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アルハイドの覚悟1

「ヴィクトル、これはいったいどういうつもりだ?」


 王の間、本来ならば聖王が座るその玉座に座り、その男はこの事態の元凶とも言える内務局局長ヴィクトルに問いかけた。

 聖王エルマイス14世の第二子にして第二王子のアルハイドだ。

 彼は今自分の置かれている立場が良く理解できていなかった。

 それも当然で父エルマイスの命令で拘束され今の今まで牢の中にいたのだから。

 牢から出されたとき最初は誤解が解けたのだと安堵したものだ。

 ところが連れてこられた王の間に父の姿はなく、それどころか兄の姿すら見かけないと言うのはさすがにおかしい。

 そして玉座に座らされ今に至る……。


「申し訳ありませんがアルハイド殿下、仰られている意味がよく分りませぬな」

「恍けるな、父上に拘束された私を引っ張り出しておいて何が分らぬと言うか。 隣にいるのはドルバス卿か、久しいな。 まさかとは思うが今回の件、貴様が仕組んだわけではあるまいな?」


 アルメティアとの国境、そのドルドアレイクの領主であるこのドルバスと言う男は滅多に領地から出てこないと聞く。

 国境警備と言う任があるという理由で断っていたはずだが、同じく国境を守るエデルブルグのメレディック卿はしっかりと出席しているのだから何の言い訳にもならないだろう。

 それにいまだ侵攻を企むクラノイスダール国境のエデルブルグと違いアルメティアとは国交も成立しているわけで何をそこまで警戒する必要があるのかという話だ。

 その昔、アルメティアはヨルシア大迷宮のあるマラティア、そして聖王国には馴染みの薄いアルバキアが纏まった一つの国家だった。

 それが度重なる内紛により分裂し現在のようになったと言う。

 その際、隣接するアルメティアとマラティアの安定化に協力したのが聖王国というわけだ。

 とかくアルメティアに対する聖王国の援助は大きく今もなおこうして友好的に国交を結んでいるというわけである。

 そんな平和な国境を守るドルドアレイクの領主が一体何に忙しいというのか。

 

「お久しぶりでございます、アルハイド殿下。 仕組むなどととんでもございません。 私めはヴィクトル殿より聖王国の窮地を聞き馳せ参じた次第にございます」

「窮地……か。 それで貴様が連れていた者らは全員神殿騎士のようだが、貴様の領内の者か?」

「ええその通りでございます。 彼らもまた今の聖王国の惨状を嘆く者たちでございまして、共に戦うと協力を申し出てくれたのですよ」

「それはまた、ずいぶんと慕われているのだな」

「はい、嬉しい限りでございます」

「ところでヴィクトル、なぜ聖王の息子である私をここに座らせた? そもそも父上や兄上は今どこにいる?」


 ここまで来るとさすがに察しはつく、謀反だ。


(しかし分からんな。 ヴィクトルが裏切る理由も、ドルバスが謀反を起こす理由も)


 アルメティアと貿易をしているドルドアレイクに不満があるとは思えない。

 それこそ聖王国の一領地と言うだけで優位な条件で交渉しているはずなのだが……。

 

「アルハイド殿下、私は常日頃から思っていたのです、真に聖王となるべきはあなたであると。 此度の件ではっきりしました、神の名を騙る者らに王を名乗る資格などありませぬゆえ、是非、アルハイド殿下に新たな王となって戴きたく存じます」


 非常に嘘くさい言葉だった、そもそも過去にアルハイドとドルバスが交わした言葉など定型の世辞ぐらいでありドルバスにそこまで言わせるほどの付き合いはない。

 嘘くさいし信用に値しない言葉だが、利用しない手はないとアルハイドは受け入れることにする。


「白々しい奴め、だがまあいい。 お前がそういうのであれば役に立ってもらおうか。 私が受けた屈辱、必ずこの手で晴らしてやるさ」

「おお、これは勇ましい! ええ、アルハイド殿下のため我らは如何なる協力も惜しみませんとも」


 ノールたちが転移してしまった後、ヴィクトルは考えていた。

 このままでは作戦が水の泡になる可能性もある。

 聖王エルマイスにはこのまま城に留まってもらわなくてはいけなかった。


(まさか、あれほどの転移魔法を使う者がいたとは…… だがまあいい。 聖王でなくとも王族であることに違いはない。 コヤツにもまだ利用価値はあるということだ)


 ヴィクトルは内心でほくそ笑んでいた。

 捕らえるのは聖王が一番良かったのだがこうなってはやむを得ない、いるだけましと思うことにする。

 そんなヴィクトルの思惑に気づくことなくアルハイドは話を進める。


「それで現状はどうなっている? 先ほどの質問にはまだ答えてもらっていないが」

「失礼しました、陛下は他の配下の者らと共に逃亡、現在その行方を捜しております。 それから第一王子ヴェルクリフ殿下のお姿も見当たらず、こちらも現在捜索中にてございます」

「なんだ、結局まんまと逃げられたと言うのか。 それで? それだけか?」

「いえ、実は勇者が偽物だったということが漏れてしまったようで、各地の神殿で暴動のようなものが起きております。 ですがご安心ください、すでに我ら内務局の者らが説明のために回っておりまして大きな混乱には至っておりません」

「勇者が偽物? なんだそれは」

「おや? アルハイド殿下はご存じなかったのですか? 実はそうなのです。 聖王陛下、そして神務局を始めクレヌフめらが共謀し偽りの勇者を演出したのですよ、女神の神託を騙って。 それに怒った民たちが暴動を起こし神殿を襲撃したのです。 おそらくヴェルクリフ殿下も関わっておいでだったのでしょう、なんとも嘆かわしいこと……」

「そうか、つまりその首謀者である父上と兄上が捕まれば終わる話だと言うわけだな。 ところで母上やルナはどうした? それに他の王族騎士らも姿が見えぬようだが」

「残念ながら王妃様もまだ、ルナ様も護衛の騎士らと共に行方をくらましたとのことです。 ヴェルクリフ殿下の護衛についていた者らも残念ながら消息は分かっておりません」

「そうか、全員逃げられたか……」

「申し訳ございません。 ですがアルハイド殿下の護衛をしていた者を始め一部の者は大人しくこちらの指示に従っております、とは言えどういう形で反乱を起こされるか分かりませんので軟禁させていただいてますが」

「よい。 ではそうだな、今後の方針について聞かせてもらえるか?」

「アルハイド殿下には後々正式に即位して頂きたいと存じますが、いかんせんまだ混乱にあるところですので。 落ち着くまではしばらくお待ちいただければと」

「分かった。 では必要になったら呼んでくれ。 その間、私は好きにさせてもらうとしよう」

「御意……」


 アルハイドはそう言うと王の間を出て行った。

 そこに残されたのはヴィクトルとドルバス、そしてその部下数名。


「はあ、まったく。 逃げられたのは私のせいではないというのに」

「まあ良いではないかヴィクトル殿、しばしの辛抱だ」

「そうですな、彼らが来てくれれば……ククックククッ」

「何があっても成功させねばな」


 ヴィクトルはこれから起こることが待ち遠しくて仕方がなかった。

 その計画はドルバスが立てたもの、うまくいけばヴィクトル自身がこの辺りを領地として治めることも夢ではない。


「ドルバス様、良かったのですか? 自由にさせてしまって」

「今の殿下には何もできんよ。 外に逃げたところで陛下の庇護も受けられぬだろうしな、よほどの愚か者でなければここにいるほうが安全だと理解できるであろうさ」

「そうでしょうか、しかしいくら王子と言えドルバス様にあの態度、許せません」

「まあそう言うなライアス、お前も聞いたであろう。 おそらくすぐにでも恨みを晴らせるとでも思ったのではないか? だがそれがかえっていい具合に恨みを大きく育てるのだ」

「はあ……」

「そのほうが真実を知った後の絶望も大きいというものよ、一度裏切られた者がまた裏切られるという絶望を見るのも良かろう。 本当はエルマイスの奴の反応が見たかったのだが……今思えばこれで良かったのかもしれぬな」

「ドルバス様がそう仰るなら俺は構いませんがね、しかしまあこの後のことを考えれば滑稽なものです、笑いを堪えるのに苦労しましたよ」

「せっかくの余興を台無しにするでないぞ? ライアス」

「ええ気を付けますとも」

「ところでドルバス卿、彼らのほうは大丈夫なのですかな?」

「ああ問題はないよ、着々と…… そう着々と侵攻の準備を進めていると。 ところで掃除屋は今どこで何をしているのかね?」

「それが巫女を追わせたっきり連絡が取れぬようなのです。 まったくこちら側に寝返らせることに成功したというのに大事な時に役に立たぬとは」

「まあ良いではないか。 私としては此度の計画を邪魔されないだけで十分だよ。 しかしよくあれらを寝返らせることが出来たものだ。 いったいどんな魔法を使ったのかね?」

「ハハッ、いや何も特別なことはしておりませんよ。 形式上神務局長に命令権があるとなっておりますが、実際は神務局長が掃除屋に直接命令しているわけではないのです。 モーリウスという男がおりましてな、その男がいわゆる指示役をしておるわけなのですよ。 つまりその男一人を抱き込むことに成功すれば掃除屋が丸ごとこちらのものとなるわけです。 掃除屋連中もモーリウスの指示で動いておりますから上が変わったことなど気にもしてないでしょうな」

「なるほど、それは知らなかった。 ならば掃除屋が戻り次第、彼らに聖王らの暗殺を命じることも不可能ではないということか」

「おそらくは…… ただ連絡が付かぬのですがね」

「焦る必要もなかろう、こちらはこちらの準備を進めるまで。 ライアス、例の物はちゃんと持ってきているな?」

「はい、しっかりと。 念のため安全な場所に保管しておりますので必要とあらば仰ってください」

「いや良い、あれは諸刃の剣、できれば使いたくはないからな」

「ドルバス卿、例の物、とは?」

「秘密兵器だ。 非常に強力なのだが、ただ扱いがちょっと厄介でな。 ヴィクトル殿にもそのうちお見せしよう」

「ほう、それは楽しみですな」


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