って、これに伝えたいことを書いて魔法をかけると相手にメッセージを送れるんだ。もっとも送れる相手は予め指定された冒険者ギルドだけどね。相手が冒険者ならギルドには顔を出すだろうから定期的な連絡にはちょうどいいんだ。冒険者ギルドの方で緊急性が高いと判断されれば相手に連絡してもらえるかもしれないし」
「へえそんなのあるんだ。でもゲインたちはそんなの使ってなかったわ」
「これは最近になって魔法共生国で開発されたものなんだ。グリムハイドにその受信器が設置されたのもごく最近だし。まだ多くの人が知らないと思うよ。
俺たちは、メンバーの一人がこういうの好きで知っていたってだけ」
「便利ねそれ! それ使ってゲインたちに連絡すればいいわけよね」
「じゃあここに相手の名前と伝えたいこと、それに君たちの名前を書いて。魔法はこっちでかけるよ」
「わかったわ。はい、ノールお願いね」
「えっ? あ、うん。」
「はい。書いた」
「はい。えっと、本当にこれでいいの?」
「大丈夫」
「そう、分かった。じゃあエイレ。お願い」
「はい、リーダー」
エイレと呼ばれた少女はその紙切れを受け取ると魔法を唱える。
紙切れには模様が浮かび上がり、そして燃えるようにして消えた。
不思議な魔法だった。
自分が使った移動する魔法とは違う。
おそらく紙を移動させたのではなく、紙に書かれていた文字だけを送ったのだろう。
受信器と言うもののほうでは、その情報を受け取り何かに表示する感じだろうか。
人間は面白いことを考える。
「これで大丈夫。この魔法の成功率は高くてよほどのことが無い限り失敗しない。で、失敗した場合は紙は消えずに残るらしいんだ。なので消えたってことは成功したってことになる」
「じゃあこれで決定ね。それで、これからどこに行くの?」
「この先にベルギスラーデンヒルと呼ばれる丘がある。目的地はそこ。丘の中腹あたりに小さな洞穴があって地下洞窟になっているんだ。そこには何重にも結界が張ってあって中には悪魔が封印されているって話さ」
「あくま、って何?」
エルビーがビックルに尋ねた。
「悪魔って言うのは人間や亜人種とは違う、魔獣や魔物、魔人とも違う。厄介で危険な存在だって言われてる」
「へぇ。じゃそのあくまを調べに行くのね?」
「え? あ、いやいや。俺たちの任務は洞窟内の調査ではなく、その入り口の点検みたいなものだよ。最初の封印が機能しているかどうかの確認ってところだね。一番最初の封印が無事なら誰にも侵入されていないって証になるから」
「なんだ。あくまってのを倒しに行くわけじゃないのね」
「いや倒すって……。悪魔ってのは伝説や伝承で語られるほど危険な存在なんだ。僕たちに倒せる相手じゃないよ。君たちは知っているかい? グリムハイドが、あの街がどうしてあそこに建設されたのか」
「知らないわ」
「表向きは貴族の道楽や保養のためとか言われているけど、一部じゃあのドラゴンズ・ピークの監視のためとか、この悪魔の監視のためとか言われているんだ。まあ本当のところは誰にも分からないだろうね」
「そうなのね。ドラゴンとあくまってどっちが強いのかしら? ところで、わたしお腹が空いたわ」
「えっ? ああ、うんそうだね。もうお昼時だね」
「あなたたちはもう食べたの?」
「いや、まだだよ。お昼ごろにベルギスラーデンヒルに到着する予定だったんだ。で、結界を調査してそこでお昼にする。そこから帰還。そういうつもりだったんだけどウェアウルフに後ろから突然襲われてしまって……」
「そうなんだ。じゃあここでお昼にしましょ!」
「えっ?ここで?!」
「だってお腹空いたし」
「でもこんなところじゃいつまた襲われるか分からないよ。せめてもう少し広いところに出たほうがいいよ」
「えー。んー。平気よ。ねえノール。平気でしょ?」
「大丈夫」
「ほら、ノールもこう言ってるし。あそこ、木の根が椅子になりそう。あそこで食べましょ」
エルビーはそう言って木の根に腰を掛けサンドイッチを食べ始めた。
ノールも隣に座り食べ始める。
「あなたたちも食べたら?」
「えっ、あ、うん。じゃあ、俺たちもそうしようか」
「ええ」「はい」
エルビーの言葉に4人も適当な場所を見つけ昼食を食べ始めた。




