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いざ中層へ

 ビオラルタルをやり過ごすことが出来た一行はなんとか中層へ入ることに成功した。

 今は消耗した体力を回復させるため、ビオラルタルのいた広間から距離を取って休憩している。

 ノールとエルビーは疲れていないようで離れたところで横穴を覗き込んでいた。


「リックよ、驚いたぞ俺は」

「何がだ?」

「あの子供らだ、よくぞあの不意打ちを躱したものだと感心したぞ」

「ああそれか、急に飛び出すから何事かと思ったけどな」

「その嗅覚もさることながら何より二人の連携が実に素晴らしかった。 そしてノールと言ったか、あの場面で臆することなく即攻撃に転じられるというのはひとつの才能であろうな」

「あれは俺も驚いたさ、魔法は使わず短剣で戦うと言っていたから初手魔法で驚いた」

「ふむ、あの二人は敵があのような行動に出ると知っていたのだろうか」

「いやそれなら最初から魔法で戦うと言っていただろ。 それに二人の言葉を信じるならここ大迷宮には初めて来たらしいぞ。 と言うよりこの国や聖王国自体が初めてらしい」

「だが詠唱をしていたようには見えなかったぞ? 事前に準備していたのではないのか?」

「ああそりゃあれだ。 あいつが持っているフレイヤワンドっていうお宝のおかげらしいな」

「ほう、フレイヤワンドとな?」

「なんでも魔法の詠唱を短縮できるアーティファクトなんだとさ」

「へへっ、そりゃ売ったらいい値が付きそうだな」

「おいザリオ、妙な真似したら許さんぞ?」

「冗談に決まってんだろ? いくら俺でも子供から巻き上げるなんざしねぇさ……ってなんだその顔、さてはオメェ信用してねぇな?」

「俺がお前に初めて会った時、俺はまだガキだったと記憶しているんだがな」

「あ? そうだったか? 昔のこと過ぎて忘れちまったぜい」


 まったくこの男は昔から何も変わっていないのだとリックは嘆息する。

 ただそれは悪いことばかりではなく、ゆえに信用できる点があるということでもある。

 だがそれはそれだ、この男がまだ社会の恐ろしさを知らないガキだった頃の俺にしたことを忘れることなど出来はずがない。


「お前なっ! 店の金ちょろまかしてやっとの思いで手に入れた初めての武器を奪われた俺の気持ちを考えたことあるのかっ!」

「お前もどうしようもないクズだったようだな、少しだけ同情しそうになった俺の優しさを返してくれ」

「え? ラジ酷くね?」

「酷くないわよ、何よそのびっくりするぐらいのクソガキエピソードは……初耳だわ」

「うわぁっ!? ラフィニア、い、いつからそこに?」

「売ったらいい値が付きそうだな、のちょっと前ぐらいかしら」

「ほぼすべて聞かれてた……」

「ま、コロンさんからあなたの親不孝者っぷりは聞いていたから大丈夫よ、許容範囲内ね」

「ああそんなことよりノールたちの話だろ? 俺の話はもういいよ」

「そうね、とりあえずあの子たちに何かしたらリックの知り合いでも容赦はしないわよ」

「だからしねぇって」

「ならいいけど。 ミルド、あなたたちもう体調は大丈夫?」


 ビオラルタルとの戦いは有利に運べたとは言っても小さな傷は防ぎようがなかった。

 それに加えて相手の素早い動きに対応するため体への負担は思いのほか大きかったのである。


「ああ傷のほうはすっかり治ったぜ、話を戻すがあの二人がまだCランクと言うのは本当なのか?」

「本当よ、本人たちからそう聞いているしギルドカードも見せてもらってるわ、冒険者になったのも最近のことらしいわね」

「なるほど、そういうことか」

「なんだよミルド、そういうことって」

「この強さでいまだにCランクなのかと不思議に思ったが、二人のランクの低さは技量ではなく実績不足ということなのだろうと言うことだ。 言い換えれば少ない実績でCランクにまでなれる技量を持っているということでもあるな」

「そうね、普段の二人からは想像できないけど、いざ戦闘になると途端に一線級になるのだから……ほんと普段の姿がねえ」


 ラフィニアの視線の先には小さな横穴に手を突っ込んで騒いでいるエルビーと、同じく静かに手を突っ込んでいるノールがいる。

 いったい何をしているんだろうか、いやそれを知るのがなんとなく怖い。


「いるっ! なんかいるわよ!?」

「おっ? おおっ?」

「来たっ! なんか来たぁぁぁぁ!!」


 一人で叫ぶエルビーが横穴から手を引き抜く。

 するとその手には一匹の魔物が食いついていた。


「これ何!? 食べられるかな? 食べてみる? 焼く? 生?」


 この広大な大迷宮内で何より大変なのは食料の確保だった。

 数日なら持ってきたものでも足りるが下層へ潜るとなればまず足りなくなる。

 つまり洞窟内の魔獣を狩って食べると言うわけだ。


「なんというか俺たちも冒険者としてだな、命を繋ぐために多少のゲテモノは我慢してきたわけだがあの子らはまさに野生そのままと言った感じだな」

「私には真似できないわ」


 エルビーは手から魔物を引き離し地面に投げる。

 そこにすかさずノールが火属性魔法で焼き上げると言う流れだ。

 ノールも自分の腕に食いついているエルビーとは別の魔物を同じように焼いていた。


「おいしそうな匂い! いっただーきまーーすっ……ん?……うっ……おえええええええ……まっず…………何よこれ! 美味しそうなの匂いだけじゃないのよ」


 豪快にかぶりつくエルビーだったがよほど不味かったらしくすべて吐き出していた。

 ノールはエルビーの様子を見ながら、今度は自分が仕留めた獲物に目を向ける。

 特においしそうな匂いはないがどうだろうか、そんな心配をしつつ慎重にかぶりついた。


「これ美味しい」

「え? うそ……」


 じっと見つめてくるエルビーをよそ目にパクパクと食べていくノール。

 じゅるりとエルビーは垂れたよだれを拭う。


「一人だけでズルい!」


 エルビーはそう叫ぶと魔物の姿焼きをノールから奪い取り大きくかぶりつく。


「うぉぉ!? うまっ!」

「それ僕の……」


 エルビーは食べながら穴のほうを指さす。

 返してはくれないだろうと悟ったノールは仕方なしにまた穴に手を突っ込み魔物が食らいつくのを待っていた。


「はあ……何の話だったかしら」


 遠目に繰り広げられている信じがたい光景を見て呆気に取られていたラフィニアだったが、まだ話の途中だったことを思い出す。

 巨大な虫にかぶりつくという、いまだ脳裏に浮かぶ光景を頭を振って追い払おうとする。


「おお、そうだった。 ラフィニア、ノールたちのことはさておき今回のビオラルタルの行動、お前さんはどう思う?」

「と言うと?」

「俺たちは何度かここを通っているがあんな光景は初めて目の当たりにした、それについてお前さんはどうかと思ってな」

「私も驚いたわ、ただそうね。 獲物を狩ると言う目的にしては過剰な反応だったようにも感じるのよね。 まるで……そうまるで食べられまいと必死に抵抗しようとしているかのようだったわ」

「ほう、それは面白い見解だな。 しかしなるほど、言われてみれば合点の行く話だ」

「なあ食べらないようにしたいなら巣穴から出てこなけりゃいいんじゃねえの?」

「リックよ、だからこそ過剰な反応なのだ。 巣穴に籠っていることさえ出来ぬほど身の危険を感じてしまったと言うことなのかも知れん」

「ふふっ、ふふふふふふ……」

「なんだラフィニア、どうした?」

「ビオラルタルもあの子たちの何でも食べようとするところが怖かったのかもしれないって思ったらおかしくおかしくて」

「野生動物の勘はすごいらしいからな、植物だし魔物だけど」


 そんな話をしていると勇者パーティが近寄ってきた。


「あのラフィニアさん、ちょっとよろしいかしら?」


 プリシュティナのほうから自分に声を掛けてくることがあるとは思わずラフィニアは少し驚いてしまった。


「え? 私? 何かしら?」

「先ほどは助かりましたわ、まさかあれほどの魔物がいるのだとは思っても居ませんでしたの、それまでが弱い魔獣だけだったと言うのもありますけど」

「あれは仕方がないわよ、私たちだっていろいろ驚きっぱなしなぐらいなんだし」

「しかしあの二人の子らも予想以上に強いのですな。 ビオラルタルの触手を一瞬で焼き払ったのにはお見事でした、魔法使いとして素晴らしい素質をお持ちのようで」

「あれぐらい知っていれば私にだってできたわよ! それに聞こえていたわよっ! フレイヤワンド持っていたんでしょ、だったらあれくらいできて当然だわっ!」

「あぁいやリィベルよ、お主を悪く言うつもりではなかったのじゃが……」

「何さっヴァムまで……」


 リィベルにとってそれは屈辱的なことだった。

 悲鳴を上げた挙句に気を持ち直してなんとか戦闘に参加したのに、焦る気持ちを抑えられずに魔法のほとんどを当てられなかったと言う結果に終わった。

 駆け出しの冒険者であればその程度当たり前のことではある。

 だがリィベルは冒険者ではない。


 聖王国には魔法共生国(レイアスカント)の魔法学園と並ぶ有名な学校がある。

 もっともレイアスカントのように魔法使いに特化した学校ではなく、騎士や従騎士などを育成し、または貴族としての品格を磨く貴族のための学校と言うのが正しい。

 魔法学園との違いは他にもあり魔法学園が平民も広く受け入れるのに対して騎士学校には貴族であることが入学の条件となっている。

 そんな騎士学校で在学中は常に首席という地位を保持し課外授業として行われた森での魔獣討伐においても周りから天才と言われるほどの逸材だった。

 そのまま首席で卒業を果たし父が務める神務局に入るつもりでいた矢先、その父の勧めで勇者のパーティに入ることになったのだ。

 もちろんそれ自体が問題ではない、英雄と言う称号はこの国において言えば何物にも代えられない名誉でしかないのだから。

 そんな彼女のプライドは自分よりも年下の子供にポキリと折られてしまった。

 正式な勇者パーティでなくとも、勇者に同行し素晴らしい成果を生み出した子供と何の成果も生み出せない自分。

 天才と言われた自分よりもさらに上の才能を持った子供が、自分よりも年下だと言うのが何より気に入らない。


「ともかく、ラフィニアさんがわたくしの窮地を救っていただいたのは事実ですわ。 それと出発前には少し嫌な態度を取ってしまったと反省しておりますの。 わたくしのせいで新しい防具に傷をつけてしまいましたし、どうお詫びをすればよろしいかしら?」

「防具なんてそんなものなんだし気にしなくてもいいわよ」

「そうはいきませんわ、せめて何かお役に立てるものでもありましたら……あっそうですわ、ではこれを――――」


 プリシュティナは自身がしていた首飾りを外しラフィニアへと差し出す。


「聖王国で司祭様からわたくしたち全員に渡された物ですの、女神の加護があるとのことですけど、もしよろしければ貰っていただけないかしら」

「いや待って、そんな貴重そうなもの貰えないわよ」

「どうかそう言わずに、それにデザインもわたくしに似合っているとは言いづらいですの、ちゃんとしたお礼は後日と言うことで今はせめてもの気持ちとしてこれを受け取ってくださいな」

「んー……」


 どうするべきかと悩むラフィニアにリックが後押しする。


「いいじゃねえかラフィニア、本人がくれるって言ってんだし。 身を守る力は多くて困ることはないぜ?」

「そうね、なら頂くとするわ」


 ラフィニアは細かい装飾が施された首飾りを受け取ると自身の首に飾り付ける。


「さて、それじゃそろそろ今後の話をさせてもらおうか」


 離れた場所で釣りをしているノールとエルビーを呼び戻し、ミルドが真面目な表情で話始める。


「これから下層を目指す、そうそう魔物らと遭遇することは少ないと思われるが、俺たちの目的が通り抜けるだけだと言うことを忘れないでくれ、以上だ」

「ずいぶんと分かりやすい作戦ね」

「細かく説明しても覚えきれまい。 重要なのは目的を忘れるな、と言うことよ。 さあ行くぞ」


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