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70期の人々(前編)

士官学校第70期生とは、天后隊隊長源咲良さんを始めとする頭脳派の皆様です。

オンブラの脅威が去って早半年余り、紺青の都には平穏な日々が戻りつつあった。

が…

「宇治原伍長!急患です!」

「東エリアで事故発生!救護部隊の要請です!」

「伍長、305号の患者さんが至急とのことなんですが…」

思わず耳をふさいでしまう。

「ったく…用事をそういっぺんに言われてもなぁ」

俺は聖徳太子じゃないんだぞ?

…なんてぼやいていても始まらないので、白衣に袖を通して立ち上がる。

とりあえずは…救護部隊の要請の件か。

隊長室へ続く階段をあがろうとした、その時。

上から駆け下りてきた人影が、突如目の前に立ちはだかる。

「なっ……!?」

「えっ…!?」

ものすごい音を立てて、俺はその人物と階段から転げ落ちた。

幸い踊り場がすぐそこだったので、大事には至らなかったが…

「こらあんた!!!あかんで階段走ったら!ここは病院なんやから…」

そこまで言って…気づく。

パジャマにスリッパのその男。

左右輔そうすけ???」

「…悪かったな」

腰を擦りながら不貞腐れたように呟いたのは、士官学校の同期、大裳隊伍長の橋下左右輔だった。


「…で?」

完全黙秘を決め込む左右輔の前に進み出ると、咲良はにっこり微笑みかける。

「潜入捜査の対象は、一体どの患者さんなの?」

「それは…極秘事項だ。いくらお前達でもおいそれと教える訳にはいかない」

「そ」

咲良はにっこり笑う。

「じゃあ残念だけど、私も診療の妨害行為を行ったってことで、この件柳雲斎先生に訴え出るしかないみたいね」

え゛?

潰れた蛙みたいな声を出して、左右輔はにこにこ笑う咲良を見る。

「私達ね、オンブラが出なくなったって言っても超!多忙なの。あなたがここで私達を納得させられるような、良く出来た言い訳を考えるのを待ってる時間なんてないのよねぇ、申し訳ないけど」

咲良の言葉がざっくり胸に突き刺さったようで、彼はがっくりと肩を落とす。


『笑顔が怖い人ランキング』というのがある。

それは隊士達がひそかに作っている隊報に掲載されたもので、隊長伍長クラスの人間でその存在を知る者はごく稀である(関心がない…ともいうが)。首を突っ込んでいるのは、おそらく俺と三日月くらいじゃないだろうか。

以前のランキング結果は、一夜が断トツ一位だったが、二位は我らが源隊長。

つまり現在は…推して知るべし、である。

観念したように左右輔がぽつりぽつりと白状し始めた。

「天空隊の本間?」

数日前、事故で負傷し運ばれてきた隊士だ。

「…ああ。彼は隊の出納役なんだが、不正な使い込みの疑惑があってな」

咲良が不思議そうに首をかしげる。

「でも…それだったら、こんな風にこそこそやらなくてもいいんじゃないの?」

同意を求めるように俺を見て、また左右輔の方を見る。

「…それに、潜入にしたってあなたじゃなくて、もっと顔が割れてない、若くて機動力がある人に任せたほうがいいと思うけどなぁ」

無意識な彼女のトゲのある言葉に少し傷ついた顔をして、左右輔は暗い顔でうつむく。

「柳雲斎先生が…承知してくださらんのだ」

左右輔の進言に先生は、そんなことはないだろうとにこやかに微笑んだのだという。

『天空隊を取り仕切るのはあの涼風じゃぞ?あの男、あやつの目を掻い潜ってそのようなことが出来る器ではなかろうて』

「…まあ、確かに」

天空隊士は、来斗や伍長の桐嶋のように、頭が切れてちょっと感じの悪い奴ばかりである。

その中にあって、大人しくて腰の低い本間という男はちょっと異質な感じがする。

見舞いに来た来斗に対して、萎縮しているような印象すら覚えた。商人の倅である彼にとっては、涼風公の嫡男であり自分の隊の隊長でもある来斗の存在は巨大なのだろう。

つまり、彼は典型的な小市民なのだ。

「お前も…同じ意見か?」

「ああ…まあな」

そうか、と大きくため息をつく左右輔。

「…柳雲斎先生が大丈夫だとおっしゃっている以上、隊士をむやみに動かすわけにはいかんし…第一、誰もこんな話は信用してくれないしな」

「それで…一人で?」

咲良が少し考え込むような表情になる。

「橋下くんは、どうしてそんな疑惑を持ったの?」

「…事故の時だ」

それは南のはずれで起こった、古い建物の崩落事故だった。

巻き込まれたのは、その日周辺の発掘作業を行っていた天空隊の隊士数名。

突然の出来事だったらしくなかなかの惨事となり、一番奥で瓦礫の下敷きになった石川という隊士は、今も意識不明の重態だ。

十二神将隊が関わっている事故なので、左右輔ら大裳隊が出動し、事故の状況などを捜査していたらしい。そのときのこと。

『…何だこれは?』

左右輔が拾ったのは、何やら小さな紙片。

紙はビリビリに破れていて、はっきりと識別することは出来なかったが…そこには次のようにある。

『告発……私天空隊士石川は右…者……不正………告……するものである………』

本間という文字がその横にはうっすらと確認できた。

「その紙…今ここにある?」

「…それが」

うなだれて左右輔は、何者かに持ち去られてしまったのだ、とつぶやいた。

「相変わらず詰めが甘いなぁ…左右輔は」

「うるさい!!!」

「じゃあ…そうねぇ」

咲良が立ち上がって不敵に微笑む。

「協力してあげようか?」

「な…なにぃ!!??」

「ほ…本当か咲良!?」

「だって橋下くん一人じゃ心配じゃない。それに十二神将隊の他の隊も動かせない…ってなってくるとねぇ。ほら、私達って同期だし?」

それに、と楽しそうに人差し指を立てる。

「痛快だと思わない!?来斗くんや浅倉くんを出し抜く…なんて」

まあ…確かに。

一ノ瀬孝志郎を始めとする、出来のいい後輩達にさんざん憂き目を見せられてきた俺達としては、ここで名誉挽回のチャンスかもしれない。

…が…そういえば。

「源たいちょ、そういえばこないだの合コンの相手、天空隊やなかったですか?」

「合コン!?」

左右輔が目を丸くする。

「結果…どうやったんすか?」

咲良は黙ったまま、くるっと俺達に背を向ける。

「宇治原くん減棒」

「………えええっ!?そんなぁ」

「な…なんなんだ一体………」

「つべこべ言わないで、至急本間の周辺をあたる!忙しいんだから早く解決するわよ!」


「…たく、まさかあれが怒りのツボやなんて…」

病院の中庭で頭を抱える俺を、不思議そうに左右輔が見つめている。

「あれじゃただの逆恨みやんか、なぁ?」

「まぁ…そうとも言うな」

「私情でこんなことして…怒られんの俺やのに…ったく」

「なあ、さね。前々から一度聞いてみたかったんだが…」

左右輔が小声で言う。

「お前ら…付き合ってるんじゃないのか?」

「…は?」

「…いや…違うのか。てっきりそうだと……」

うーん、とうなって腕組みをする。

「付き合ってくれて言ったことも言われたこともないし…そういうんでは、まぁないな」

「…そう…なのか」

「単なる腐れ縁ちゅうか…」

俺は別にそれでも構わないのだが…あいつはちょっと違うらしい。

「咲良が合コン…か。なんか意外だな」

「いや…あいつもいい年やし、出会いがあったらええなぁと思てるんちゃうか?」

昔泥酔した咲良に言われたことがある。

『別にそうなって嫌なわけじゃないけど、なんか不本意だわ』と。

「あれか…『40までお互い独身だったら結婚しようね』みたいな仲なんだな、お前ら」

左右輔…なかなか的を得たことを言う。

「まぁ………そんなことはどうでもええんや」

本間の件。

傷の回復も早い。おそらく一両日中には退院できるだろう。

しかし、退院してしまうと俺達が探りを入れるのは困難になる。

「面会に来た人間だが…涼風隊長の他には誰かいたか?」

「浅倉に頼まれた…とか言うて、三日月が傷害手当関係の書類持ってきたくらいやったな」

少なくともこれまでは。

視界の端に入った人影に、ちょっとした違和感を感じる。

…殺気?

左右輔は動きを止めた俺を怪訝そうに見る。

まさかな。

しかし…

見慣れない人物だった。

誰かの見舞いか?

でも…一体誰の?

その時だ。

『宇治原伍長!!!!!』

無線から響いてきたのは、四之宮ちかの甲高い声。

悲鳴にも似た、耳をつんざくような悲鳴に一瞬顔をしかめて、無線に応答する。

「何や?一体…」

『患者さんが…天空隊の…本間さんが………』


遺体はひどい有様だった。

瞬殺だったらしいことが見て取れる。

しかも…この近距離だ。顔見知りの犯行と考えるのが妥当だろう。

左右輔も恐る恐る、本間に近づく。

「この傷は…」

「心臓貫通してる。プロの犯行やな。しかも…」

傷の周囲の、焼け焦げたような跡。

「『神器』やな。おそらく雷属性の」

「…何!?」

以前士官学校から持ち去られた『神器』、まだ見つかっていないものが数点あったはずだ。

「違法に改造された『半神器』とかではないのか?」

「…いや、『半神器』でここまでの殺傷能力は出えへんやろ」

さっきの男…

記憶をたどる。

黒髪を短く刈り込んだ、随分図体のでかい男だった。

「…ご迷惑をかけました」

来斗がやってきて、深々と頭を下げる。

「いや…お前も大変やな」

「不審人物の目撃証言は?」

「今んとこはないんやけど…気になった男が一人いてな」

ちょっと迷ったが、こうなってくると俺達だけの手にはとうてい負えない。

さっき見た男の話をする。

「モンタージュ…作れそうですか?」

「多分…けど、単なる俺の勘違いかもしれへんし…」

来斗は厳しい顔で本間を見る。

「それでも…何の手がかりもないよりはましです。宇治原さんの武術の腕前は折り紙付きだ、あなたがおかしいと感じたというのなら…信憑性は高いと思う」

「…そうか」

その時、病室に駆け込んできた小柄な人影。

ぜえぜえ息を切らして立ち止まり、本間の亡骸を見て絶句した。

みるみる顔が青ざめていく。

「…三日月?」

「……私のせいだ」

「…何やて?」

顔色の悪い三日月は、呆然と本間を見つめている。

「私………」

「藍、落ち着け」

「だって…」

来斗が三日月に近づき、ポニーテールの頭に手を置く。

「…来斗」

三日月が来斗にしがみつき、その袖に顔をうずめる。

「大丈夫だ。お前のせいなんかじゃない」

「あの…お二方?」

左右輔が思い切って二人に声をかける。

「『三日月さんのせい』…って…一体どういう……」

「いや…ご心配なく。こいつはいつもこうですから」

「…こう…って……」

すすり泣く三日月の髪を優しく撫でながら、来斗が静かに言う。

「自分が関わった人間のことは…何でも責任を感じてしまうらしいんです」

「そう…ですか」

背後に立っていた咲良と顔を見合わせる。

どうする?

その瞳は若干不安な色を帯びて、俺にそう尋ねていた。


「…それ、ぜっっったいおかしいよ」

「…あなたもそう…思われますか」

「勿論!!!そりゃ藍は責任感の強い子だけどさ、そんな一回見舞いに行っただけの奴が死んだことに責任感じるなんておかしいじゃん!?」

「…じゃあ……何だと思います?」

目を輝かせて事の一部始終を聞いていた一夜は、うーん…と唸って黙り込んだ。

「あなたにも、何もおっしゃってませんでしたか?彼女…」

「藍は仕事のこと、プライベートに持ち込まないタイプだからなぁ…」

「…そうですか」

咲良が口を開く。

「もしかして…来斗くん達も動いてたんじゃない?」

「…本間の件か?」

「そう。橋下くんの疑念とは別件なのかも知れないけど…」

「来斗は三日月を使って、本間の行動を見張ってた…ってことか」

天空隊の隊士の件だ、来斗本人が動いては目立ちすぎる。

総隊長の秘書役の引継ぎや勾陣隊と太陰隊の伍長職の手伝いなど、最近今まで以上にいろんな隊をちょろちょろしている三日月は、内偵役としては打ってつけだったのだろう。

「でもそれならそうと…何で俺達に言ってくれへんかったんやろな」

「…確信が持てなかった…多分橋下くんと同じだったんじゃないかしら」

左右輔が難しい顔でつぶやく。

「意思疎通がもっとしっかり出来ていれば防げたのかもしれないな…私としたことが…」

「それに………こんな凡ミス、来斗らしくないな」

「それに、藍泣かせたのが来斗なんだとしたら………俺許せないな」

一夜がぽつり、とつぶやく。

「…何や???」

「だってそうでしょ、藍に面倒なこと押し付けてさぁ…しかもそんな思いさせたりして」

笑顔のまま、彼は壁を思い切りどつく。

穴でも開くんじゃないかというものすごい音がして、壁掛け時計ががくっと傾いた。

「いくら昔からの友達っつってもちょーっと見逃せないかなぁ…なんて」

「お前…もしかして怒ってんのか?」

「えー俺?別に怒ってなんかないですけど」

依然にこにこしている一夜だが、声色だけは低く鋭い。

「……お前は竹中直人か」

「は?」

「…ま、ええわ」

三日月が何か言っていたら教えて欲しい、そう頼んで俺達は一夜の家を後にした。


「そもそもその使い込み自体に何か裏があるんじゃない?」

患者のカルテを眺めながら咲良がつぶやく。

「…裏って何です?」

「だからね…例えば悪い人達にお金流してた…とかさ」

悪い人達…ねぇ。

「じゃあその悪い人達が内部なのか外部なのか…ってことやな。咲良ちゃんの…」

「『みなもとたいちょう』」

「…『源隊長』の想像が確かなら」

医学書をめくる手を止め、うーん、と大きく背伸びをする。

「もし外部なら、来斗達が何も言わへんのは…妙か」

「そうねぇ…じゃあやっぱり、内部ってこと?」

だとすればそれは、天空隊にとどまった話なのか、それとも隊をまたぐようなことなのか。

どちらにせよ、奴らだけで抱え込むのは、いくらなんでも危険なんじゃないだろうか。

そら、俺らに言ったところで、役には立たんかもしれへんけど…

「自信家だもんねぇ、来斗くんは」

同じようなことを思っていたらしく、咲良がふいにつぶやく。

左右輔の掴んでいる情報の中にも、それらしいものはないらしい。

あの変な男の目撃証言も他にはない。広い病院敷内であまり人目にもつかず、本間の部屋まで辿り着いたのだとすれば、奴を手引きした人間がいるのかもしれない。

だとすれば…うちの隊士も絡んでるってことか?

うーん…

「こら!!!」

突然の甲高い怒鳴り声に驚いて隊長室の入り口を見ると、仁王立ちのちかが、書類の束を抱えてこちらを睨んでいた。

「…なんや急に」

「急に、じゃないでしょー!?ぼーっとしちゃってもぉ!」

こっちは忙しいんですからね…とぶつぶつ言いながら咲良の前に書類を置く。

「これ隊長の承認待ちの分ですので、よろしくお願いします。お二人とも仕事してくださいし・ご・とっ!」

「ね、四之宮さん…あの本間さんて担当は誰だったかしら?」

「えっと…加納さんです確か」

加納…あの陰気くさい奴か。

「本間さんの同期だとかおっしゃっててー、丁度みんな患者さん沢山抱えて忙しかったからいいですよって引き受けてくださったんです…けど………ちょっと!!!」

ちかが慌てて咲良につっこむ。

「まだ犯人探ししてるんですか!?もういい加減にしてくださいよぉ」

「はーい…でも、何か気になることあったら教えてね。十二神将隊内部で何か起きてるんだとしたら、総隊長秘書っていう立場上、風牙くんもうかうかしてられないでしょ?」

あ、とちかが小さくつぶやく。

「そう…ですね。わかりましたぁ」

小さな声でそう答え、隊長室を出ていくその後ろ姿はなんだかうきうきしている。

「…ったくうっとおしい」

「こらこら、若者に当たらないの」

加納………か。

「どこの国の人だったかしら?確か彼、紺青の生まれじゃなかったと思うんだけど」

医師看護士等々、天后隊の隊士はとにかく数が多い。

「んーーー…そんなに遠くやなかったと思いますけどね」

「彼…今日は出勤?」

「ええ…確か」

ちかの持ってきた書類を手に取る。

「一回…話してみる必要がありそうね」


「もぉーあの二人は………」

無線で呼び出され、病棟の中を小走りに進む。

うちの隊長達はとにかく仕事が出来て、疲れ知らずでめちゃくちゃパワフルだ。

源隊長なんて、あーんなに細くて華奢なのに、どこにそんなパワーがあるんだろう。

今の探偵ごっこにしたって、別に仕事に穴を開けているわけではないし、構わないといえば構わないのだが………急にぱたっと倒れられでもしたら困る。

「あら???」

部屋には誰もいない。

窓の外を見て、頭をかく。

「ありゃ……病棟一個…間違えた」

『四之宮先生、今どちらですか!!??』

「あ、はい!!!すぐ行きます!!!」

無線に答えて部屋を出る。

と…

「隊長達が何か、嗅ぎまわってるみたいなんだが…」

どきっとする。

隣の空室には一人の白衣の男性。

…加納さん?

『本間のことか…あいつ、誰かにしゃべりやがったのか?』

無線の相手は知らない男性。

でも無線を持ってるってことは…軍の関係者?

「俺の知る限りはないと思う。だが…」

『そうだな…奴が弱腰になっているというお前の報告があったから始末したんだったな』

まあいい、と男が言う。

『例の『ジェイド』の取引は予定通り、今日の零時。東ブロックのA倉庫だ』

「ああ…」

『遅れるんじゃないぞ。それと、誰にも後を付けられないようにな』

なあ、と不安そうに加納さんが言う。

「もう俺の手には負えないよ…お前らは知らないんだろうが、あの人達が勘付いたとしたらもう………事が露呈するのは時間の問題だぞ?」

無線の男はしばらく黙り、そして低い声でつぶやいた。

『…やはり、お前もか。これだから非戦闘員は性質が悪い』

「…何?」

その時。

誰もいないと思っていた部屋の物陰から一人の男が現れる。

「何だ!?お前…」

加納さんの腹部に短い刃が突き刺さる。

「な………」

「お前はもう…用済みだ」

床が真っ赤に染まっていく。

男は倒れた加納さんの無線を奪い取る。

「始末した」

『ご苦労だったな』

突如、男が振り向いた。

「あっ………」

立ち尽くしていた私と目が合う。

細い目がぎらっと光る。

「貴様………」

「あ…あのっ………失礼します!!!」

言い終わるか否かのタイミングで、廊下を全力疾走する。

「宇治原さぁぁぁん!!!ちかです!!!助けてください!!!」

背後から男の足音が迫る。

『何や!?どうした???』

「かっ…加納さんが刺されて…その………助けてぇ!!!」

『何や!?お前今どこや!?』

「えっと…」

どん!!!と何かにぶつかって、思い切りしりもちをつく。

「四之宮!どうしたんだそんなに慌てて…」

そこに立っていたのは先輩医師だった。

「いてて…あのっ」

慌てて振り返ると…男の姿はない。

周囲の患者さんや看護士さん達が不思議そうに私を見る。

『ちか!?』

「…大丈夫です」

事情を知らない先輩が、呆れ顔で手を差し伸べてくれる。

「おい、大丈夫か?」

「腰………抜けちゃった………」

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