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クラディスの夢

あけましておめでとうございます。

またお久しぶりの投稿となり申し訳ございません。

人数多いので早くお出かけから帰って欲しいところですね。ヒーローを早く出してあげたい

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「僭越ながら皆様は、幼いながらも貴族教育をしっかり受けられた方々ですので、普通の子供と同じ扱いはされないがよろしいかと」


ペリドットの瞳の女性の既視感に悩まされている私の背後から厳しい声を上げたのは、ギブソンだ。さすがに真面目を絵にかいたようなギブソンに先ほどの彼女が向けた子ども扱いは、貴族の子息令嬢である私たちへの対応としては看過できないもののようだ。

でも、私たちが大人すぎるだけで貴族の子息令嬢であってももっと子供らしい幼さがあると思う。

実際ポラーノ辺境伯夫人のお茶会で知り合った私くらいの他家のご令嬢は年齢にあった幼さを感じたもの。


「し、失礼しました!」


「クラディスがしっかりしすぎているんだ。普通は彼女の言う様にこんなに簡単な物じゃなきゃ安心して使わせる事はしないんじゃないか?」


お兄様の言う通りである。と頷きながら、クラディスと姉の間まで来た私の目に映った『扇風機』なる物に驚いた。

だって確かにそこに鎮座していた物は私の知る扇風機で間違いなかった。だが、扇風機の中でもその形状は斬新で、『私』時代に吸引力の変わらない掃除機で有名だったメーカーが製作していた羽根のない扇風機、そのものなんだから。


羽根なし扇風機(・・・・・・・)だ……」


今まで魔道具に関しては、まあまあ便利な物なんだなーくらいの認識しかなかったから、魔道具という物がどういう発想や構造で作られているのかがわからない。しかし、魔術陣を使用するというのは知っている。

それを考えればこの金属のどこかに魔術陣があるんだろう。もちろん表面上にはそんな模様とかは見えない。

もしこれが一からの発想なら本当にロシューズの魔道具士は天才なのではないだろうか。

すごい。


「ミセス、今日は魔道具士ロシューズ氏はいるのだろうか?ぜひ話を聞きたいのだ」


「………え、あ…なぜでしょうか?」


扇風機に目を奪われていると、エドバルドがかしこまった様子で女性の店員へと声をかけていた。

それは、貴族令息らしい優雅な問いかけだった。


「申しおくれたが、私は北の辺境地を治める、ポラーノ辺境伯爵が子、エドバルド。弟が魔道具をすいていてぜひ王都の一流魔道具士の話が聞きたい」


「同じくポラーノ辺境伯爵が子、クラディスです」


二人の自己紹介に女性が一瞬目を見開き驚いた様子を見せた。しかし、それは本当に一瞬のことですぐにカテーシーをとった。

カテーシー、それは貴族の女性のみが行うお辞儀の一種だ。貴族の淑女教育の一番初めに習うものであり、それを咄嗟にとは言え綺麗な動作で彼女はやってのけた。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。私がこの店の店主、魔道具士マリアンナ・ロシューズにございます」


「なんと、貴方が!」


「女性とは聞いてましたが、こんなキレイで若い方だったんですね」


エドバルドの驚きは、ここにいたはぼ全員と同じだったが、唯一クラディスだけは驚きの内容が些か違った。

女性だと知っていた様子にも驚いたが、それ以上にその反応七歳の口から出る言葉か?

この先クラディスが成長した時、あのスチルのような無愛想ながらも綺麗な顔に表情をのせてこんな言葉を言い出したら、勘違いする御令嬢で溢れかえりそうだ。


「そんな、若くはありません。もう二十四にもなりますし、七歳になる子もおります」


「僕と同じ歳ですね!でも、やはりその歳で魔道具士で名が通るのはすごいです!」


「それに、女性がお仕事で認められるのはとても難しいですわ」


感銘に声を震わす姉の言葉に大きく頷いた。


この世界で目に見えて男尊女卑とかそういうのを見たことはない。

それでも、封建制度がベースであるが故、女は女らしく、男は男らしく、といった風習は強く、働く女性の仕事も女性だから、もしくは女性だからこそと言った仕事が多い。

メイドや侍女、針子や売り子といった仕事ばかりで、まともな教育を受けられる貴族の子女ですら内政に関わるような職に就けている人はいないと家庭教師も言っていた。


その中で魔道具士という職人業に女性が就いて、その上成功しているというのは極めて異例と言えるべきだと思う。


「私は、運が良かったのです。師匠である父は、とても寛大で女である私にもその技術を惜しみなく教えて

くれました。それに、ロシューズの人間に男女の優劣に拘る者がいなかったのが幸い、と言うところでしょうか?」


何かを飲み込んだような彼女の微笑みには、その言葉通りに僥倖だったとは言い難いのではと思わせる苦々しさが見えた。

ロシューズの人間、と区切って話題に出したのなら、それ以外の人間はそうではなかったのではないだろか、と疑ってしまうのは深読みしすぎだろうか。


「それだけ貴女に才能があると、男爵は思われたのですね。うらやましいです。僕にも魔道具士の才能があればいいのに…」


ポツリと溢れたクラディスの言葉に驚いた。


「クラディス、あなた魔道具士になりたいの?」


「え!?あ…うん」


「そんな事初めて聞いたぞ!?本気か!?」


珍しく「しまった」と表情を露わにしたクラディスはオロオロと忙しない。それにエドバルドも驚きのままにクラディスへと噛み付くように身を乗り出してしまった。

両肩を掴まれ真正面からエドバルドに顔を覗き込まれたクラディスは、盛大に困って泣きそうな顔をした。


「エド様、クラディス様が泣きそうですわ」


「い!いえ!大丈夫です!」


やんわりとエドバルドを落ち着かせようと姉は声をかけたのだが、その言葉にクラディスは更に狼狽えた。

「泣きません!泣いてません!」と慌ててるが、その目尻には涙が滲んでいる。

多分もう一足だ。


「そんなに食いついて、エドバルドは反対なのか?」


「まさか!本当に初めて聞いたから驚いたんだ!」


「エドバルドさま、嬉しそうですね?」


エドバルドは、先程クラディスの両肩を掴んでいる時は割とすごい形相をしていたのに、今は大変嬉しそうに笑みを浮かべている。

さっきまでの表情では、意外にも可愛い弟の夢に反対しているのかとさえ思たのに。


「お前は、あのゴタゴタの後からそういう将来の夢とか言わなくなったから…前は兄上と同じ騎士になるって言ってたのにさ」


「兄上…」


あのゴタゴタとは、クラディスの魔力検査あたりのことだろう。


ポラーノ家は、ソレイユ家以上に代々続く騎士の家系。

だからこそ、北の辺境伯として広い隣国との国境沿いの領地を守っており、一貴族として騎士団を有しているくらいだ。


ゲームのクラディスは、その環境のせいで魔法へのめり込んでいた感じだったけど、今のクラディスはポラーノ家にいる。だから、剣をとって騎士になる事も可能なはず。

それこそ小さい頃から騎士である父を見て育ち、その父の背中を目指す兄がいる。幼いクラディスが自身も同じように騎士になりたいと、そう思うことも何ら不思議なことではないんだろう。


「…僕には、兄上や父上たちみたいに騎士としての才能はないから、どんなに頑張っても騎士としてできることは少ないと思うんだ。でも魔術なら、魔道具士ならきっと誇れることができる気がしたんだ。

はじめは母上を傷つけた魔術が怖くて嫌いだった。でも、魔道具ならみんなを傷つけずにサポートができるんじゃないかって、そうできたらうれしいなってそう思ったんだ」


クラディスにもたらされた膨大な魔力という才能はクラディスが欲しいと願ったものではない。

国が、教会が一目置くほどの大きな力。家族崩壊の危機の原因で、その力のせいで母を傷つけてもしまったと、その事に十も満たないクラディスが心に傷を負わない訳がないはずだ。

素直にその魔力を受け入れる事も、過去と同じように素直に将来を夢見る事も、恐れても仕方ないはずだったんだ。


「弟があんまりにも立派でお兄様は嬉しいけど、寂しいよ」


「ああ、そういうことは言ってくれ」


「えっ、ちょっ…」


兄とエドバルド、両方からガシガシと頭を撫でられ───というか、かき回されクラディスの綺麗なサラサラ御髪は悲惨な事となった。

しかし、楽しそうな三人の様子に私と姉はにっこりと笑ってただ微笑ましくその様子を眺めた。

視界の端で櫛を手にいつでもお直しできるように構えるメイド二人に、どこからそんな物が出てきたのかと思いながら。



それから、ロシューズさんから店にある他の魔道具についても説明を聞き、魔道具について見聞を深めることとなった。しかし、時折どうしても興奮を抑えられないクラディスの質問により、予想以上の時間をとることとなった。

そうして、ニ時間もの長い時間、この店を占拠したのだが、ロシューズさんは他のお客様が来店しても奥から他の売り子を呼び、他を任せてこちらを対応してくれた。

エドバルドたちが辺境伯と家名を明かしていたし、上級貴族の御子息たちを放って置くわけにはいかなかっただろうな。

いくつか気になった物を購入するといった兄たちと離れ、私は一人あの羽根なし扇風機を眺めていた。


『私』は持っていなかったが、友人だったか実家だったかにあのメーカーの羽根なし扇風機があり、実物を見た記憶はある。多少形状はことなるものの、楕円形の輪に土台にあるフィルターのようなたくさんの小さな穴に四つのスイッチの配置はそっくりだ。


「いずれは吸引力の変わらない掃除機も作りたいんですよ」


「!?」


「お嬢様も遠い昔の記憶があるんですよね?」


お辞儀をするように横から私の顔を覗き込んだのはマリアンナ・ロシューズさんだった。

女神のような綺麗な微笑みはとても確信に満ちた目をしていた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

次の話は、週末土曜予定です。

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