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復讐の刃3

「ノールッ!」


 串刺しとなったノールを見てリックが思わず叫ぶ。


「え? ノール…君……?」


 そしてラフィニアの目に現実とは思えない光景が映し出されている、もはやノールの生存は絶望的と言っても過言ではない。

 今となってセイムエルの『いないほうが都合が良い』という言葉が頭の中でこだまする、エルビーが居ればこの程度の攻撃はすべて軽く往なしていたに違いない。

 国のことなど放っておけばよかった、またしても、自分は最悪の選択をしてしまったのだろうか……そんなどうしようもない考えが頭を過ぎる。


「クソッ! アイツらやりやがった…… クソッ!! プリシュティナっ! どいてくれ頼むからっ!」


 涙目になりつつ駆け寄ろうとするリックの前にプリシュティナが立ちはだかる。

 知っている、彼は基本優しいのだ。

 それはノールだけじゃなくラフィニアに対してもそうだったのを知っていた。

 知っていて、気づかないふりをして甘えていた。


(どうしようもないわね私って…… 本当に……)


 ラフィニアはその場に崩れ落ちそうになる。

 でも本当にそれでいいのだろうか。


(いやダメだ、私がすべきことは今こんなところで後悔することじゃない! ノール君に協力するって決めたんだ! だったら最後まで抗って見せる!)


 ラフィニアはプリシュティナを見据えて心を落ち着かせる。

 この悪魔たちを倒すことがノールの目的、ここでラフィニア自身が折れてしまってはそれこそすべてが無駄に終わってしまう。

 敵側がうまく行っている今こそ油断も生まれやすいはず。


「どうかな? 少年。 守ろうとしていた人間に殺される気分は! 私は見ていた、観察していたのだ! これまでの戦い、貴様は一度たりとも人間を殺していない、魔獣や魔物は殺しているのにも関わらずだ。 貴様は人間を殺せないのだろう? それが貴様の敗因! 魔王復活の阻止などと言っておるから足をすくわれるのだよ」


 その悪魔は楽しそうに笑う。

 何がそんなに楽しいのだろうか、やはりノールにはそれが理解できなかった。

 だが分かったこともある、この人間たちのこと、そしてこの悪魔たちのこと。

 

「え……え? どうして……」


 イビエラが困惑した表情を浮かべている。


「どうしたのだ? イビエラ」


 イビエラの様子がおかしいことにセイムエルが気づいた。


「なんで? そんな、おかしい……なんで? 破壊した…… 破壊したのに…… なんで心臓が復活するんだ!?」

「復活? イビエラ、お前は何を言って……」


 いまだ剣に貫かれているように見えるノール、だが彼は何事もないかのように壊れたフレイヤワンドと共に右手を高く掲げた。


「貴様何をする気だ? まともに戦う力など残ってはおるまい。 ましてや壊れたフレイヤワンドでは大した魔法も使えないだろうに」


 セイムエルには分からなかった。

 だが自身の身体を剣としてノールに突き刺したままのイビエラは、その剣から僅かな異変を感じ取っていたのだ。


「お、お前……なんだその力……そんなウソだ……それは……その力は……まさか、女神――――」


 閉ざされた地下空間にキィーーーンと言う甲高い音が響き渡る。

 イビエラの声はその音にかき消され、そして同時に眩い光がすべてを包み込む。

 それは一瞬の出来事だった、その光からはまるで爆発でも起きたかのような衝撃をセイムエルは感じた。

 耐え難い力の奔流がセイムエルの体を引き千切ろうとする。


「うぐぁっ…… なんだ……? いったい……何が…………」


 光が収まった後もセイムエルのいた空間は今まで通り何も変わっていなかった。

 セイムエルは絶句した。

 その光はセイムエルたち悪魔だけを吹き飛ばしたのだ。

 イビエラはその光の攻撃を受けすでに消失している、セイムエルであっても虫の息となっているほどだ、弱いイビエラなど耐えられるはずがない。

 だがセイムエルにとって信じがたいのはイビエラが消えたことではない、イビエラも含めて操っていた人間たちがすべて消えていることだ。


「ま…まさか…すべての人間を…殺したというのか……そんな…馬鹿な……き、貴様は…女神の命令で人間を殺せないのではないのかっ?!」


 セイムエルはこれまでのノールの戦いを可能な限り調べた。

 魔獣や魔物は普通に倒している、だが人間に対しては自分の身よりも人間の命を優先していた。

 そして悪意や敵意のないものからの攻撃には反応が遅れることも知っている、大迷宮でのリィベルの時のように。

 ノールは人間を殺せない。

 それは弱点と言える、セイムエルはそう思っていた。


 セイムエルの言葉を聞いてノールはいつものように首を傾げ聞き返す。


「どうして? あの人間たちの存在が、魔王を生む原因となるなら排除する。 それだけ」

「それは……どういう……人間の死が……魔王が生まれるきっかけではないのか……」

「穢れた魂は戻らない、魔王の礎となる前に滅ぼす。 君たちもその原因の一つ、だから滅ぼす」


 セイムエルの体が崩れていく……。


「ああ…… そういうことか…… やっと理解できたぞ…… 魂を穢すこと自体が問題だったわけか…… 知っていれば…… 他にやりようもあったのだがな…………」


 セイムエルは滅びゆく時間ときの中で計画が失敗した原因を理解した。

 残るのは白い悪魔(リーア)のみ。


「まったく、下等な者では役に立たんか。 ここはやはりあいつを復活させるとするか……」


 白い悪魔(リーア)はそう言い残すと彼方へと転移して行った。


 イビエラの消滅と共にノールを突き刺していた剣も消滅している。

 だがノールの周囲は一面の血の海と化しておりノール自身無事では済まないだろうと誰もが思った。


「おいノールっ! お、お前あんだけ刺されてたけど平気か!? 今すぐ手当てするからな! 死ぬんじゃないぞ!」

「平気」

「いや、いやいやいや! 平気ってすげえ血ぃ出してたじゃん、平気なわけなくね?!」


 血塗れの姿でいつも通り答えるノールを見てリックが駆け寄る。


「平気、治る……治った?」


 それでも言い切るノールを抑えつけ、刺されたとはずの心臓を確認した。


「うそ…… ほんとだ、なんでだ? 超回復?」


 リックの言葉に首を傾げるノール。


「ああ、いやまあ問題ないならいいや。 それよりほら」


 リックはノールの手を引くとラフィニアのもとまで連れていく。


「おーいラフィニア、ほれほれノールだぞ。 怪我一つなくピンピンしているぞ、こいつ」

「ほ……ほんとね、いったいどうなっているかしら?」

「だろ? もしかして超回復力とかじゃねえかな?」

「何よそれ」

「フフフッ……」

「あっ、おいプリシュティナ、何がおかしいんだよお前。 どいてくれって頼んだのにどきやしないし。 あとなんでそんなボロボロなんだ? 最初からそんなんだったっけ?」


 横たわるプリシュティナは満身創痍と言ったところ。


「そんなことわたくしに聞かれても分かりませんわ。 あなたの相棒に聞いてくださいな」

「ああいやあのね、光ったと思ったらプリシュティナに隙が生まれたように見えて。 そのまま突っ込んでいったのよね、私」

「まあそれだけじゃありませんけど。 光に包まれたと思ったらものすごい力で体が引き千切られる思いでしたの。 なんとか魔力で対抗しようとしたのですけど、おかげで魔力もごっそり持っていかれましたし。 それでも結局ダメージ受けましたの、それで不味いと思って逃げようとしたら突然斬りつけられましたし」

「ねえプリシュティナ、あなた何を狙っていたの? 私たちとの戦い、まったく本気じゃなかったわよね?」

「狙う? ああ、そのことですのね。 別に何も狙ってなどいませんわ」

「でもあなたの実力なら私たちなんてあっという間に倒せたでしょ? そしてノールたちの戦いのほうばかり気にしていたじゃない?」

「私もセイムエルたちもそこの彼を警戒していましたのよ。 セイムエルとイビエラの二人で彼の相手をする、順調に進んでおりましたのにね。 私はそれ以外の者の足止めが役目でしたの」

「ならエルビーちゃんがいない以上、私とリックを倒して三人がかりでノール君を相手にすることは考えなかったの?」

「フフッ、冗談じゃありませんわ。 大迷宮で彼が倒したフロールとフローラだってそんな弱くはありませんでしたの、それが瞬殺ですわよ? 彼の相手をするなんて危険なこと誰が望んでやると思いますの? わたくしはとにかくセイムエルたちの決着がつくまで時間稼ぎをしていただけですのよ」

「ああ、そういうこと……。 けどせっかく警戒していたのにやられちゃったわね」

「十分距離を取っているから大丈夫かと思ってましたのに……。 もうこうなってはわたくしに戦う力はありませんから、あとは煮るなり焼くなり好きにしてくださいな」

「そうは言ってもな」

「リック……」

「お? なんだノール」

「悪魔っておいしいの?」

「「「え?」」」

「煮ても焼いても良いって」

「確かに言いましたけど、それは勘弁してもらえませんこと?」

「ノール君、お腹壊すから止めておきなさい」

「分かった」

「ちょっとひどくありませんこと?」

「ところであいつどこに行ったんだ? 逃げたのか」

「氷塊のところ」

「氷塊? アバタルか!」

「待ってそれって……」

「ええ、あの方は魔獣アバタルの復活に向かったということですわね。 あれは厄介ですわよ、一度復活してしまえば人間の手に負えるものではありませんの」

「けどその人間がかつて封印したんでしょ?」

「ええ、でもその人間が居なくては無理なことではなくて?」

「確かにそうだけど……」


 ラフィニアはどうするつもりなのかノールに尋ねようとした。

 そんな時、ひと際大きな魔獣を捕らえていた牢が強い光を発する。


「何? ……今のっていったい何が……」

「あれ? 中にいた魔獣が消えてるぞ?」

「ああ、やはりそうなりますのね」

「ちょっとプリシュティナ、あなた何か知っているの? アレのこと」

「何って…… わたくしたち散々意味もなく調べていたじゃありませんこと?」

「そう、やっぱりアレってそういうものだったのね。 行先は聖都で間違いないのかしら?」

「おいラフィニア、どういうことだよ?」

「ここが転移魔獣の発生源、ってことよ」

「フフッ、気づいておりましたのね。 ええ、向かった先はおそらく聖都ですわ。 セイムエルは死んでしまいましたから置き土産となりましたけど」

「ウソだろ? おい…… いや、待て。 あんなのが聖都に向かったっていうのか? 追ったほうが…… あっ、いや白い悪魔(リーア)も放っておけねえよな…… どうすんだ?」

「そうね、ノール君、私たちはどうする?」

「聖都にはエルビーが向かっているし大丈夫だと思う。 僕たちはさっきの悪魔を追えばいい」

「了解。 ノール君、アバタルの氷塊のところには転移できたのよね?」

「出来る」

「ちょ…… ちょっとラフィニアさん? 聖都に向け転移している魔獣が一体だけのはずがありませんのよ? いくらあの子でもあの魔獣たちを一人で相手するのは無理ではなくて?」

今の(・・)エルビーなら問題ない」

「だ、そうよプリシュティナ。 じゃあノール君、お願い」

「っておい、プリシュティナはあのままでいいのかよ」

「どうせ何もできないわよ、それに…… あなたがリィベルに会わせるって約束しちゃったじゃないの。 殺すことも出来ないし今は連れてもいけないんだからとりあえずここに置いていくってことで」

「いやでも――――」


 そして転移魔法が発動する。

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