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事件発生

 ラビータの街。

 港町として栄え、聖王国との橋渡しとなっている街。

 ゲインたちは街へと入り長かった護衛任務をようやく終えたのだった。

 あとは残りの報酬を貰ってまたこの長い街道を帰るだけ。

 もちろんその前にゆっくり休養は取るつもりでいる。

 ゲインとビッツ、そしてノールにエルビーと言うメンバーで報酬を受け取るべく、この街の冒険者ギルドへと向かう。

 休暇はその後だ。

 ルドーとダーンは宿の手配で別行動している。

 グリムハイドの冒険者ギルドのほうが大きい、それがゲインの印象だ。

 エルビーも分かっているからなのか大きさについて騒いでいる様子はない。

 普通ならそんなに待つことなく、報酬が支払われるのだが今日はやけに長く感じられた。

 そんなゲインたちのもとにギルド職員が歩いてくる。


「チーム風狼の牙の皆様でしょうか?」

「ああ、そうだけど」

「お待たせして申し訳ありません。今回の護衛任務の報酬をお渡ししますので窓口までお越しください」

「ああ、わかった」


 冒険者カードを使い身分確認をした後、約束の報酬を渡される。

 このずっしりした感触。

 苦労した甲斐があったってものだ。

 よし、休暇だ!

 そう思って立ち去ろうかとしたとき、いつもならお疲れさまでしたなどと言って終わるのに今日は別の言葉を返された。


「ゲイン様、お忙しいところ申し訳ないのですが、ギルド長がお会いしたいとのことです。集会室までご足労いただけますでしょうか?」

「全員で?」

「はい」

「ああ……そうか、分かった」


 とは言ったものの、全員は揃ってないが別にいいだろう。

 しかしなんで呼ばれるのか理由が分からなかった。

 まあだいたい面倒ごとが待っている、ってのが相場だろう。

 ゲインたちはこの街のギルドの集会室には入ったことが無い。

 グリムハイドの集会室は結構広く多くの人数を収容出来た。

 もしここも似た大きさなら、相当数の冒険者を集めようとしていると言う可能性はある。

 となればまず厄介ごとしかないだろう。

 が、行くしかない。


      ◇


「やあ、ゲイン、久しぶり」


 扉を開けて出迎えたのはギルド長でもなく、同業者だった。

 今回の依頼の中で唯一のAランクチームのリーダー、クラインだ。

 ちなみに見知った顔とはこの男のことだ。

 ゲインは他にも数名見知った顔を見つけていた。

 おそらく今回の依頼に参加した者たちを集めたと言うところだろう。


「なぁクライン。この呼び出しは?面倒ごとか?」

「さあ?俺たちも呼び出されただけで内容は聞いてないんだ」


 まさか、エルビーの暴走っぷりにクレームだろうか?

 だがあれが無かったら最悪のタイミングで奇襲を受けていた可能性も高いはず。

 いや、でもそれならクラインたちも呼ばれている理由が分からない。

 クラインたちが証言者か?

 そんなことを思っているとクラインがエルビーに視線を向け聞いてきた。


「そこの女の子。ゲインのところのメンバーだろ? 一昨日はすごかったな」

「あ、ああ。まさか大切な商品でも壊しちゃったとかか? でも、貴重なものは無いような話だったはずだが」

「え?いや違う違う。単純に一昨日のあの子の戦いっぷりが驚きでね。しかし、よくあれが盗賊団の偽装だってわかったよね。俺たちの前を通った時は怪しいとは思わなかったんだが……」


 言えない。

 目が合っただけで襲いかかりましたなんて言えない。

 そういえば、俺も聞こうと思って先送りにしてたんだったな、あの時のこと。

 後で聞けばいいやなんて思わず、すぐ聞いておけばよかった。


「ん、ああ、まあ、そうだな。うちには野生的な勘を持っているのがいるからな」

「へえ。それと王都前のやつ。あれもゲインのとこだろ? というか、いつから魔法使いなんてメンバーに加えたんだよ。それともゲインが覚えたのか? あれ」

「いや違うさ。加えたって言うか、一時的に預かっていると言うか。まあ成り行きでそうなっているだけだな、今は」

「なんだ?それ。そのレベルの魔法使いならうちに欲しいぐらいだよ」

「魔法使いならすでにいるだろ? 今更じゃないのか?」

「俺も魔法に詳しいわけじゃないが、うちの魔法使いが言うにはおそらく高ランクの魔法使いだろうってね。まず低ランクの者だと魔法と魔法の間隔が長くなる。それに強引に連発しようとすると精度が悪かったり威力にムラが出たりするらしい」


 クラインに言葉にあの日のことを思い出してみるゲイン。


「それに最悪不発の可能性だってあるらしいんだ。けどあの時、後方から延々と放たれていた火球は威力にムラが無く、精度も高いものだったって褒めてたわけさ。しかし、それがあんな子供とはな」

「そうだったのか。でもあの子は人見知りだから、俺たちがいないところでちょっかい出すのはやめてくれよ?」

「そんなことするわけないだろ。ところで、あの時火柱も上がったけど、あれもあの子か?」

「うっ……。うーん。まあそうだな……。ただあまり大っぴらににしたくないんだ。ほら、あの子がすごいのは俺たちも知っているわけだが、それで大人たちに囲まれるのはかわいそうなんでな」


 なんとかごまかせただろうか。

 と同時に釘も刺しておく。

 まあこの辺は実力と言えば実力なのでごまかす必要もないのだが、無詠唱の件が露見しそうで油断はできない。

 まったくこういう心配はビッツの役目じゃないかな。

 クラインの返事を待つまでもなく、集会室に一組の男女が入ってきた。

 一人は制服を着た女性、ギルド職員だ。

 ならもう一人がギルド長と言ったところだろうか。

 しかし。

 派手な半袖シャツに短パン、そしてサンダル。

 砂浜を散歩中に突然連れて来られたかのような出で立ちだ。


「やあ、皆さん、お待たせしてすみません。私、ギルド長のピルグスと申します。こちらは秘書官のキュリー。以後お見知りおきを。まずは、今日までの護衛任務、お疲れさまでした。報酬の方はちゃんと受け取っていただけましたか?」


 ああ、もちろんたくさんいただきました。


「えー、実は今回、ギルドの方から皆さま方に依頼がございまして、こうしてご足労頂きました。実は、先日皆様が相手にした盗賊団のことなのです」


 やはりか。面倒ごとの予感しかしない……。


「彼らはこの界隈で好き勝手に暴れておりまして、我々も手を焼いているのですよ。王都の憲兵隊と協力する準備はしてまいりましたが、如何せん全容が見えないのが実情なのです。特にここ最近は活動が活発になっているらしく、商業ギルドからもせっつかれる始末でして。そこで皆様には盗賊団に関する調査をお願いしたいのです」


 なるほど。

 それで実際に2度遭遇した経験のある俺たちってことか。


「それで、調査は良いとして期間は? まさか結果出すまでとか言わないよな?」


 冒険者の一人から質問が飛ぶ。


「いえいえ、我々もそれだけにかかりきりになることは出来ませんし。まずは期間を定めて、継続するかどうかは結果次第、と言ったところでしょうか。それからもちろん強制ではありません。危険を伴う任務となりますので」


 危険。

 まあ危険を伴わない任務なんてAランクやBランク冒険者に頼んだりはしないだろうけど、それでも盗賊団の調査ともなれば最悪、命を狙われる可能性もある。

 今回はパスだな。

 正直言って俺たちはそういう任務に向いていない。


「それで皆さま、いかがでしょうか」


「俺たちは参加させてもらう。報酬は期待していいんだよな?」

「うちもだ」


 参加を申し出たのはクラインのチーム、それともう1チーム。

 どうやらギルド長の呼び出しに応じたのは俺たちを含めて3チームのようだな。

 俺は後ろにいるメンバーに視線を送る。

 首を横に振るビッツ。

 おそらく俺と同じ意見、と言うことだろう。

 決まった。


「うちは悪いが不参加だ。見ての通り子供もいるしな」

「そうですか、それは残念です。では参加を希望された方々には、このままここで今後の方針について話をさせていただく、と言うことでよろしいですか?」

「ああ」「構わない」


 俺たちは席を立ち、その場を後にした。

 さて、気を取り直して休暇を楽しもう。

 このギルドにノール、エルビーを連れてきたのには理由がある。

 この後ラビータ散策に二人を連れていくためだ。

 が、その前に。


「ノール、エルビー。お待ちかねの、食事だ」

「わたし肉がいいわ!」


 ギルド長の話を聞いている間、邪神に魂を奪われたかのような目をしていたエルビーだが、その言葉を聞き目に輝きを取り戻していた。

 というかエルビー、魚料理食べるんじゃなかったのか?



 適当な飯屋に入りメニューを見て注文する。

 案の定エルビーは肉料理を頼んでいたが、俺たちは当然魚料理だ。

 グリムハイドじゃ小さめの魚だったこともあり内臓を取って塩焼きなどが一般的で、それ以外の魚料理などグリムハイドに戻ってしまえば食べられなくなる。

 それがこの付近でしか取れない珍味。

 大きさは通常で人の身長よりちょっと大きいぐらいだが、大きいと2倍ぐらいになることもあるとか。

 人の力で獲れるのか? そんな大きいの。

 ともかく、まずはシンプルに煮込み。

 味がしっかり染みていて、なのにくどくない。

 そして香りのあるオイルで炒めたもの。

 極めつけはバターで炒めた切り身にソースをかけた逸品でこれがまた格別なうまさだ。

 寒い時期ならば鍋も行きたいところだが、今は暑いのでそのメニューは提供していないと言うこと。

 残念だ。

 エルビーの隣に座るノールはと言うといつも通り俺たちと同じものを注文しているので、こちらも美味しそうに食べている。

 そんなノールの前に並ぶ数々の料理を目にして、エルビーの手が止まっている。

 わかる。わかるぞ。

 また隣から漂う香りが余計に……。

 あ……。

 ノールの料理にフォークを突き立てるエルビー。

 そしてそのまま食いやがった。

 こいつ、鬼だ。

 ほら見ろ、ノールが今までで見たことないような顔しているぞ。

 ノール、そこは怒っていいぞ。

 さすがに罪悪感を覚えたのか、今度は自分が食べていた肉の一欠片をノールに差し出すエルビー。

 どうするのかと思ったらぱくりと食いついた。

 弟と言うのは姉からこういう扱いを受けるものなんだ。

 そう、どこかで見たことがあるような光景。

 ああ、俺の小さい頃だった。

 そんなノールを見て不憫に思ったのかビッツが半分ほど残っていたものをノールに差し出す。

 お前もう完全にお父さんだな。

 そのあとは食べたそうにしているエルビーを見て、仕方がないなと言わんばかりに追加で二人分注文している。

 それに喜ぶエルビー。

 ノールも心なしか喜んでいるようにも見える。

 昔の苦い思い出を彷彿とさせる食事を終え、次どうするか、と言う相談になった。


「海行きたいわ!」


 海か。

 せっかくだし見に行くか。

 砂浜、ではなく石がゴロゴロしている海岸線に着く。

 エルビーは一目散に波打ち際へ。

 ノールは海よりも、石と石の隙間に入り込んだ海水から顔を覗かせている水生生物に興味を持ってしまったようだ。

 そんなノールたちを見ている間にエルビーが海水を飲んでみたようで咳き込んでいる。

 魚の塩焼きでも食べていれば分かっていたのかもしれないが、あいにくと肉料理ばかり食べていたからなエルビーは。

 そしてそのままビッツが止める間もなく海に飛び込む。

 ほんと脈絡なしの行動だな、ちょっと心配になる。

 それ、後悔するぞ。

 まあ若いうちは失敗を重ねて学んでいくもんだしいいか。

 しばらくすると十分楽しんだのか、ただ疲れただけなのか分からないが、海から上がってきた。

 何やらいろいろくっついてたり持っていたりするのは見なかったことにしよう。

 ずぶ濡れではあるが、日差しも強く風も適度にあるのですぐに乾くだろう。

 案の定、ベタベタするとか髪がパサパサするとか文句を言っている。

 だから言っただろ、いや言って無いか。

 遊んでいるうちにかなり時間が経ってしまったようだ。

 日が落ちるまでまだ時間はあるのだが、その服も含めて洗わなくてはならないからな。

 俺たちはラビータの散策を早々に切り上げ、宿に戻ることにした。





 翌日。


「あ、ゲインやっと起きてきた。もうお昼食べちゃったわよ」


 どうやら俺たち大人組は昼過ぎになっても爆睡中らしい。

 ノールとエルビーの二人で朝と昼の食事をしたと言うことか。

 しかしまだ眠いが。


「ねえゲイン。また海に行ってくるわ」

「えっ?今から?」

「そうよ、海は待ってくれないもの」

「逃げたりもしないだろ」

「別にノールと二人で行くから大丈夫よ」


 一瞬大丈夫か?とも思ったが、まああの辺りは地元の子供達も遊びに行く程度には安全な場所。

 先に予定もないし好きにさせてもいいだろう。


「ああ、分かった。でも夕食までには戻るんだぞ?」

「わかったわ!」


 そう言ってノールを引き連れ出かけて行った。

 時間も中途半端だし軽いものを作ってもらい食べる。

 食べ終わって食堂でゆっくりしていると他のメンバーも降りてきた。



 宿に冒険者数名が入ってきた。

 と、先頭にいるのはクラインだ。

 なぜまたこっちの宿に?

 俺たちを見つけたクラインが声をかけてきた。


「ゲイン、ああ、その、すまん」


 はっ?いやクラインから謝られることなんて何もないはずだが。

 何のことだろうかと疑問に思っているとクラインが続ける。


「昨日、ゲインたちと一緒にギルドに来てた少年と少女だが……」


 だが? 歯切れが悪いな。

 問題起こして捕まったりでもしたのだろうか。

 それは困るな。


「誘拐されてしまったかも知れない」


 加害者ではなかった。

 良かった、良かっ…た?

 えっ?


「えっ?誘拐?」

「ああ。このところ王都近郊や街道沿いの村で報告されていた人攫いだが、あの盗賊団の仕業だったらしい。で、うちのメンバーの一人が探っているときに海で遊んでいる二人を見かけたんだが、その時は気には留めてなかったんだ。だがそのすぐあとにラビータの南のほうに少年と少女が知らない連中と向かうところを別の者が目撃した。話をすり合わせるうちにそれが誘拐犯ではないかと、そういう結論に至ったわけだ。目撃したのはあの場にいたうちのメンバーで少年と少女のことは見知っていた。ただ一緒にいるのが同じ冒険者仲間だろうと勘違いしてしまったらしい。本当に済まない」


 いや、おかしい。

 あのノールとエルビーが黙って連れ去られるはずがない。


「本当にあの二人だったのか?」

「それは間違いないと思う。目立つ子達だしな。」


 エルビーなら有無を言わさず切りかかるだろうと思ったが、剣は今この宿に置きっぱなしだった。

 さてどうしたものか。

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