事件解決
「クソ、こんなことなら今回の依頼受けときゃ良かった」
誘拐された二人を案じてかビッツが独り言ちる。
「いや、せめて俺も付いて行っていれば……」
ビッツの言葉にゲインも言葉を発していた。
ただその言葉の真意は、おそらく違ったことだろう。
俺たちはダーン、ルドー、ビッツ、そしてクラインのチームと共にノールとエルビーの捜索に入っていた。
ビッツは分からないが、俺は別に二人の安否を心配している、と言うわけではない。
なぜなら、あの二人はちょっと腕に覚えがある程度の相手なら余裕で返り討ちに出来るのだ。
身の安全など心配するだけ無駄と言うもの。
俺が心配しているのはあの二人は若干常識が無いというところだ。
見てないところでいつか盛大にやらかしてしまうのではないかと言うちょっとした期待、じゃなかった不安が心を過るのだ。
今回も何かに巻き込まれた、と言うか自分から首を突っ込むなら情報を残しておけと。
有益な情報はラビータの南のほうと言うことだけ。
この範囲をすべて捜索しろと?まったく。
捜索しているのが俺たちだけと言うのも理由がある。
もし他の冒険者に頼もうものならそれは依頼の発生と言うことになるからだ。
クラインたちの他にもう1チーム今回の依頼を受けていたが、彼らが受けた依頼は盗賊団の調査であり子供の捜索ではない。
子供たちを誘拐したのは盗賊団である可能性があるのだから、子供たちを見つけることは盗賊団に繋がる。
もちろんそういった可能性もあるのだが、それを判断するのはやはり彼ら冒険者チームでしかない。
クラインのチームが捜索に協力しているのは、単純に贖罪のつもりだろう。
誘拐されたのが大人だったならまた違っていたかも知れない。
でも実際に誘拐されたのは知り合いの、しかも守るべき子供ということが、彼にそういった行動をとらせている。
まったく、クラインという男も、ビッツと同じでお人よしと言うわけだ。
それと俺が心配していないのにはもう一つ理由がある。
それは制限時間だ。
夕食の時間には戻って来い。
そう言ってエルビーたちは同意している。
なので、夕食の時間にはひょっこり帰ってくるのではないか、と期待しているのだ。
ほどなくして冒険者とは違う者たちが現れた。
この街、ラビータの憲兵隊だ。
いったいどうしたのかと思ったが、聞くとノールたちの誘拐についてはギルドにも情報が行っている。
そしてギルドの方から憲兵隊に連絡が行ったらしい。
誘拐された直後と言うこともあり、盗賊団について情報が得られる可能性もあるので派遣されてきたようだ。
捜索の人出が増えるのは都合がいいしな。
太陽が地平線の向こうに沈みかけている。
日が届かなくなった森の中は周りよりも暗くなっている。
もしかしたらとっくに帰ってきているかもしれない。
一度戻るべきかどうか考えていると、南の空が一際明るくなる。
他の者たちもその異変に気付いたようだ。
火球の光。
その火球が高く空に上がっていく。
盗賊の仕業なわけがない。
わざわざこんな目立つことをする意味もないしリスクでしかない。
となれば。
俺はノールからの合図だと気づき、皆にそれを告げようとする。
するとその火球は強く輝いた。
そしてどんどんと膨れ上がり、巨大な炎の塊に成長する。
しばらくすると轟音と共に衝撃が襲って来た。
空に浮いていた雲がその衝撃に押し出されていく。
はあぁ……。
また説明がめんどくさいことに。
クラインが話しかけてきた。
「ゲイン。今の爆発はなんだと思う?」
「え?さあ? でもあそこで何かが起きていることは事実だし。おそらく盗賊団じゃないかな? どのみち確認は必要だろ?」
「そうだな。行ってみるか」
まあノールの仕業かどうかより、あそこで何かあったことは事実。
まず向かってあとは有耶無耶にしてしまえばなんとかなるかもしれない。
かなり奥の方まで来た気がする。
位置的にはこの周辺と思われるが……。
「向こうだ。人の気配を察知した」
「分かるのか?」
「うちのメンバーがな。細かい数までは分からないが人がいるのはわかるそうだ」
おそらく近い、ということだろう。
俺たちは人の気配のする方に近づいていく。
いた。
盗賊、という感じはしないが、こんな大勢が森で迷子と言うわけでもないだろう。
爆発の位置から考えるとこの中にアレをした者がいるはずだ。
俺はその中にノールたちがいないか探す。
見つけた。
良かった。
と、同時にあの爆発がノールの仕業ってことはほぼ確定だな。
ノールとエルビーは先に俺たちを見つけていたようだ。
「ノール!エルビー! 無事だろうけど無事か?」
「当然よ!ノールもね」
ノールも頷く。
「一体何があったんだ? クラインからお前たちが連れて行かれるのを見かけたって聞いて。無抵抗で連れて行かれるっていったいどうしたって言うんだ?」
「昨日盗賊団のこと話していたから。ちょうどいいと思って」
「ちょうどいいって……。それで、この人たちは?」
「捕まっていた人たち」
俺の質問にノールが答えた。
そして地面に座り込んでいる女性たちを見やる。
「人間だけじゃなくてエルフもいたわよ」
「エルフ?それ本当か?」
「嘘なんか言わないわよ。本人たちがそう言っているんだからそうなんでしょ。ほら、あそこ」
「ああ、ほんとだ……。しかし、そうか、盗賊団は人だけじゃなくてエルフまで捕まえていたってわけか」
クラインたちや憲兵隊は捕まっていた人たちを介抱している、そしてエルフたちにも気づいたようだ。
「それで盗賊たちはどうしたんだ?」
「なか」
「なか?」
ノールは洞窟の入り口を指さす。
「ああ、これはなかなか見つからないわけだな。天然の隠しダンジョンみたいなものか。しかし、これはすごいな。なんでこんなツルが……」
洞窟に入ろうとしている俺たちに気づいたのかクラインたちも後を追ってきた。
「ゲイン!ここは、盗賊団アジトか?」
クラインが聞く。
「おそらくは。中に盗賊がいるらしい」
「戦闘になるか? しかしツルがすごいな。もしかして洞窟中から外に這い出しているのか?」
たぶん戦闘にはならないだろうな。
なぜならノールたちが外に居たからだ。
それはすでに戦闘が終わっていると言うこと。
答えようとする前にクラインが続ける。
「それになんか冷えるな」
「ああ。そうだな」
狭い通路がツルのせいで余計狭くなっている。
そのツルの通路を抜けた先に異様な光景が広がっていた。
ツルにグルグル巻きにされた人間。
呻き声を上げ助けを呼ぶ声。
厚い氷の壁。
倒れた格子。
クラインが叫ぶ。
「全員戦闘態勢! 得体のしれない魔物がいるぞ! 気を付けろ!」
そう言って剣を抜く。
他のメンバーたちも同様に剣を抜き斧を構え戦闘態勢に入る。
そのうしろについてきていた数名の憲兵にも緊張が走る。
非常に緊迫した様子だ。
その横でそんなクラインたちをただ眺めているだけの俺たちさえいなければ。
「お、おい、ゲイン。何をそんな呑気に……。どこから魔物に襲われるか分からないぞ?!」
「いや、すまん、これ、うちのメンバーの仕業だろうから。気にしなくていい」
「は?え?そうなの?」
「たぶん。そうだろ?ノール」
無言で頷くノール。
「ああ?あ、ああ、ええと、そう、そういうことか」
なんか一気にやる気を失った感じのクライン。
まあしょうがないね。
俺たちは、慣れた。
「これ中身人間か? もしかしてこれが全部盗賊?」
クラインが聞いてくる。
「そうよ!全部盗賊!」
答えるエルビー。
「リーダーがいない」
「リーダ―? 盗賊団のリーダーか? 捕らえていたのか! いや、いないと言うことは逃げられたってことか?」
ノールが不思議そうな顔をして口にした言葉にゲインが答える。
「ねえ、ノール。もしかして忘れてない?」
「何?」
「あのリーダーって男。ずっとノールが倒した牢屋の下敷きになっているのだけど」
「……あ……。忘れてた」
倒れている格子の下にもツルが巻き付いているなあとは思っていたがなるほど、あのどれかがリーダーってわけか。
手の空いている憲兵を呼び一緒にツルを切りながら盗賊団を拘束していく。
しかし、このツルがしっかりと巻き付いているせいでかなり苦労する。
やり過ぎじゃないか?これ。
夕食には……、間に合いそうもないな……。




