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あなたの仰せのままに  作者: みるみる
10/18

10、ガナンとのデート


ヴィンセント男爵家にキャロルの父が乗り込んで来てから数日が経ちました。


結局キャロルの父は、ガナンに全ての領地を売って爵位も失ったようです。その代わりにその領地の管理人となり、お給金を頂いて生計をたてる事ができるようにして貰ったそうです。‥勿論ヴィンセント家の監視付きで。


ちなみに元々いた管理人は、一日中お酒を飲んでろくに仕事もしていなかったので、すぐにクビになったそうです。


領民達は、領主や管理人があてにならない為自分達でしっかりと組合を作って、領地を運営していたようです。


新たにライン伯爵領の領主となったガナンですが、領民達の組合をしっかりとした組織にした上で、領地を領民に分配したようです。


領民達は、自分達の稼いだ分の一割だけを領主に納めれば、あとは全て自分達の儲けになると知り、喜んで働くようになりました。



「旦那様、何から何までありがとうございました。」


「‥キャロル、俺にできる事をしただけだ。気にする事はない。‥それよりも早く出かけよう。」


「‥デート‥でしたね。」


「‥デートといっても、買い物や食事をするだけど‥。」


キャロルはガナンのぎこちないエスコートで馬車へ乗り込みました。


二人は馬車の中でも互いに窓の外を眺めてろくに会話もしませんでした。互いに何を話せば良いのか分からなかったのです。



馬車をおりて街で買い物をする時も、元々物欲のない二人でしたので、屋敷で飲む紅茶と数冊の本を買うと、どの店にも寄らずに時間を持て余して、とうとう広場のベンチに腰掛けて、互いに購入した本を読み始めてしまいました。


お付きの者は、そんな二人を見て歯痒い思いをしていました。


「お二人とも、本なんか読んだら益々会話が無くなるじゃないですか‥。まったく!」


馬車を運転してきた御者も、それには同意しました。


ところが、この読書‥二人にとっては良い会話の糸口になったようでした。


「‥キャロルは何を読んでるんだ?」


「これですか?今流行りの『猫猫令嬢、女王となりましたが、ニャにか?』ですよ。旦那様はご存知ないですか?


私もまだ半分も読んではいませんが‥あらすじを簡単に話すと、この猫猫令嬢‥実は猫の生まれ変わりなんです。前世猫だった知識を生かして人間界の女王にのし上がっていく下克上物語なのです。‥気になるなら、私が読んだ後に貸しましょうか?」


「とても面白そうだな。是非貸してくれ。」


「ええ、喜んで。‥‥ところで旦那様の本は?」


「これか?これは『不思議な花図鑑』なんだ。世にも奇妙な花や植物が沢山紹介されている。特にこの『マンドラゴラ』や『ガジュマル』なんてロマンチックだろう?ちなみにガジュマルには『キジムナー』という精霊が住んでいると言われてるんだ。見てごらん。」


「‥わぁ、綺麗な絵が沢山ついてますね‥。えっと‥これがガジュマル?」


「そうだよ。‥書斎に置いておくから、キャロルの好きな時に読むと良いよ。」


「‥ありがとうございます。」


ガナンは懐中時計を取り出して時間を確認しました。


「‥そろそろ予約した時間に近づいたようだな。‥歩いて行こうか。この近くなんだ。」


ガナンがキャロルの手を取り、歩幅をキャロルに合わせてゆっくりと歩き出しました。



キャロルは繋がれた手に神経が集中して手汗をかくことを恐れて、気を逸らす為に横に立つガナンを改めてじっくりと見る事にしました。これまではガナンが嫌がるのではないかと思い気を遣って、あまり顔を見ないようにしてましたから‥。


ガナンの横顔は、正面から見た時よりも彫りの深さが際立って見えました。‥濃い眉毛と大きな瞳と長い睫毛は少し煩い感じはありましたが、総じてガナンはやはり美男子だったのだと、キャロルは改めて思いました。



ガナンの外見の変化は、ガナンの内面にも変化をもたらしたのか、キャロルに対する態度まで急変させてしまったように、キャロルには思えました。


キャロルは、ガナンが何を考えているのか、結婚当初に冷たい態度を取ったのはどうしてなのかを、今日こそ聞こうと思っていました。


一方のガナンも、今日こそはキャロルに自分の結婚当初の失礼な態度を謝罪し、自分の本心を話そうと思っていました。



二人はお店に入り食事の席につくと、静かに深呼吸をしました。



二人のまわりには異様な緊張感が漂っていました。二人の両隣のテーブルのカップルも二人の事が気になるのか、チラチラと見てきました。



あの二人はこれから別れ話をするのか、はたまたプロポーズをするのか興味深々のようでした。


まさか自分達がまわりの注目を集めている事に気付かないキャロルとガナンは、相変わらず深呼吸を続けたり、相手に最初にかける言葉を頭の中で繰り返し確認したりして、相変わらず無言のまま向き合うのでした。

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