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迷宮からの大脱出

「さて、ここからどうするかだよなあ」


 リィベルのことは勇者パーティに任せ、リックは気を取り直し今後のことを考える。

 一行はミルドたちチームを先頭に勇者パーティ、最後にラフィニアたちと、行きと同じ隊列で進んでいた。

 隊列を組んでどこを目指しているのかと言えば当然出口ではあるが、そもそも今どこにいるか分からない。

 つまり適当に歩いているだけと言ってもいいぐらいだった。


 いや適当に歩いているだけと言ってはザリオが怒るだろうなとリックは心の中で訂正する。

 ザリオのことだから今も地図を記しながら無駄なく出口を発見できるように考えながら進んでいることだろう。

 普段ラフィニアと洞窟探索をする場合、こういう頭脳労働はラフィニアの担当だった。

 リック自身も出来ないわけじゃないが、間に戦闘を挟んだりして動いてしまうともう現在地が分からなくなる。

 ふとラフィニアを見ればしっかりと地図を記している最中だった。

 そして束の間の休憩ではラフィニアが地図とにらめっこしている。


「なあラフィニア、今書いている地図とおんなじ地形の地図とか見つかんないのか?」

「そんなの分かるわけないでしょ。 いったいどれだけ地図があると思ってるのよ」

「まあ、そうだよなあ」


 頭脳担当のラフィニアでさえこう言うレベルだが、おそらくザリオはその辺も検証しながら記していることだろう。


(あいつ戦闘はからっきしだけど、こういうのはほんと得意なんだよな)


 例えば今書いている地図と同じ形の地図があれば一度来たことがある場所かもしれない。

 そうなれば容易に帰れるわけだが注意も必要だ、実は似ているだけで別の場所と言うこともあるため途中で記すのを止めてしまうと大変なことになる。


(想像しただけでもめんどくさそうだな。 よくやるぜ、二人とも)


 地図とのにらめっこに飽きたのか、ラフィニアは地図を仕舞いこむと周りを見渡し勇者パーティのところでその視線が止まった。


「ねえ、ちょっとリック」


 そのまま今度はリックへと向き直りなぜか小声になるラフィニアにリックはぶっきらぼうに返事をする。


「ん? なんだよ」

「なんだよ、じゃないわよ。 あんな約束しちゃって大丈夫なの?」

「約束? ああプリシュティナのことか、別に本当に連れてくる必要もないだろ」


 つられてなのか、それとも聞かれたくないと意識してなのかリックの言葉もまた小声になる。


「は? いやいや、ちょっと待って。 リィベルのこと騙すっていうわけ?」

「人聞きの悪い…… 今重要なことは全員の安全だろ。 俺一人悪者になるだけで全員の安全が買えるなら安いものだろうさ」

「それであの子が人間不信になっても知らないわよ」

「今はいろんな想いがごっちゃになって正常な判断が出来てないだけなんだよ。 家に帰って、冷静に考えればあああれが正しかったんだってわかるようになるさ」

「だといいんだけど……」


 ラフィニアもまたそれが優先だというのは分かっているが、心情的に納得できないところであった。

 そんなラフィニアを察してか、話題を変えようと気になっていたことを質問するがその声はいつもの大きさに戻っている。


「それより、ラフィニアたちどうやって戻って来たんだ? 俺らの近くにいただけなのか?」

「後で話すって言ったでしょ」

「なんだよ、俺にまで秘密にすることなのか? 怪しいな。 あ、実は操られているとかない? で、俺たちを嵌めようとしているとか」

「それならとっくに滅多刺しにしているわね」

「そうか、どうやら正常なようだ」


 時々出る辛辣な言葉に昔なら戦々恐々としていたところだが、最近は慣れてきたとリックは思う。

 今でこそ貴族令嬢と言う肩書だが元は平民、おそらくこれが素のラフィニアなのだろう。


「リックたちのほうこそ大丈夫だったの?」

「何が?」

「悪魔の言っていたことが事実だとしたら、私と勇者様、本当は別の場所に転移させられるはずだったみたいなのよ。 もしかしたら他の人たちも転移させられてたんじゃないかと思ったのだけど」

「ああ、それね。 まあその通りでエルビーとスコピエ、あとリィベルが別々のところに飛ばされた。 もちろん俺たちも飛ばされたわけだけど」

「よく無事だったわね、それで」

「おうよ、ノールってすげえのな。 ……ああっ!!」

「ちょっと何よ、急に大声出して」

「どうしたリック、金でも落としたか? だが諦めろ、拾いに戻ってやることはしないからな」


 大声を上げたリックに憐憫の目を向けながらミルドが言い放つ。


「ちげえよバカ。 俺としたことが何でこんなこと気づかなかったんだ……」

「だからなによ?」

「ラフィニアは知らないだろうけど、ノールってすげえのよ」

「それさっき聞いた」

「いや、そうじゃなくてさ。 なあノール、俺たちが転移される前にいた場所覚えてるか? 転移であそこに戻ることってできないのか?」

「出来ない。 目印になるものがない」

「目印? そりゃ例えばどんなもんなら目印になる?」

「魔力」

「魔力? ああなるほど、そういう仕組みか。 って言うと、バジリスクは倒しちまったけど、ビオラルタルのいる場所なら…… いやいや、魔力か、きっと固有の魔力なら魔物じゃなくても……」

「アバタルの氷塊とかは?」

「ラフィニアそれだ! どうだ? ノール」


 小首を傾げるノール。


「ああいいアイデアだと思ったんだがダメか」

「これはあれね、たぶんそれが何か忘れている顔ね。 わたしも覚えてないけど」


 残念がるリックにノールの顔を覗き込んだエルビーがさらりと言い放つ。

 そんな二人にラフィニアは苦笑いを浮かべて言った。


「ラフィンツェルに入ったときに大きな氷の山みたいなの見たでしょ」

「あああれね、そんな名前だったっけ?」

「ちゃんと説明したわよ」

「名前のことはどうでもいいって。 それで、どうなんだ?」


 氷の封印。

 ラフィニアの説明ではたしか10年ほど前に白の悪魔(リーア)と共に暴れていた魔獣で謎の魔法使いによって封印されたのだという。

 その封印の中であっても力ある魔獣の魔力は漏れ出ていた。


「あれならたぶん大丈夫だと思う」


 ノールは立ち上がるとその魔力を目標に転移魔法を発動させる。

 眩い光が一行を包み込んでいく。

 光が収まるとそこはしっかり目的の場所だった。


「おおおおっ!? なんと、あの場所から本当に出られるとは!?」

「へへっ、こりゃ便利だぜ」

「まったくだ、なあ坊主、お前リックのところなど辞めて俺たちのチームに入る気はないか? お前ほどの魔法使いなど滅多におらんぞ」

「おいミルド、勝手に引き抜こうとするな」


 ノールとミルドの間にリックが割って入る。


「何を言うのだ、そう言えば以前に同行しているだけと言っていたな? ならお前にどうこう言う権利はないであろう、坊主が決めることだ。 で、どうだ?」


 ミルドの誘いにノールは首を横に振る。


「そうか、惜しいな。 だがもし気が変わったならいつでも声を掛けてくれ、歓迎するぞ」

「残念だな、気が変わることなんてないってよ」

「おい、坊主はそんなこと一言も口にしていないだろうが、勝手なことを言うな」

「勝手なこと言ってるのはそっちだろうが」


 言い合っている二人を余所目にザリオがふと思いついた疑問を口にした。


「なあおい、それなら聖都にだってあっという間に帰れるんじゃねぇのか?」


 その言葉に期待に膨らんだ全員の視線がノールへと向かう。


「聖都は目印が無い」


 その視線を物ともせずにノールはさらりと答えたのだった。


「あれだけ大きい街なのにダメなのか」

「無理なら仕方がないわよ、というか同行した騎士たちを放置して私たちだけで帰るのもあれだしね。 ここまで転移出来ただけでもかなり助かるぐらいだもの」

「ともあれ無事に帰って来れたのは何よりだ、もうこんな夜だし以降のことは明日の朝にでも決めるか」

「ねえちょっと待って、申し訳ないけど一つだけいいかしら? 今のことだけど、あまり大っぴらにしたくないなと思って」

「ん? ああ転移魔法のことか。 確かにそうだな、内務局局員の娘と帝国の秘密諜報員が共にいるというのはさすがにまずかろう。 今回報告すべきことと直接的な関係があるわけでもないし構わんだろうさ」

「ん? 何それ」


 ラフィニアはミルドの言葉の意味を理解できずにいた。

 自分の義父が内務局に努めていることを知っているのはまだいいとして、秘密諜報員とは何のことだろうか。


「あ……」


 ラフィニアの怪訝な表情を見たリックから声が漏れる。

 そしてそれに気づいたラフィニアから向けられるジト目にリックはばつが悪そうにしていた。



    ◇



 夜の迷宮都市は煌々と明かりが灯っている。

 王国も聖王国も暗くなるにつれ街に灯る明かりは少しずつ減っていくのだが、ラフィンツェルに灯る明かりが減ることはない。

 さらに街の中は昼間と同じように人で溢れていた。

 宿へと戻る道すがら、エルビーはそんな街の様子を不思議に感じていた。


「みんなおうち帰らないのかしら?」

「大迷宮に潜る冒険者は昼とか夜とかそういう感覚がずれてきちゃうのよ、夜遅くに戻ってくる場合もあるしね。 お店もそういう冒険者を相手にするから一日中開けっ放しなところもあるぐらいなの」

「へぇ……と言うことは、今からでも食事出来るってことね!? 行きましょう!」

「出来るけどやめておいたほうがいいわよ。 一日中開けているせいで清掃は行き届いていないし何より出される食事が微妙なのよね、朝を待って宿で食事したほうがいいわ」

「ぐえぇぇぇーー」

「なんて声出すのよ……分かったからちょっと待ってなさい」


 ラフィニアはそう言うと少し離れたところにある店に入っていった。

 しばらくして戻ってきたラフィニアの手からは何やらおいしそうな匂いがする。


「これで我慢しなさい、ノール君も欲しいでしょ」


 ラフィニアから渡されたのは骨付き肉を焼いたもので、エルビーはすぐさまかぶりついていた。


「おいしいわこれ、ありがとうラフィニア」

「ありがとう」


 エルビーの様子を見てノールもお礼を言った後にかぶりついた。


「それ、おいしいでしょ? この辺りで捕れる鳥の魔物なんだけど、調理法もシンプルで余程のことがない限り不味くなることはないからこの時間のオススメなのよね」


 早々に食べ終えたエルビーの視線はノールの持つ肉へと釘付けになっている。

 時折奪おうとするエルビーの攻撃を回避しつつ、宿に到着する頃にはノールも食べ終わっていた。

 宿の前には二人の護衛騎士が見張りをしているのが見える。


「皆さん、お帰りなさい。 調査のほうはいかがでしたか?」


 護衛騎士の一人がミルドたちを見つけ声を掛けてきた。


「ああ、なんとか無事に終えることは出来た。 ただいろいろなことが起こりすぎてな。 すまぬが今日は休ませてくれ、報告は明日の朝にすると隊長に伝えてもらえると助かる」

「ハッ! 承知しました、今日はゆっくりお休みください」


 もう一人の護衛騎士はそう言うと扉を開けてくれた。

 中へと入り閉まりかけた扉からは外で見張りをする護衛騎士たちの声がかすかに聞こえる。


「一人いなかったよな?」

「ああやっぱり無謀だったんだよ、かわいそうにな」


 ラフィニア以外にも聞こえていたと思うがそれについて語る者は誰も居なかった。


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