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エデルブルグへ

「どういうことだ! なぜ神殿騎士が貴様に協力している!?」


 声を荒げ神務局局長のオズウェルがドルバスを睨みつける。


「何を仰るのですか、神殿騎士とはいわば女神に仕える騎士。 その女神に仇なす愚かな者たちを共に駆逐しようとしているにすぎませんよ」

「おのれ…… ドルバス卿、いかに神殿騎士を味方に置こうともこの国を掌握など出来ませんぞ! 我々には――――」

「ああ神務局長殿、もしや掃除屋ですかな? ヴィクトル殿、彼らは今?」

「ええドルバス卿、掃除屋は今、私の指揮下にあります。 彼らも女神を裏切った者の下には付きたくないそうで」

「ばっ馬鹿なっ……そんなはずはない! 嘘だっ!」

「事実ですよ、お望みでしたら呼びしましょうか? ですがその時はあなた方の最後になるのでしょうけど、それでも良ければ……」

「そんな…… いったいなぜだ……」


 項垂れる神務局局長、そして裏切った神殿騎士たちに剣を向けられ皆身動きが出来ずにいた。

 エインパルドは何か策はないかと考える。


「さて、そろそろ王女も拘束出来た頃合いでしょうか。 まあ今更あんな娘に用はありませんがね、しかし運だけは良かったようで何度暗殺されそうになってもことごとく命拾いしたそうですな」

「ドルバス貴様っ!」

「おっと、顔が怖いですぞ、陛下、いやもう陛下ではないですな、なんと呼べばいいのか……」


 ドルバスの言葉に怒りを露わにする聖王。

 すると神殿騎士が息を切らせ入ってきた。


「ドルバス卿!」

「うむ? なにかな」

「その、ルナ姫なのですが……」

「やっと拘束できましたか」

「いえ、その王族騎士らの抵抗にあっていまだ拘束できておりません」

「はっ? それはどういうことかね」

「内務局長のおっしゃる通りに離れに向かったのですが、その、ほぼ半壊しておりまして姫はおりませんでした。 それで別動隊から連絡があり王族騎士の寮で匿われていたようで、現在王族騎士らと交戦中です」

「は……半壊? いったい何が……」

「ハハハハッそうか内務局長殿はご存じなかったか。 先日の襲撃犯が逃亡する際に離れを破壊してしまったのだよ。 姫は仕方がなしに騎士寮でお休みになられているのだ」

「フンッその程度どうとでもなる。 王族騎士と言えど数には勝てまい、掌握するのも時間の問題よ」

「ドルバス卿、その、騎士とは違う装いの者が二人おりまして、おそらく冒険者かと思うのですが非常に手ごわく苦戦しているそうです。 落とすにはかなり時間がかかるかと」

「ぼ、冒険者だと? なんでそんな者が騎士寮にいるのだ、王族以外は立ち入れぬ場所であろうがっ!」


 苛立ちを隠そうともせずドルバスが叫ぶ。


「冒険者だと? エインパルドよ、もしやそれは……」

「ええ、陛下が神殿に匿ったあの者らです」


 ラフィニアからノールとエルビーが神殿に匿われたと聞いた時は非常に困った事態だと思えた。

 それがこの局面に来てむしろ最高のタイミングとなったのだ。

 エインパルドには二人の強さなど分からないが、ラフィニアの報告を正しければ神殿騎士程度で落とせるものではないはずと彼は考える。


(それに仮に神殿騎士のほうが押しているとしても彼には切り札がある)


 切り札とはまさに転移魔法のこと。

 戦闘能力はこの目で見たわけではないので絶対とは言えないが、転移魔法を使うのは実際この目で見たのだから間違いない。


「ぐぬぬ、たかだか冒険者如きに…… そうだ、ヴィクトル殿、こういうときこそ掃除屋を使ってみるのはどうだろうか」

「それは構わぬが呼び寄せるのにも時間がかかりますぞ? 神殿騎士らに制圧させるほうが早いのではありませんか」


 敵の思惑が外れたことに少しだけ留飲を下げたエインパルド。

 だがこちらが危機的状況であることに変わりはない。

 諦めかけたその時、その目に見慣れた人物の姿が映し出された。

 それはドルバスのすぐ近く、まるで最初からいたかのように自然とその場にいる。


「ノール君」


 さして大きくもないはずのその声は、なぜかその時だけ良く響いたのだった。

 多くの者が声の主、エインパルドの視線を辿りノールを見つけ、そして驚きの表情を浮かべる。

 多分に漏れずドルバスもそのうちの一人。


「貴様何者だ、いつからそこにいた!?」


 驚き尋ねるドルバスにノールは答える。


「さっき来た」

「フンッ隠れておれば良いものを愚かな者よ、そやつも拘束せい」


 ドルバスが騎士に命じる。

 自分と同じように神殿騎士に剣を突き付けられているノールを見てエインパルドの頭には妙案が浮かぶ。


「ノール君、君は君の目的を覚えているかね? そこにいる男、ドルバス卿にはいろいろ悪い噂もあるのだよ」

「エインパルド、この期に及んで何を言い出すのかね」


 毒づくドルバスを無視してエインパルドは続ける。


「私なりに調べてみたのだがね、悪魔の実験など、どうやらそこのドルバスと言う男が絡んでいるらしい。 今でも悪魔を使って恐ろしい実験をしているという話を聞く。 もしかすればラフィニア殿が言っていた白い悪魔(リーア)についてもその男が関わっているのかも知れない」

「何かと思えばリーアだと? それは伝説の悪魔ではないか、そのような世迷言を誰が信じると言うのだ、ましてやこんな子供に伝えて何になる?」

「ノール君、その男の周りを調べれば必ず悪魔がいると私は考えている。 君たちと悪魔にどんな因縁があるのかは分からないが、少なくともその男の近くにいる悪魔は間違いなく我々人間にとっての敵となる存在だ」

「やれやれ、いい加減にして欲しいものだなエインパルドよ。 おい、そいつをとっとと黙らせろ」

「はっ!」


 エインパルドの言葉が正しいのかどうか、それは聞いてみれば早いことだとノールは考えた。


「そうなの?」


 ノールが問いかける。


「愚かな子供だ、卑しい大人の言葉に騙されてしまうとはな」


 その問いに答えたのはドルバスだった。

 しかしノールの問いはドルバスではなくその隣にいる女性に向けられたもの、ドルバスと言う男の近くにいる悪魔(・・)に。

 悪魔は言葉を発しない、その答えとばかりに邪悪な力を強め、そしてただ笑みを浮かべる。

 ノールにとってはそれだけで十分だった。

 同じ悪魔でもダリアスやヴァム、プリシュティナとは明らかに違う存在。

 リィベルを襲っていた者たちとよく似た人間の敵となる悪魔、ノールはそう判断した。


「ノール君、君の力で我々を、いや陛下だけでも安全な場所に連れて行ってはもらえないか? 頼む」

「分かった」

「なにっ? 何が分かったというのだ。 いや、まあ子供の戯言か」


 ドルバスの言葉を無視してノールは周囲を見渡す、誰が味方で誰が敵か……そして、発動した。


「な、なんだ!?」

「これは…… まさか……」


 ドルバスとヴィクトルが揃って驚きの声を上げた。


「ハハハハ、そうだ! これは転移魔法! お前たちの思い通りにはならんぞドルバス卿!」


 エインパルドはなぜか勝ち誇ったような顔で言う。

 ノールはふと悪魔を見やる、しかしその笑みに変わりはない。

 ノールが敵と判断したものを残し、すべての者たちがその場から消失した。



    ◇



 鳥の囀りが聞こえる。

 木々の葉が風に揺られ擦れる音がする。

 それまで雨でも降っていたのか木々は雨露に濡れキラキラと光を反射している。

 聖王エルマイスは自身に起きたことをまだ受け入れられていない。

 おそらくすべての者が同じだったのだろう、ただ一人エインパルドを除いて。


「ふっふはははははっ! ふぅ…… おっと失礼、助かった、と言っていいものかな……。 ノール君ありがとう、それでここはエデルブルグで合っているのかね?」


 ドルバスらを出し抜いた優越感に浸りつつも、ふと正気に戻ったエインパルドはノールに向き直り尋ねた。


「そうエデルブルグ」

「なるほど」


 徐々に正気を取り戻しつつある者が周囲の状況を理解しようと辺りを見渡している。


「お、おい、エインパルドよ。 これは一体どういうことだ? 我々は城の中にいたはずでは?」

「ええそうです、先ほどまでは。 ですが陛下、我々は今、彼の転移魔法によって南の地、エデルブルグにおります」

「エデルブルグだと!? 聖都からどれほどの距離があると思っている! この狸め! また私を謀るつもりか!」

「いえ陛下、あちらを。 あの街並み、見覚えがございましょう?」

「幻覚ではないのか?」

「本物です。 陛下、ここでは落ち着いて話も出来ません。 とりあえず街に向かうとしましょう」

「何を言うか! 落ち着くも何もないではないか。 私は動かんぞ、これが幻覚なら私はまだ城の中にいるのだからな」

「ああ、陛下。 でしたら上をご覧ください」

「何? 上だと?」


 エインパルドの言葉にそこにいた全員が上を見上げる。


「ぎゃあああああ」


 様々な悲鳴が森の中に響き渡った。


「陛下、正直あれの真下で会話できるほど私は胆力がありませんので街へと向かいましょう。 街には巫女も避難しているはずですので」

「巫女が? エインパルド、巫女は今ここにいるのか?」

「ええそうですよ、オズウェル殿。 ですので出来れば掃除屋を止めて欲しかったのですが……」

「そういうことか、しかし今となっては難しいのだろうな」

「でしょうね。 いや、まずはそれより……」


 エインパルドは周りを見渡し感嘆の声をあげる。

 ノールによって転移した者はかなりの人数に上っていたからだ。

 聖王、宰相、神務局局長、クレヌフ最高神官長、さらにはフリュゲルとその他の王族騎士たち。


「ふむ、この人数を一度に転移させたわけか、末恐ろしいな」


 とは言ってもここにいるのが城にいたすべてではない。


「ノール君、姫様もこちらに連れてきて欲しいが可能かね」

「可能」

「そうか、なら頼む」

「分かった」


 そう言うとノールは転移魔法を発動し消えた。


「エインパルドよ! どうなっているのか説明せい!」

「もちろん、そのつもりです」


 エインパルドはこれまでにあったことをエルマイスに説明し始めたのだった。


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