表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/166

冒険者

02話 冒険者


「あれ?」


 そこは森の中。ノールは首を傾げ頭には疑問符を浮かべている。

 リスティアーナに教えてもらった人間の住む町と言う場所の近くに降り立つ予定だったのだが。

 だが見渡す限り木しかない。

 転移に失敗したのだろうか。

 転移魔法の制御は簡単とは言えない。

 しかし失敗する理由も思い浮かばない。

 それでも理由を考えてみるが……分かるはずもない。

 考えても無駄なのでとりあえず街がありそうな方に向かって歩き出すことにした。

 どのくらい歩いたのだろうか、後ろから2つの気配が迫ってくる。


 人間だろうか?


 もし人間だったなら街までの道を聞いてみてもいいかもしれない。

 そんな風に考えていたところで気配のする森の陰から一人の人間が飛び出してきた。

 どうやら走って来たようだ。


「うわぁっ! 子供? なんでこんなとこに!? まあいい! すまない!」


 その人間はそう言うと突然ノールを肩に担いでまた走り出す。

 気配は2つ、だが人間は一人。

 ノールは特に抵抗するわけでもなくされるがままになっている。

 その人間からは敵意を感じない、それが理由だった。

 もう一つの気配は若干離れていたが、少しずつと距離を詰めてきている。

 見えた。後ろ向きに担がれているせいもあり、その正体を確認することが出来た。

 それは黒い生き物。前の世界でも何度か見たことあるが……、名前は何だっただろうか……。

 逃げる男に追う獣。となれば、これはもう弱肉強食と言うやつだ。

 男は一切振り返ることなくただ走り続ける。

 弱肉強食は仕方がないと思うが自分まで食べられるわけには行かない。

 ここは、あの獣には申し訳ないが諦めてもらおう。

 先ほどと同じ転移魔法。ただし、今回はあの獣に。

 転移先は自分が降り立ったあの場所でいいだろう。

 距離も十分離れているし。

 ノールは魔法を展開した。

 その獣は魔法によって生じた空間へ吸い込まれるように音もなく姿を消す。

 ところで、自分を担いでいる男だが追手が居なくなったことにはまだ気付いていないようだ。教えてあげようか、そう思ったとき男が声を上げた。


「おーい!! そこの門兵さーん! 助けてくれー!」


 後ろは見やすかったのだが、前はあまりよく見えない。


「どうした? 何かあったのか?」

「はぁ……はぁ……助かった……。わ……ワイルドベアーだ……追われて……途中……この子が……いたから……連れて……逃げてきた……。はぁ……はぁ……」

「そうか、それは大変だったな。それで、ワイルドベアーは今どこに?」

「はっ? どこにって後ろに……あ、あれ?」


 やっと気づいてくれた。


「いや、さっきまで追われてたんだ。あれ? おかしいなぁ……」

「まあ怪我もなく何よりだ。そっちの子も大丈夫だったか?」


 聞かれ頷くノール。


「そうか、じゃあ中に入りな。この森は比較的危険は少ないけど、さすがに遠くまで行くと安全とは言えなくなる。遊んだり薬草採取したりするのは近場でな。それで、お前さんは?」

「あ? ああ、俺は採集に来てたんだよ。そしたら襲われて……って、あっ! 全部、森の中に置いてきちまった……」

「それは、ご愁傷様……。取りに行くなら少し時間空けろよ。じゃないとまたワイルドベアーに襲われるぞ」

「ああ、そうするよ……」


 よくわからないままとりあえず街に着くことはできた。

 次はリスティアーナの言っていた冒険者ギルドという場所だ。この門兵に聞けばわかるだろうか。


「え?冒険者ギルドに行きたいのか?それなら……」


 門兵は冒険者ギルドまでの行き方を簡単にだが教えてくれた。

 ついでにこの街のことも。

 街の名はグリムハイド。この周辺ではもっとも大きな街。

 そして人間がたくさん行き交っている。

 途中、何度か冒険者ギルドの場所を聞きながらノールはなんとかたどり着くことが出来た。



   ――◇◇◇――



 冒険者ギルドの中もたくさんの人間で賑わっている。


「こんにちは。初めての方ですか?」


 ノールは小さく頷き、冒険者になりたいということを告げる。


「では、こちらの用紙に必要事項をご記入の上、あちらの初心者・Fランク受付窓口までお越しください。もし分からないことがありましたらお気軽にお声がけください」


 窓口に立つその女性はコーラスと名乗り、用紙を手渡してくれた。

 ノールは用紙に記入しコーラスに渡す。


「お待たせしました、ノールさん。えーと。何点か確認させていただきたいのですが。それでノールさん、まず年齢なんですが『10~12歳ぐらい、もしかしたら13歳かも』と言うのは?」


 リスティアーナに聞いたことをそのまま書いたのだがまずかったのだろうか。

 何と答えればいいのか悩んでいるとコーラスが先に話を切り出した。


「あ、いえ、別にこれでも大丈夫ですよ。そんなに重要な項目でもないですから。それでノールさん、ご職業なのですが……。え~と……かみさま、と言うのは?」

「そう、かみさま……」

「な、なるほど……。えーと、わかりました。ただ、職業と言うのは、依頼者や他の冒険者にわかりやすいものが良いと思いますが……。ノールさんが神様だとして、下界の民である私たちには神様を仲間にしたとして何ができるのか理解することも難しいのではないでしょうか」


 わかりやすいもの?


「例えば、戦士や剣士であれば剣術を。魔法使いであれば魔法を。そういった能力にあった職業を記入して頂いています。ノールさんは剣など所持していないように見えますが、例えば魔法などは扱えたりしますか?」

「魔法……魔法は使える」

「魔法には元素魔法や精霊魔法、治療魔法など様々なものがありますが……。ノールさんが得意なのはどのあたりでしょうか?」

「分からない……」

「そうですか。えーと、冒険者カードへの登録は魔法使いでも問題はありません。ただチームを組む時にどういった魔法を専門にしているのかわからないと言うのはノールさんにとって不利になる場合もある、ということはご了承ください」


 どういう魔法が使えるかということも必要なのか。

 そんなこと考えたこともなかったが……。


「それから希望する試験はどういたしますか? 討伐の場合、試験官が同行し一定数の魔獣討伐をしていただきます。採集の場合はいくつかの決められた薬草を決まった量持ってきていただくと言うものになります。採集試験の場合試験官は同行いたしません」


 薬草なんてわからないけど狩りならわかる。


「討伐……」

「わかりました。討伐ですね。では試験官の手配をします。ご希望の日時はございますか?」

「ない……」

「わかりました。では少しお待ちください。よろしければあちらの椅子でお待ちください」


 椅子で待つ間、ノールはギルドの中を見渡す。

 剣を持った者、杖のようなものを持った者、武器を持っていないも者。

 さほどの長くない時間を人間たちの観察に費やしているとコーラスが声をかけてきた。


「お待たせしました。試験官の手配ができました。まずはこちらをお持ちください。こちらは仮の冒険者カードとなります。ではご案内いたします」


 入口の反対側、受付窓口の左側にある扉から外に出る。

 扉の外に出ると太陽が眩しく感じられた。

 気付けば太陽は一番高い場所まで昇っている。外には一人の男が立っていた。


「よう。そいつが試験受けるってことかい?」

「ええ、そうですよビッツさん。こちらはノールさん、魔法使い、と言うことです。ノールさん、こちらの方はビッツさん。Bランク冒険者の方です。本日の討伐試験の同行者、試験官となります」

「さて、紹介してもらったわけだが、俺はビッツだ。Bランク冒険者をやっている。ちなみに獲物はナイフか短剣だ。長いものは動きづらくてな、好みじゃねぇんだ」


 そう言いながらビッツはその相貌には似合わない笑みを浮かべた。

 人相はお世辞にも良いとは言えず、女性が夜道で出会ったならまず逃げ出すような風体の男。

 仲間内では見た目も相まって野盗にしか見えないと評判は上々だと言う。


「お前さんは……ノールと言ったか。見たところ武器のたぐいは持っていないようだが準備は必要か?」

「必要ない……」

「そうか。まあ魔法使いはあまり武器には頼らねえしな。とは言え、今は一人で行動するわけだし念のためだ。これを貸しておく。使わないなら使わないで良い。だが必要になったら躊躇わずに使ってくれ」

「わかった」


 そう言って短剣の一本をノールに手渡した。


「それでは、ノールさん。まずは無理しないように。今回の試験でダメだったとしても再挑戦は可能です。無理して大きな怪我でもしてしまったら再挑戦できなくなりますから。無理と感じたらすぐビッツさんを頼ること。いいですね?」


 小さく頷くノール。

 コーラスは討伐試験に向かう二人を見送りながらふと思う。


(あんな小さい子だけど大丈夫だよね?魔法も使えると言っているし。どんな魔法か知らないけど。魔法、使えるんだよね……?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ