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城のあれこれ

 あれからしばらくの間森の中を彷徨い、ラフィニアたちはなんとか聖都へと辿り着くことが出来た。

 街の中は至る所が壊れ戦争の凄惨さを物語っている。

 ラフィニアは後ろ盾となっているフォントラッド商会に向かうことにした。

 フォントラッド商会当主のボールギットから話を聞くと、平民街の被害は街の様子に比べ人的被害は皆無といっていいほどだった。

 なんでも王妃グレーテが直接商業ギルドや冒険者ギルドへと乗り込み様々な提案をしてきたのだという。

 結果として多くの人が戦火に巻き込まれることなく無事だったというわけだ。


「ちなみに少し前までグレーテ王妃様はここに滞在されていたのだ。 信じられるか? もう寿命がどれほど縮んだことか」


 ボールギットはそう言いながら心臓付近をさすっていた。

 そして数日後、やっとエインパルドから連絡が届いた。


   ・

   ・

   ・


「遅くなって済まないね、いやもう驚きの連続でそれどころじゃなかったというのが正直なところだよ」


 座るように勧められラフィニアとリックはいつものように椅子に腰かけた。


「では報告を聞かせてくれるか。 とその前に、まず二人はどうしたんだ?」


 エインパルドはいつもの二人、ノールとエルビーがいないことに疑問を感じていた。


「私たちは別にパーティ組んでいたわけじゃないわよ、あくまでノール君のやろうとしていることに協力させてもらっていただけだもの。 その目的はリーア……じゃなくて仇となる欠片の悪魔(シュテュック)を倒すことね、あの子たちは依頼者さんのところへ今回の報告をしに戻っていったわ」

「そうか、もう行ってしまったのか。 ところでその欠片の悪魔(シュテュック)というのは何者なのだ?」


 ラフィニアは10年前に聖王国で暴れていた悪魔が実は白の悪魔(リーア)ではなく見た目もそっくりな欠片の悪魔(シュテュック)という悪魔だったこと、そしてその悪魔はエルビーの知り合いである長老様(・・・)によって倒されたことを話した。


「まあ傍から見ていただけだから言えることなのだけど、あっけない最期だったと思うわね。 それで欠片の悪魔(シュテュック)が解放したアバタルはノール君によって滅ぼされたわ」

「氷魔幻獣アバタルと言ったそうだな…… そしてあの光というわけか」

「ええ……今でも夢を見ていたのかと思えるぐらいの光景だったわ」

「だな。 一面が光ったと思ったら何もかも掻っ攫っていくもんだからさ、結界で守ってもらっていなかったら俺たちも一緒に消えていたかも知れねえんだよな」


 天から降り注ぎ大地へと突き刺さる光の柱。

 その柱もよく見ると形あるものではなく、小さな粒のようなものがたくさん集まってできたものだった。

 研究施設でノールが使った魔法聖闇崩界(メイルウィール)を極限まで大きくしたようなものと言えばわかるだろうか。

 そしてその光は僅かではあるがはるか遠くここ聖王国まで届いているというわけである。


「はあ、欠片の悪魔(シュテュック)に氷魔幻獣アバタルか、これはもう笑うしかないな」


 エインパルドはエデルブルグで聖王エルマイスに突然呼び出されたときのことを思い出した。

 それは非常に荒唐無稽な話だったのだ、ノールは女神の化身ではないか……。

 正直言ってあまりのことにとうとうおかしくなったんだろうとさえ思っていたぐらいだ。

 だがここへ来て様々なことが立て続けに起きた。

 それを知ってからはなんとなく聖王がそう思うのも無理もないのではないかと思えるというもの。


「それでエインパルドさんのほうはどうだったのかしら?」

「まずは城の状況を話すとしよう。 転移魔獣は城を中心に多数出現した、貴族街でも数匹暴れていたがそちらはリオン殿や騎士らの力で大方は殲滅できたようだ」

「へえ、彼いつの間にかだいぶ強くなっていたのね」

「どうかな、ノール君から渡された武器のおかげだと彼は言っていたよ」

「えーっと、また何かしたの? あの子……」

「普通の剣を凶悪な魔獣を一撃で粉微塵にする武器に変えてくれたよ、仕組みは分からないが以前見せてくれた聖剣と同じように文字が刻み込まれていたね。 ただ一撃放つのにリオン殿の魔力ほぼすべてを消費するらしく実用性に欠けると言っていたな。 とりあえず彼に匹敵する魔力量を持つ者にも使わせることでなんとかその数匹を倒せたと言ったところだ」

「なるほどね、そうなると残りの魔獣を倒すのにはずいぶんと被害も出てしまったのでしょう?」

「それなんだがな……。 南の空からドラゴンが来て残りの魔獣を全部殺してしまったらしいと…………ん? どうした? 頭なんか抱えて」

「いえごめんなさい、この辺じゃ聞きなれない言葉にちょっと目眩がしただけ」

「城も大変だったんだな、大蜘蛛に襲われたりドラゴンに襲われたり」

「蜘蛛はともかく、ドラゴンのおかげで被害は最小限にとどめられたのだ。 そのドラゴンには感謝しかないさ」

「ドラゴンってやっぱ赤い奴なのか?」

「そうらしい、そのドラゴンだが不思議なことに人間には一切見向きもせずに魔獣だけを襲っていたそうだ。 それどころか危うく騎士を踏みそうになりバランスを崩して、ぶつかった壁を破壊するなんてことがしばしばあったそうだな。 魔獣を倒したドラゴンはまた南の空に消えていったと言う話しだ」

「ってことはさ、やっぱりそのドラゴンは人間を守っていたってことか?」

「まあ結果的にはそうなるのだろうな、アルハイド殿下も魔獣に襲われたとき死を覚悟したそうだが現れたドラゴンに命を救われたのだと言っていたぞ」

「グリムハイドでの噂のドラゴンも人間に攻撃することはなかったらしいし、人間に対して友好的なドラゴンだったんだろうな」

「殿下たちは助かったのね、ドルバスたちは今どうなっているの?」

「二人とも魔獣に殺されたよ、ドルバス卿は殿下の目の前で。 ヴィクトルは逃げた先で魔獣に襲われたらしい」

「そう、殿下は無事で良かったとは思うけど、やっぱり無罪放免とは行かないのでしょ?」

「ああそれも驚いたうちの一つでな、陛下も一度は死罪を言い渡したのだが――――」


 聖王エルマイスがアルハイドに死罪を言い渡した直後、一人の王族騎士が呼び込んできた。

 その騎士とはルナ姫の護衛騎士であるフレデリカであり、彼女は巫女リュールを連れ王の間へとやって来たのだった。


「あれ? でも巫女様って神殿から出ちゃダメなんじゃなかったっけ?」

「そのことで護衛騎士の領分を超えた行為だと騎士団長のフリュゲル殿も叱責していたのだが、当のフレデリカはまったく意に介した様子はなかったな。 さすがランドルフの血筋だと思ったよ」


 そしてフレデリカに連れられて来たリュールは女神の神託を授かったのだと言う。


「その神託と言うのが非常に頭の痛い話でな、アルハイド殿下を死罪にしてはならない、極刑に処するのもダメなんだそうだ」

「また随分と具体的な神託なんだな」

「そうだな、結果としてアルハイド殿下は減刑され、王位継承権の剥奪と王族としての権限を無効にされたというわけだ」

「それってつまりどういうことなんだ?」

「簡単に言うとただの貴族になったということかしらね」

「そういうことだ、それに王族としての権限が無効になったと言ってもそれまでに培ってきた人脈まで奪われたわけではないからな」

「けど元が死罪だったことを考えると他の貴族から反発が出るんじゃない?」

「皆無とは言わないが相手は女神だぞ? 聖王国の貴族が女神の神託を無視した発言をすれば逆に立場を悪くする、さすがにそんな愚か者はいないだろうさ。 あとはそうだな、悪魔についてだろうか。 まあそれについては別のものに話してもらうつもりだがね、入ってきていいぞ」


 エインパルドが何者かを呼ぶ、扉を開け入ってきたのは非常によく知った顔の女性だった。

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