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勇者リオン

 リックの実家である武具店を後にして、ノールたちは宿で数日後に開かれると言う会食まで待つことにした。

 その間は簡単な依頼を受けて過ごす、例えば迷子になった使い魔(ペット)探しと言うような聖都の中だけで済む依頼だ。

 なぜそういう依頼を受けたのかと言えば同時に聖都巡りも出来るからである。

 滞在三日目の夜、明後日の夜に会食があるとラフィニアからの伝言。

 たった三日だったが合計で十六匹の迷子を見つけたことは聖都の冒険者ギルドに前代未聞の偉業として名を刻まれることとなった。

 そのタイトルは『恒例、ギルド職員が選ぶ素敵な冒険者さん ~なんと!たった三日で十六匹の迷子ちゃんを保護!~』である。


 会食当日の朝は一度全員でフォントラッド商会に集まった。

 フォントラッド商会はラフィニアやノールたちを招待したということもあり、今回そのまま後ろ盾となることにしたらしい。

 おそらくそれは口実でフォントラッド商会を通じてエインパルドと連絡を取るためだろう。

 ラフィニアも「私たちから直接連絡を取るのは何かと問題ありそうだし」と言っていたし。

 合流した後はフォントラッド商会が用意した馬車で王城に向かう。


 貴族街への門は厳重に閉ざされていた。

 門を守る兵士に商会の人間が声を掛けている、手には手紙のようなものを持っているが招待状なのだろう。

 しばらくすると重そうな扉がゆっくりと開き始める。

 扉が完全に開き切ると馬車は動き出し門をくぐった。

 聖都の町並みはと言うと大通りはいろいろな建物が隙間なく建っていて雑多な感じであったが、貴族街の中は建物同士が離れているし木が植えられていたりとすっきりした感じがする。


「王城近くには上級貴族の屋敷があるわ、そして貴族門……えっとさっき通った門の近くには下級貴族の屋敷があるのよ」


 そういえばネリアは上級貴族の子だと聞いた気がする。

 つまり本来はここに住んでいるのだろう。

 馬車はコトコトとゆったり進みやがて王城の門までやってきた。

 貴族門と違い城門は閉じておらず自由に出入りできるようにもみえるが、貴族門と同じように兵士がいて馬車は招待状を見せなければ通してもらえないようだった。


 招待状を確認すると馬車は豪華な造りの城門を通り抜け中へと入っていく。

 中は一段と広くなっており馬車はそのまま城の入り口前へと進む。

 馬車の扉が外にいる人間によって開けられ、馬車を降りるとそのまま入口へと向かうラフィニア。

 ノールやエルビーもそれに付いて行くとラフィニアが入口の手前に佇む二人組を目にして立ち止まった。


「やあ久しぶりだねラフィニア。 君が冒険者になると言い出した時は驚いたけど、今こうしてみると中々様になっているじゃないか」

「私はどうせすぐあきらめて戻ってくると思ってたんだけどね、今じゃAランク冒険者だものね」

「ノックスにレミア、どうしてここに?」

「君が招待されたと聞いて案内役を買って出たのさ、君だってそのほうが都合がいいだろ? 立ち話もなんだ、歩きながら話そう」


 どうやら昔の知り合いらしい。

 昔のラフィニアはどうだったとか、誰々は今なにをしているとかそういう話をしている。


「私としてはあなたたち二人がこうして一緒にいることのほうが驚きなのだけど? あの時は顔を合わせればいつも喧嘩していたじゃない?」

「いやいや、配属されたときはまだ喧嘩ばかりしてたよ」

「そうそう、でもね、新人だしお仕事的に身内で喧嘩している余裕がなくってね。 気が付けば協力体制が整っていたってわけ」

「ふーん、人って環境でここまで変わるものなのね」

「当時はお互いに誤解していたって言うのもあるんだよ。 一緒に仕事しているうちに内面的なことも見えてきて、あああの時はそういうことだったんだってね」

「あと変な誤解と言うか勘繰りはしないでね、私もノックスもお互い別々の人と結婚しているから、ほら」

「え゛ッ……」

「ちょっと何よその反応、今日一の驚きかたじゃない? だいたいラフィニアのほうはどうなわけ? 後ろの彼とか、そういうのなのかしら? フフッ」

「ああ、あれは弟みたいなものよ。 手がかかるといったらありはしないわ」

「あ、ああ……そうなの……」

「何?」

「いいえ、ラフィニアは昔から変わらないわねえと思っただけよ。 そういえば弟さんや妹さんは元気?」

「さあどうかしら、会ってないから分からないわね」

「ラフィニアさあ、過去ばかり見てないで少しは自分の未来も見据えたほうがいいんじゃないか? 言われたくないのは分かるけど、さすがの俺でも心配になるよ」

「そんなの……無理よ……」


 ラフィニアの絞り出すような声にノックスとレミアは互いに顔を見合わせる。

 それから少しの間、沈黙が流れた。

 その沈黙を破ったのはノックスだ。


「なあラフィニア、たまには顔出せよ。 俺たちはもちろん、君の両親だってすごく心配していたぞ。 時々でいいから会ってやれ、本当に感謝しているって言うならな」


 ラフィニアにとってそれは耳が痛い言葉だった。

 別に意図して避けているわけではないし、実際のところまったく会っていないと言うわけでもない。

 ただ目的を優先している結果、後回しにしてしまっているだけ。

 ノックスの言葉の意図はすごく伝わってくる、家族に会えと言うのは家族のためではなく、要するに復讐に費やす時間を少しでも自らの幸せに使えと言うことなのだ。

 そう、あくまでラフィニアのためを思って言っている。

 それが分かっていても今のラフィニアにはどうすることも出来ない。


「君たちの席はここだ、じゃあ俺たちはここまでだから」


 あれこれ考えているうちにいつの間にか席にまで着いていたようだった。

 丸いテーブルに椅子は4つ、ちょうど人数分である。

 テーブルの上に料理はまだ並んでおらずそれを見たラフィニアは少しだけほっとした気分になっていた。

 その代わりにノールは少しだけ残念な気分に、そしてエルビーは分かりやすく不機嫌に。

 ラフィニアは去ろうとしたノックスたちを慌てて呼び止める。


「待って」


 呼び止められたノックスたちに若干の笑みが浮かぶ。


「ノックス、勇者様はもう来ているのかしら?」

「なんだよそっちかよ」「はあ……ラフィニア……」

「え? 何?」


 ノックスは少しだけ期待していた、呼び止めたラフィニアから感謝の言葉が聞けることを。

 レミアは期待していた、それが変わっていくかもしれないきっかけになればと。

 

「いや、なんでもないよ。 勇者たちなら――――」


 ノックスは離れたテーブルのほうを指さす。


「ほら、あそこで貴族と話しているのが勇者リオンだ。 隣にいる女はプリシュティナ、魔剣士だな。 近くで席に座っている小柄な少女が魔法使いのリィベル、ちなみに自称賢者だそうだ。 隣のご老体は神官のヴァム、最後は戦士のスコピエ。 それぞれ名前も初めて聞く者ばかりで実力のほどは不明だが、まあ神務局が選んだお墨付きメンバーだし大丈夫だろうさ」

「内務局からも冒険者チームが出されているって聞いたけど……」

「ああそれならあっち、たしかミルドと言ったかな」


 ノックスが指さすほうにいたのは三人の男、大柄な男に長身の男、もう一人もさほど小さいわけではないが他の二人に比べるからか小さく見えてしまう。


「ラフィニア、このまま話をしていたいが、他にも仕事押し付けられてしまっているからここで失礼させてもらうよ。 何かあったらいつでも頼ってくれよな」

「ええ、ありがとう。 ノックス、レミア、また連絡するわ、今度は昔の話でもしながらゆっくり飲みましょ」


 最後の最後でラフィニアの「ありがとう」という言葉が聞けたことに少し満足そうな顔をするノックス。

 ラフィニアのほうから誘ってくれたことに少しだけ変化を感じることが出来たレミア。

 二人はやはり互いに顔を見合わせ、今度は嬉しそうに笑った。


「ラフィニアは酒飲めるようになったのか、それは楽しみだな」


 ノックスの言葉に「少しだけね」と返したあと軽く挨拶を交わし二人はその場から離れていく。

 すると二人がいなくなるのを見計らっていたかのように、そのミルドと言う男と他の二人が近づいて来た。


「おぅリック、久しぶりだな。 ってなんだ、知らぬうちに子持ちになったのか、ガハハハ」

「バカかお前は、この二人も冒険者で今回は訳があって同行することになっただけだ」

「よぉリック」

「リック久しぶりだな、ミルドの笑えない冗談はおいといて。 気を付けろよ、さっき少し話したんだが勇者パーティは厄介者揃いだったぞ」

「ああ、久しぶりだラジにザリオ。 で? ラジ、それはどういう意味だ?」

「なぁに、話してみればわかるさ」


 それまで貴族たちと話をしていた勇者パーティだが、ミルドたちが話しかけたことで気づいたのだろうか貴族の一人がこちらを指さす。

 貴族たちに会話を促されているのだろうか、何やら話をした後に勇者たちが近づいてきた。


「俺はリオンと言います、あなたたちも今回同行されると聞きました。 えっと、よろしくお願いします」

「私はラフィニアよ、よろしく」

「おいおい、なんだよく見たら家族連れか? ピクニックとでも勘違いしてるんじゃねえか、なあおい?」

「えーちょっとリオン、私たちこれからあの大迷宮に向かうのよ? なのになんであんな子供がここにいるの? これは遊びじゃないって分かっていないみたいね」

「スコピエもリィベルも失礼だろ……」

「失礼って何よ、ふんっ!」

「誰がいたって大丈夫ですわ、だって勇者リオン様がいるのですもの、ね? リオン様」

「え? ああ、そんなことは、ないと思うけど……」

「まあ、リオン様ったらそんな謙遜なさらずともよろしいのに」

「子供って、あの子もそんな変わらないわよね」

「うん」

「ちょっとあんたたち、聞こえてるわよ! 私はもう子供じゃないの! 反逆者ミハラムがいなくなった今、私こそが聖王国の大賢者にふさわしいの! つまり私が大賢者ミューリの生まれ変わりなのよ!」

「いつの間にか賢者から大賢者にクラスアップしてるわね」

「うん」

「だから聞こえているっての! 私たちは選ばれし勇者様の従士、つまりは英雄なの! ちゃんと敬意をもって接しなさいよ!」

「これこれリィベル、少しは落ち着かんか」

「ヴァムは甘すぎだわ、これだからガキって嫌いなのよ。 英雄の私に失礼な態度! だいたいガキ連れてくるなんて大迷宮がどれほど危険な場所か分かってなさすぎ。 こういう時ははっきり言わなきゃ」

「リィベルの言うことも最もですけど、もともとはわたくしたちとそちらのチームだけの予定でしたし、実力が不足していると判断されたなら辞退して貰うだけのことではなくて?」

「プリシュティナがそこまで言うならまあいいわ、けど怖くなって泣いても助けてはあげないからね、せいぜい邪魔だけはしないでよね」

「まったくだぜ、足手まといは勘弁してくれよな」


 口々に言うだけ言うと勇者パーティは自分たちの席に戻っていった。

 小さい魔法使いが貴族相手に喚ているのが聞こえてくる。


「な? ひでえだろ」

「なるほど、たしかに厄介そうだ」

「それにしても聞いた噂と全然違うのはどういうことかしらね」

「あああれか、まさかの聖法衣をまとった老人だけが正解とはな」

「噂? いったい何の話だ?」

「お前たちは知らないのか? 聖都に来る途中の村で勇者の話聞いたんだがよ、勇者様は大斧を軽々操る大男だとか、慈愛に満ち溢れた見目麗しい聖女様だとか、気弱で可憐な美少女魔法使いだとかいろいろな勇者様の噂が流れてたんだよ」

「そんな噂流れてんのか。 けどあのスコピエって男はただの大剣使いらしいぜ。 それに大男ってんならミルドのほうがしっくりくるわな」

「気弱な魔法使いも居なかったしな、ミハラムがいなくなったからって自分が英雄の生まれ変わりだって言う謎理論にはさすがに驚くぜ」

「だがあのプリシュティナって女もなんだか勇者誑かしている悪女って感じで悪くはないぜ? ぐへへ」

「ザリオ、そういう話は今していないんだが相変わらずお前は女の趣味が悪いのな」

「リック、人の趣味を悪く言うんじゃねぇよ。 せっかく昔の誼でちょっと忠告してやろうと思ってたのによ」

「忠告? なんだそれは」

「へへっ、知りたいか?」

「もったいぶるならいい」

「んああそういうなっての。 実はな、俺らの間で噂になっていることがあるのさ」

「噂?」

「ああ、お前らだって勇者の供となるメンバーがあんな連中でおかしいとは思わねぇか? 聞いて驚け、今回の調査ってのは名目でよ、本当の目的は誰かの暗殺って話さ」

「はぁ!?」

「ちょっバカヤロー、声が大きい」

「おっとすまねぇ……けど暗殺はさすがにありえなくないか? それ本当なのかよ」

「だから噂だっての、裏社会の話だし信憑性とかはあまり期待すんなよ。 けどもし本当なら同行する俺たちだって無事に返してもらえるとも思えねえだろ、だから注意だけはしておけ」

「ああ、そうだな……警戒はしておくさ」

「そろそろ退屈な話が始まりそうだな、俺たちはあっちに席があるんだ、失礼するぜ」

「おうよ、またな」


 壇上で作業している職員がざわざわと慌ただしくなる。

 おそらく関係者たちが到着したのだろう。

 まだ少し時間もあると見計らってラフィニアが尋ねる。


「彼らはリックの知り合い?」

「ああラフィニアは初めて会うのか。 最初のガサツそうな男がリーダーのミルド、見ての通りハルバードや戦斧が得意な奴だ。 隣の長身はラジと言って基本は剣で戦うが一部の魔法も使える。 で最後がザリオ、元盗賊って話だが今は足を洗って冒険者ってわけだな、俺の知る限り罠を見破る目は本物だ。 あいつらも全員Aランクで実力は俺が保証する」

「そう、内務局の推薦と聞いたから最悪私たちだけ孤立する可能性も考えていたけど、あなたの知り合いなら大丈夫そうね」

「あんまり信用するのも考え物だがな。 俺たちより先に決まっていただろうから俺たちに何かするために雇われたってわけじゃねえだろうが、あいつらに裏切るつもりがなくても結果的にそうなる可能性だってあるしよ」

「ええそれについては注意するわ、個人的にあからさまに敵対行動取られるのは面倒だなと思っただけよ」

「その点あの勇者パーティは満点だったな、悪い意味で」

「けど……ちょっと感心したわ」

「おいおいラフィニア、あれのどこに関心出来る要素あったんだ?」

「違うわよ、こっちの二人のこと。 エルビーちゃんなら売り言葉に買い言葉で喧嘩でも始まるかとちょっと焦りもしたのだけど」

「ラフィニアはわたしのことなんだと思ってるの? 勝つと分かり切った勝負なんて面白くもないわよ」

「抑えていた理由はそっちなのね、彼らが強者つわものじゃなくて良かったわ」

「でもよ、自称大賢者にして英雄の一人を相手にその自信はさすがだな」

「悪魔に喧嘩を売りに来たぐらいなんだから当然なんじゃないかしら」

「ああそうだった……」


 壇上に数名の人間が現れる。

 外務局局長のエインパルドを始め、内務局局長ヴィクトルと神務局局長オズウェル、そしてステラヌス枢機卿にクレヌフ最高神官長、さらになぜかドルドアレイク辺境伯。


「ドルドアレイクって聖王国の南よね? なんでそんな人があそこにいるのかしら」

「さあ? 勇者がそこの出身とかなんだろ、きっと。 というか聖王様はいないんだな」


 その勇者パーティが壇上に呼ばれた。

 2000年ぶりの勇者誕生という話題は聖王国内だけでなく周辺国家にも大きな波紋を投げかけていた。

 勇者の誕生とはすなわち大きな災厄の発生を意味している。

 しかし聖王国内でそういった危機感を抱く者は少なく、国中がその報告に歓喜し湧きだっているのだった。

 

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