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大迷宮中層、階層主

 セーフティポイントで休憩を取った後、一行は下層に向かって歩き出した。

 何度か魔獣と遭遇することはあったが中型程度の魔獣は一刀で倒され、大型の魔獣でもエルビーやミルドたちによって瞬殺される。

 勇者パーティも中層に慣れてきたのか戦闘に参加することも増えていた。

 セーフティポイントは案外至る所に作られているが、そのすべてで休んでいくわけではない。

 地図を頼りに下層を目指し適当にセーフティポイントで休んでいくと言うのがだいたいの流れになる。


「さてと、ここが最後のセーフティポイントだ。 この先にはバジリスクが棲んでやがる、どのルートからアタックするにしても戦闘は避けられん。 注意点は、ああ、この前ラフィニアが説明してくれていたが念のためもう一度言っておくぞ」


 ミルドの言葉にエルビーが疑問符を浮かべる。


「へぇ、そんなこといつ言ってたの?」

「あなた、私のすぐ前を歩いていたじゃない……」


 呆れ返るラフィニア。


「ん? そうだっけ?」

「そんなエルビーのためにも説明するんだ、今度はちゃんと聞いていてくれな」

「分かったわ」

「おし。 では……爪と牙には気を付けろ。 以上だ」

「っておいミルド説明雑すぎだろ」

「りょーかいっ!」

「返事早っ! エルビーほんとそれで大丈夫かよ。 ああクソっ、なんだこの脳筋コンビ」

「失礼ねリック、当たらなければいいだけでしょ? 簡単よ」

「その通り、当たらず避けて攻撃は当てる、それで倒せる、簡単なことだ」


 リックは呆れつつもこのままでは何の参考にもならないと、特に勇者たちに向け補足する。


「ああリオン、こいつらの言葉は参考にしちゃだめだからな。 連中にも行動パターンってのがある、初見で対応するのはまあ難しいから今回はラフィニアが言っていたように後衛からの援護に徹してくれ。 大丈夫そうなら参加するって感じで構わないからな、決して無理はするなよ。 解毒薬を持ってきているとは言っても帰りも同様に戦うことを考えれば可能な限り温存しておきたいしな」

「分かりました」

「でエルビーだが、お前が順応性高いのは認めるけどリスクがあるのも事実だ、無理せず最初は後衛から様子を見ること、いきなり突っ走るなよ」

「はぁーい」

「ノールは、まあエルビーと同じでいいか」

「ちょっと待って」


 リックの話にラフィニアが割って入る。


「ノール君は勇者様たちと後方で待機してもらえるかしら、襲い掛かるタイミングを見計らって隠れているかもしれない敵に気を付けて欲しいのよ」

「分かった」


 一番気を付けるべきは魔獣や魔物ではなく人間だろうとラフィニアは考える、それはザリオの言っていた暗殺と言う言葉がどうにも気になるからだ。

 そして勇者たちへの説明が終わったと判断したミルドが口を開く。


「では、行くとするか」



    ◇



 バジリスクとの戦闘は混乱を極めていた。


「クソッたれ、なんたってコロニー引いちまうんだよ」


 本来ならひとつのテリトリーにバジリスクは一体か二体、だが稀にコロニーと呼ばれる現象に遭遇する。

 それはひとつのテリトリーに数体、多い時には十数体いることがあるのだ。

 偶然にも繁殖したバジリスクの子供が巣立ちする前だったのか、もっと別の理由からなのか、まだその理由は判明していない。


「おっ! とわっ! うひゃっ!? はっ!」


 明らかに他のより小さいバジリスク数体を相手にエルビーは飛び跳ねながらその攻撃をかわし、時に剣で弾いている。


「動き遅いんじゃなかったのー? なんかピョンピョンすばしっこいんだけどぉー」


 五体の小さなバジリスクの攻撃を器用にかわしつつ、近くにいたリックに話しかけるエルビー。


「俺に言うな、お前が相手しているのは子供だと思うが俺も初めて見るからな、そのちっこいのたちはエルビーに任せたぞ」

「あとー、手が四本あるのズルくないー? 聞いてないよー」

「それはっ……すまん言い忘れてた」

「というかー、なんでちっさいの全部わたしのほう来てるのー、避けるので精いっぱいなんだけどぉー」

「知らんっ、そいつら遊んでもらっているつもりなんじゃないか? 良かったじゃねえか、おっとあぶねっ」

「うれしくなあああいっ」

「二人とも余裕そうね、なんならこっちも手伝ってもらえるかしら? さすがに一人で大きいの二匹相手はきついわ」

「この状況でどうやって手伝えってんだよっ! こっちは一番デカいの一人で相手してんだぞ!? こんなの一撃でも喰らったら終わりだよ、この中じゃラフィニアが一番余裕あるだろ」

「言ってもちょっと小さいぐらいじゃないのよ、腕の振りが思ったより早くて躱しづらいし、一撃喰らったらこっちだって終わり、おあいこね」


 エルビーたちとは対照的にミルドとラジは無言で戦っている。

 二人で三体のバジリスクを相手に上手に立ち回っていた。

 

「これさすがに俺たちも行ったほうがいいんじゃ……」


 後方で戦闘の様子を眺めている勇者リオンが心配そうに言う。


「味方がピンチに見えるから参加する、そういう考え方はやめておけよ。 あいつらはギリギリのバランスで戦ってんだ、下手な横槍は味方の足を引っ張ることになるぜ。 敵の攻撃をよく観察しろ、行けるか?」

「たぶん……みんなはどうだ?」

「おう、任せろや」

「もちろん大丈夫ですわ」

「問題なかろう」


 ザリオとリオンはただ一人、声の聞こえなかった少女を見やる。

 二人の視線を受けリィベルは力なく答える。


「私は……」

「ビオラルタルの時のこと気にしてんなら忘れちまえって。 いいか、ありゃ俺たちだって逃げ出すレベルだった、ミルドのやつもそう判断するつもりだっただろうさ。 そこの坊主が魔法で大半を焼き払うなんて真似しなきゃな」


 ザリオは言いながらノールを見やる。


「そういやノール、オメェは魔法で援護しないのかい? まあそれも自由だがな。 いいか勇者さんよ、決めるのは常に自分だ、他の誰でもねぇぞ。 それじゃ俺も参加しに行ってくるからよ、このままここにいたんじゃ早く来いとどやされそうだし、お前さんたちももう大丈夫そうだしな」


 ザリオはミルドたちのほうに向かい歩き出す。


「おっとそうそう、もしどこに加わるのがいいか考えているのならラフィニアのとこだな。 あいつの手が空けば戦局は大きく変わるぜ、じゃあな」


 ザリオはそのまま駆け出した。


「リィベル、大丈夫そうか?」

「と……当然よ」

「そうか、ならラフィニアさんが相手しているバジリスクを俺たちで引き受ける、倒せたのなら次は、そうだなリックのほうだ。 エルビーのフォローは俺たちよりラフィニアさんやリックのほうがいいだろうから」


 そういうと勇者たちはラフィニアが戦う場所まで向かう、ある程度距離を空けたところでリィベルが立ち止まり、そして詠唱を開始した。


「ラフィニアさん!」


 勇者が叫ぶ、ほぼ同時にリィベルが魔法を放った。


「――――石礫魔散弾(ストーンブラスト)!!」


 勇者の声に反応しラフィニアはバジリスクから距離を取ると、そのバジリスクに無数の石礫が襲い掛かる。


「もう大丈夫そう?」

「はい大丈夫です、こいつらは俺たちが引き受けるんで」

「了解、じゃあ私は……っと」


 ラフィニアは軽く周りを見渡して状況を確認する。

 五体を相手にあれだけ文句を言っていたエルビーだったが、それとは裏腹にまったく窮地に陥っている様子はない。

 それもそのはずで小さなバジリスク五体は思い思いにエルビーに向かって飛び跳ね攻撃しているだけだからだ。

 エルビーは身体能力だけならずば抜けているので直線的に飛んでくるだけの小さな塊程度ならなんら脅威にならないのである。

 しかし統制が取れていない攻撃でもその数の多さは厄介であることも事実、結果としてエルビー自身が攻撃に転じられない原因となっていた。

 ノールはと言うとラフィニアの『勇者たちと』と言う指示を律儀に守っているのだろうか、勇者たちと一緒にここまでやってきていた。


(なんか本当不思議な子なのよね、指示しなくても動くときもあれば指示しないと動かない時もある、いったい何が違うのかしら。 まあそれはそれとして……)


 まずはリックだろう、ラフィニアはそう判断する。


「ノール君、リックへの援護お願いね」

「分かった、雷光魔槍(ライトニングスピア)

「うぉぉぉぉっ!?」


 ラフィニアの言葉と同時にノールは魔法を放つ、突然の雷でできた槍の出現にリックが驚いていた。


「ノール君、せめて一声かけてあげてね」


 それだけ言ってラフィニアはエルビーのもとに向かう。

 ザリオが言った通り戦局は一変した。

 ノールの援護により早々にバジリスクを倒したリックはミルドたちのもとに向かい、四人対三体と優位に立ち勝利。

 エルビーのほうもラフィニアの参戦により攻撃する機会が生まれ難なく五体を倒すと、それから間を置かず勇者たちも残りのバジリスクを討伐した。


「疲れた……」


 リックは地べたに寝転がり天を仰いでいる。


「それにしてもあれだな、相変わらず戦闘はいまいちだな、ザリオは」

「バカ言ってんじゃねぇよ、ナイフでこんなでかいのに致命傷なんて与えられるわけがないだろが」

「だからもう少しリーチのある剣も持てばいいじゃねえか」

「いやなこった」

「それで? 勇者のほうは大丈夫そうだったか?」

「ああ、まあ無謀に突っ込んでいくタイプじゃないようだしこの先も大丈夫だろうさ。 にしてもよ、この俺が勇者のお守をする日が来るとはな、昔の俺に教えてやりたいぜ」

「しょうがねえよ、こんなところで勇者たちが全滅でもしてみろ、国中から勇者を見殺しにした冒険者として後ろ指を指されることになるんだからな」

「そうだな、冒険者としてやって行きづらくなったらまた裏の仕事にでも戻るか」

「お前はともかく、ミルドたちには無理だろ。 俺も御免だぞ」


 さすがにそこまで落ちぶれたらいよいよ家に戻ることは出来なくなるだろう。


「何馬鹿なこと言っているのよ、あなたたちは」

「ん? ラフィニアか。 なあなんでノールを待機させてたんだ? ザリオじゃ居ても居なくても同じとは思うが、ノールがいるのといないのとではかなり違うぜ?」

「だから、あんなデカブツじゃなきゃ俺だってそれなりに戦えたんだって……」

「あーはいはい」

「それは、ちょっと心配事があったからよ。 取り越し苦労だったみたいだけどね」


 この大迷宮という場所は暗殺するにはもってこいの場所と言える。

 遺体などを持ち帰ることが出来ないこの場所なら、当然暗殺の証拠も見つかることなく闇に葬れる。

 問題はその対象が誰かと言うことだろう。


(順当に考えれば勇者様たち、ノール君や私自身は…… いや急遽同行が決まった私たちの暗殺がすでに噂になっているって言うのはおかしいし多分違うわよね)


 国が探しているというノール、そして例の積み荷を持っているラフィニア、いずれも狙われる理由としては十分だがそれだと噂が広まった時期が合わないように思う。

 そして現状この中で聖王国の最重要人物と言えば勇者だがその場合暗殺される理由が全く思いつかない。

 いや悪魔が狙っているということはありえるのだが、それなら直接襲ってくればいいだけで裏社会で噂になることもおかしい話だ。


(とは言っても、人間サイドで勇者様が死んで得をする人物や組織なんているのかしらね……)


 今の聖王国で勇者を否定するような派閥はおそらくない、むしろ逆に利用しようと企んでいるほどだろう。

 唯一、女神やその力に頼らない政策を考えているのは外務局だが、だからと言って勇者と言う存在が邪魔になるとも思えないし彼らにとっても勇者は外交カードのひとつになるはず。

 残る可能性としては聖王国そのものを潰したい者たちだが、生憎とそういう情報までは持っていない。

 侵略を目論む他国が絡んでいるかもしれないがその場合大迷宮調査を提案した内務局との繋がりが分からない、聖王国を特別な存在にさせたい彼らが国を潰すような真似はしないのではないだろうか。


 残る可能性は勇者本人ではなく他のメンバー。

 例えば暗殺の対象はプリシュティナ、そう考えるといくつかの謎にも答えが出てくる気がする。

 ビオラルタルとの戦い、広間に出る前から襲われたわけだが、今思えばあの触手はプリシュティナを狙っていたのではないだろうか。

 最後一見引いたかのように見せて油断した隙を突いて攻撃するというのはただの魔物にしてはありえない行動に思えた。

 魔物を使っての暗殺、もし街道で襲ってきたニヴィルベアが偶然ではなく人為的なものであったならそういうことも可能なのではないか。

 しかも成功したとしてそれは魔物に襲われたというただの事故で片づけられるのも利点だ。

 ただこの場合は両者が別人による犯行とも思えず、今度は両者の関係性が見えてこないという問題が残る。

 いずれもことごとく失敗しているがこの先も同様に罠を仕掛けている可能性は高い、できることなら適当な理由を挙げて早々に帰還したいところ。

 そしてリックは冗談で言っていたのかもしれないが、仮に勇者たちが全滅してしまった場合は当然その責任を誰かに押し付けることだろう。


(私たちが無事に帰還できれば、間違いなくその押し付け先は私たちってことよね……)


 ラフィニアは答えの出ない疑問などいくら考えても仕方がないと思考を切り替える。

 よほどのことがない限り設定された目標の達成が最優先と言えるのでまずは傷を癒すのが先決だ。

 狙われているかもしれないから帰ろうとは言えないし、どのみち先へ進めば分かることかもしれない。


「はいこれ回復薬と解毒薬、あまり長居もしてられないけど十分に動けるまでには回復しておいてね」

「おう助かるぜ」


 ミルドはラフィニアから回復薬と解毒薬を受け取ると少しひきつったような笑顔で返事をした。

 三人ともそれなりに毒を受けてしまっているようだ。


「これリックの分ね、私ちょっと勇者様たちの様子も見てくるわ」

「おっと、んじゃ俺も行くぜ」


 リックは薬を受け取るもすぐには飲まず、革袋にしまい込む。


「無理しなくてもいいわよ?」

「俺はそんな喰らってないから大丈夫だって、勇者たちのほうが酷けりゃそっちを優先させないとならねえしな」


 二人は勇者がいる方へと歩き出した。

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