13、ロザンナの来訪
ロザンナの来訪から三日後、再びロザンナがやって来ました。相変わらずなんの約束もなしに強引に屋敷に上がりこんで来たのです。
「‥ねぇ、ガナンはどこにいるの?」
ロザンナは応接間のソファーに腰掛け、焼き菓子をつまみながらキャロルに気安く尋ねてきました。
「‥あなたに教える義理はありません。」
「あんた、生意気な女ね!‥ガナンってば本当に女を見る目がないんだから。」
「ええ。私もそれには同感です。昔のガナンの女の趣味は最悪だとしか言いようがありません。」
「‥何あんた‥私の事を馬鹿にしてんの?」
「お気を悪くされたんなら、どうぞお帰り下さい。それに‥今後は約束も無しに来られましたら、屋敷には入れませんのでご了承下さい。」
「‥‥そう、分かった。今日はもういいわ。」
ロザンナはそう言って部屋を出た後、何やらキョロキョロしながら歩いていました。
「‥何も触らないで下さいね。」
ロザンナの背後からキャロルが声をかけると、ロザンナがビクッとしました。
キャロルはロザンナが金目の物をこっそり盗んでいくのではないかと疑い、あとをついて来てたのです。すると、案の定廊下に飾っておいた金細工の置物にロザンナが手を伸ばしたので、キャロルが声をかけたのです。
「‥何よ、少し触ろうとしただけじゃない。」
「触らないで下さいと申し上げました。」
ロザンナは、キャロルの毅然とした態度にも動じずに、不敵な笑みを浮かべてキャロルの側まで歩いて来ました。
「‥‥あんた、ガナンと知り合ってまだ一年未満でしょ?ガナンと私は何年も付き合っていたのよ。‥ガナンにとって私は初めての女なの。だからガナンにとって私は特別な女なの。‥分かる?」
ロザンナはそれだけ言うと満足そうに帰って行きました。
「‥エリ、私の部屋へお茶の用意をしてちょうだい。また例のお茶会をしましょう。」
キャロルがそう言うと、エリは手際良くお茶の準備をして、すぐにキャロルの部屋へとやってきました。勿論マリーも連れて。
キャロルは二人にソファーに座るよう勧めるとすぐさまロザンナの話題を出しました。キャロルは二人に愚痴を聞いて貰おうと思ったのです。
「‥もう、ロザンナってば何なの?感じが悪いったらありゃしない。」
「‥ロザンナ様は奥様を動揺させたいのだと思います。今この屋敷には奥様しかいない事を知ってるようなので、今のうちに奥様を動揺させて、奥様が屋敷を出て行くよう企んでいるのでは?」
「つまり‥皆んながいない間に私をこの屋敷から追い出そうとしてるって事ね。」
「‥はい。」
「‥ロザンナ、きっとまたすぐに来るわね。困ったわ‥旦那様がいないのに勝手に子爵家へ苦情も言いにいけないし‥。」
キャロルはロザンナがまた来る事をとても警戒していました。ロザンナは訪れる度に、金目の物を盗もうとしますし、それに‥キャロルの知らないガナンの話をするからです。今度ロザンナが来たら何を言ってくるのか‥考えるだけでとても嫌な気持ちになりました。
キャロルが黙って考え込んでいると‥、いつもは黙って話を聞いてるだけのエリが、口を開きました。
「‥奥様、私の友達がモールス子爵家で侍女をしてるので、彼女と会って色々とモールス子爵家やロザンナ様の事を探って来ます。何かロザンナ様の弱みを見つけて来ます!」
「‥エリ、あなたの口から『弱みを見つけて来る』なんて言葉を聞くとは思わなかったわ。」
キャロルが驚いていると、エリは握りしめた拳を胸に当てて言いました。
「だって、いくら屋敷の中に大奥様達やガナン様がいないからって‥奥様の前であんな無礼な態度をとるなんて許せません!」
「‥同感です。私もロザンナ様にはもう少し立場というものを弁えて欲しいですし‥何よりも奥様を馬鹿にした態度が許せません!」
「マリー、エリ、ありがとう。」
キャロルは二人の手をとり、心から感謝をしました。
そして、ロザンナに対して心の中で宣戦布告をしました。
『さぁ、ロザンナ。いつでもかかってらっしゃい!』
キャロルはあんなに嫌だったロザンナの来訪が、二人と話すうちにいつしかとても楽しみになったようです。




