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悪魔研究の調査1

 ラフィニアたちはドルドアレイク辺境伯領に向け出発した。

 おそらく聖王たちも聖都奪還の準備を終え出発したところだろう。

 今回は貸し切りではなく乗合馬車を使って目的地まで向かう。

 ゆったりしている時間はないが、わざわざ乗合馬車を選ぶのにも理由はあった。


「貸し切りのほうが早いんじゃねえか?」

「この辺りは魔獣被害が多いのよ、それに人通りが少ないのもあって山賊なんかも出てくるわ」

「その程度俺らでも問題ないだろ」

「敵の強さが問題じゃないの、むしろこっちの強さが問題なのよ」

「どういうことだよ、それ」

「そのままの意味、極力戦闘は避けて移動したいってわけ」


 以前王都へ向かう馬車の中でも話にあったことだが聖王国の南側は魔獣や山賊による被害と言うのがしばしば報告されている。

 この辺りの乗合馬車では常に護衛の同行が常識となっているのだ。

 そのため護衛もしてやるから安くしろと言う値引き交渉は使えず、腕に自信のある冒険者は乗合馬車を利用したりしない。

 それでも今回ラフィニアたちが乗合馬車にしたのは万が一戦闘になっても自分たちが戦う必要はないというただその一言に尽きる。


「んー? 俺らが戦って困ることなんてあるか?」

「あの子たちに戦わせたら目立つ気がするのよね、まあ山賊が相手なら手加減するのでしょうけど」

「ならあいつらには戦わせないで俺らだけで戦えばいいじゃねえか」

「そんなの、私も戦うーって言うに決まっているわ。 でも乗合馬車なら私たちも我慢しているって言えばたぶん大丈夫。 掃除屋の動向も気になるところだし、少しでも目立つ行動は避けたいの」

「掃除屋が? なんでまた?」

「私たちやエルビーちゃんは見られてないけどノール君は見られているもの。 巫女様同様標的にされていてもおかしくはないわね、彼らが今どこで何をしているかが分からないし。 彼らがこちらに気づくきっかけとなりそうな行動は極力避けたいってわけ」

「なるほど、そりゃ厄介なことだ」


 もちろん連中が馬車移動に絞り込み街道を見張っていたらどうしようもないが、森の中を逃げ続けているという選択肢を完全に捨てきることは出来ないはずだ。

 つまり街道を見張るまではしないが、馬車を見つけ次第中を確認しようとする可能性は存在している。


「まあ杞憂で終わってくれるならそれが一番いいわね。 それに聖王様が聖都にたどり着くのにはまだ時間がかかるでしょうし、エインパルドさんの考えた通りに事が運ぶとも限らないのだから私としては慎重なほうを優先したいところなの。 あと、何よりお金は全額出るのだから楽なほうがいいわ」

「なんか…… 最後のが一番の本音な気がする……」


 ――――とまあ行く方法を決めるときにそんな話をしていたわけだった。

 馬車は国を分ける山々の麓、なだらかな丘陵をただひたすらに進んでいく。

 悪魔研究の調査などと言う目的でなければ、この景色ももう少し楽しめたかもしれないとラフィニアは思う。


 しばらく進むとやはりと言うかなんというか奴らは現れた。

 その者たちは様々な武器を手にし、そして行く手を塞ぐ。

 さらにはこれもやはりなと言えるセリフを吐いてくれる。


「おぅおぅテメェら! 痛い目に遭いたくなきゃ金目のもん置いていきな!」


 馬車に乗る客はラフィニアたち以外にも数名いた。

 わずかに悲鳴を上げるも護衛がいるという安心からか、馬車の中で成り行きを見守る乗客たち。

 そんな彼らと共にラフィニアたちもまた見守っていた。


「ね、ねえラフィニア、なんで急に抱き着いてきたの?」

「え? だってそうしなかったらもう飛び出してたでしょ?」

「そんなことないわよ」

「へえそう。 じゃあその手に持った剣は何?」

「ええーだってタイクツー」


 つまり暇潰しに山賊たちで遊びたいと言うことだろう。


「エルビーちゃん、勝つと分かり切った勝負なんて面白くもないわよーとか、前言ってなかったっけ?」

「人間は成長するものだって習ったの。 わたしは成長して、勝つと分かり切った戦いでも場合によっては面白いことがあるかもしれないと学んだわ」

「そう、それは関心ね。 けど今は大人しく見守るということも学んでね」


 息まく山賊たちに対して護衛の5人が前に出る。

 ラフィニアとエルビーがそんな会話をしている間に山賊たちは定番の口上を終わらせ、次に護衛たちの口上が始まる。


「数は揃えたようだが敵ではないな、どこからでもかかってくるがいいさ」


 勇ましい姿を見せる護衛のリーダー格の男、見た目も相まって乗客の1人が両手を胸の前で組み瞳をウルウルさせていることにラフィニアは気づく。

 道中もカッコいいとか誰がいいとかそんなお花畑の会話が聞こえていたのを思い出す。

 護衛のほうは前衛4人に後衛が1人、おそらく1人で回復役を担っていると思われた。

 相手は10人以上の集団、こちらの護衛は5人。

 倍以上の差はあるが護衛を受けるだけあってこの程度は何ともないだろう、そんなことを思っていた時期が私にもありました。

 あまりにも護衛が弱すぎた、いや違う、山賊が思いのほか手練れ揃いなのだ。

 まあ当然かもしれない、山賊が多い山道、当然対応するために護衛は必須な馬車の旅。

 そんな中にあって今まで生き延びている連中が弱いわけもない。

 山賊は護衛1人に対して2~3人使って押さえ込むと残った2人で回復役に切りかかる。

 思ったよりも早く勝敗は決した。

 回復役が先に潰されたことで動揺した2人があっけなく退場。

 残り2人で5倍近い人数差を覆すことは出来なかった。


「ねえラフィニア……」

「ああ、はいはい、厄介な連中ねまったく。 仕方がないわ、リックやるわよ」

「しょうがねえな」

「わたしも行くー!」


 ラフィニアたちがささっと準備する中、エルビーが一人で飛び出していく。


「あぁーあ、結局こうなるわけじゃん」

「エルビーちゃん! 魔法禁止だからね! 剣だけ! 剣だけで戦うのよ!」


 聖剣を渡すかどうかのやり取りで剣そのものは普通の剣なのだとノールが言っていた。

 ではそれならあの破滅的な威力はエルビーの実力ということになる。

 エルビーだけの話ではない、フレイヤワンドにしたって同じだ。

 フレイヤワンドに魔法を強化する力はないと思っていたが、それまでのことから自分が知らないだけなのだろうと思うようにしていた。

 しかしエルビーと同様にそれがノールの実力なのだとしたら……。


(いや、今更よね。 転移魔法まで使う子が並みの術者なはずがないもの)


 ラフィニアは幸運ともいうべき巡り合わせに頬を緩ませる。

 あの時同じ馬車に乗り合わせなければ、ニヴィルベアが襲ってこなければきっとこの二人と仲良くなることもなく、それはつまり今起こっているすべての問題に自分が関わることもなく蚊帳の外だっただろう。


「分かったわぁー」


 聖剣を渡さなくて良くなったと知ってから一段と剣に愛着がわいたようでここ最近は魔法を使うことに拘らなくなっている。

 どうかそのままでいて欲しいとラフィニアは心の片隅で祈っていた。


「なんか、私たち行く必要ないみたいだしもういいかしら」

「だな、俺寝てるわ」


 一方山賊たちは突然飛び出してきた赤毛の少女にみるみるやられていく。

 先ほどの戦闘で見せた複数人で囲んで叩くという戦法が取れないのだ、エルビーは一撃入れるとすぐにターゲットを替え切りかかる。

 相手がその一撃を耐えるか耐えられないかは関係なく、ただ視界に入った者に襲い掛かっているという感じだった。

 そしてノールはと言うとエルビーではなく馬車のほうに来ようとする山賊を石礫魔弾(ストーンバレット)氷結魔弾(アイスバレット)で吹き飛ばしていた。

 護衛とはいったい何だったんだと思える感じであっけなく山賊たちを打ち倒したのだった。


 本来なら倒した山賊たちは今後のことも考え拘束しどこかの街で神殿騎士に引き渡すのだがこの馬車にそんな余裕はない、御者との話し合いで放置するという結論に至った。


「けどあいつら放置したらまた他の馬車襲うだろ? さすがにそれは拙いんじゃねえの?」

「それは分かるけど山賊なんて連れて行けないわよ? 馬車の速度は落ちるし。 まあ魔獣が出たら囮に使うって手もあるけど」

「えっ…… ラフィニア、それはちょっと……」

「冗談よ」

「だから、真顔で冗談言われても信じられないだって」

「んーそうね、あっ、ねえノール君、どこか適当な場所に転移とかさせられない?」

「分かった」

「え……?」

「ラフィニアさ、どうせ後から冗談よって言うつもりだったんだろ? ノールとエルビーに冗談は通じないぜ」

「まあいいわ、どうせ放置するつもりだったんだし。 同じことでしょ」


 かくして山賊の一味はどこか知らない場所へと消えて行った。

 数日の後、馬車はドルドアレイク領へと入る。

 当然と言えば当然なのかも知れないが今王城がここの主によって占拠されているとは思えないほどに平穏な様子だ。

 街の人に話を聞いてみれば、勇者は偽物で神務局の暴走と言うことになっているらしく、聖王が捕まりそうになったとか逃げ延びてエデルブルグ領にいるという話は伝わっていないらしい。


「これどうなってんだろうな、なんでこう中途半端に情報が広まってんだろ」

「たった数日じゃここまで伝わってこないわよ。 たぶんだけど、勇者様が偽物という話だけは彼らがここを発った後で広まるように仕組まれていたのでしょうね、おそらく他の街でも同じと思うわよ」

「だとしてここの神殿が襲われてないのって何でだ? それを聞いた連中が神殿を襲うって事態に発展したわけで、聖都周辺とこっちとで何が違うんだよ」

「それだって怪しい話よ。 噂を広めた者、神殿を襲った者、暴動が起きたと知らせた者、結局全部内務局長の手の者って可能性もあるんじゃないかしら。 要は聖王様を拘束し王城を占拠する理由が欲しかったのだもの、聖都から離れた場所でも暴動を起こす理由がなかったんじゃないかしらね」

「んじゃあ、偶然ではなくすべてが仕組まれていたってわけか」

「そっ、けど計算外だったのがノール君やエルビーちゃんの存在、聖王様も知らなかったようだしエインパルドさんもギリギリまで隠していた。 まさか簡単に捕らえられると思った聖王様が転移で逃げるだなんて誰も思わないでしょ」

「今回の潜入も連中にとって計算外になってくれればいいんだけどな、嫌だぜ俺は、予想通り待ってたぜって展開は」

「そんなの私だって嫌よ」

「でさ、どうやって屋敷に潜入すんだ? そういうのはザリオのほうが得意なんだがな」

「ん? 馬鹿ね、屋敷にそんな怪しげで危ない施設なんて作らないわよ。 悪魔の研究は国公認だけど実験に関しては独断なのだもの。 怪しい施設をエインパルドさんが洗い出してくれていたから、私たちはそこで何か手がかりはないか調べるだけ。 まあ書かれてない怪しい場所が見つかれば追加で調査するぐらいかしらね」

「ああなんだ、そういうことだったか」


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