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霞姫誘拐事件(前編)

『カスミヒメ ハ ワタシ ノ モノ ジャマモノ ニ ハ シ アル ノミ』

こんな気味の悪い文面の手紙が発見されたのは、昨日の深夜のことだ。

城の見張りの兵が見つけたものらしい。

霞様の寝室がある建物の入り口付近の石壁に、1本の矢が突き刺さっており、括りつけられていたのがこの手紙。

しかも、見つかったのはそれだけではなかった。

「矢の先にね、鳥の屍骸が刺さってたそうなんですよ」

思い出したくもない、という顔で藍さんが言う。

「首から血が滴っててね…こう…ポタッ…ポタッ…って」

「や…やめてくださいよ、そういう言い方するの!」

鳥肌が立って思わず叫ぶと、だって、と藍さんは眉間に皺を寄せてつぶやく。

「あれ見たの、私とその兵士だけなんですもん。少しは気持ち悪さを共有してください」

「…お前なぁ」

草薙さんも僕同様、不快そうな顔をしてため息をつく。

「この文面じゃ、どこの誰だか皆目検討がつかねえよな。字もタイプみたいだし」

「来斗に見せてきたんですけど、字体に特徴もないし、紺青ならどこにでもあるタイプライターみたいですよ、それ」

「何かお心当たり…ありますか?」

僕の問いかけに、霞様は黙って首を振る。

「霞様を狙うなんて…以前みたく、どこかのテロリストか何かの仕業でしょうか?」

「けど、ワタシノモノ…ってなぁ」

考え込む僕達に、眉間に皺を寄せた藍さんが言う。

「実はね、最近多いんですよ…ここまでひどいのはまあ、そう無いにしても」

「多い…って?」

「『姫様萌え』っていうらしいです」

「………は?」

彼女はいたって真面目な表情で、僕と草薙さんを交互に見る。

「霞様って、陛下の崩御が公表されてこっち、ご公務で表に出られることが多くなったじゃないですか?それで、変なファンが増えちゃったみたいなんですよ」

「変な…ファン?」

「だって、清く正しく美しい、正真正銘のプリンセスですもの。そりゃ霞様は今までだって、民から慕われてらっしゃいましたけど…最近またお綺麗になられたものだから、もう城下の殿方が大騒ぎらしくて」

そうなんですか?と聞くと、草薙さんは大きく頷く。

「確かにそういう噂、聞いたことあるけど…」

「そうは言っても霞様は高嶺の花、遠くから見てるだけでいいって方ばかりなのかと思ってましたけど…こういう変質者まがいのこと、しちゃいけませんよねぇ」

寝室のある建物を知っているというだけでも、十分気味が悪い。

霞様が僕の腕に触れる。

「右京様、私………」

不安そうな顔をした彼女に向き直り、にっこり笑ってみせる。

「霞様、大丈夫です!僕がついてますから」

「…そうですね」

まだ暗い表情の霞様に大きく頷いて、草薙さん達を見る。

「ここは僕にお任せください!十二神将隊は隊の再編とかでお忙しいでしょうし」

「そうか?じゃあ…」

「ちょっと待ってくださいよぉ」

藍さんが不満そうな声を上げる。

「そりゃ色々忙しいのは忙しいですけど…霞様をお守りすることも、騰蛇隊の大事な任務なんですよ?」

「でも僕、何か役職についてるわけでもないですし、草薙さん達のお手伝いくらいしか、することないですから…」

「…でもね?」

「いいじゃねえか、三日月。右京に任せときゃ安心だって」

ふうん…と、藍さんは少し冷たい目つきになる。

「霞様も…同じご意見ですか?」

「ええ…藍にはいつも助けてもらって、ありがたいと思ってるわ。でも今はあなたも忙しいでしょうし、何より右京様がこうおっしゃってくださるし」

「ね?だから藍さん、ご安心ください」

彼女は少し黙り込んだ後、ふいにつぶやく。

「右京様、随分自信がおありなんですね」

「えっ…?」

「おい、三日月…」

彼女の黒い瞳が、挑戦的に僕を見る。

「そうですよねぇ、右京様は剣術の達人ですし、あのベルゼブを倒した一番の立役者ですもんね。自信があって当然かぁ」

「…何がおっしゃりたいんですか?」

「そんな訳の分からない手紙寄越してくる相手、お一人で大丈夫!なんてちょっと…」

感じの悪い言い方にカチンときて、思わず言ってしまう。

「自信過剰だって言いたいんですか?」

「おいおい右京まで…」

「そうとまでは言いませんけど…もっと慎重になられたらいかがかなぁって、思ったものですから」

「じゃあ、藍さんはどうなんですか?」

「…私?」

「ご自分が関われば絶対大丈夫って思ってるみたいに、僕には見えますけど」

彼女の表情が一層険しくなり…

慌てて草薙さんが仲裁に入る。

「お前らいい加減にしろ、霞様の御前だぞ!?」

藍さんは黙って霞様に頭を下げ、冷たい目で僕を見る。

「でしたら…お手並み拝見させていただきましょ」

「…望むところです」

「ですけど…霞様に何かあっては事ですもの。こちらはこちらでやらせていただきます」

「随分信用されてないんですね、僕」

「お前らなぁ、何度言ったら…」

草薙さんの言葉を遮るように、失礼します、とよく通る声で一言言って、彼女は部屋を出て行った。


騰蛇隊舎に、藍さんの姿はなく…

その頃には、僕も大分平静を取り戻していた。

「僕…何かまずいこと言ったでしょうか?」

「いーや、ぜんっぜん!」

草薙さんが困った顔で笑う。

「だって、仕掛けたのはあいつのほうだったろ?」

「それは…そうですけど」

「いいんだって。ただのあいつのヤキモチだよ」

「………ヤキモチ!?」

そうそう、と愉快そうに目を細める。

「霞様最近、右京様右京様って、お前のことばっか頼りにしてるだろ?だからさ、霞様をお守りするのは自分なのに!って…あいつも、かわいいとこあるじゃねえか」

「なっ………」

かあっと顔が熱くなる。

「何言ってるんですか!?僕は………とにかくっ」

落ち着こうと一つ、ため息をつく。

「怪しい人物を探さなくちゃ…藍さんでも僕でも、そんなことはどうでもいいです。霞様の身の安全が最優先ですからね」


「心当たり…ねえ」

使用人の女性は、そうつぶやいて首を捻った。

「城で姫様方にお仕えしている者なら誰でも、姫様のお部屋の場所くらいは存じ上げておりますし…建物の外までなら、誰でも近づくことは出来るでしょうから…」

「…そうですね」

だが逆に…

大衆には知られていないことだし、城の敷地内に夜間、関係者以外の人物が侵入することは不可能と言ってもいいだろう。

「最近城の使用人として雇われた人のリスト…良かったら見せていただけますか?」

「ええ………それでしたら」

困ったように横を向く、彼女の視線の先では。

書類のような物を手にした藍さんが、冷ややかにこちらを見ていた。

「ご覧になりたいものって…これですか?」

静かな城の廊下にコツコツという彼女の足音が響く。

無造作に手渡された書類は、使用人のリストだった。

「…ありがとうございます」

「でも…無駄だと思いますよ?ベルゼブ戦後に採用された人って、数えるほどしかいませんから」

「…そうですか」

どうやら、考えることは同じだったらしい。

その上…藍さんの方が行動は一足早かったようだ。

彼女は、優越感の篭もった、挑戦的な笑みを浮かべる。

「せいぜい…頑張ってくださいね」

かっとなって…思わず感情的な言葉を吐きそうになるが。

ぐっと押し込め、にっこり笑い返した。

「はい…藍さんも、お気をつけて」


今日は霞様と城下の人々の謁見の日だ。

姫が多くの人と接触することになるので、警備にも厳重を期さなければならない。

十二神将隊からは、三日月のたっての希望で騰蛇隊が出ることになった。

『こちら異常なしです』

『不審な人物を確保しましたが、どうも無関係のようです』

隊士達からは次々と、きめ細かな報告が入る。

腕組みをして壁にもたれ、玉座にいる霞様を遠くから見つめている、三日月。

右京はというと、姫の護衛を一任されて、霞様のすぐ傍らに控えている。

二人は…

このところ、全く口を聞いていないようだ。

はぁ…

小さくため息をついた俺に、どうかした?と三日月が訊く。

「あのさぁ、お前…」

最初は面白いなぁと思っていた…それは事実だが。

正直ここまで引きずるとは…な。

「何でしょう?」

「…いい加減にしろよ」

むっとした表情で、彼女は眉間に皺を寄せる。

「だから…何をよ?」

「…分かってんだろうが」

「分かりません」

きっぱり言い放つ彼女に、何も言えなくなって目を逸らす。

まったく………

時刻は昼を回り、霞様は休息をとるため一旦自室に戻ることとなった。

中庭に出た姫と右京に、追いかけて行った三日月が声をかける。

「霞様!お部屋まで同行させていただいても、よろしいでしょうか?」

「…藍さんが?」

不思議そうに尋ねる右京に、得意そうに胸をそらす。

「そうです!以前、霞様が旧白虎隊に連れ去られた時のこと、覚えてらっしゃいますか?」

あの…蔵人の件か。

「霞様が一人でいらっしゃって、警備が手薄になったところを狙われたのですから…お部屋までお伴させていただかなければ、安心出来ませんもの」

「…でも」

反論しようとする右京に、意地悪く目を細めて言い返す三日月。

「だって…いくら霞様の護衛と言っても、右京様と二人きりにするわけにはいきませんからね。お二人とも大人なんですし…」

「な………」

右京の顔が真っ赤になる。

「失礼じゃないですか!?僕は…そんなっ」

「ふぅん、じゃあ絶対絶対霞様にちょっかい出さないって言い切れるんですね!?」

「あったり前じゃないですか!?…藍さん、言っていいことと悪いことがありますよ!?」

………ったく。

呆れて大きくため息をつき、二人に近づく。

「おい、お前ら本当に…」

いい加減にしろ、と言いかけたその時。

霞様の悲鳴。

はっとして見ると、黒装束の大柄な男が彼女を拘束していた。

首元には…光る刃物。

「霞様!!!」

男は何も言葉を発しない。

近づこうとすると、霞様の首に更にナイフを押し付ける。

白い首に血が滲む。

この男…彼女を傷つけても已む無しといった態度だ。

「くっ………」

奥歯をかみ締める俺達の前に。

突如、白い煙が巻き上がった。

「なっ…!?」

「何だ!?」

白い濃い煙に巻かれ、霞様の呼ぶ声が遠くなっていく。

「…霞様!!!」

やっと薄くなってきた煙の中…

三日月が男の後を追おうと走り出す。

「待ってください、藍さん!!!」

右京が彼女の腕を掴んだ。

突如、がくんと後ろに引っ張られる三日月。

と…

巻き添えになって、右京もバランスを崩す。

「きゃっ!!!」

「うわっ!!!」

ドシン、という大きな音と共に、二人はその場に倒れた。

わらわらと城の兵士達が集まって来たときには…

逃げていく方向こそ確認したものの、男と姫の姿は…既に無かった。


「お前達は何をしておるのだ!!??」

朔月公に怒鳴られ、思わず硬く目をつぶる。

「申し訳…ございませんでした」

むっつり黙り込んでいる二人に代わり、深々と頭を下げる。

どうやら、右京達は例の文書の件、朔月公に報告していなかったらしい。

「必ずや、霞様は無事に救出いたします」

「当たり前だ!!!だが…右京殿」

「はい」

「それに…三日月」

「…はい」

「このまま…そなたらに任せて、本当に良いのだな!?」

「勿論です!」

「お任せください!」

二人は同時に言って、鋭い目でじろっとお互いを見る。

ふう、と嘆くようにため息をついて、朔月公は俺を見た。

『頼んだぞ』とでも言うように。

………まったく。

朔月公が去った中庭で、ぽつり、と三日月が言う。

「もう…右京様のせいでこんなことになっちゃって………」

その一言を…聞き逃す右京ではない。

「…何が僕のせいだって言うんですか?」

「…ご自分は悪くないっておっしゃるんですか!?」

三日月は右京の襟をぐいっと掴む。

「だって!あの時右京様が止めなければ、霞様の後を追うことが出来たんですよ!?それなのに………」

「だって!あの男は霞様を傷つけようとしていたんですよ!?下手に追っては、姫の身を危険に晒してしまうと思って…」

「あの状況だったら、咄嗟の反応が一番重要でしょ!?右京様は慎重過ぎるんです!だからいつもいつも、後手後手に回っちゃうんじゃないですか!?」

「いつもいつも………って」

右京が顔色を変える。

「藍さんこそ、感情的になりすぎて、冷静な対処が出来ないんですよ!忘れたんですか!?感情的になったら負けって、いつもいつも孝志郎さんに言われてきたんでしょ!?」

睨みあう二人に心底腹が立ってきて…拳を握る。

「ああもう…お前達は本当に」

「いい加減にしろ!!!」

怒鳴り声に驚いて、振り向くとそこには…

「孝志郎さん………?」

孝志郎さんは、二人の間に立って静かに言う。

「落ち着け…姫の身を案じているのは、お前達だけじゃないんだぞ?」

はっとした様子で、うつむく二人。

「どうして…ここに?」

「お前達の援護をするようにと、指示を受けたものでな」

来斗さんの声。

見ると、背後に剣護と一夜さんの姿もある。

…朔月公か。

ふう、と一つ深呼吸をして、三日月は俺達に背を向ける。

「おい、藍…」

「私は私でやりますから、孝志郎は右京様のお手伝いでもして差し上げたらいいじゃない」

「………三日月…どこ行くんだよ?」

「私の勝手でしょ?」

そう言い放つと、長いポニーテールを大きく揺らしながら、彼女は中庭を出て行った。

その後ろ姿を見送って、喧嘩してるとは聞いてたけど…と、剣護が俺に耳打ちする。

「…聞きしに勝るな」

「…だろ?」

当の右京は、しょんぼりとうな垂れて、地面をじっと見つめていた。

「どうしましょう、僕…」

いいんだよ、と孝志郎さんが肩を叩く。

「でも…売り言葉に買い言葉っていうか…こんなんじゃまるで子供の喧嘩ですよね。早く霞様のこと、探さなくちゃいけないのに…」

「それが分かれば十分だ…しっかりやろう」

孝志郎さんの言葉に、右京は思い直したように、はい!と笑顔で頷いた。

続いて孝志郎さんは、俺達の傍にいた一夜さんに声をかける。

「何?」

「お前は…藍の傍にいてやってくれないか?」

彼の言葉に、きょとんと目を丸くする。

「うん…わかった」

子供のように大きく頷き、一夜さんは三日月の去った方へ歩きだす。

めんどくさがりで、いちいちケチつけないと気がすまない人なのに。

今日は『何で?』が出なかったな…

あの、と右京が俺の顔を見る。

「…気になることがあるんですけど」


「大柄の見かけない男…ですか」

そうざっくり尋ねられてもねえ、と香蘭は首を捻る。

「でもね…機密情報だから、これ以上は詳しく話せないのよ」

とは言うものの。

男は黒い布で全身を覆っていたため、細い切れ長の目しか、特徴が伝えられないのが本音。

「最近は平和になって、近国の若い衆が、沢山街に入ってきますからねぇ…」

「…そうよね」

「他の花姫にも、訊いてはみますけれど…」

と、その時。

何やら花姫達が店先で騒ぎ始めた。

あら、と窓際に立っていた香蘭が目を細める。

「………何よ」

「いえ…こっちのことですわ」

香蘭の後に続き、店先に出てみる。

と………

「あらぁ、香蘭姉さん!」

「古泉の若が…」

「あ、香蘭!久しぶり!」

彼女達の中心にいたのは…

古泉の若こと…一夜だった。

………体がずっしり重くなる。

「もう、紺青にお戻りになられてからこっち、全然お出でにならないんですものぉ」

「寂しかったんですからぁ」

「本当かなぁ?…でも、みんな元気そうで安心したよ」

「若………」

「それに…相変わらず綺麗だし」

「やだぁ一夜様ったらぁ!」

きゃあきゃあ言っている女の子達に向かって、香蘭が声をかける。

「みんな、そのくらいにおし…若はお仕事なんだから」

「え!?そうなんですかぁ?」

「残念!」

「また…遊びに来てくださいます?」

ごめんね、と一夜が困った顔で笑う。

「それが…駄目なんだ」

ええ!?何でですか!?という彼女たちの非難めいた声に、だって…と嬉しそうに微笑む。

「俺…大事な人が出来たからさ♪」

場がしん…と静まり返る。

ぽかんとしている花姫達。

どうやら…香蘭以外の花姫は、その事を知らないらしい。

かあっと顔が熱くなる。

「一夜!!!」

「あ、藍!こんな所にいたんだ」

いいから、と一夜の袖を引っ張る。

「あなたねぇ、何でこんなところに…」

「だって、藍が心配だったんだもん」

「そんなこと…ほっといてって言ったでしょ!?」

焦る私を、花姫達が不思議そうに見ている。

あ、そうだ!と、一夜が彼女達の方を見る。

「あのね、俺の大事な人っていうのが…」

「あーーーもう!!!一夜!!!行くわよ!!!」

「えっ何で?…だって」

「いいから!!!」

またいらしてくださいね、とにこやかに笑う香蘭と、唖然としている花姫達をその場に残し、私は一夜を引きずって『花街』を出た。


「死相が出ておられます」

突然そう声をかけられて、驚かない人はいないだろう。

紫のベールで顔を隠した相手の女性は、年齢もはっきりわからない。

一体…と、怪訝そうな顔をした城の兵士が眉を顰める。

「どういうことだ?貴様…占い師か?」

「左様にございます」

澄ました声で言った女性は、彼の肩に手を置き、耳元でささやく。

「姫が姿を消されたとか…」

「…貴様…何故そのことを」

「だって…私は姫の居場所を占うため、城に召されたのでございますもの」

しかし…その兵士の顔に、あまりにはっきりと死の影が出ていたので、気になって声を掛けたのだと彼女は言う。

馬鹿馬鹿しい、とはき捨てるように言う兵士。

「まじないなどに頼るとは…大臣方もどうかなさっておる」

「あらあら…そのようにおっしゃるものではありませんよ?」

そう言いつつも動揺した様子の兵士が、彼女の手を払いのけ、怒鳴る。

「だいたい、死相などと言って…何か証拠でもあるのか!?」

死相に証拠などございませんが…と女性は目を細める。

「私の占いの正しいことは、お見せできるかと存じます」

「ほう…どのようなことだ」

「あなた…1年程前まで、東のお国にいらっしゃいましたね?」

はっとした表情で、兵士が彼女を凝視する。

「そうですね、場所は…燕支」

「………貴様」

「ええ…見えましたわ。3年燕支にいらっしゃった。その前には2年程常盤に…各国を流れ、その度に主君を変え、今は晴れて紺青の都に………しかし、あなた様の優れたお力を妬むお人も多くおられたことでしょう…あなた様の影は、おそらくそのような方々の妬み嫉みによるものです」

青ざめた顔で、彼は彼女の腕を掴む。

「あら…どうなさいました?」

「いいから………来い!」

そして二人は、柱の影に消えた。


「大当たりよ、右京!」

ぴっと人差し指で僕を指差し、花蓮様はにやりと笑う。

「霞様を攫った男を城へ手引きして、煙幕を使って逃がしたのは…あの男」

「本当ですか!?」

詰め寄る僕達をまあまあ、と制して、彼女は続けて言う。

「…そうそう、鳥の屍骸と怪文書もあいつ。お金目当てだったみたいだけどね」

「それで…」

朔月公が眉を顰め、低い声で尋ねる。

「その男、どうしたのだ?」

「ああ…それならご安心ください!きちんと自首して、罪を悔い改めれば死相は消えますって言っておいたから。逃げることはないでしょ、相当怯えてたみたいだし…」

朔月公と同じくらい難しい顔で、来斗さんが腕組みをしてつぶやく。

「しかし…よくもそこまで追い詰めることが出来ましたね、花蓮様…」

すごいでしょ?と嬉しそうに微笑む。

「右京にあの男が怪しいって言われて、占い師に化けて接近したときからね、なぁんかどっかで見た顔だなぁって思ってたのよ。なんせ、結構いい男だったでしょ?」

「………花蓮」

やだぁ、と彼女は楽しそうに朔月公の肩を叩く。

「秋風ったらヤキモチ?いい年してもぉ…」

「…馬鹿者!!!………で…何だ!?」

そうそう、と少し真面目な顔に戻る。

「あいつ、昔燕支の城に出入りしてた男だったのよね。経歴はその時にちょっと聞いたのを思い出して、適当に言ったんだけど…合ってたみたい。ラッキーだったわね」

さすが………花蓮様。

「雇い主は?」

「それが………」

ぐっと深刻な表情になって、草薙さんの顔を見る。

「最近近隣国の皇族の、若い娘さん達が行方不明になってる事件…知ってる?」

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