あの子とこの子
あの子とはもうすぐ4年の付き合いになる。
従順で俺を慕い、まぶしい笑顔が、俺を呼ぶ声が、すべてが可愛らしかった。
何をされても笑顔に誤魔化され、許してしまう。
こんなに大事だと思ったことはない。
あの子がいれば、俺の世界はいつでも華やかに彩られた。
あの子が俺のすべてだった。
それが、1年前までの話だ。
1年前、この子に出会うと俺の世界はガラッと変わった。
あの子とは別格に違う可愛さ。
俺を必要とし、いつでも抱きしめてとせがんでくる。
無邪気な笑顔、もちもちの肌、ついつい触りたくなる。
この子から目が離せない。
あの子とは違う愛しさがあるんだ。
それに比べ、4年の月日を一緒に過ごしたあの子はずいぶんと生意気になった。
俺に口答えをし、乱暴な動作をする。
やることなすことが危なっかしく、心配しつつも苛立ちのほうが強くて、冷たく叱ってしまう。
いけないとわかっていても、八つ当たりのように目に付いたことを叱る。
あの子も、俺を口うるさいと感じているだろう。
ますます言うことを聞かなくなった。
そうしてイライラした後、この子を見るとなんて癒されることか。
俺にしがみつき、上目遣いをするあざとさ。
話しかけられて返す俺の声は、デレデレの情けないものだ。
それを、あの子が面白くないと不満そうに見ているのはわかっている。
この子があの子と同じことをしてもイライラしない。
あの子のしたことを叱っても、この子がしたことは叱らない。
不公平で、矛盾しているのはわかっているんだ。
それでも俺は、この子にはつい頬を緩めてしまう。
この子が大事で、あの子ももちろん大事だ。
どちらかを手放すなんてことはない。
この子のいない世界が考えられないように、あの子のいない世界も考えられない。
俺にとってはどちらも愛しく、必要な存在だ。
ただ、今はこの子に愛情が偏っている。
あの子には申し訳ないが、理解もしてほしい。
叱るのも愛情なんだと。
そこで、不貞腐れたあの子を抱っこしながら妻が言う。
「下の子が可愛いのはわかるけど、上の子もちゃんと可愛がってあげて」
父親とは、難しいものだ。




