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エピローグ

 アバタルを倒したノールたちはドラゴンとなったエルビーを追い聖都へと転移した。

 聖都へは直接転移できないためエルビーのいる場所に転移したのだがそこは森の中。

 ただエルビーの気配から木の上にいることは分かっているのでノールは念話で話しかけた。


『エルビー、降りて来て』


 ノールは呼び掛けてみたがエルビーからの返事はない、おそらく木の上で眠っているのだろう。

 それでも構わずノールは魔法を発動させるとエルビーを再び人間の姿へと変えた。


『うわっ!? な、なに? あ……あれ? ああ、ノール戻ってきたのね、今下に降りるから待ってて』


 しらばくドラゴンの姿だったこともあり咄嗟に出た言葉も念話によるもの。

 ちょうどラフィニアとリックが上を向いたあたりでエルビーが木から飛び降りてきた。


「みんな、おかえりー」


 人間の姿に戻ったことを理解したからなのか、もう念話では無くなっている。

 ここから聖都へと戻るわけだがラフィニアもリックも一面が森のためどの方向が聖都か分からなかった。


「ああ、えっとね、たぶんあっちから来たと思う」

「それ、信用して大丈夫なやつ?」

「だいじょーぶっ!」

「今たぶんて言ったじゃねえかよ」

「でも川と街道の間ぐらいに降りたはずだからあっちに向かえば聖都に着くわよ、それは間違いないわ」

「ここは聖都の南と言うことね? なら北を目指せばいいってことだし行くしかないわね、まさかの野宿は嫌よ私」


 それから進むこと数刻、視界が開けその先には川が見えた。


「川か、これを下っていけばちょうど聖都の入口ってところだな」

「川っ! いやっほぅ!」

「ちょっと待った!」


 走り出そうとしたエルビーをラフィニアはガシッと捕まえる。


「エルビーちゃん、なんで止めるの?みたいな顔しないで。 今どこに行こうとしたの?」

「え? 川よ? だって川があるだから川に行くのは普通でしょ?」

「川に行くのは良いけど何をしようとしたのかしら?」

「もちろん泳ぐのよ、あれだけ大きいんだものきっと楽しいに決まっているわ」

「だーめ。 ゆったりした流れに見えるけど、ああいうところに入るとあっという間に流されて溺れちゃうのよ、だからダメ。 どうしても入りたいなら街の中にある噴水にでも飛び込みなさい」

「いや噴水も飛び込んじゃダメだろ」

「せっかく大きい川に出たのになー、ラフィニアたちが来る前に入っておけばよかった」


 ふとノールはドラゴンが川で水浴びをしている姿を想像した。

 それはそれできっと大騒ぎになるだろう、ヴァルアヴィアルスが心配していたのはこういうことだったのかも知れないとノールは思った。


「バカなこと言わないの、先を急ぐわよ」


 聖都は外から見た限りでは普段と変わりないように見える。

 しかし中へと入って見ると一変、あちらこちらと建物が壊れている。


「ラフィニア、わたしお腹空いたわ」

「んー、そうね。 これからフォントラッド商会に行くつもりだったのだけど……」


 フォントラッド商会はエインパルドとの連絡役にもなっているため、エインパルドへ報告をするにも一度フォントラッド商会に行く必要があった。

 そこから使者を出してもらいエインパルドの都合の良い日に向かうというわけだ。


「けどお昼時も少し過ぎちゃってるのよね、まあ言えば出してはもらえるだろうけど……。 でもそれはそれで迷惑だろうし、少し話したいこともあるしここで先に食べてしまいましょうか。 ただこの状況でお店開いているかしら?」

「こんなにいっぱいあるのに?」


 食事が出来る場所であることを示す看板は至る所に吊るされている。

 それだけ食堂が多いと言うことだが、大きく壊れやっていないと分かるような状態の店でもそのままなので今も開いているかどうかの確認にはならないだろう。


「裏のほうに行けば開いているお店は見つかるだろうけど、まずはあそこに行ってみましょ」

「あ、もしかしてあの食堂? 食事ぃー」

「はいはい、やってたらね」


 ラフィニアはそう言うとスタスタと歩き出した。

 向かった先はこの前知り合った商人が営む食堂。


「そんなに被害受けているようには見えないけど……お店やってるのかしら?」


 食堂が視界に入ると僅かばかりに歩く速度が早くなった。

 やはり外見は目立った被害を受けておらず無事のようだ。

 ただ店が無事だからと言って開いているとは限らないとラフィニアは言う。


「とりあえず入ってみましょ!」


 エルビーはそう言うと先陣を切って入る、お店の中は僅かながらに客もいて営業中のようだ。

 店員もラフィニアたちのことを覚えていたらしくある程度の話を聞くことも出来た。

 オーナーであるトルネオはフォントラッド商会と共に街の後片付けに奔走しているのだと言う。

 護衛であるパノンたちも一緒なのだそうだ。

 注文し運ばれてきた料理を食べながらラフィニアはこれからのことについて話をする。


「ねえ、さっきも言ったけど私たちはこれからフォントラッド商会に行くつもりなのだけど、君たちはどうするの?」


 ラフィニアがそんなことを聞いてきたが、それについてはもちろん決まっているだろう。


「フォントラッド商会でもお昼食べる」

「違うわよ、迷惑になるからここで食べようって話したでしょ。 そうじゃなくて、フォントラッド商会に着いたとしてもすぐにエインパルドさんに報告できるとは限らないってこと、もちろん相手が貴族だからと言うのもあるけどね。 それでもいつもなら早くに呼び出されるかエインパルドさん自身がやってくるのだろうけど、お城も今ごたごたしてて忙しいと思うのよね」


 ラフィニアが言うには城の被害もそうだけど、喫緊の問題としてアルハイドや首謀者たちの処遇など様々なことを話し合わなければならず、それどころではないだろうということだった。

 城の被害……。


「エルビー、お城壊してないよね?」

「ゲホッ……ゴホッ……ウェホッ…… な、なによ急に。 わたしは何もしてないわ、ま、魔獣とかが暴れてたからそのせいじゃない?」

「とりあえずエルビー口元拭けよ、ベッタベタだぞお前」

「エルビーちゃん、まさかお城で盛大に魔法とか使ったんじゃ……」

「使ってないわ、わたしはちょっとばかりリオンに協力しただけ、ほんのちょっとよ」

「そう、ならいいのだけど……くれぐれも捕まるようなことだけはしないでね? 今更だけど」

「ほんと今更だけどな」

「いや……じゃなくて、今は君たちの今後の話をしているの。 えっとね、まあそういう理由もあってたぶんエインパルドさんも忙しいだろうから結構待たされると思うのよね。 でも君たちだって依頼をした人に報告しなきゃいけないのでしょ?」


 これほどのことがあったのだから、まずは国の中のことが落ち着くまで話を聞く余裕もないのではないかと言うわけだ。

 エインパルドからすればノールやラフィニアたちがアルメティアやマラティアで大決戦してましたなどと知るはずもないことだろう。

 そういう意味でも報告は後回しにされるはずだとラフィニアは言う。


「報告?」


 何の話だろうかと言う顔でノールが首を傾げる。


「君たちは悪魔のことで聖王国の様子を見て来てって頼まれたのでしょ? 頼んだ人にその報告が必要なのじゃなくて?」

「そうか、うん必要」

「エインパルドさん側の都合でも待たされると思うし報告だけなら私たちだけで問題はないもの。 そもそもオーダルさんにかけた奴隷紋を解除しなきゃいけないからどのみち動けない、だから気長に待つつもりでいるのけど君たちまでそれに付き合う必要はないと思うのよ」


 それはアルメティアに入るためにオーダルへ施した奴隷紋を聖都で解除するという約束をしたからだ。

 彼がいつ聖都を訪れるかは分からないがあのまま放置することもしないだろう、ならそれも待つ必要があるのだとラフィニアは言う。


「分かった、これ食べたら戻る」

「ずいぶんと即決だな、まあいいけど」


 リックはあっさりと決めたノールを見た。

 隣に座るエルビーは若干寂しそうにしているが、ノールからそういう感じがしないことにリックは少しだけ寂しさを覚える。


「ねえノール君、えっと、本当にありがとう。 君の、いえ君たちのおかげで私はずいぶんと救われたと思う。 まさかあの悪魔の最後に立ち会えるなんて思ってもみなかったわ。 上にいる人たちを知れば知るほど私には無理なんじゃないかって、そう思えていたから。 感謝してもしきれないぐらいにね、もちろん今日は私が奢るからいっぱい食べてね」


 ラフィニアの言葉にエルビーは目を輝かせ、さらに料理を注文したのだった。


(さっきまでの寂しそうな表情どこ行ったんだよ、お前)


 そしてリックも負けじと料理を注文した。


「一応言っておくけどリック、自分の分は自分で払ってね」

「あのなラフィニア、男には引くことのできない戦いというものが――――」

「そういうの要らない」


 食事を終え店を出る。

 ラフィニアはノールたちに向き合うと、僅かに目を潤ませて再びノールたちに礼を言う。


「ねえラフィニア、わたしもとっても楽しかったわ。 どこかでまた会ったら一緒に冒険しましょ」


 手を振りながら言うエルビーにラフィニアも手を振り返す。

 人ごみに隠れ二人が見えなくなるとエルビーはノールへと顔を向けた。


「報告って言うことはダリアスのいる魔法共生国(レイアスカント)に戻るってことよね?」

「そう、戻る」

「あのね、ノール。 ちょっとだけアムライズィッヒに戻っちゃダメかな? えっとね……ミズィーに会いたくなっちゃった……」

「分かった、行こう」


 そう言うとノールは転移魔法を発動した。


「どうした? なんか変なもんでも見えたか?」

「いや、そこに子供二人がいたんだけどさ……」

「は? どこにもいないぞ?」

「いや、だから急に消えたんだよ……」

「ははぁん、さては俺をビビらせようとか考えているだろ。 あのな、王城で子供の幽霊が出たって噂聞いたからって、誰がそんな見え透いた嘘に引っかかるかってんだよ」

「嘘なんかじゃ……いや、そうかもな。 変な話聞いちまったから幻覚が見えたのかも知れねえや」


 その後、それは聖都の怪談話として語り継がれることとなる――――。

この話で第三章完結となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

第四章は現在執筆中です。

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