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主人公

更新が遅くなってしまい申し訳ございません。仕事の方が残業が続いてしまい執筆時間がとれず遅れました。

もっと時間配分きちんとしたいと思います。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




乙女ゲームの主人公、プレイヤーでありながらしっかりとビジュアルが描かれ、フルボイス対応であるが故、彼女にも声がついていた。

ストロベリーブランドの淡いピンク色の髪に落ち着いた茶色の瞳。大きな瞳は少し垂れていて愛らしい。少し焼けた肌は、荒れた感じはなく健康的で血色の良さがわかる。


目を奪われる程の美少女、という程ではないが、普通に可愛い少女だと思う。


ゲームのシステム上、容姿を磨く事もステータスに割り振られており、育成によっては女神のような美しさ、という褒め言葉が貰えるようになる。だから、学園に入学したての時は可もなく不可もなくって友人となる令嬢に言われるのだ。

確か大きな商会の娘で、商会長である父親が功績を挙げた事で爵位の褒美を受けて男爵になったって話だったはずだ。それがきっかけで学園に入学するって前振りがあったから、クラディスと同い年であるはずの主人公は私と同じ六歳。

ゲームのOPにもなっていた初恋の思い出は、五歳の年末祭だから、初恋の相手とは既に会っているはずだ。


この主人公は、誰と出会ったのだろう。


「ぶつかってしまって本当にごめんなさい!」


ミラから距離を取った主人公は、大きな袋を両手で抱えていた。小さな体でもしっかりと持っている様子からそんなに重量はないのだろうが、その大きな袋で足元が見えないまま走ったから転んだのではないだろうか。


「いや、ケガはしていない。急いでいるなら、僕らの事は気にせず先を急いで」


「でも…」


「クラディス、いいのか」


「うん。謝罪もお礼も何もいらない。だって誰にも被害はないから」


「それでいい?」とエドバルドとミラに視線を向けたクラディスは、いつもと違って冷淡に感じた。

ゲームのクラディス程ではないにしろ、彼女を避けるような物言いに感じた。

エドバルドは、クラディスの判断に任せる様だ。それ以上は何も言わず頷いただけだった。


本当なら貴族、それも辺境伯爵という上級貴族の子息に平民がぶつかるなど───メイドの機転で回避されたとはいえ───上辺だけの謝罪ですむものではないはず。

レストランでの特別扱いを思い出せば、平民と貴族というのには、その身分差にかなりの溝があると『私』でも想像ができる。

でも、クラディスはそれを言葉の謝罪だけで済まそうとしている。

それは、優しさからなのか、それとも別の思惑があってなのか。


「ありがとうございます!私フリーダー商会のモニカです。何かあったら商会に言ってもらえたら伝わります!」


そう言い残して主人公───モニカは、人ごみの中走り去っていった。

商会の名を出せば伝わると思っている所を考えると、モニカの実家の商会は既に王都でそれなりの大きさなのかもしれない。モニカも六歳の少女にしては、喋りがしっかりとしていたようにも思える。

まさかイベントに関係なく主人公に会えるとは予想だにしなかったが、ゲーム通りのイメージだ。


素直で優しい主人公。

癖のある恋愛対象たちから信頼と愛を受け取る主人公。


「フリーダー商会でしたら、他国との貿易も行っている食品を中心とした商会です。旦那様か奥様にお伝えされなくてよいのですか?」


「僕は怪我をしていないし、これを理由に擦り寄る様子もなかった。わざとではないと思うから」


「クラディスと同意見だな。だが、母上には報告だけしておこう。彼女から商会が動く可能性もある」


モニカとは反対方向、最初の目的地であるクレープ屋を目指して再び歩き始めたものの、話の内容は先ほどのモニカとの接触に関してだ。


兄曰く、ポラーノ家の銀色の髪は、貴族の中でも特殊な色合いらしく、もしモニカが身体特徴を交えて商会の誰かに話せば、貴族とも親交のある商会長ならモニカが粗相をした相手がクラディスたちという事がわかる可能性が高いらしい。

もし商会長が優秀な人物なら、商会の人間の不祥事とも呼べる出来事も辺境伯家との繋がりに使う可能性がある、というのが兄とエドバルドの見解らしい。


いくらゆくゆくは辺境伯家、子爵家の当主予定といえど、若干10歳、13歳でそんな所まで頭がまわるのかと驚いた。

家での勉強がもちろんそういうものだとわかってはいるが、人の裏の裏まで読んで生きるなんてもっと大人になってからでもいいと思うのは『私』の感性なのかな。


「それにしてもクラディス、少し素っ気なくなかった?実はおこってるの?」


「え?そんな事はないけど…?」


「クラディスは人見知りだからなー。俺らと比べると素っ気ない態度に見えるかもな」


自分の事なのに不思議そうに首を傾げたクラディスの代わりに答えをくれたエドバルドは、笑ってクラディスの頭を撫でた。普段そういった二人の兄弟らしいスキンシップを見た事なかったが、照れながらもなすがままのクラディスの顔は嬉しそうに見えた。


私たちと朗らかに付き合うクラディスの様子に忘れていたが、ゲームのクラディスは確か極度の人見知りだった。

しかも、家族からの冷遇や教会での冷めた付き合いにより、孤独に苛まれたクラディスは人見知りを拗らせており、人嫌いと言ってもいい程だった。

全くの別人のように明るく優しい少年になってはいるが、根本の人見知りは同じらしい。


「でも、私たちには初めから普通じゃなかった?」


「いや、顔合わせの時は確かにほとんど会話した記憶がない」


「でも、お茶会に来てくれた時には今と同じ感じだった気はするわ」


兄も姉も私と同じようにクラディスと出会った頃を思い出しているようだった。

顔合わせの時は、やはり両親や主役である姉やエドバルドを中心に話をしていたし、私は目の前の美味しいご飯と姉の様子を観察するのに夢中だった。

それに、この世界(・・・・)の事を思い出したすぐで、頭の仲がごちゃごちゃしていてクラディスと話をするとか考えられなかった。といい訳しとく。


「みんなの事は、兄上からずっと聞かされてたから…いろいろ知った気でいたし、僕の魔力のことも心配してくれたって聞いて、嬉しくて僕もみんなと仲良くなりたいって思ってたから、だからだと思う」


「まあ!クラディスったら!」


「嬉しいこと言ってくれるな」


「可愛い弟ってこんな感じなんですのね」


クラディスの素直なデレっぷりに心を打ちぬかれた私は、思わず兄から手を離してクラディスを真ん中に据えて、クラディスの頭を撫でた。リリシュナとしては同い年だけど、やはり中身としては三十歳超えている意識があるから、どうしても弟の様に思ってしまう所がある。

それがこんな可愛い弟なんて最高ではないか。と、本能のまま可愛がったら、兄や姉も同じようにクラディスの頭を撫ではじめた。


困惑するクラディスをそのままに私たち三兄妹は、満足がいくまでクラディスの頭を撫でまくった。特に私と兄はクレープ屋に着くまで止められなくて、クラディスのサラサラな髪の毛をぐしゃぐしゃにしてしまう程構ってしまい、せっかく可愛くデレてくれたクラディスを拗ねさせてしまった。


「ローランド様、リリシャナ様、お二方ともいくら仲が良いとはいえ往来でクラディス様の身嗜みを崩すなど悪戯がすぎますよ」


注文した後クレープが出来上がるまでの間に私と兄を注意したのはハンナで、その隣でミラがクラディスの乱れた髪の毛をどこから出したのか小さな櫛で整えている。

元々サラサラストレートなクラディスの髪の毛は、さっと櫛を通すと元通りになっていたので心の中で少し恨めしく思った。

リリシュナの髪は、かなりの癖っ毛なのだ。くるくる唸った髪は見た目はふわふわ可愛いが、そうなるまでに整えるメイドたちの苦労はかなりのものなのだ。

まだ幼児期という事もあるせいか、髪質も柔らかくて絡みやすい。

多分この世界で貴族じゃなくなったら痛みまくってる。


「以後気をつける」


「淑女らしくする」


とりあえず反省の顔は見せねば、クレープにありつけない。クラディスにもやりすぎた事を謝り、ただクラディスへの愛情表現だったのだと釈明した。

そうしたら、兄から「俺の一番はリリーだからね」って抱えられた。そして、奇しくもそのタイミングで私たちのクレープが出来上がったのだが、兄は今度は離してくれなかった。


「お兄さま、クレープが食べれないわ」


「大丈夫。こうすれば両手が空くよ」


そう言って体勢を変えた兄の言う通り、私の両手が空いてしまった。兄の左腕が私の腰を支え、右腕が足の下、というかお尻を支えているため、私は座り心地は良くないが椅子に座っているかのように安定してしまったのだ。

両手が空けばクレープは持てるし、食べられる。

しかし、


「そうじゃない……お兄さまそういう事じゃないの……」


依然として恥ずかしくて食べづらいというのには変わらないのだ。


「リリシュナ、兄さんは下ろすつもりないよ」


諦めなよと言うクラディスの目は、哀れんでいるように見えた。ここでザマァ見ろって目で見ない辺り、クラディスの育ちの良さと人の良さがわかる。

これは、私が家族限定の羞恥心を捨てる時なのね。大丈夫。だって私今見た目は六歳だもの。

微笑ましい兄妹の姿のはず。


私は、羞恥心を守る事を諦めて、目の前のクレープにかぶりついた。口に広がるホイップの甘さとイチゴの甘酸っぱさがその甘さのくどさを調和してくれる。

クラディスが選んだホイップとバナナのクレープとも悩んだけど、イチゴにして正解だったかな。


「そういえば、魔道具のお店について何かきけたの?」


「あぁ、それはギブソンが聞いてきてくれた」


「失礼致します。近隣の店の方々曰く、お勧めなのは国一番と名高い魔道具師アゼリウス様のお店か、ここ数年斬新な魔道具で名を広めたロシューズ様のお店のどちらかのようです。ただアゼリウス様のお店は基本予約制のようですので、本日行かれるのならロシューズ様の西通りのお店がよろしいかと思います」


ギブソンの口ぶりだとクレープ屋の店員さんたちにだけでなく、他の屋台の人たちにも聞いてくれたようだ。その中で数多く声が上がったお店だけをピックアップしたのだろう。そこまで真面目にしなくても良かったのではと思うけど、そこまでしてくれるのがこのギブソンらしさでもあるんだよね。


「ロシューズ氏のお店は王都の騎士の巡回ルートにありますから、治安もいいですし、ロシューズ氏も国内の魔道具師からの評判の良い若手のホープですから、話も聞きやすいと思いますよ」


「ザハードはそのロシューズさんのお店、行ったことがあるの?」


「えぇ、知り合いの付き添いで、ですが。ロシューズ氏の魔道具は、生活に寄り添った平民でも手の届く範囲の価格の物が多いんです」


ニッコリと笑顔で言ったザハードのこの知り合いは、大体女性である。ザハードはモテるらしいのだ。

屋敷のメイドたちによると護衛騎士の中で一番モテるのがザハードで、遊んでいるのもザハードらしいのだ。これは、メイドたちの休憩室で盗み聞きした。


確かに顔は整っている方だと思う。オレンジがかった金髪を肩まで伸ばして後ろで一つに結んでいるのもザハードに似合って格好いいと言えるだろう。でも、軽い。軽いのだ。

私の好みとしては、刈り上げ短髪で真面目な門番さんがいい。いや、真面目かどうかわからないけど!いや、真面目だからプレイヤーである(女性)への褒め言葉言うのにも照れたりしたはずなんだ。


「という事なんだけど、クラディスいいか?」


「もちろん!魔道具師ロシューズといえば、ライトの発明や魔力陣の簡略化や縮小化と言った魔道具師の技術の発展に貢献した魔道具師を輩出した有名な一族の人なんだよ!」


目をキラキラ輝かせてわくわくしているクラディスの年相応(六歳らしい)な様子に、お店についてたくさんの魔道具に囲まれたらどれだけその目を輝かせるのだろうと楽しみになった。

可愛い美少年がクレープ片手に目を輝かせてる姿は眼福だわ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



モニカちゃんは転生少女ではなく、本当に普通の平民の子です。ただ商家の子で生粋の商売人たちな大人に囲まれ育ったため、しっかりした賢い子に育って行っております。

この日も商会のお店の手伝いで走ってました。という設定ですね。何を抱えていたのやら。


もし、頑張ってねと思っていただけましたら下の評価、ブックマーク登録などお願い致します。

次話あたりで六歳王都編は終わる予定です。早く門番さんと会わせてあげたい・・・。

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