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裏切り者の真実

 エルビーは困惑していた。


「おかしいなぁ、威力はいい感じに調整出来ていたと思ったんだけど……」


 目の前で起きている信じがたい光景を見つめながらエルビーは呟く。


「何がおかしいなぁだ! この惨状を見ろ! このままじゃ生き埋めだぞ!」


 ミノタウロスを倒し周囲を囲っていた魔物たちも逃げ出して安堵したのも束の間、今度は洞窟の天井が少し少しと崩れ始めていた。


「あの魔物たち、天井が崩れるのを察知して逃げ出したのか? 野生の勘とは侮れぬものだな」


 スコピエとエルビーはひとまずまだ崩壊が起きていない横穴を目指して駆け出す。


「ノール早く来てくれないとかなり困るわね」

「あの坊主が来ればなんとかなるのか? この崩壊を止められるとか」

「いや、さすがにノールでもこれは無理じゃない? 無理よね……いや意外にイケるのかも?」

「そもそもどこかもわからん場所に転移した俺たちを見つけられるのか?」

「それは、たぶん大丈夫よ。 あの子わたしの魔力から居場所がわかるはずだから」

「ほう、そんな能力があるのか。 魔物相手に先制できたのもそれが理由だな?」

「たぶんね……あっほら来た」


 振り返りながら言うエルビーを見て、思わずスコピエもその方向を見やる。

 先ほどまでは誰も居なかったはずの場所に一人の少年が立っていた。


「おそいっおそいっ洞窟崩れてきちゃったよ、はやくっはやくっ」


 急かすエルビーの言葉にノールも気になったのだろうか、エルビーの後ろで崩壊を続ける広間を見ようとひょっこりと顔を覗かせる。


「大変なことになってるね」


 その口調は今まで通りでまったくそう思っているようには聞こえない。

 緊張感のまったく感じさせない二人のやり取りをスコピエはただ黙ってみているしかなかった。



    ◇



「ほんと、大変なことになりましたね」


 リオンはもう一人の仲間も一緒にいたことに安堵していた。


「そうね、大変なことになるかも知れないわね」


 リオンとは正反対にラフィニアの心には不安しかなかった。

 もしヴァムが敵だったならリオンと二人で対峙しないとならない。

 しかし言いにくいことだがリオンの技量では悪魔相手に役立つとも思えない。

 もちろんリオンの実力も決して低いわけじゃないが悪魔相手はさすがに不安であった。


(いや、勇者だし悪魔特効の武器とか持っているかも?)


 確認しておきたいがヴァムに警戒していることを悟られたくもない。

 もし襲うなら今は絶好の機会だ、自分ならこの機を逃すことはしない。


(しかし、勇者様を狙っているとしたらその理由は何かしら?)


 普段であれば自分が先頭を歩くところだったが、さすがに怪しさが残るヴァムに背中を預けるわけにもいかない。

 前を歩くリオンとヴァムの会話にも耳を傾けながらラフィニアは様々な考えを巡らせていた。


(そもそもザリオの言っていた暗殺だって怪しい話なのよね、そういう誘導の可能性もあるし。 狙われる理由なら私にもある、考えようによってはノール君にも) 


 四精霊の宝珠、それがあの時馬車に積まれていた荷物の名前だった。

 その宝珠は四精霊の力を用いた白の悪魔(リーア)の封印の鍵なのだとエインパルドから教えられた。

 鍵と言うだけあって封印を解くにもそれが必要になると言う。

 そして実を言えばラフィニアはその宝珠をエインパルドから渡されていたのだ。

 これから大迷宮に潜る人間に預けるのもどうかと思ったが戦う力のないエインパルドが持っていては襲われたときに奪われてしまうと言うのが理由だった。

 つまり暗殺の噂とは別にラフィニアが狙われてしまう理由は存在している。

 ノールは聖王国が探している渦中の人物なわけで誰かに狙われる理由としては十分だろう。


(可能性が多すぎて何が何やら……)


 ビオラルタルの不可解な行動も気になるところ、ただの偶然か、何か理由があるのか。

 街道に現れたニヴィルベアは宝珠を目指していたと言う、ならば今回のこともまったくの無関係だとは言い切れない。


(こっちに付いてきちゃったのは失敗だったかな…… 向こうの状況もわからないし、リックはちゃんとあの二人守れているかしら?)


 結局のところ考えても仕方がないという結論に至るのだが……。

 ただ魔法陣に飛び込まなければあのままノールたちと共にいられたかもしれないと今更ながらに思う。


「リオン様? ご無事でよかったですわ」


 洞窟内に聞き覚えのある声が響き渡る。


「その声は……プリシュティナか?」


 洞窟の奥から姿を現す人物、それは間違いなくプリシュティナだった。


「プリシュティナ、君も飛ばされてきてたのか。 けど無事でよかった」

「ええ、リオン様が転移させられた後、わたくしも一人飛ばされましたの。 でもこうしてリオン様と合流出来て良かったですわ」


 プリシュティナの顔に安堵の色が伺えた。


(プリシュティナも転移させられていたということ? となると分断することが目的だった可能性もあるのね)


 ラフィニアの脳裏に浮かんだのは各個撃破と言う言葉だった。

 狙われているのは誰か一人程度に考えていたが、よくよく考えてみればそれぞれが狙われているという可能性もある。


(とは言ってもこうして合流できるのはどうしてかしら? 偶然?)


 プリシュティナまでもが転移して来たことを考えると、ヴァムがラフィニアたちと同じタイミングで転移して来たことも不自然には思えなくなる。


(いや、それぞれが転移させられているなら……意図的にここに集められた?)


 そんな不安を抱えるラフィニアに更なる問題が降りかかる。


「あれれ? おかしいな、なんで余計な人間までついてきちゃってるのかな?」


 今度は聞き覚えのない声、しかしその姿は見えずまた反響しているせいか方向すら特定できない。

 

「誰ですの?!」


 少し動揺を見せながらも気丈な態度で誰何するプリシュティナ。

 それに答えたのは少年のような服装をした少女だった。


「勇者までこっちに来ちゃってるし困ったなあ。 だから自動発動式の魔法陣は止めようって言ったんだよね、せっかくの計画が台無し。 あの子たち、あとでお仕置きしなくちゃだね。 ウフフフフフッ……」


 ラフィニアにはその少女の言っていることに心当たりがあった。

 転移してしまう直前に見た光景、それは二つの魔法陣が重なり合うように発動していたこと。

 おそらく勇者を転移させる魔法陣にラフィニアを転移させる魔法陣が干渉してしまったことで勇者までもこちらに転移してしまったということだろう。

 つまり、この少女の狙いが勇者でないならその目的はラフィニア自身にあると言うこと。


「私たち、襲われる理由に心当たりがないのだけど?」

「ウソは良くないよ、四精霊の宝珠、お前が持っているんだろ? まああくまで白を切るつもりなら奪えばいいだけなんだけどさ」


 その少女は当然とばかりに言い放ち不敵な笑みを浮かべる。

 ラフィニアが狙われていたのは確定したわけだ、正確にはラフィニアが持つ四精霊の宝珠であるが。


「あら、バレてたのね。 驚きだわ」

「ボクとしてはお前の命なんて興味ないし、大人しく渡すのなら見逃してあげてもいいくらいだよ」

「それはありがたいのだけど、生憎と今あなたに渡すことは出来ないのよ」

「へえ、自分の命より大切だなんて随分と正義感が強くて、あきれるほどに愚かなんだね」

「まさか、どうせ信じてはくれないだろうけど、そんな危ないもの隠したに決まっているじゃない」

「そんな見え透いたウソに騙されるとでも思ってるの? 浅知恵にもほどがあるでしょ」


 まあ信じてもらえるはずはないと思ってはいたがどのみち隠し場所を言うわけにもいかない。

 その時は殺されるだろうけどそうなれば本当に宝珠の在りかは分からなくなる。

 どんな状況で自分が狙われるか分からない以上、万が一自分が殺されることがあっても宝珠が奪われないようにと対策を立てておいたのだ。


「信じてもらえなくて残念ね」

「それならそれでお前を殺してからゆっくり探せばいいだけのことさ。 ああでも……」


 その少女の視線は勇者たちに向けられ、そして考える仕草を見せた。


「勇者もいるんだよねー、勇者の担当はボクじゃないんだけど、どうしよっかなぁ?」

「あらそんなこと仰らずに、どうせですからわたくしたちもお相手すればよろしいですわね」


 少女の独り言に答えたのはプリシュティナだった。


「ふーんなるほど、それもいいね。 じゃあ君たちまとめて始末するとしよっか」


 その言葉と共に少女の雰囲気が一変する。


「ねえ、あなたただの人間じゃないわよね?」

「そうだよ、よく分ったね。 ボクは悪魔さ」

「え? あ、悪魔!?」

「いや、こんな洞窟の奥深くにこんな子供がいるわけないじゃないのよ」

「エェェ、いやだってノールとかエルビーとか……」


 悪魔と聞かされ動揺する勇者の気持ちも分からないわけではない。

 目の前のかわいらしい女の子が悪魔だと聞かされていったいどれだけの人間が信じるだろうか。

 ただこれだけ異常な状況だし普通の子じゃないな、ぐらいは察してほしいところではあったが。


「こんな、こんなかわいい子が、あ、悪魔っ子だったなんて」

「悪魔っ子って……」

「いや違う! 違います! 別に変な意味で言ったんじゃなくて普通に驚いただけなんで! ラフィニアさん、そんな目で見ないでくださいっ!」


 勇者の趣味はおいておくとして、ヴァムを背にしての戦闘は避けたかったと言うのが正直なところだ。

 ヴァムが悪魔の仲間と決めつけるには何の証拠もないが、自分たちの味方という根拠だって何もない。

 しかし目の前の悪魔を相手にそんな悠長なことも言ってられないし諦めるしかないだろう。


「かわいいって言ってもらえたのはちょっと嬉しいから、お返しに勇者はちょっとだけ手加減してあげるね」


 それが合図とばかりに戦闘は開始された。

 前衛はラフィニアとリオン、回復役として後衛にヴァム、そしてその盾役としてプリシュティナが付く。


「じゃ、さっさとお前を殺して四精霊の宝珠を頂こうかな」


 ラフィニアに視線を向けて悪魔が言う。

 悪魔はラフィニアに狙いを定めると容赦なく攻撃を仕掛けてきた。


(って本当に殺しに来ているじゃない、やっかいね……)


 悪魔が四精霊の宝珠を狙うのは分かるのだがラフィニアは何か違和感を覚えた。

 宝珠を持っているのがラフィニアなのだからラフィニアを狙う、それ自体はおかしいことでもないように思える。

 悪魔はその言葉通り、リオンやプリシュティナ、そしてヴァムには牽制程度の攻撃を仕掛けるのみでそのほとんどをラフィニアへと向けていた。


「やっぱり無詠唱で魔法使われるのって本当に厄介ね、攻撃の手がギリギリまで読めないし」

「そう言いながらも余裕そうに見えるのはボクだけかな? 勇者のほうは逃げ回るので必死みたいだけど」

「こう見えてもAランクなんでねっ私は!」


 余裕そうとは言うが余裕なんてあるわけがない。

 躱すだけで精一杯で口は動かせるが攻撃に転じることは出来ずにいる。

 他への牽制攻撃があるおかげでなんとか耐えているに過ぎないほどだ、もし一対一で戦っていたならあっという間に負けていたことだろう。


(何なのかしら、この胸の騒めきは……)


 時が経つにつれそれは大きくなっていく。

 考えようともするが、この状況が思考を乱しうまく纏まらない。

 そしてそんな思考は逆に油断をも招く。


「それっ!」

「しまっ……!?」


 魔力を帯びた氷の蔦がラフィニアへと絡みつき、ラフィニアは身動きが取れなくなってしまった。

 見た目少女であってもやはり悪魔、その拘束はまったく解くことが出来ない。


「ラフィニアさんっ!」


 心配する勇者がラフィニアに近寄ろうとするが悪魔によって妨害される。


「ん?……あれ? ねえ、四精霊の宝珠はどこ?」

「だ……から……隠したって……言ったじゃない……」

「ええ……嘘でしょ? ほんと人間ってズルいことするなぁ……」


 分かりやすく落胆する悪魔の隙を突くべくラフィニアは攻撃を仕掛ける。


「賢いって……言って……欲しいわねっ!!」


 剣に雷を纏わせ振るう。

 攻撃こそ避けられてしまったが悪魔の拘束からは逃げることが出来た。


「それを言うなら狡賢いでしょ? あーあ、四精霊の宝珠どこ行っちゃったんだろ?」

「あなたが考えたところで分かりはしないわよ」

「それはどうかな? おおよそ見当はついたよ。 ねえ、それって仲間の誰か…… あっ! 今一瞬だけ心が揺らいだね? アハハハハ! そうか誰かに預けてるんだ! じゃあ君を殺して残りの……うーん、いっぱいいて面倒だなあ……」

「狡賢いのはいったいどっちよ」


 このままではじり貧だと考えたラフィニアは戦い方を変えてみることにする。


「ヴァムさん! 悪魔相手に有効な魔法はあるかしら?」

「ふむ、あるにはあるが……」

「勇者様、プリシュティナと一緒にヴァムさんを守って。 ヴァムさんは何とかその魔法をお願い!」


 リオンが後退しプリシュティナの傍まで行く。

 その時ラフィニアは背後から嫌な気配を感じた、これまで感じたことがないような焦燥感に心臓が跳ね上がる。

 ラフィニアは思わず後ろを振り返ってしまった。


「プリシュティナ、よろしく頼むぜっ」

「ええ勇者リオン様…………お疲れさまでした」


 言葉と共に勇者に向けて振り下ろされるプリシュティナの剣。


「へっ?」


 間の抜けたリオンの声。

 ラフィニアは胸の騒めきの正体を理解した。


 “勇者の担当はボクじゃないんだけど、どうしよっかなぁ?”


 悪魔の独り言と思ったそれはプリシュティナへの問いかけ。

 そしてプリシュティナが答えた『私たちも相手する』と言うのはつまるところ、勇者の担当だったプリシュティナもこの機に乗じて勇者を討つと言う合図だったのだ。


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