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やりすぎなエルビーとノールの秘密?

 エルビーは戦っていた。


「おい、手を貸したほうがいいか?」

「平気よ、いっぱいの魔物を相手にするより楽だし」

「そうか……」


 スコピエはエルビーの戦いを眺めていた。

 常識的なことを言えば、ここは共闘し早々に倒してしまうべきだとは分かっている。

 しかし今戦っている小娘はこの状況でも楽しそうにしているし、何より本人が必要ないというのだから手を出すのは野暮なのか、などと考えてしまう。

 それに二人で倒したとして、今周りで様子を窺っている魔物たちがどう出るかも読めない。

 おそらくはミノタウロスを倒した後は自分たちの番だとばかりに襲い掛かってくるのではないか。

 そう考えると無駄に体力を消費するのも不味い気がしてくる。


(大迷宮に入ってからずっと戦いっぱなしで、あいつは疲れを知らんのか)


 最初の頃は小娘と馬鹿にしていたが、今戦っている様は大人顔負けのものであった。

 そんなスコピエは勇者パーティに入るまで傭兵だった。

 聖王国ではもちろん、その周辺でも大きな戦争などは起きていない。

 しかし南方の国では小さな小競り合いがいまだ起きている場所もあり、そういった戦場に赴いては戦果を上げる。

 様々な戦場を駆けたスコピエにとっても、ただの小娘と侮るには無理があった。


(正直言えば認めたくはないが、認めないわけにもいかぬのだろうな)


 エルビーの剣はミノタウロスに対して確実にダメージを与えている。

 しかしミノタウロスのほうはエルビーに致命的なダメージを与えることは出来ずにいた。


(敵の攻撃を見極めているのか、野生じみた勘だな)


 エルビーの攻撃がミノタウロスの足を捉える。

 すると自重に耐えきれなかったのかミノタウロスが片膝をついた。


(これはチャンスだな……)


 スコピエならば迷わずここで剣を振り上げ一撃を加えていた。

 だがエルビーの取った行動にスコピエは思わず声を上げてしまったのだ。


「何をしているっ!?」


 なぜかエルビーはミノタウロスから距離を取ったのだ。

 そしてスコピエの声にわずかだがエルビーが反応したようにも見えた。

 いまだ動きを止めているミノタウロスを前にエルビーが剣を高く振り上げる。


(何を……何をするつもりだ?)


 刀身が輝き、エルビーが叫ぶ。


「フレアァァァァァァァなんとかぁーーーー!!!」


 それは以前エルビーが見た魔法。

 ただし詠唱はおろか魔法の名前すら碌に覚えていなかったせいでただの叫びになったのだが、それでも聖剣クラウソラスはエルビーの魔力を糧に巨大な炎の塊を生み出してくれた。

 スコピエはごくりと唾を飲み込む、その炎の塊から発生される熱は十分な距離を取っていたスコピエのもとにまで届き皮膚をチリチリと焼いていく。

 巨大な炎の塊はまるで生きているかのように唸りミノタウロスを飲み込む。

 その力はまったく衰えることなく周囲にいた魔物たちも飲み込むかのようにさらに大きく膨らんでいく……。


「これは……ヤバイ!」


 スコピエは咄嗟に物陰に隠れた。

 それでどの程度の威力を殺せるかは賭けでしかないが他に方法がない。


(これで死んだら恨んでやるぞっ! あの小娘!!)


 スコピエは目を閉じ熱気が肺に入らないように息を止めた。

 どれほど時間が経ったのかわからない、息が出来ずに苦しくなってくる。

 自分で止めているのだから当然だが、今息をして大丈夫なのかという心配が先にある。


(もう……無理だ……)


 限界だった。

 「ぷはぁーー」と息を吐きだし、体に任せるように大きく息を吸い込む。

 不可解な風は吹いているが苦しくはない。

 気を持ち直して戦況を確認する。

 どうやら炎の熱は前方に集中したようでエルビーの前と後ろで大きく変わっていた。


「これが魔法ってやつか、想像以上だな。 しかし……崩落とかしないよな……?」


 辺りを見渡してみるがミノタウロスの姿はなかった。

 当然だろう、はっきり言えばオーバーキルだ、あそこまでの威力は必要ない。

 だが安心するのはまだ早い、周りの魔物がどう動きだすのか注意しなくてはならない。


「エルビー、大丈夫か?」


 いまだ立ち尽くすエルビーにスコピエが声を掛ける。

 もしや力を使い果たし意識が朦朧としているのではないか、そんな心配が脳裏を過ぎる。


「大丈夫よ、それより……ちょっと威力間違ったかしら?」


 まったくそれまでと変わっていなかった。

 スコピエは心配して損したとため息をつく。


「まだ周りに魔獣がいる、気を付けろ」

「ええ分かってる、来たら――――」


 エルビーはまるで血糊を落とすかのように剣を振ると隠れている魔物たちに向き直った。


「――――全部たたっ斬るわ」


 そんなエルビーが放つ気配に圧倒されたのか魔物たちは一目散に逃げだした。


「あれ? なんでみんな逃げちゃうのよ」

「お前を襲って喰らうより他の餌を探したほうが楽だと判断したのだろうさ」

「ふーん、まあいいわ」


 スコピエはエルビーのもとに向かいながら考えていた。


(俺の勘は何も反応しない……なぜだ?)


 これまで様々な者と対峙してきたが時々背筋に何か冷たいものが走るときがある。

 それは決まって自分よりも強い者なので注意するようにしている、敵なら真正面から戦うことは避けるし味方なら敵対しないようにと。

 だがなぜかエルビーを前にしても平然としていられる。


(いや、この状況に体がついて行けずおかしくなっているかも知れないな。 帰ったら休もう……)


 だがスコピエはおかしくなどなっていない、ただスコピエの秤ではエルビーの強さを量りきれていないだけだった。



    ◇



「ここどこだ?」

「これはまずいことになったな。 ザリオ、ここがどこだかわかるか?」

「無茶言うな、落とし穴ならまだしも転移魔法が原因じゃ今どこにいるかなんてわかりゃしねぇよ」

「いやあ、ほんとまずいことになったなあ」

「リックよぉ、なんでちょっとうれしそうなんだお前」

「人聞きの悪いこと言うなよ、帰るに帰れない状況だぜ? 俺だって参ってるに決まってるだろ。 だからこの状況だし運よく他の連中と合流できることを祈るしかねえだろ」

「顔と発言が一致してないぞ。 探しに行く口実が出来てほっとしているんだろ? 状況はさらに悪くなったというだけではないか」

「うるせえな、どうしようもないんだから出口ついでに人も探したっていいじゃねえか」

「まあ良い、こうなった以上ここでウダウダやっても始まらないし行くとするか」


 こういった状況であっても誰一人絶望するものはいなかった。

 ここがどこであれ、上に向かう道を選んでいけばいずれ外に出られると全員が思っていたからだ。

 大迷宮の広さは実際厄介ではあるがそれだけのこと、すべて繋がっているのだから出られないはずがない、と。

 彼らにとって幸運だったことはどこにも繋がっていない場所、つまり密閉された空間に転移してしまった可能性に気づかなかった点だろう。


「ん? なんだ?」


 ザリオが何かを感じ取ったのか周囲を警戒しだした。


「どうした?」

「今何か聞こえなかったか?」

「いや、何も。 とうとう亡者の声でも聞こえるようになったか? だからあれほど恨まれるようなことはするなと」

「そうじゃねぇよ。 何かこう爆発したかのような音だったな」

「全然、気のせいだろ」

「確かに聞こえた気がしたんだがなぁ」


 とは言ってもザリオも自信があったわけではなかった。

 なにぶん洞窟の中だし何かの音がそう聞こえただけかもしれない。

 まったく聞こえなかったリックにはどうでもいいことにしか思えなかったが。


「なあリック、一緒にいたノールって子は何者なんだ?」

「今度は何だよ……ってラジか……何者って王国の冒険者だろ」

「俺には自ら転移したというようにしか見えなかったんだが、俺が知らないだけであっちの冒険者は転移魔法なんてものが使えるのか?」

「ん? いやそんな話は聞いたことねえな、王国にはこの間行ったけどそんなやつ見たこともないが。 けどラフィニアが転移魔法の話してたじゃねえか。 それじゃねえの?」


 いまだ納得のいっていないザリオだったがリックとラジの会話を聞いて気を取り直す。


「バカ、あれは設置型の魔法陣の話だ。 けどあのガキが使ったのはそういう類のものじゃねぇだろ。 だがな、俺の持っている情報じゃ帝国では極秘裏に研究されていて、ある程度実用化しているって話だぜ?」

「うわっそれって、あいつ実は帝国の秘密諜報員とかだったりするってことか?」

「どうだかな、そういえば帝国じゃずいぶんと前から組織改革がなされているって話も聞くしなぁ」


 リックの言葉にそれもあり得ないことじゃないとザリオは言う。


「そうか、あんな大人しい顔して帝国の……カッコいいじゃねえか……。 けどあいつが世界を股に掛ける帝国一のスパイだとして、それが何だって言うんだ?」

「いやそっちじゃない。 自力で転移できるなら動かず待っていたほうが良かったんじゃないかって話だ」


 ラジは横道にそれていく話を修正しつつ思い当たる可能性について指摘する。


「ああなるほどっ、ってそういう話はもっと早く言えよ。 迷子になってから言われても今更だよ?」

「それなら大丈夫じゃねぇか? 確かリィベルを連れてくると言ってただろ。 ってことは同じように俺たちの場所もわかるんじゃねぇかな」

「でもどうやって?」

「そんなこと俺が知るかよ、今度聞いてみりゃいいじゃねぇか」

「ノールのやつ、教えてくれるかな? そういうの国家機密ってやつなんじゃ――――」

「何?」

「うわっっっ!! びっくりした、急に出てくるのやめろってノールっ!」


 ノールは訳が分からないと言わんばかりに首を傾げる。

 リックはそんなノールからその隣で目に涙を浮かべている少女に視線を移す。


「けどまぁ、よくやったなノール、お手柄だぜ。 リィベルも無事でよかった」


 その言葉は先ほどまでとは違い柔らかく、顔には笑みも零れている。


「リックっ!!」


 リィベルがバサッとリックに抱きつく。

 必死に自分を助けようとしてくれた人の姿を見て、リィベルの心の堰は決壊したようだ。

 なんとか押さえ込んでいた涙が溢れ出して止まらなかった。


「お、おい……怖かったか? もう大丈夫だからな、ヨシヨシ」

「一人になっちゃって……寂しくて……怖くて……」


 泣きじゃくるリィベルをなんとか宥めようと次に掛ける言葉を考えていた時……。


 ――――ドゴォォォン。


 どこからか爆発と思える大きな音が響き洞窟が揺れた。


「な、なんだ? 何が起きてる?」

「たぶんエルビー、連れてくる」

「は? エルビーってどういう――――」


 ふと、ノールの姿が掻き消えた。


「あいつ、ほんと人の話聞かないな」

「いいではないか、この様子なら無事再集結できそうだぞ」

「まっそれもそうだな」

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