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巫女の願いと祝福

「姫様が狙われた理由は、まあ分かったわ。 エインパルドさん、クレヌフが偽物の勇者を作り出す理由って何かしら?」

「それは、勇者が生まれれば聖王国の立場も高まるということではないか?」

「そうよね、そうなのよ……」

「ラフィニア殿、何か?」

「神務局、そして内務局。 どちらにしても勇者の存在が不要なはずないのよ。 それならなんで大迷宮でプリシュティナは勇者様の命を狙ったのかしら?」

「ふむ、それこそライゼン殿が言っていたように悪魔の思惑は別と言うことなのではないかな?」

「思惑か…… 思惑…… ああダメ、考えが纏まらないわ……」

「今は黒幕の目的を考えても仕方がないだろう、それより話を戻すぞ。 実は今回の騒動、一人だけ捕まっていない者がいるのだ。 その者の名はセイムエルと言ってな、王子の証言では貴族ではなく商人だと言う話だ」

「商人が? どうしてまた……」

「武器の調達などを引き受ける話だったらしい。 それ以外にも必要があれば揃えると」

「武器って……戦争でもするつもりだったのかしら」

「で、そいつがいったいどう関わってくるんだ?」

「そこだよ、まあ情けない話ではあるが王子やボンボルドを焚きつけたのがそのセイムエルという者らしい。 もっとも直接的なことを言ったわけではなく耳触りの良いことを並べ立てたという程度のことらしいがね」

「なるほどな、つまり状況的にはそのセイムエルってやつの背後に本物の黒幕がいるってわけか」

「ああ、陛下はともかく私はそう見ている」

「エインパルドさんは内務局を疑っているのでしょ? それは聖王様に伝えてあるの?」

「まさか、さすがに証拠もなく犯人呼ばわりは出来んよ。 連中が本格的に動き出す前になんとか証拠を押さえたい所ではあるんだがな」

「まあ囮まで用意する周到さだものね、そう簡単に尻尾は掴ませてもらえないのでしょうけど。 それでエインパルドさん、これからどうするの?」

「そうだな、さすがに今回の件は陛下にお伝えしないわけにはいかん。 巫女は……まだ狙われているであろうから連れて戻ることは出来ないとして、まずその追手の動きを止める必要もあるか」

「そうね。 ならここは…… いえ、ねえノール君、私たちで巫女様を保護しようと思うのだけどどうかしら?」

「巫女は行くところがあると言っていた、南にある……えっと……」

「南にある?」

「あ、あのエデルブルグです。 その……私の生まれ故郷で先ほど連れて行って下さると」

「そんな約束してたの。 エデルブルグって隣国クラノイスダールとの国境沿いにある街よね?」

「そうだ、別名、不落要塞とも呼ばれている。 クラノイスダールは今でも侵攻を諦めていないようだが、あの不落要塞のおかげでこの数百年以上もの間大きな戦は起きていない。 そしてここ数十年で見れば小競り合いすら一度も起きてないほどだ」

「巫女様はそこの出身だったのね。 また長い旅になりそうだけど、準備に時間も必要だし明日出発する予定にしましょうか」

「ふむ……」

「どうしたの? エインパルドさん」

「いや、陛下にお伝えした場合でも追手が止められるとは限らんのでな。 その場合私が匿っていることが連中にもバレることだろう」

「なら聖王様への報告は私たちが出発した後まで待ってもらったほうがよさそうね」

「そうだな、緊急事態ではあるが仕方があるまい」


 その日、ノールと巫女はラフィニアたちと共にフォントラッド商会に泊まることにした。

 エインパルドは今後必要になりそうなものを準備するため外務局へと戻っていく。

 翌朝、雲一つない青空を見上げながらラフィニアは独り言ちる。


「出発するにはいい天気ね」


 早くにでも出発したいところではあったが、最後にエインパルドからの情報を待つことにしていた。

 ひとつは掃除屋の動向、掃除屋への命令権を持つ神務局局長に探りを入れることだ、もう一つは念のためにと事情説明を含めた紹介状を記してもらっている。

 さすがにこちらの都合だけでエデルブルグを危険な状態にするわけにもいかなかったからだ。

 もちろん表立って庇護してもらう必要はない、ただ気づかぬふりをしてもらえればそれが一番良いと判断した結果である。


 昼前になりエインパルドがやって来た。

 昼食の時間を切り詰め抜け出してきたのかそれとも……。


「まず先に君たちに報告だ。 昨晩、離れで休まれていた姫がまた襲撃された。 幸いエルビーがいたおかげで犯人は逃亡したようだ」

「この期に及んでまだ襲撃すんのかよ? というか巫女様をこっちで保護したことまだ伝わってないってことか?」

「ああおそらくは……。 だがこれで確定したと言ってもいいだろう、黒幕はまだ捕まっていないということだ。 それでな、はっきりとしたわけではないが掃除屋はいまだに森の中を探しているようだ」

「そりゃ好都合だな、そのうちに逃げればなんとか」

「うむ、ただひとつ問題があるのだ」

「問題? それは何かしら」

「掃除屋も南に向かっているらしい」

「それはまたどうして?」

「大蜘蛛に守られていた巫女が子供と接触し、その後蜘蛛が離れて行った。 まあこの子供とはノールのことだろうが、掃除屋の報告では巫女と子供は忽然と姿が消えたのだそうだ。 彼らの判断は幻惑を見せられその隙に大蜘蛛と共に南へ逃亡した、ということらしいな」

「なるほど幻惑か。 そりゃ転移したなんて誰も思わねえし、あんな森の中で相手が魔物ならしっくりくる理由だよな」

「けど大蜘蛛までなぜ南へ?」

「それは分からん、だが道中は気を付けてくれ。 まあ冒険者に同行して旅をしているなどとは連中も思わんだろうから見た目を偽れば気づかれることもないだろう」

「そうね、堂々とエデルブルグに行きましょうか」

「これは紹介状だ、必要なら使ってくれ。 ああそれからもう一つ、あれからいろいろ調べてみたのだがその中で内務局に関わる証拠を見つけた。 まあ証拠としては弱いものだが少しぐらいの牽制にはなるだろう」

「あらそれは朗報ね、そのまま掃除屋の動きも止まってくれればいいのだけど。 まあ仕方ないわね、紹介状ありがとう。 じゃあ巫女様、準備はいいかしら」

「は、はい……」

「準備良いの?」

「ん? ええそうね、ノール君はどうするの? ってエルビーちゃんをまだ神殿に残したままだったわね。 そっちはエインパルドさんにお任せするわよ。 約束通り、ちゃんと守ってあげてね」

「ああ、承知した」

「それじゃ……」

「じゃあ行こう」

「え? それっ――――」「まあ俺は分かっ――――」


   ・

   ・

   ・


「えっと、ねえ……ここどこ?」

「さあ? 知らね」

「エデルブルグの近く。 蜘蛛には先に行ってもらっていた」

「なるほど、つまり目の前に見えている街がそのエデルブルグってわけか」

「荷物とか置きっぱなしなのだけど……まあいいわ、預かってもらえるだろうし。 そうよね、そうなのよ、転移があるんだからあっという間よね、いい加減慣れなきゃね」

「なあラフィニア、転移するには目印が必要だって……」

「リック黙って。 いいの、言わなくても。 だいたい気配で分かってるから」

「いや、でもよ……」

「今見たら私動けなくなる自身があるわ。 だから見ない、行くわよリック」

「あ、ああまあ俺も見ないほうがいいかなとは思ってるけど」


 ラフィニアとリックが問答している中、リュールは目の前に広がる街並みに心を奪われていた。

 まだ幾分か距離はあるがそれでも見知った街並み、懐かしい故郷の景色。


「ノール様、ありがとう、ございました。 このご恩は一生忘れません」

「リスティアーナが望むことなら当然、気にしなくていい」

「はい、ノール様に女神の祝福を」


 リュールはノールに向けて精一杯の祝福を捧げる。

 そんな姿を一切見ることなく、ラフィニアとリックはただ街のほうだけを見たまま声を掛ける、決して振り返らず、決して上を向かず。


「さあ巫女様、行きましょう。 長居は無用です」

「そうそう、さっさと街に入ろうぜ。 あっノール、ここまでご苦労さん、もう帰っていいよ。 あとは俺たちが責任をもって守るから」

「分かった」

「じゃあ巫女様、早く」

「あ……はい」


 そして二人は巫女を連れ、すたすたと街に向かって歩き出した。


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