サバイバルゲームの巻(中編)
ゲームのルール
・擬似的な戦闘を行える『天球儀』という施設で行う。
・各隊十人『神器』を持って戦う
(『神器』は何を何個持ってもokだが、持てる数はその人の『神力』によって異なります)
・同じ隊の人の生存者数は探知機で分かる。同じ隊内部に限り、無線で連絡を取り合うことが出来る。
・他隊の様子がわからないので、ラスト5人になったら柳雲斎先生が内部に知らせる。
・最後まで生き残ったもん勝ち
「風牙さん…私、本当は風牙さんと戦いたくなんてないんですよぉ…」
大きな瞳をうるうるさせながら、ちかちゃんが言う。
分かってるよ、と笑顔で言って、彼女の細い肩を抱く。
「けど、これは隊の名誉がかかった勝負だからね…ちかちゃんも頑張らなきゃ」
「………そうなんですけど」
武器系の『神器』を扱い慣れないちかちゃんは、とにかく不安でたまらないらしい。
「大丈夫だって!士官学校で少しは習ったろ?」
「でも…私あんまり好きじゃなくて…必修でちょこっとやっただけなんですもん…」
もじもじしながらつぶやく。
「もう…」
かわいいなぁ………
「大丈夫っ。いざとなったら僕がちかちゃんのことは守ってあげるから」
「…本当ですか?………でも」
「…いいの」
『彼女だからって、あの子に手加減なんかしたら…ただじゃおかへんからな』
確かに愁さんにはそう、恐ろしい顔で釘を刺されたのだが。
天后隊なんて所詮大したことはないと思うし、女の子一人くらい…ねぇ。
『天球儀』全体に、柳雲斎先生の声が響く。
『開始10秒前。9・8・7…』
ちかちゃんが俯く。
「でも…でもね、風牙さん………」
「ん?何?」
「風牙さん、私………」
『3・2・1…ゲーム開始!』
「…この予算、絶っっっ対に天后隊に頂かなきゃいけないんです!!!」
彼女の体が金色に光る。
同時に、彼女が構えた機関銃から小さな光の弾丸が放たれ、僕に向かって降り注いだ。
「いっっっ…???」
咄嗟によけるが…
見ると、そこらに生えていた草が黒焦げになって煙を上げている。
「…これ、雷の『神器』?」
「風牙さん、ごめんなさいっ!!!」
爆音と共に放たれる、幾つもの雷の弾丸。
「う…うわぁぁぁ!!!」
必死で避けながら逃げる僕を、目の色を変えたちかちゃんが追う。
「待ってください!風牙さん!!!」
何とか振り切ろうと、右へ左へ走りながら…つぶやく。
「女って………怖い」
『ちかです!ごめんなさい、逃げられちゃいましたぁ!!!』
ちっ。
「オッケー、大丈夫よ。次の作戦に回って頂戴」
『了解しました!』
「………性格悪いなぁ」
ぼそり、と背後でつぶやきが聞こえる。
「何か言ったかしら宇治原くん!?」
「い…いいえ???」
じゃ、と怯えた様子の隊士達を見る。
「みんな分かってるわね?この勝負、何がなんでも天空隊に負けるわけにはいかないの」
「は…はい」
「…だから、それは私怨やないかと何度も」
「うじはらくん!?」
「………はい」
うちの隊は正直、格闘で他の隊に勝てるとは思えない。
「みんな、これはサバイバルゲームなの。とにかくサバイブすることを考えて!そうすれば腕に覚えのある他隊の人達は、勝手に潰しあってくれるわ。こまめに『神器』で回復を行うこと。無茶な行動は謹んでね」
「はい!」
そして…
宇治原くんを見る。
「宇治原くん。うちではあなただけが頼りよ。援護するから思いっきり暴れてきて頂戴」
「…はいはい」
『飛燕』を腕に装着しながら、彼はまだぶつぶつ言っている。
思い切り後ろ向きなその背中を叩いてはっぱをかける。
「ほら!頑張って!!!ここで大活躍してくれたら、臨時ボーナス考えてあげるから!」
「…まじっすか?」
「まじ」
私のブイサインを見て…彼の目の色が変わった。
眼鏡を外し、私に突き出す。
「これ…持っててくださいます?」
「ええ…」
眼鏡を外すことすなわち…
彼の『本気』の証である。
にやり、と微笑んで私達に背を向ける。
「隊長、見ててください…あいつらに死の恐怖を味わわせてやりますよ」
「…期待してるわ」
去っていく彼の後姿を見つめ、隊士の一人がつぶやく。
「隊長…」
「…ええ」
「あんな頼もしい宇治原さん…初めて見ました」
『今のところ、こちらは異常なしです。各隊牽制し合っている状態かと』
無線から隊士の声がする。
「ですって。どうします?草薙隊長。こちらから仕掛けますか?」
「そうだなぁ…」
『…うわぁぁぁ!!!』
突如叫び声が聞こえ、ライフメーターゼロのブザーが聞こえる。
味方の位置が分かるように手渡された探知機から、彼の反応が消えた。
「…な………何だ!?」
『草薙隊長!那智です!!!』
「那智か、どうした!?」
『今、宮下の目の前に突然勾陣隊士が現れて、いきなり一刀両断に…』
その時。
『ああ!!!』
「那智さん!?」
那智さんの反応も…消えた。
「勾陣隊?」
周囲の様子を伺う。
と…
目の前で、太陰隊士が勾陣隊士に脳天から一気に切り裂かれる。
「ぎゃあ!!!」
ライフメーターがゼロになり、隊士の姿がそこから消える。
強制的に建物の外に出されてしまったのである。
どうやら同様のことが、『天球儀』のあちこちで起こっているらしい。
阿鼻叫喚の嵐。
「これ………何なの?」
龍介が残った隊士に注意を促し、無線を切って厳しい顔でつぶやく。
「………剣護か」
『剣護さん、ばっちりです』
「…よし」
『こちらも一人、仕留めました』
『この調子で行きます』
隊士達の声はいたって冷静だ。
立ち上がって物陰から周囲をうかがう。
目の前を行く、一人の朱雀隊士の姿が目に止まった。
ぐっ…と刀の柄に手をかける。
「了解した。みんなくれぐれも気をつけてな」
無線を切り、彼の前に走り出る。
「なっ………」
動揺する隊士を前に、静かに『蛍丸』を抜く。
「お前に恨みはないが、その首もらった!」
ぐっと踏み込み、袈裟懸けに一閃。
隊士はフィールドから姿を消した。
ふう…と小さくため息をつき、刀を鞘に仕舞う。
「………よし、次行くか」
今のところ、作戦は順調に運んでいる。
あいつ発案というのが若干…不愉快ではあるが。
「名づけて『辻斬り』」
ぴっ、と人差し指を立て、一夜さんが得意げに言う。
「勾陣隊の殺傷能力は超一流だからね!他隊の隊士に遭遇したら、誰彼構わず切り捨てる。攻撃は最大の防御ってやつだよ」
「………なるほどね」
制御室には、勾陣隊士に切り捨てられ退場させられた隊士達が集まってきて、恨めしそうに一夜さんを見つめている。
不思議そうな顔をしている孝志郎さんに耳打ちする。
「けど…辻斬りってそんなんでしたっけ?」
「通行人を無差別に切り捨てるのが辻斬り…と、この間本で読んだが」
「…うーん」
『とりあえず皆、勾陣隊には気をつけろ!んで、余裕がある奴は那智達の仇を討て!』
興奮気味の草薙隊長の声が無線から聞こえる。
んで、ってねぇ………
騰蛇隊士でも、本気モードの勾陣隊士に真正面から挑んで勝てる自信のある人物なんて、そういないのが現状だ。
高台に出て、目下の戦況を確認する。
それにしても、大した作戦を思いついたものだ。
しかし、長い付き合いから言って、こんな作戦を思いつく剣護じゃないと思う。
こんなことを思いつきそうな人物といえば…
楽しそうな一夜の笑顔が脳裏に浮かび、思わず額に手をやる。
「…はぁ」
その時。
「でぁ!!!」
巨大な棍棒が頭上から一気に振り下ろされる。
「い!?」
咄嗟によけ、『氷花』を抜こうとする、その背後にも人の気配。
…しまった。
囲まれたか。
私より一回りも二回りも大きな太陰隊士が、私を挟んで顔を見合わせ、笑っていた。
「悪いけど死んでもらうぜ?三日月さん」
「あんたの中にいる十六夜隊長のことを思うと少し気が引けるが…あんたが生き残ってると後々面倒だからなぁ」
「なぁに、大人しくしてりゃ痛くないように、一思いにやってやらぁ」
………くそぉ………
思わず歯噛みするが…
ぱっ、と脳裏を横切るものがあった。
隊士が棍棒を振りかざす。
「…食らえ!!!」
「………あ…やだっ、ブラのホック外れちゃった」
二人の動きが止まる。
「ごめんなさい、戦いの最中なのに………気持ち悪いから、直してもいいですか?」
「………い…や、そりゃ、構わねえよ!なぁ!?」
「あ…ああ!終わるまで待っててやっから…」
よかった、とため息をつき、上目遣いに二人を見る。
「あのぉ…恥ずかしいんで、向こう向いててもらえません???」
「も…勿論!」
「当たり前じゃねえか!?」
慌てて背を向けた二人。
それを確認して…ふう、と一つ深呼吸。
「………なぁんてね!」
『氷花』を抜き、一気に二人の背中を切り裂く。
「な!?」
「『戦いの最中、敵に背を向けるとは…二人とも弛んでおるぞ!』」
『ブリザード』!
「うわぁぁぁ!!!」
ジェントルな大男二人の姿は、青白い吹雪の中に消えた。
藍さんの鮮やかな勝ちっぷりに、一夜さんがガッツポーズして笑う。
「やったぁ!!!さっすが俺の藍!!!」
「…ちょっとずるくないですか?今の」
「ずるくなんてないない!だって油断したあいつらが悪いもん、ねぇ孝志郎?」
「まぁ、な」
「だけど………実戦でもないし、ああいうこと言われたら普通は…」
僕達の後ろで同様にモニターを見つめていた隊士達が、何やらひそひそ囁き合っている。
「三日月さんが色仕掛けみたいなことするなんて………」
「彼女はもっと…清純派だと思ってたけど………」
「あれ………完全に古泉隊長の悪影響じゃないのか?」
嘆く隊士達を見渡して、那智さんがきっぱり宣言する。
「いや。三日月さんは、昔からああだ」
………確かに、そうかも。
僕の肩を叩き、孝志郎さんが明るい表情で言う。
「やっと今回の趣旨が分かったぞ!右京」
「何ですか?」
「つまり…何でもありってことだな!?」
「……………」
その時。
モニターの手前にある、ボタンのようなものが目に留まる。
「あれ?これ…」
「ああそれね」
フィールドの変形ボタンだよ、と一夜さんが楽しそうに解説する。
「『天球儀』はそこで操作することで、地形を色々と変化させることが出来るんだよ。今は人のいない荒野みたいな設定になってるけど、市街戦に対応できるように街中みたいな設定にも出来るし…で、そのボタンを押すと地形が変化する、と」
「へえ…」
「でも、人が入った状態で地形が突然変化したら危ないだろ?だから戦闘中は触っちゃいけないことに…」
『あ!!!』
モニターから藍さんの叫び声。
目の前には刀を構え、臨戦態勢の勾陣隊士が二人。
これは………いくら藍さんでも、危険かもしれない。
『三日月伍長、覚悟!!!』
一夜さんが身を乗り出す。
「…藍、危ない!!!」
その時。
目の前の地面が突然、がくん、と下がった。
「うわぁぁぁ!!!」
バランスを崩した勾陣隊士達は、叫び声を上げながら崖を転がり落ちて行く。
ぺたり、と地面に座り込む。
「………何なの?」
とにかく…助かった。
小さく深呼吸して気を取り直し、こちらは異常なし、と草薙隊長に無線で報告する。
『隊長!どうしましょう!?』
無線からは隊士の焦った声。
『勾陣は無差別作戦に出てるみたいですし、六合も物陰に潜んで隙をうかがって襲う作戦のようで…』
六合は隠密活動を得意とする。さもありなんといったところだ。
落ち着け、と動揺している隊士達に喝を入れる。
「北のゲリラ連中との戦闘と同じだ!決して一人になるんじゃないぞ。2人か3人で役割を分担しながら行動する、得た情報は逐一無線で皆に報告すること、いいな?」
『はい!』
空を見上げる。
建物の中ではあるが、天井は確認出来ず、青い空がどこまでも広がっているように見える。
いつ来ても、不思議な建物だ。
と。
東の空に雷雲のようなものが見える。
「…何だ?」
誰かの『神器』?
それにしてはしかし…でかい。
その時だった。
「宗谷隊長、覚悟!!!」
女性の威勢のいい声と同時に、大きな竜巻が巻き起こる。
「何!?」
咄嗟に刀型の『岩融』を構え、回避するが…
前後左右から、刀や弓矢、槍の攻撃が降りかかる。
「くっ………」
応戦しきれず、ライフメーターの数値はどんどん減っていく。
「これで仕舞いだ…悪く思わないでくださいね、白さん」
高瀬の静かな声が背後から聞こえ。
『シルフィード』!
白い突風に襲われ、目の前が真っ白になる。
………油断したか。
「…それは確かか!?」
『はい!宗谷隊長が現に目の前で…俺、おっかなくて全力で逃げてきちまいましたけど…』
隊士の報告に思わず眉をしかめる。
あの白が、手も足もでないとは…
それより………
『天一隊と白虎隊が手を組んで、一斉攻撃を仕掛けている』という事実。
その情報、まだ掴んでいる隊は少ないだろう。
確かに、無い話ではない。白虎隊の隊長と伍長は、共に天一隊出身なのだから。
「しかも奴らの結束力は十二神将隊一。集団で仕掛けられたらたまったもんじゃねえな」
『…どうしやしょう!?遠矢さん』
『まるで軍隊アリじゃねえっすか!?』
…なかなか、うまいことを言うな。
「とにかく用心するしかねえな。それと!」
無線を握る手に力が入る。
「てめえら、三日月にゃ十っ分、気をつけろ!油断するんじゃねえぞ!」
十六夜隊長を慕い、女に弱い、太陰隊士達の心情を利用するとは…
「それもこれも………古泉だ」
やはりあの時…奴の女のように綺麗な顔を、一発殴っておくべきだったかもしれない。
その時。
頭上を大きな影が覆う。
見上げて…目を疑った。
「何だ…あれは?」
次の瞬間。
無数の雷が、雨のように降り注ぎ、周囲が金色に光る。
「な!?」
咄嗟に物陰に隠れて呼吸を整え、もう一度物体を確認する。
頭上を横切る、雷を降らせているものの正体。
それは…巨大な鳥のような生き物だった。
「『雷鳥』…か」
それは青龍隊の必殺技だ。
磨瑠さん…本気だな。
「いよいよ、何でもありの様相を呈して来たな」
孝志郎さんが興味深そうに顎に手をやる。
おーい、と背後から情けない声が聞こえてきた。
「そろそろ…解放してくれてもいいんじゃない?」
部屋の隅の柱に縛り付けられた一夜さんが、弱々しく笑いながら懇願する。
駄目だ、と孝志郎さんがきっぱり言う。
「何でもありなのは分かったが…不正は駄目だと思う」
「もー孝志郎は堅いんだからぁ」
雷鳥から降り注ぐ無数の雷に打たれ、一人、また一人と犠牲者が増えていく。
「これは…まさかの青龍隊の勝利か?」
その時。
雷鳥の背後に見える、切り立つ崖の上に佇む人物が目に留まった。
あれは………
犠牲になった大裳隊士達の歓声が上がる。
「橋下伍長!!!」
橋下伍長は雷雲から吹く風を受けながら、『浄玻璃鏡』を構える。
そして、静かに唱えた。
『照らし出せ、己が姿』
鏡から放たれた眩い光は、一直線に『雷鳥』に向かう。
すると。
ジェイドの力で一つの『雷鳥』の形を成していた青龍隊士達が元の姿を現し、バラバラと地面に落ちていく。
「すげえ!!!」
「橋下伍長やるぅ!!!」
モニターのこちら側では、割れんばかりの拍手喝采が沸き起こる。
標的を確認して、ふう、と小さくため息をつく橋下伍長。
しかし…
『な…!?』
彼の体が、背後から金色の矢に射抜かれる。
そして、すっ…とフィールドから消えた。
「橋下くんはツメが甘いんだからもう…」
つぶやいて、広げたストールを仕舞う。
『蜂比礼』の金色の光のバリアに護られていた隊士達が、一斉にぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました、源隊長!」
「他隊の俺達まで助けてもらっちゃって…」
すまなそうに笑う彼らに、いいのよ、と微笑む。
「困ったときはお互い様だもの。じゃ、ここからまた敵味方に分かれて、ベストを尽くそうじゃない?」
「はい!」
その時だ。
背後に何か気配を感じた…気がした。
「源隊長!!!」
隊士達の叫び声と同時に、耳に飛び込んできたのは。
ライフメーターゼロのブザー音。
「くっ………」
擬似的な激痛に耐えながら確認すると…
背中から胸を貫いて、金色の矢が突き刺さっていた。
「…いたたた」
脇に落ちていた『グングニル』を抱える。
さすが橋下伍長、あの『浄玻璃鏡』をあんな風に遣うとは。
他の隊士達も少し離れたところに、目を回して倒れている。
「みんなー、大丈夫かぁい???」
「は…はい」
「何とか………」
痛い腰をさすりながら立ちあがる。
と。
周囲に…殺気。
「みんな逃げろぉ!!!」
『グングニル』を何とか構えるが。
体を刃物のように鋭い風に切り刻まれる。
「井上隊長!覚悟!!!」
獲物を狙うぎらぎらした目の、天一隊士達と白虎隊士達。
背後には、ちょっと悪い顔をした高瀬隊長と槌谷隊長の姿もある。
ひやり、と背中に汗をかく。
一呼吸分、間があって…
高瀬隊長の凛とした声。
「…かかれ!!!」
雄たけびを上げて『神器』を振りかざす隊士達。
「………にゃあああああ!!!!!」
『どうやら、井上隊長退場のようです』
隊士からの報告が入る。
「そうか…ご苦労」
岩場の陰に隠れて、地面にフィールドの地図を書く。
そして、隊士達の報告を元に、主要人物の具体的な位置を記す。
特に注意すべきは、愁、藍、龍介………
それと………未だ報告の入らない人物が一人。
「剣護の奴…一体どこに潜んでるんだ?」
「…どこだと思う!?」
背後からの攻撃を、咄嗟に体を捻って回避する。
『アロンダイト』を抜くが…時既に遅し。
首元には、剣護の『蛍丸』がしっかり突きつけられていた。
「ここに隠れて情報分析ってわけか…来斗らしいな」
にやりと笑う…剣護。
「けど知ってるか?…攻撃は最大の防御って」
刀が濃い青い光を放つ。
「守るばっかじゃ…生き残れないんだぜ?」
「…だろうな」
にやりと笑う俺に、剣護は怪訝そうな顔をした。
『アロンダイト』が白く光る。
と、同時に………
地面に埋めた『ジェイド』の破片が共鳴するように、白く眩しい光を放った。
「………これは………!?」
それは全て………計算通りだ。
「緊急時は、『アロンダイト』の力を周囲に配置した『ジェイド』で増幅し、敵を倒す…お前の言う通り、攻撃は最大の防御…ってわけだ」
「………くそ」
『紫電』
静かに唱えると。
『アロンダイト』が光り、幾筋もの雷が『ジェイド』に落ちてくる。
そして…
『ジェイド』に集まった雷光が…一斉に剣護に放たれた。
「………じゃあな、剣護」
悔しそうな顔の彼は、すっ…とフィールドから消える。
もう一つ…教えてやるのを忘れていたな。
「天空隊は…分析するばかりが能ではないぞ」
「しんでしまうとはなさけない」
楽しそうに言う一夜さんの胸倉を、剣護さんが掴む。
「てめえなぁ…嬉しそうに言ってんじゃねえよ!!!」
「なんだよぉ…俺の作戦は完璧だったじゃん!?脱落したのは自分のミスが原因だろ?しかもすっごい初歩的なミ・ス♪」
「……………」
「恥ずかしいなぁ片桐隊長、こーんな中途半端な所で脱落なんて…」
「………おおおおお!!!」
絶叫する剣護さんを、脱落した勾陣隊士達が不憫そうに見つめている。
「楽しそうだな…一夜」
孝志郎さんがつぶやく。
「そうですね…」
「剣護が脱落したのは悔しいんだろうが…傍にいられるのが嬉しいんだろうな…きっと」
「………そんなに可愛いものでしょうか………」
そういえば、と顎に手をやる。
「愁の奴…姿が見えないな」
「え?…そういえば…そうですね」
確かに愁さんは、表立った場所に今のところ姿を見せていない。
一体どこに…
「とりあえず、今生き残ってる奴はみんな集まれ!」
そう無線に告げ、指定した場所に急ぐ。
すると…
「おい、お前らこんな所で何やってんだよ?」
「ああ?お前らこそ何のつもりだ?」
「俺達は草薙隊長が来るの、待ってんだよ。命が惜しかったらとっととあっち行け」
「何だと!?…俺達の方にもなぁ、もうすぐ浅倉隊長がいらっしゃるんだ。命が惜しかったら退くのはお前らのほうじゃねえのか?」
「………んだとぉてめえら」
睨み合っているのは…騰蛇隊士達と朱雀隊士達だ。
「お…おいおいお前ら、そんな目立つ所で何いがみ合ってんだよ?」
「あっ、草薙隊長!」
「お待ちしてました!!!」
少し呆れてため息をつく。
「全く、こんな時まで喧嘩しなくたっていいじゃねえか」
「だって隊長!こいつらが俺達の集合場所にですねぇ…」
「何だぁ?お前らの集合場所じゃねえ、ここは浅倉隊長が先に集合場所に指定なさったんだ!」
「………何?」
ということは。
「…何や、龍介やないか」
聞こえて来たのは…そう、奴の声。
「…愁」
不敵に笑う愁の背後に、朱雀隊士達がさっと集まった。
騰蛇隊士達も俺の背後に回る。
「お前も来たのかよ?」
「ああ?…お前こそ何や?僕にやられたくて、わざわざ出向いて来たんか?」
…何だとぉ。
「てめえこそ、ちゃあんと首洗って来たんだろうな!?こんな中途半端な時間でゲームオーバーなんて、総隊長様にしちゃあ本っ当気の毒だけどなっ」
ふっ、と呆れたように微笑む。
「お前、僕に勝てるとでも思ってんのか?『天象館』で半殺しにされただけじゃ、足りひんみたいやなぁ?」
「うっせえそれを言うんじゃねえ!!!それに、俺はあの頃の俺とは違うんだぞ!?」
「そうだそうだ!」
「言ってやってください草薙隊長!」
「何だとてめえら、浅倉隊長なめんな!」
野次る隊士達を制して、愁がにやり、と笑う。
「どうやら…馬鹿には口で言っただけじゃわからへんみたいやなぁ」
「それは…こっちの台詞だけどな」
『雷電』に手をかける。
「…やんのか?」
愁の『螢惑』が赤く光る。
「………上等や」
「遅れちゃった…」
走りながら無線を鳴らすが、草薙隊長は応答しない。
何かあったんだろうか?
胸騒ぎを抑えつつ、集合場所へ走る。
と。
「風牙!?」
「ミカさん!」
目の前に、同じように息を切らせて走ってくる、風牙の姿。
「どうしたの?そんなに急いで…」
…じゃなくて。
『氷花』を抜いて、構える。
「出会っちゃったのが運のツキよ、風牙。悪いけど、この『氷花』のサビになってもらおうじゃない」
彼も冷静な笑みを浮かべ、『青龍偃月刀』を静かに構える。
「のぞむところです、ミカさん。負けませんよ!?」
「あーら風牙、私に勝てるつもり?」
「あったり前です!今日の僕はいつもの僕とは違うんです!」
…いつもの僕とは違う?
僕怒ってるんですから、と怒鳴り、バン!と地面を蹴る。
「…何か………あったの?」
遠慮がちに尋ねると…
ぐっと拳を握り、ふいに泣きそうな顔になる。
「僕は…もう女なんか信用しませんから!!!」
「………何があったのよ」
「問答無用です!!!」
ま………いいか。
カチャリ、と刀を返す。
「行くわよ!」
「行きます!」
…その時。
すぐ近くで火の手が上がる。
そして…落雷の、凄まじい音。
思わず刀を下ろし、見ると。
「食らえ愁!!!」
「そんなん効かんわ!こっちの番や!!!」
龍介と愁くんが『神器』を振りかざし、真剣勝負の真っ最中と見える。
その周囲では。
「死ねえ!!!」
「この野郎!!!やりやがったな!!??」
「食らえ!!!」
若干不慣れな『神器』を遣いながら、騰蛇と朱雀の隊士達がもみくちゃにやり合っている。
死闘…というか、子供の喧嘩…というか。
風牙も剣を持った手をだらりと下げ、その状況をぽかんと見ている。
そう。
騰蛇隊の龍介と朱雀隊の愁くんは、昔から仲が悪い。
そして、騰蛇隊と朱雀隊も…昔から仲が悪いのである。
理由は良くわからない。
両隊共エリート集団なので、プライドとプライドのぶつかり合いなのかもしれないが…
とにかく、何かといがみ合っていて、小競り合いが起こると収集がつかない。
『両隊がなるべく接触しないよう、十分配慮するように』と…総隊長秘書の引継ぎ書にも書いてあるくらいだ。
「ミカさん…」
風牙がつぶやく。
「ええ…」
「やめましょうか?」
「そうね…」
顔を見合わせる。
「私達は仲良くすることにして…お互い、頑張りましょう」
「はい。ミカさんもご無事で」
しっかりと握手を交わし、元来た道を引き返すことにした。
「残ってるの、後何人や?」
『えっと…宇治原さん含めて多分3人です!』
3人…か。
『源隊長もやられちゃいましたし、かなり厳しいですね』
他の隊の状況はどうなのだろう。
感覚的には大分減ったように思うが…果たして。
「ま、ええわ。とりあえずお互い頑張ろうや…気付けてな」
『はい!』
『了解しましたぁ』
無線を切る。
大きく一つ、息をついて…振り返る。
そこには、3人の勾陣隊士の姿。
「何や?お前ら」
「宇治原伍長、覚悟!」
3本の刀がキラリと光る。
ほお…と口の端を上げて笑う。
「お前ら、俺を斬る…言うんか?」
挑発に顔を赤くした1人が怒鳴る。
「黙りなさい!こちらが平の隊士だからと言って、甘く見てもらっては困ります!!!」
「『剣道三倍段』って…ご存知ですか?宇治原伍長」
他の1人が言う。
「ああ、聞いたことあるな」
ふ…と意味ありげに笑う、もう1人。
「つまり…そういうことですよ」
「何や、そんなことやったら…」
こちらも笑い返してやる。
「俺がお前らの3倍やったら…ええねやろ?」
「………何だと!?」
「いち、にい、さん…3人ゆーことは、掛ける3で9倍か…10倍ありゃ十分やんか」
『飛燕』を装着した拳を握り、前方に構える。
動揺したような表情の隊士達。
「………貴方は」
『釣りはいらんで』
そうつぶやくのとほぼ同時。
宇治原伍長は両手を鉤爪のように構え、振り下ろす。
『飛燕』が白く眩く光り、かまいたちのように鋭い風が、勾陣隊士達に迫る。
『うわぁ!!!』
咄嗟に刀を構える隊士達の1人に近づき、鋭く蹴り上げて刀を弾き飛ばす。
『てぃ!!!』
横面を殴り飛ばされ、鋭い風の刃に切り刻まれて地面に叩きつけられた隊士は、ふっ…とフィールドから消えた。
『たぁ!!!』
ぐっと反対方向に踏み込み肘打ちを繰り出して、彼は次の隊士もテンポ良く倒してしまう。
『あ…ああ………』
残った隊士の、刀を持つ手が震えている。
『悪く…思うなや』
にっ、と笑って正拳突きを繰り出す。
白い風に体を貫かれ、隊士の姿が見えなくなった。
「すげえ………」
隊士達が感嘆の声を漏らす。
孝志郎さんが不思議そうな表情を浮かべ、腕組みをして僕に尋ねる。
「右京、あの人確か…医者だったよな?」
以前入院していたときに世話になったのだ、という。
「…そうですけど」
「あの人…あんなに強いのに、何で医者なんかやってるんだ?」
医者『なんか』ってことはないんだろうけど…でも、確かに。
「それは………何でなんでしょうね」
「そんなの、決まってるじゃん」
いつの間にか拘束を解かれた一夜さんが、ぐい、と親指で背後を指差す。
「あれ」
「…え?」
「いいぞぉ宇治原くん!!!やっちゃえやっちゃえーーー!!!」
そこには、モニターに向かって黄色い歓声を上げる…源隊長の姿。
普段お淑やかな彼女の豹変ぶりを、周囲の隊士達はぽかんと見つめている。
「やっぱり………そうなんでしょうか?」
「百パーセントそう。間違いない」
自信満々に頷く。
「勾陣隊士も減ってきたようだし、分からなくなってきたな」
「確かに。天一隊と白虎隊も、少しずつではあるが数を減らしているようだしな」
横で冷静に、戦況を分析している二人組は…
「蒼玉隊長、碧玉隊長…いつの間に?」
ああ、と面白くなさそうに蒼玉隊長が言う。
「物陰に潜んでいたのだが、狙われてしまってな」
突然矢が飛んできたのだ、と碧玉隊長も頷く。
「どこか遠くから狙われていたようなのだが…まず蒼がやられてすぐさま私も…」
「避ける暇もなかったな」
「ああ…あれはなかなかの手練であろう」
………矢?
そういえば、さっきも。
突如始まった乱闘騒ぎだったが、徐々に収束に向かいつつあった。
最初6対6だったのが僕と龍介を含め、3対3。
黒焦げになりながら、『雷電』を構えて龍介が怒鳴る。
『タケミカヅチ』!!!
「くっ…」
『螢惑』をかざし、襲い来る雷を受け止める。
バチバチバチバチ…という物凄い音と、腕にかかる衝撃。
確かに龍介…成長してるやないか。
でも…まだまだやな。
とどめを刺そうと『螢惑』を構えた、その時。
視界の隅に、異様な気配。
「龍介、避け!!!」
「ああ………!?」
その体を貫いたのは…
金色に光る、大きな鋭い矢。
「な………」
驚愕の表情を浮かべた龍介の姿が目の前から消える。
と同時に。
降り注ぐ雷を帯びた無数の矢。
「くっ………」
『火柱』!!!
周囲に火柱が幾つも上がると、物陰から悲鳴とブザー音が聞こえてきた。
「みんな退き!狙われてるで!!!」
呆然としている隊士達に向かって叫び、その場を走り去った。
あれは………