8、キャロルの誤解
翌日、キャロルは朝早くに目覚めてしまいました。枕越しに隣を見ると‥長かった髭を剃り、さっぱりとした様子のワイルドセクシーな美青年が寝ていました。
「‥はぁ、急に変身とかやめて欲しい。それに私に対する態度まで変えてきて‥。これまでの旦那様とはまるで別人じゃないの‥。」
キャロルは、まるで別人のようなガナンとどう接すればいいのか困惑していました。それに‥
「侍女のマリーとは長いお付き合いなのかしら。彼女とは以前からだいぶ仲が良かったみたいだし。‥マリーは旦那様の愛人だったりして、なんて‥まさかね‥。」
窓から下を覗くと、侍女のマリーがちょうど洗濯物を干していました。マリーはキャロルよりも少しだけ歳上の落ち着きのある女性で、優しそうな素敵な女性でした。
キャロルは勇気を出し、マリーに直接旦那様との関係を聞きに行きました。
「‥おはよう、マリー。」
「若奥様、おはようございます。」
「‥あの、変なことを聞いてもいい？」
「‥？どうぞ。」
「マリーは旦那様の‥その‥良い人なの？」
「‥え？」
マリーは驚いた顔をして止まってしまいました。
「‥あっ、別にマリーの事を責めようとかそんな事は思ってないのよ。マリーは私にとっても大切な侍女だし。その‥何というか‥。」
キャロルはマリーのその反応の意味が分からずにいました。変な事を聞かれて単に驚いているだけなのか、それとも旦那様の愛人なのがバレて驚いているのか‥。
「若奥様！とんでもない勘違いをしていますよ。」
「‥えっ、でも‥旦那様はマリーの事を‥。」
「若奥様‥少しあそこの木陰に隠れて私とガナン様のやり取りを直接見ていて下さい。」
マリーはそう言って、キャロルを強引に大きな庭木の後ろに隠してしまいました。
「‥何かしら、何が始まるの？」
キャロルはマリーに言われた通りに木に隠れて待っていました。
すると‥ガナンが園芸鋏を手にしてやってきました。マリーに近づき笑顔で話しかけています。
「‥おはよう、マリー。昨日は色々とありがとう。」
「いいえ、お役に立てて光栄です。それで、どうでした？」
「‥うん、こざっぱりして自分の外見に自信がついたのか、奥さんに自分から話しかける事が出来たんだ。‥ただ、奥さんの体調が悪くて‥肝心の話をする事は出来なかった。」
「そうですか‥。」
「まあ、またチャンスはいくらでもあるだろう。まずは奥さんに最初の頃の失礼な態度を詫びて、その後に少しずつ会話ができるようになればいいかなって思ってる。」
「‥若奥様をデートにお誘いしてみては？」
「絶対に断られるだろうな。‥こんな俺なんかとデートなんて‥。」
「ガナン様、断られる事が怖いから誘わないなんて‥‥男性側から誘わないと、いつまで経ってもデートなんて出来ないんですよ！」
「分かった。ありがとう、マリー。」
ガナンはそう言って庭の奥のハーブ園へ行ってしまいました。
「‥若奥様、もう出てきても宜しいですよ。」
マリーに呼ばれてキャロルは木の後ろから出てきました。
「これで分かってもらえましたか？ガナン様は若奥様と仲良くなろうとして、まずは外見から変わろうと頑張ったのです。」
「‥ええ。マリー、疑ってごめんなさい。」
「フフフ。私はこう見えても、ガナン様より少し歳上ですの。それに大きな子供が二人もいますのよ。」
「‥‥嘘みたい。本当に？」
「ええ。それに‥恥ずかしい事に、この私の見た目の若さは、このお屋敷の七不思議の一つにもなってるようなんです。」
「七不思議‥と言う事は、まだ私が驚くような事があと六つもあると言うの？」
「はい。良ければ探して見て下さいね。」
マリーはそう言って仕事に戻ってしまいました。
キャロルは、マリーがガナンの愛人ではないと知って安心したものの、依然としてガナンとどう話せば良いのか分からずにまた悩むのでした。
