報告会議
聖都に到着したラフィニアたちは今回の一件を報告するため王城へと向かった。
ヴァムの件は勇者とラフィニアしか知らないし、ノールの件は皆に口止めしてある。
それ以外は神殿騎士の隊長に報告した内容と同じなので問題ないだろうとラフィニアは考えた。
ラフィニアが城に入るのは二度目であり勇者お披露目の時が初めてだ。
建前であっても上級貴族の娘であるラフィニアならば王城への立ち入りは許されているが、本当の貴族の娘ではないと言う思いが立ち入りを拒む理由となっていた。
もちろん立ち入ったからと言って城にそれを咎める者はいないし、家族の誰も責める真似はしないと言うことは分かっている。
「ラフィニア!」
唐突に声を掛けられた。
ラフィニアは見ずともその声の主に心当たりがある。
「お義父様、どうしてここに?」
「いやすまない、帰ってきたと聞いたもので居ても立っても居られなくてな、こんなところまで迎えに来てしまった。 無事で何よりだ、お前の決めた道だから俺が何か言うことではないんだが心配ぐらいはさせてくれ」
「ありがとう、お義父様。 お仕事はもういいのですか?」
「ん? んー…… 押し付けてきた」
「だろうと思いました、そろそろ子離れしないとお義母様に叱られますよ?」
「大丈夫さ、アレもなんだかんだ言って心配しているからな。 それと、リック君」
「は、はい!」
「娘がとても世話になっているね、俺にとって、いや俺とシフォナの大切な娘を守ってくれて感謝しているよ、これからもよろしく頼むよ。 あと妙なことしたら殺す」
「はい!!」
「お義父様……」
子離れどころか悪化しているようにも見える。
「あなた、こんなところで何をなさっているのですか?」
「シフォナ!? いや、娘の無事を確認しよう思ってだね……」
「で? 私に仕事押し付けて自分だけ会いに来たわけですか。 私だってラフィニアちゃんに会いたかったのに?」
「その…… すみません」
「まったく…… ラフィニアちゃんも無事でよかったわ。 いつも言っていることだけどあまり危ないことはしないでね」
「はい、お義母様」
「リック君もいつもありがとう。 もしもの時は許さないけどこれからもよろしくお願いしますね」
「はい!!!」
「あなた、仕事が溜まっていますから、行きますよ。 ラフィニアちゃん、あなたも忙しいのでしょうけどちゃんとうちに寄りなさいな」
「そうします」
ラフィニアの父はシフォナに襟首をつかまれ引きずられていく。
「シフォナ!? 見知らぬ子たちも居たしせめて自己紹介ぐらい……」
「うちに来ていただいてその時にすればよろしいでしょ? 今は仕事に集中してください」
二人の姿が見えなくなると同時にリックは大きなため息を吐き出した。
「なあラフィニアさ、お前の両親ちょっと直接的過ぎねえか?」
「あれがあの人たちなりの気遣いなのよ、ほとんど冗談だから真に受けなくても大丈夫」
「冗談って…… 目が笑ってなかったし、そもそも俺平民だぞ? 貴族の言葉は冗談でも剣以上の威力があるって知らないのか」
「今の人がラフィニアのお父さんとお母さんなの?」
「ええそうよ、今度紹介するわね」
「それ、俺も行かなきゃダメか? 替えの命が三つぐらいは必要に思うんだが」
「無理にとは言わないわよ、好きにして」
「そりゃ助かる……」
リックはほっと胸を撫で下ろした。
◇
――――重々しい雰囲気の中、報告会議は始まった。
そこには外務局局長エインパルド以外にも数名いる。
内務局局長に神務局局長とそれぞれの補佐役、そしてラフィニアにも見覚えのないものがさらに二人。
そのうちの一人は座らずに立っているので、おそらく今回の進行役なのだろう。
もう一人は3名の局長と同列に座っているところからみてそれなりの役職だと判断できるが、城に出入りしないどころか関わろうとさえしなかったラフィニアには知る由もない人物であった。
報告は最初にリオンが、次にミルド、最後にラフィニアと言う順番で行われた。
報告の内容は相変わらず「プリシュティナが裏切り襲撃されたが3人で追い返した」と言う内容で統一している。
もっともその場にいなかったミルドにはノールの転移魔法のことのみ伏せてもらっているだけだが。
そもそも今回の調査は迷宮内の未調査区域の調査なのであるから、無関係であるノールの特技まで報告する義理もない。
「報告、ご苦労様でした。 さて皆様、何か彼らにお聞きしたいことはありますか?」
会議を進める文官の言葉に出席した局長たちはそれぞれ首を振る。
「あの、私からも質問いいかしら?」
突然のラフィニアの申し出に戸惑う文官。
どうしたものかと局長たちをチラチラと見ているが助け船は出されず、もごもごとしているとラフィニアは気にも留めることなく質問を始めた。
「プリシュティナはどういう経緯で勇者様のパーティに入ったのですか?」
ここまでそれに対する説明は一切されていなかった。
というより出席する局長たちは聞くだけに徹しているようだ。
「そんなことを部外者に話せると思うのかね?」
局長の一人が不遜な態度で言う。
「あら、内務局長様、部外者だなんて酷い言い方ではなくて? 今回は未調査区域の調査と言うのが目的だったのに、あなた方の失態のせいで危うく命を落としかけたのですよ?」
「フンッ、それ込みでの依頼料ではないか」
「依頼を受けたのは外務局長様からであって、内務局長様ではありませんわ。 そういう意味では内務局長様のほうこそ部外者ですわね」
「なっ、小賢しい小娘が……」
取り繕うことなく言い放つその男に少しばかり苛立ちを覚えつつ、ラフィニアはその男の部下であるはずの義父に謝罪の念を送っていた。
(お義父様ごめんなさい!)
しかしラフィニアの言葉はしっかりと効いたのか別のところから説明を貰うことに成功したのである。
「さ、最高神官長であるクレヌフだ。 彼から有望な人材がいると紹介されて、私自身それまで面識はなかったし、正直どんな人物かまでは調べることはしていなかった。 だってそうだろう? 仮にも最高神官長の職に就く者の推薦だぞ? 疚しい者のはずがあるまいて……」
懺悔とも見苦しい言い訳とも取れる言葉を発したのは神務局の局長である。
「わかりました、ついでにもう一つお願いします。 勇者様の存在を知った経緯を教えていただけますか?」
「いい加減にしたまえ! それが今回の件とどう関係があると言うのだ!」
ラフィニアの質問に吠えるのはまたしても内務局局長、しかし今回もまた神務局局長が親切にも答えてくれる。
「それは簡単だ! 巫女の住まう神殿には私であっても入れはしない、王族と神官のみ。 私はクレヌフから巫女が神託を授かったと報告を受けたにすぎぬ。 神託を授かった巫女はクレヌフを呼んで、クレヌフから私のもとに報告が上がるのだ。 そして私が聖下に報告し会議へと掛けられると言うのが決まりだ。 今回の勇者の時も別段おかしいところはなかったと記憶しているぞ」
神務局局長がやけに親切に説明してくれると思ったが、よくよく考えれば今回のプリシュティナの件で責任を取らされるかもしれない者の一人なのだ。
自分の無実を証明したくて必死なのだろう。
隣に座る内務局局長を見れば余計なことをベラベラ喋るなと言うような顔をしている。
反対に座る外務局局長のエインパルドは腕組みをして目を閉じ完全に無関係を装っているが。
「神務局長様、丁寧な説明ありがとうございました」
ラフィニアは一礼をするとここにいる必要はないとばかりに出て行こうとした。
「ラフィニア殿、少しお待ちを」
勇者とミルドが退出する中ラフィニアだけが呼び止められる。
(何か失敗したかしら?)
そんな不安も一瞬過ぎったがその男の言葉にそれ以上の衝撃を受けることとなった。
「私は王族騎士団を束ねているフリュゲルだ。 当事者である貴殿に説明も不要と思うので要点だけ。 ルナ様の件で聖王が君たちにお言葉を述べられたいと仰っているので、君たち四人は帰らずに待っていてくれ」
「えっと…… 四人? 私と勇者様とミルドと…… あとは誰かしら?」
「いや違う、君と、たしかリックと言ったか、それと子供二人だ」