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魔法共生国

 魔法共生国レイアスカント。

 多くの魔法使いたちが暮らし、そして魔法を学ぶ国である。

 ただしその国土はこの首都とその周辺のみである。

 高い壁に囲まれた中だけの国。

 そのレイアスカントにある魔法を学ぶ唯一の学び舎、魔法学院。

 吾輩はこの魔法学院の学長を務めている。


 そして、吾輩は 悪魔 である。


 フハハハハハッ!!

 驚いたか!

 なにせ普通なら話の中盤か終盤にかけて出すような驚きの情報を冒頭で言ってやったのだからな!

 ん?

 悪魔的な性格とか、悪魔的な趣味持ち主とかそういう意味ではないぞ?

 正真正銘、 あ く ま である。

 さて、そんな吾輩たち悪魔は人の絶望だとか恨みだとかの悪感情が大好物である。

 魂に至っては純粋なものほど好ましい。

 物語の黒幕を序盤に言われてしまったときの驚きと絶望。

 とは言え、君たちの驚きと言う悪感情のためだけに話したわけではない。

 この魔法共生国レイアスカントについて語るには吾輩が悪魔であると言っておく必要があったからである。

 これはお伽話でも伝説でもない、長い時を生きる悪魔、吾輩が知る本物の歴史。

 だがその前に、この国の歴史を語る上でもっとも重要な人間、とある少女について語るとしよう。



 南にある高い山の向こうにあるムーンドファーエルマイス王国。

 東にある山々を超えるとルイフィアナス・ベルィ・ランディア帝国。

 そんな場所にある村、エイテル。

 以前まで商人は王国と帝国の往復に東側の海路を使っていた。

 西側はドラゴンの住まう山や台地、そして谷があるため迂闊に近づくものはいなかった。

 しかし東側の海路は海が荒れることが多く船が沈没したりと商人泣かせのルートであった。

 商人たちはイチかバチか西側のルート開拓に力を入れるようになる。

 王国からは山の南側を西に向かって海まで進む。

 そこから海路に出て北上、岬にある港町ラビータより陸路に変更する。

 港町を東に進むと山の手前に別の港町ノエラミルースがある。

 そこから帝国首都近くの港町まで海路で行くというルートだ。

 東側を進むルートに比べると数倍以上の時間がかかるが、海難事故などの問題は発生しなくなるので以降はこの西側ルートが基本となる。

 そんなルート上、港町ラビータから港町ノエラミルースまでの間にエイテルの村は存在する。



 私はミーリ。

 エイテルで生まれて育ったの。

 お父さんとお母さんは、少し前に流行り病で死んじゃったの。

 私はね、魔法が使えるの。

 竈とか暖炉とか火が欲しい人のところに行って、お駄賃や食べ物を貰う代わりに魔法で火を点けてあげる。

 だから一人でも暮らしていけるの。

 薪に火を付けるときは、“薪に火が点いて燃えるイメージ”を強く念じると心にポッと火が点く感じがして、そうすると薪にも火が点いている。

 道具を使って火を起こすよりも簡単で早いから村の人は良く私を頼ってくれるの。

 今まで火を消さないようにしていた人も、私がいるからと都度消すようになったぐらい。

 ただ、中には生活が苦しい人もいる。


「ミーリ、いつもありがとう。でも、代わりに君にあげられる物がないんだ。だから、あまりここには来ないほうがいいよ」

「別にいいの。私ね、みんなが喜んでくれるのが一番うれしいの。だから気にしないでも……」

「でも君はそれで生活しているんだろ? あの人にはタダで点けてあげるのに、自分からはお駄賃や食べ物を要求するのか?って言われたらどうするんだ? 君が生活できなくなってしまうだろ? 私のことは大丈夫だよ。時間がかかるだけで火が点けられないわけじゃないからね」


 そんな人、この村にはいないよ。

 そう言ってあげたかった。

 でも私は何も言えなかった。

 そんな生活をしているある日、余所から見たことない人が村に越してきた。

 特に何もない村。

 余所から来たとしても仕事に困るはず。

 そんな村なのに。

 最初は気さくで良い人って思った。

 私が魔法を使えることを知ってすごいねって褒めてくれた。

 その人から魔法の使い方とかどうやって覚えたのかとか聞かれた。

 気づけば使えるようになっていたし、その時の記憶は曖昧であまり覚えていない。

 そして正直にそう伝えた。

 その人は残念そうな顔をしたのを覚えている。

 それから。

 その人は私に嫌がらせをするようになってきた。

 最初は些細なものだった。

 小さな嘘。

 でもそういう嫌がらせは日に日に増していった。

 嫉妬しているんだ。

 私に嫉妬して嫌がらせしているんだって、わかった。

 魔法を使える私、魔法を使えなかった自分。

 そして、最悪のことが起こった。

 夜、家が燃えた。

 ううん、私の家じゃない。

 何もあげられないから来ないほうがいい、そう言ったあの人。

 あの人の家が燃えてしまった。

 あの人の隣の家も、その隣の家も燃えた。

 隣の家は良い家族だった。

 時々食事をご馳走してくれた。

 なのに、みんな死んでしまった。



「あの娘だ! あの怪しい力であの娘がこの家に火を点けているのを俺は見たんだ! あの娘は魔女だ! 悪魔の手先だ!」


 翌日、余所から来たあの男がみんなに言って回っている。

 何を言っているの?

 私は昨日の夜ずっと寝ていた。

 火事のことを聞いたのも今朝、近くの人が話していたから。

 私はそれを知ったからびっくりして今になって見に来ているだけ。

 私は男の言うことに反論した。

 私は知らない、ずっと寝ていたと。

 最初はみんな私の言葉を信じてくれた。

 でも男は毎日言っている。

 あの娘は危険だ、信用ならないと。

 そして別の村や町でそういう得体のしれない力を使う者が悪さをしているという話も。

 私のことを庇ってくれる人も次第に少なくなっていく。

 私を庇うとあの男がお前たちも悪魔の手先なのかと怒鳴りに行くからだ。

 それが面倒で庇うのをやめてしまうのだろう。

 でも庇う人が居なくなると、ただ傍観するだけだった人達はそれが真実だったのではないかと勘違いを始める。

 周りの人の目が、態度が、変わっていくのが分かる。

 村長さんは私を最後まで庇ってくれたの。

 でも周りの圧力には敵わなかった。


「ミーリ。わしはお前がやったなんて信じてない。お前はそういう子じゃない。だが、村の者からは危険視する声が多い。本当に申し訳ないと思っている。お前を守ってやれなかったわしを許して欲しい。本当に、済まない」


 そう言って村長さんはたくさんのお金をくれたわ。

 こんなにいっぱい。

 村長さんだって生活が苦しくなるはずなのに。

 そうして、私は村を出たの。

 近くの町に行く。



 大きくもない町。

 町と言うにはまだ物足りなさを感じる。

 ただこの町には教会がある。

 教会では私のような孤児を受け入れてくれている。

 だから私もお世話になろうってそう思ってる。

 必要なら村長さんから貰ったこのお金を渡してでも。

 私よりも小さい子供が5人、大人が2人、そんな貧しい町の教会。

 大人の人はお金を受け取らなかったわ。

 あなたが大きくなった時に使いなさい、と。

 私は、その町では魔法を使わないと決めていた。

 もし使ってしまえばあの村でのことがまた起きるかもしれない。

 そうやって1年が経とうとしていた。



 私はあの男を目撃した。

 1年前、私を村から追いだしたあの男。

 許せなかった。

 無関係の人を、家族を巻き込んだあの男を。

 でも、あの男はなぜこの町に?

 何かやらかして村を追い出されたのだろうか。

 どうしよう。

 そんなことを思っていると。

 ああ、まただ。

 そうまた。

 あの男は私が教会にいることを知って、また私が魔女だと、悪魔の手先だの言いふらしているようだ。

 なんのためにそんなことをするんだろう。

 ただ、以前と違ってこの町の人はあの男の言葉に耳を貸さない。

 当然だ、私はこの町で一度も魔法を使っていない。

 多くの人があの男の頭がおかしいだけとそう思っていることだろう。

 そして、あの男はやってはいけないことを2度もやってしまった。



 教会が燃える。

 私は恐怖した。

 周りは火の海だ。

 声が聞こえる。

 子供たちの声、大人たちの声。

 私は必死になって逃げた。

 皆も助かることを願って。



 男は叫ぶ。

 魔女の仕業だと。

 あの娘は悪魔の手先なのだと。

 周囲に渦巻く疑念の目。

 魔女、魔法使い、その存在を彼らも知らないわけではない。

 もしかしたら……、そんな目が私に向けられる。

 辛い、苦しい、なぜ私がこんな目に……。

 でも今回は、そんな私に救いの手があった。

 昨日の夜、教会周辺をうろつくあの男を目撃していた人がいた。

 しかも複数。

 そしてあの男はやっと、自警団に捕まった。

 でも。

 あの男が捕まったからと言って子供たちは帰ってきてくれない。

 私が頼ってしまったばかりに、あの子たちを巻き込んでしまった。

 憎い。憎い。あの男が憎い。

 私の心の中にはそんな思いが渦巻いている。



 数年が経った。

 魔法使い。

 得体のしれないその存在を忌避する者は増えつつある。

 王国は以前より女神を信仰しているが、巫女と言う存在がいるためかあまり魔法使いに対する悪印象は持たれていない。

 対して帝国は王国同様女神を信仰する者は多いが魔法使いに対する馴染みが薄いためか、魔法使いをよく思っていない者が多い。

 魔法、不思議な力、神が使うとされるその力を人間が使うという背徳的な行為に対する嫌悪感。

 そんな帝国側のある領地で事件は起きた。

 魔女狩りだ。

 最初はまだ小さなものだった。

 女神を信仰する地方領主が魔法使いを嫌い排除した、それだけだった。

 だがその事件は火種となり、魔女狩りは少しずつ広がっていく。

 そしてミーリのいる町にも広がる。



 魔法を使わない、それだけで大丈夫なはずだった。

 でも魔女狩りはどんどんおかしな方へ進んでいく。

 魔女だけでなく魔女かもしれない、それだけで殺されてしまうこともあった。

 魔女を狩っているのは誰か、それは女神を信仰する者たち。

 ただの信徒のみならず、あの領主の配下までもが魔女を狩る。

 女神の名を穢す悪魔の手先、そう呼ばれ殺されていく。

 この町でも何人か魔女だと疑われて殺されてしまった。

 怖い。

 いつ自分にも刃が向けられるのかと思うと怖くて仕方がない。

 そんな中で一部の魔法使いたちが抵抗するようになる。

 そうなればもう泥沼、破滅への道しかない。

 そして、私の目の前にも、その破滅はやって来た。


「なぜ逃げる!やはり貴様魔女だな?!」


 抜き身の剣を持って追いかけてくる。

 逃げないほうがどうかしている、馬鹿馬鹿しい。

 だが、彼らはそういう都合の良い解釈をして魔女を甚振る、いや、殺戮を楽しんでいるんだ。

 狂気。

 私は憎んだ。

 あの男も、見たこともない領主も、私を追いかけているこの兵士も、すべて。

 憎い。

 私が何をした。

 幸せに暮らしたい、それだけだったのに。

 世界は理不尽だ。

 この世界に希望はあるのか?

 私たち、魔法使いの希望……。

 背中をトンと何かで叩かれたような感触。

 体がふらつく。

 私はそのまま倒れこんだ。

 呼吸が苦しい。

 息ができない。


―――ぐはぁっ―――


 眼前に広がる大量の血。

 ああ、これは私のだ。

 そうか刺されたのか。

 兵士は私が絶命したと思ったのか留めも刺さずに別の目標に向かい走り出す。

 最後までまだ時間があるようだ。

 悔しい。

 憎い。

 そんな感情が心に渦巻く。

 私は願う。

 悪魔の手先、彼らは私をそう呼んだ。

 そうか、ならそうしてあげよう。

 悪魔が望みなら、悪魔を望むなら、私が呼んでやる!



「やあ、人間の娘! こんにちは! 私はベルードと言う悪魔。君が望んだ悪魔だ。さて、君は何を望むのかな?」

「ま…ほう…つかい…をすく…って…」

「救う。なるほどなるほど。その絶望に満ちた心! ああ!いい!とてもいい! ではどうする?娘。魔法使いを虐げる者たちを滅ぼすか!? いっそすべての人間を滅ぼすか!? ああ、失礼。ところでその対価は何を頂けるのかな?」

「…わた…し…の……いの…ち…たま…し…い…。そ…れと…死んだ…もの…の…た…ましい…を…」

「ふぅ~ん。なるほど。それは他の魔法使いの魂も対価にすると? ま、死の溢れる戦場! それもいいかと思うがね! では!まずは魔法使いを虐げる者を滅ぼして……」

「ちが…う…。すく…って…ほしい…。ぜ…つぼう…から…ま…ほう…つか…い…を…」

「はっ? それはどういう意味で?」

「めじ…る…しに…なっ…て…。あな…たの…も…となら…まほう…つかいは…しあわせに…いきて…いける…という…めじ…るしに…」


 悪魔は考えた。

 この娘の心は憎しみや絶望の感情で埋まっている。

 なのになぜ?

 なぜこの娘は他者を陥れるのではなく他者を救おうとするのか。

 そして悪魔は少女の魂を見た。


「ああ……何という輝き。この絶望の淵にありながらもその魂の輝きは穢れることが無いというのか! いい!いいだろう! この契約は成立した」


 ああなんという。

 絶望を纏いながらも全く穢れのない強く輝く魂。

 これは、これほどのものとは!


 とても とても 美 味 し い !!


 面白い。

 実に面白い。

 いいだろう。

 他の魔法使いの魂を贄にと言っていたが、さすがに無関係の者の魂はな。

 吾輩の美学にも反する。

 ただ、娘と似た願いを持つ魂があれば、それは贄として頂くとしよう。

 破壊、殺戮、滅び。

 それ以外のことをするのは初めてだろう。

 だが面白そうだ。

 悪魔の長い時間(とき)の中で一時(ひととき)ぐらい、こういう趣向があっても良いだろう!フハハハハハッ!!


―――とまあこんな感じで、吾輩は魔法使いを救う計画を開始したのである。


 吾輩は各地より怯え暮らす魔法使いを一か所に集めた。

 まああの娘、ミーリは知らぬことであったと思うが、ミーリが生まれたあの村はとっくに滅んでおったわ。

 おそらくは魔女狩りであろう、村ごと焼き払われるとはな。

 そして、その跡地に吾輩は魔法使いたちを集めたのである。

 魔法使いたちの数は次第に増えていく。

 コミュニティを形成し、少しずつ、ただの寄り合いから自治を成す程度までは成長した。

 吾輩は自分が悪魔であることは教えていない。

 教えたらつまらんからな。

 ある時、初期のころに連れた来た者に言われたのだ。

 我々の代表となってほしいとな。

 吾輩があの娘から願われたのは目印、そう、それは魔法使いが進むべき道の目印ではなく、スタート地点となる目印でしかないである。

 どこへ進むかは魔法使いたちが自ら決めねばならぬ。

 で、あるので、代表となる者は自分たちの中から選ぶようにとその申し出を断ったのである。

 さて、そんなある時、転機が訪れる。

 約2000年ほど昔、神竜大戦と呼ばれる、ドラゴンの侵攻である。

 ここより南の地に勇者が誕生したと聞いた吾輩はあるアイデアを思い付いた。

 そう、魔法使いの地位を高める素晴らしいアイデアである。

 考えてもみよ、神に選ばれた勇者、その勇者をサポートする魔法使い、それは当然、魔法使いもまた神に選ばれた者にしか見えまい。

 悪魔の手先と呼ばれていた魔法使いが、実は神の手先だったと知れば人々の心証はぐるりと回転することだろう。

 完璧な作戦である!

 吾輩は魔法使いの代表にしばらく留守にすることを告げ、彼の地に赴いたのである。

 とは言え、今の姿で出向くのも味気ない。

 そしてふと、あの娘のことを思い出した吾輩は、その姿をあの娘に似せることにしたのである。

 吾輩は娘の名ミーリを参考にして、ミューリと名乗ったのである。

 そうとも、彼の大戦で勇者とドラゴン討伐に尽力した英雄ミューリとは吾輩のことなのである。

 しかし、今思うと神などのために働いてしまったことに少し後悔はあるが!

 さて、彼の大戦に勝利した人間たち、ただしくは王国だろうが、あの国はその大戦を機に聖王国と名乗ることにしたようだ。

 そして、吾輩と言えば、勇者をだまくらかし協力させることに成功したのである。

 それは当時の国王、エルマイス4世に魔法使いと言う存在を正式に認めさせること。

 実をいうと少しは難儀すると思ったぞ。

 だがエルマイス4世はあっさりこれを承認したのである。

 王国、現ムーンドファーエルマイス聖王国が魔法使いの建国を承認した、というわけである。

 聖王国は商人らを通じ、帝国をはじめ複数の地にその旨を発表した。

 魔法使いは女神リスティアーナを信仰する、敬虔なる信徒、女神の恩恵を受けた者、と。

 帝国もまた動き出す。

 事の発端となった地方領主の断罪に皇帝自らが動いたという話である。

 ふむふむ、なるほど、利に聡い奴め。

 帝国において女神への信仰と言うのは個々が自由にやっていることに過ぎない。

 聖王国と違い帝国は国家宗教を定義していない。

 その上、戦力を増強している節もある。

 魔法使いを戦力に加えるというのであれば魔女狩りなど言語道断と言ったところか。

 なかなかに帝国らしい考え方である。

 大戦後、しばらくしたのち吾輩はこのレイアスカントに戻ってきた。

 もちろん以前の姿に戻して、である。

 魔法使いたちは吾輩がいない間もしっかりと国を治めることに尽力しておったようだ。

 あの娘、ミーリの願いのままに。

 吾輩は娘のことは話しておらん。

 だが彼らもまた、あの娘と同じ願いを持っていたのだろう。



 さてさて。

 魔法使いへの偏見はいくらか減ったように見える。

 しかし聖王国や帝国首都を離れると今でもそういう考えの者はおるようだ。

 これはこれはまだやりがいがあるものよ。

 魔法使いは各地におる。

 しかし扱い方も何もかもが稚拙。

 まだ赤子同然であった。

 故に吾輩は魔法をもっと使いやすくすることを提案したのである。

 魔法の体系化。

 今でこそ人間たちは魔法を使うには詠唱を必要とする、と言う認識を持っている。

 だがこれは誤りである。

 ミーリがそうしたように、本来は魂、心、想い、そう言ったものの強さが魔法となるのである。

 魔法とは世界に干渉することで発動される。

 ではどうやって干渉するのか。

 それこそが想いの強さである。

 世界はその想いを受け魔法として効果を発現する。 

 弱い想いを、世界は魔法の行使としては受け取らないのである。

 当然のことよな、人が何か思うたびに魔法が発動していては世界が混沌としてしまう。

 もっとも、人の意志は魔法を十全に行使出来るだけ強いものではない。

 それが魔法使いのレベルが低いままな理由でもあるのだが。

 考えてもみよ、火を点ける、ただそれだけの行為でも、人がイメージするものは千差万別、そしてそれに対する想いも人によって強さが違う。

 詠唱とはこういった問題を解決するために生み出された。

 それは詠唱と言う形にすることによって、詠唱とそこから発動する結果を結びつけると言うもの。

 つまりは、イメージの固定化である。

 言い換えれば先入観のようなものよな。

 やる前からイメージが出来上がっているため、魔法の成功率が上がるのである。

 習得の際に師事するのも、師の詠唱と結果を実際に見ることでイメージするのを容易にしているのである。

 そして詠唱によって皆のイメージを固定することでその魔法の結果は誰が行使してもだいたい同じレベルになるようになった。

 次は世界にそれが魔法の行使であると認識させること。

 日常生活では使わないような言葉を用いることで、世界にこれは魔法の行使だとわかりやすくしているのである。

 吾輩が知る限り、世界は曖昧さを嫌う。

 つまり明らかに詠唱であるとわかる、長い文であればあるほど、想いの強さに関係なく発動する傾向にある。

 逆に短い言葉で行使する場合は、それなりに、例えばそれで相手を打倒すなどの強いイメージを持っていないと発動しないのである。

 吾輩、と言うよりはここの魔法使いたちだが、試行錯誤してなんとか詠唱による体系化に成功したようであるな。

 こうして魔法共生国レイアスカントはその地位を不動のものとしたのである。

 ちなみにだが、この魔法に関わるの真実は秘匿するように言ってある。

 体系化した中で自由に魔法を扱うものが出てくると混乱が生じると思われるからである。

 今では、そう大戦から2000年たった今ではその真実を知る者はおらんだろうがな。

 しかしな、最近の報告では魔法研究の方で無詠唱、つまり魔法の真実を究明しようなどと言う動きがあるようでな。

 まあそれは人が選んだ道であるゆえ。

 吾輩はしばし傍観することにするのである。

 どうかな?

 これがこの国、魔法共生国レイアスカントの真の歴史。

 もっとも、悪魔である吾輩に関わる部分は記録上からは抹消してあるがね!フハハハハハッ!!

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