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王都でのお出かけ

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




姉とエドバルドの一悶着が落ち着き、ソレイユ家で昼食を済ませた後、私たち五人は街へと出かけようとしていた。

我が家からメイドのハンナと護衛のザハードとギブソン、辺境伯家からメイドのミラと護衛のイッシュが付き添う事になった。辺境伯家からは護衛が一人でもうちから二人いるから大丈夫なのかな?となんとなく納得していると、メイドのミラは護衛も兼ねているのだという。

驚く私たちにエドバルドは、将来の姉のためだと説明した。


「将来ラーナが嫁いできてくれた時護衛をつけない訳にはいかないけど、俺以外の男が常にいるなんて嫉妬でどうにかなってしまう。それなら侍女兼護衛で鍛えた方がいいと思って」


「まだまだ未熟者ですが、辺境伯騎士団の騎士とも打ちあえる程度には」


「俺より強いじゃないか」


ミラの言葉に口元を引きつらせたのは兄だった。将来辺境伯騎士団への入団を夢見て稽古している兄からしたら、目の前の細腕の女性が屈強な騎士たちと打ちあえる程度に強い事に驚きを隠せない様だ。

鉄仮面のギブソンはともかくハンナやザハードもまじまじとミラの細腕を見ている。


「ミラは特別です。もちろん力の押し合いでは我々が勝ちます。しかし、洞察力と瞬発力があるため一瞬の隙を突く技術と気配の殺し方が上手いのです。護衛としては状況把握もできるので十分信頼できると思います」


「そうなんですね!女性で剣を嗜んでいらっしゃる方と初めてお会いしますわ!もし良ければ今度私とも打ち合いしてくださいませんか?」


「お嬢様?」


姉の嬉しそうに輝いた笑顔にミラが困惑の色を浮かべた。剣を習っている姉としては、自分以外で剣を振るう女性に会えた事が純粋に嬉しいのだろう。貴族令嬢として剣を振るう事はあまり褒められる事ではないせいか表立っていう事は憚れるし、稽古も限られた人としかできない。もちろんそれは、剣の先生か兄、父の三人だ。エドバルドもクラディスも剣を振るうが、姉に剣を向けるのがとても躊躇われるようで本気で打ち合う事ができないのだ。


「お姉さまも剣がお強いのよ?」


「ご令嬢が、振るわれるのですか?」


「ラーナも反射神経がいいからな、ミラといい勝負ができるんじゃないか?」


「エドバルド、なんなら他の護衛も混ぜて合同で打ち合い稽古でもしてみるか?」


エドバルドは、二年前その身をもって姉の反射神経の良さを味わっているものね。

剣の稽古相手が増える事に関しては、兄も喜ばしい事なのだろう。生き生きとエドバルドに今後の日程の空きを確認して、それぞれの護衛たちと一緒に稽古ができないか話をし始めていた。姉は、ミラさんに興味が湧いたようでこちらも楽しそうに会話に花を咲かせていた。

剣については私はさっぱりなので、端っこでお茶しながらその稽古を眺めるくらいしかできないだろうなと思う。


「リリシュナは、そういえば剣はやらないよね」


「クラディスには私が運動神経が良さそうに見える?例え良くってもお父さまとお兄さまが許さないわよ」


「確かに。ラタエナ様はよく許しがもらえたな」


「そうね。それは不思議なのよね。でもお姉さまはとても運動神経がいいのよ。エドバルドさまをドレスで押さえ込んだの見てたけど、とってもすごかったのよ?だって何をしたのか見えなかったもの」


思い出すのは二年前のエドバルドを変えた一件だ。

若干八歳の少年だったとはいえ、エドバルドは時期辺境伯騎士団の上に立つ者として、更に幼い頃から剣の稽古を受けていたという。大柄な父親の遺伝子からすでに同年代の子たちより頭ひとつ分体格の良かったエドバルドは、剣の覚えも良かったという。だからこそその強さに溺れ、傲慢さが出てきてしまったともいうのだが。とにかく子どもの中では強かったはずなのだ。それが、エドバルドより頭ひとつ分小さな女の子、しかもチュールたっぷりの重たいドレスを見に纏った姉が簡単に伸したのだ。

後で聞いたら、振りかぶった手の攻撃を避け、その手を逆手に取って転がし押さえつけたらしい。何をどうしてそんなことができるのかと姉に問いただしたかったが、聞いたところでわからない気もしたので聞かなかった。

まあとにかくすごいとしか私は言えない。


「僕は見てなかったけど、母上が感激していた。とてもスマートな押さえ込みだったと」


「ポラーノ夫人は、あれでお姉さまを気に入ったのよね?不思議なんだけど」


「母上曰く家庭は妻が夫の手綱を握れるかで決まると言うんだ。だから、兄上を簡単に諫めたラタエナ様ならと思ったんじゃないかな」


「物理的だけどいいのかしら?」


「結果として身も心もで大丈夫なんじゃないかな?」


クラディスの結論に姉にゾッコンであるエドバルドを見る限り、姉が手綱を握っているのは間違いないので正解ではあるのかもしれない。しかし、それを考えると兄の手綱を握れるご令嬢がこの先現れるのか私としてはとても不安になる。

私の恋の成就のためにも現れてほしい。




兄たちの打ち合わせが一区切りついたところで私たちは馬車へと乗り込み、今回も行者としてギブソンが表へと座った。


「さて、とりあえずメインストリートには向かってもらっているが、どうする?」


「私たちは一昨日歩いていますから、エド様たちの行きたい所に行きましょう」


「俺はラーナと一緒ならどこでも楽しい」


「私は屋台の通りに行きたいわ!美味しいクレープを売ってるそうなの」


エドバルドが姉に甘い言葉を言い出したので、スルーして要望を挙げた。

こんな狭い馬車の仲でいくら想いが通じ合ったからといって二人の世界にならないでくれ。いや、今までは一方通行だったから良かったんだよ。暖簾に腕押しだったから大丈夫だったんだよ。

でも、ほら恋心を自覚した姉がエドバルドのこの言葉に顔を赤くしちゃってるじゃん。


「僕も甘い物は好きだし、行ってみたいな。あと、魔道具を売ってる店に行ってみたい。王都の店なら色々ありそうだし」


「魔道具の店か…俺も行った事ないな。どこかいい店はないか屋台で買い物した時にでも聞いてみるか?同じ町民に聞いた方が良し悪しも変わるだろう」


「クラディスは魔道具に興味があるのね?」


「僕は魔力が高いだろ?でもその制御って難しいんだ。その点魔道具は魔力の量に関わらず誰でも同じ様に使える。それってすごいんだよ。構造が気になって本を読んだり、分解してみたりしてるんだけど、面白いよ」


クラディスの生き生きとして語る様子に少し驚いた。ゲームの世界では、その魔力を活かす魔法を覚える事に特筆しており、いつも魔導書を読んでいた寡黙な青年だった。魔法はたくさん覚えていたと思うが、こんなに楽しそうにのめり込んでいた様子ではなかったと思う。どちらかというとそれが義務のような。

教会に行かずに済んだ事で、クラディスの周りの環境が良いからだろう。何か楽しく夢中になれる物が見つかったのなら良かったと心から思う。


「僕もポラーノの子だからって剣は習ってるけど、兄上やローランド様に比べたら才能はないんだ」


「クラディスもこれからも訓練したら十分な腕にはなると思うぞ?」


「そう、ですかね?ローランド様にそう言ってもらえたら嬉しいですね」


クラディスと兄の会話で忘れていたことを思い出した。

昨日クラディスに言った兄の呼び方を変える話の事だ。

本当は我が家に来てくれた段階で打ち合わせして実行するつとりでいたのだ。昨日まで。姉の事ですっかり忘れていたし、この分だとクラディスも忘れてそうだ。


「クラディスはお兄さまの事慕ってるのね」


「え?そうだね?」


「俺も弟ができたみたいで嬉しいよ。でも、安心して。俺の一番はリリーだよ」


「うん、知ってるよ」


別に兄の愛を疑っているわけではないし、聞いていないので答えなくてもいいと思う。

そんな俺の愛を疑うのかと目で訴えかけてこなくても別に疑っている訳ではないのだから。

兄の『弟』という言葉にクラディスが気がついたみたいだ。出しかけた声を飲み込み、どうしようか少し目線を彷徨わせていた。


「あの、ローランド様」


「ん?どうしたクラディス」


「あの、僕もローランド様の事、兄上と同じくらい尊敬してます」


「ん?」


「もう一人の兄だと思ってます。から、その、兄さんと呼んでも?」


よく言った!顔真っ赤だけど!私腐ってないはずだけど、なんかそういう場面を見てる気になったわ!美少年が恥ずかしそうに上目遣いでお願いするって破壊力あるのね!

クラディスのお願いに姉やエドバルドも驚いたのか、その様子を見守っていた。

隣の兄を伺うと、


「ああ、もちろん好きに呼べよ。敬語だっていらない。ただしリリーはやらないけどな」


最後の一言いらない。と悪態を思わず吐きたくなったが、嬉しそうに笑ってクラディスの頭をガシガシ撫でていたので、嬉しかった事はわかる。この一年、五人でのお茶会の中で一番仲が深まったのは間違いなく男三人の仲だと思う。私とクラディスだって同じ年だしそれなりに仲がいいとは思う。でも、歳が離れていてもやはり同性同士の方が気の遣い具合が違うのだろう。

兄も私に関わらなければ本来気さくで気の良い人なのだ。


「クラディス様、私の事も姉さん、と呼んでくださいな」


「え?でも」


「私もクラディス様の事弟と思っていますわ。こんな可愛い弟に兄さんと呼ばれるなんてお兄様が羨ましいもの」


「俺とラーナが結婚すれば名実ともに義姉なんだ。今からだっていいさ」


エドバルドは、頬を染めながら隣の姉の肩を抱き寄せた。姉も恥ずかしそうに顔を赤くしたが、それはエドバルドの言葉になのか、肩を抱き寄せられたことになのか。

クラディスは、二人の様子にあてられながら、姉の事も姉さんと呼ぶと嬉しそうに笑った。会話に一切混ざってこないハンナやミラ、ザハード、イッシュだが、その顔にはクラディスたちを微笑ましく見守る笑顔が浮かんでいる。

和やかな馬車の中、気がつけばメインストリートに到着した。

ギブソンが話を聞いていたのか、メインストリートの入り口ではなく、屋台通りに程近い場所で止めてくれた。

先に護衛の二人が降りて、メイドの二人、兄、エドバルドとクラディスが続いて、姉、私と続く。仲は良いが、どこで見られているかわからないので、貴族的順番だ。姉の時にはエドバルドが、私には兄がそれぞれ降りる時にエスコートしてくたので、十分に足元に気をつけて降りることができた。

もちろん普通のワンピースだから、足元も見えないドレスと違って動きやすいんだけどね。


「ん~~~とっても美味しそうな匂い!」


馬車を降りると大勢の人が行き交う様と鼻に飛び込んでくる美味しそうな食べ物の匂いがした。肉を焼く香ばしい香りや甘い匂い。屋台の呼び込みだろうか街の喧騒は活気がある。


「リリー早速何か食べるか?」


「ううん、クレープが入らなくなっちゃうからやめておく。でも、お兄さまやお姉さまは甘い物苦手でしょう?私に気にしないで好きなもの買ってね」


その瞬間体がふわりと浮きぎゅうと抱きしめられた。兄だ。


「あ~~~なんていい子なんだ。俺のリリーは今日も可愛い」


「あら、お兄様。リリーは私のリリーでもありますわ」


「ラーナ。俺もいつだって君のエドバルドだ」


「兄上。そこは張り合わなくても」


頬ずりしてきた兄に年々どころか、日々悪化している兄の溺愛ぶりにもがくべきか大人しくすべきかと思っていたら、姉まで張り合ってきた。クラディスのツッコミが残念なほど弱いから全然事の収束になってくれなかった。

六歳歳の私の体がいくら小さいといえど、兄と頭1つとちょっとしか離れていないのだ。しかし、剣の稽古と合わせて体を鍛えているからなのか兄の体はしっかりとしており、私を楽々と抱き上げている。が、もちろん道端でそんな事をしている子どもは目立つわけで、私たちを怪訝な目で見る人たちの視線が痛かった。すぐに気がついたハンナたちが壁になってくれたみたいだけど、兄はなんとそのまま歩き出した。


「お、お兄さま?」


「ん?リリーの行きたがっていたクレープ屋は確か通りの中央辺りなんだろう?」


「そうだけど、違うの!おろして!私自分で歩けるわ!」


兄はかなり不服な顔で私を下ろしてくれた。ほっと胸を撫で下ろすと、「リリーを独り占めできるいいアイデアだと思ったんだけどな」と至極残念そうな兄の独り言が聞こえた。さすがにあのまま公共の場で練り歩ける度胸はない。そこまでの羞恥心は捨て切れていないから許して欲しい。

代わりに兄の手を握りると、優しい笑顔に戻ったので機嫌は治ったらしい。チョロい。


「リリー疲れたらいつでも俺が抱っこするからな」


「大丈夫よ。それよりお兄さま、クラディスとも手を繋いで」


「え?僕は大丈夫だよ」


「ダメよ。お母さまとの約束だもの。私かお兄さまと繋いで。エドバルドさまはお姉さまと繋いでね」


これだけ人が多いのだ。いくら気をつけていても逸れない保証はない。手を繋ぐ事で回避できるならしてた方がいい。

街に出るように普通の服装にしているけど、身なりのいい良いとこ育ちの子どもには見える。メイドもいるしね。そうなれば誘拐やカツアゲとかあるかもしれない。王都がどれだけ治安が良いのかわからないけれど、このメンバーの中で襲いやすいのはどう見ても私とクラディスなのだ。クラディスと私は体格がさほど変わらない。六歳の幼い体は、さっきの兄のように簡単に抱えれてしまうのだ。


「じゃあこっちがリリーでこっちはクラディスな」


そう言って手を差し出した兄に戸惑いながらも嬉しそうに伸ばしたクラディスの手は、兄の手を掴むことはできなかった。クラディスの前に勢いよく飛び出してきた女の子が倒れ込んできたからだ。

あわやぶつかるといった瞬間───


「お怪我はありませんか」


クラディスと女の子の間に滑り込んで衝突を避けたのはミラだった。一瞬だったと思う。気がついたら、そこにミラはいて、クラディスを背後に女の子を受け止めていたのだ。

私の記憶では、確かにクラディスの斜め後ろに彼女は控えていた。でも、それこそ瞬きコンマ1秒くらいの一瞬だった。


「えっ?あれ?わたし…」


「大丈夫ですか?転んでしまったようですが、前は見て歩かれてくださいね」


「え?メイドさん!?え?」


ミラの腕の中で女の子は顔を上げて自分を受け止めた人間に困惑していた。もしかしたら、転ぶ瞬間目を閉じてしまったのかもしらない。訪れなかった痛みにか、誰かに受け止められた事にか、それとも受け止めたのが同じ年頃の男の子ではなく年上のミラだったからだろうか。

大きな瞳を溢れそうなほど広げて首を傾げる女の子を私は知っていた。


『ライラック~聖女の思い出(エアインネルング)〜』の主人公だ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

始めの構想から考えるとエドバルドが一番性格が変わってしまった子です。辺境伯夫人の教育の賜物だと思い込みましょう。

下の☆から評価を頂けたら嬉しいです。

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