Ep0
右京様が紺青へ到着する前夜のお話です。
バルコニーに一人立ち、夜風を頬に受ける。
妹の霧江にはいつも呆れられるし、藍にはいつも
「お一人で見晴らしのいい所に立たれますと、どこから敵が狙ってくるかわかりません!」
と叱られるのだけど・・・
そこはお父様と二人、国について語らった思い出の場所である。
「燕支の皇子・・・か」
それは誰に問いかけるでもない独り言だ。
『水鏡』のお告げだという。
彼に一体何が出来るのだろう?
彼が来たところでお父様が帰って来たりはしないのだけど・・・
それどころか燕支と紺青の間には過去、消すことの出来ない遺恨も残っている。
「どんな人なのかしら?」
夜風が首の鈴を微かに鳴らす。
「協力的な方だといいのだけど・・・」
隊舎で三日月と残務整理をしていると、手元の無線が鳴った。
『龍介、都の状況はどうだ?』
それは一週間に一度程度の定期的な、孝志郎さんからの連絡だ。
「はい!オンブラの襲来も王の崩御後はありませんし、治安面も比較的落ち着いてます」
『燕支の皇子とやらはもう到着したのか?』
「いえ今日はまだ・・・遠方からですので若干予定がずれることは想定されますが、おそらく明日には到着されるかと・・・」
『そうか・・・どんな奴だろうな』
孝志郎さんが異国の皇子なんかに興味を持つなんて意外だ。
「まぁ、王の遺言みたいなもんですからね。霞様も一応召し上げることになさったみたいですけど、紺青には孝志郎様始め十二神将隊がいるわけですから・・・」
『藍は・・・どう思う?』
え?と少し驚いたように無線を見つめる三日月。
「お前何か霞様から聞いてるのか?」
俺の顔を見て、いえ、と微笑む。
「十二神将隊は多忙で四六時中姫様方の護衛につくというわけにはいきませんし、燕支の橘様は剣術の達人と伺ってますから・・・助けになってくださるものと思いますよ?」
『彼は『神器』が遣えるのか?』
「いえ、燕支にそういった習慣はないようです」
『ならば・・・都に着き次第、彼の指導についても考えなくてはならんだろうな』
書類に再び目を落としながら、何でもないように三日月は言う。
「それはもう、勾陣隊の片桐伍長に依頼済みです」
びっくりして聞き返す。
「剣護にって・・・何でまた」
普通に考えれば士官生の指導で慣れている天一隊に頼むのが筋じゃないだろうか。
「彼は剣術に長けてらっしゃるそうですから・・・勾陣が最適じゃないかと思いまして」
『・・・理由はそれだけか?』
書類をめくる手が止まる。
『どうなんだ?藍・・・』
「それだけですけど・・・高瀬隊長より同期の片桐伍長の方が頼みやすかったものですから、ついそちらへお願いしてしまったんです・・・いけなかったですか?」
少し間があって、孝志郎さんが笑う。
『まぁ、お前がそういうならそうなんだろうな。任せる』
孝志郎さんと三日月の意思疎通はいつもこうやって完璧だ。
二人は10年以上兄妹のように暮らしてきたのだから、不思議なことでもないのだが・・・
若干の嫉妬を覚えないではない。
「なあ、三日月」
はい?と俺の顔を見つめる。
「その橘右京ってのは・・・どのくらい強いんだ?」
すごいらしいですよ?と笑う。
「桧皮での内乱、ご存知ですよね?」
「あ・・・ああ」
以前総隊長会議で玲央が報告していたやつか。
「その時近隣国である燕支の協力を頂いたんですけど・・・かなり大規模な内乱だったのを短期間で収拾することが出来たのは、橘右京様の功績あってのことみたいですから」
『自身の剣術の腕前だけじゃなく戦術にも長けているってことか。田舎に置いておくには勿体無い人材ではあるな』
孝志郎さんがここまで人を褒めることは滅多にない。
「そいつ・・・俺らより頼りになるってことっすか?」
思わずつぶやいた俺に、にんまり笑って三日月が言う。
「草薙伍長・・・ヤキモチですか?」
「う・・・うるせーぞ三日月!そんなんじゃ・・・」
『・・・試してみたらどうだ?』
挑発的な孝志郎さんの声。
「ちょっと・・・何おっしゃってるんですか?一ノ瀬隊長・・・」
動揺したように言う三日月を制して言う。
「いいんすか?」
『俺は構わねぇぞ。自信があるならやってみろ』
「・・・わかりました」
無線連絡後、困惑した顔で三日月が言う。
「本当に・・・やるんですか?」
「あったりまえだ!これは一種のチャンスだぞ!?」
平の三日月の尻に敷かれてるなんて・・・いつまでも他の隊の連中に言わせてなるものか。
「よし!明日のお迎えに備えて俺は帰るぞ!宿直しっかりな、三日月」
「・・・はーい」
『花街』の夜は長い。
一件目のお座敷が済み、次のお座敷までの時間を過ごそうと戻った控えの間で、珍しく後輩の『花姫』達がこそこそ話しているのが目に留まった。
「どうしたんだい?みんなして・・・」
「あ、香蘭姉さん!それが・・・」
中の一人がこそこそと耳打ちする。
「古泉の若?」
頷く。
「白蓮姉さんは丁度お勤め中だったんでそうお伝えしたら・・・その・・・『誰でもいいから』っておっしゃって」
「・・・へえ。で、誰がお相手したんだい?」
一人がおずおずと手を挙げる。
「なんだかその・・・心ここにあらずって様子で」
「そんで・・・もうお帰りになったわけ?」
「いえ・・・今は・・・白蓮姉さんのところです」
「へえ・・・梯子なんて景気がいいこった」
それにしても・・・確かに珍しい。
「何かあったんですか?」
背後から聞こえる白蓮の声に、振り返って微笑んで答える。
「何で?」
いえ、とうつむく。
「俺・・・何か変かな?」
「変なんて・・・ただ、いつもと様子が違うような気がして」
女性という生き物は鋭いものだな。
彼女の髪に触れる。
「別に・・・白蓮が心配するようなことは何もないから安心しな」
俺の手を取って少し寂しそうに微笑む。
「はい・・・」
じゃあまたね、と立ち上がった俺に彼女は少し非難めいた声でささやく。
「・・・お帰りになるんですか?」
ごめんね、と振り向いて笑う。
「明日早くてさ!白蓮が俺のこと忘れないうちにまた来るから・・・待ってて」
「・・・またそんな・・・意地悪なことおっしゃって」
聞こえなかったふりをして、俺は白蓮の部屋を出た。
勾陣隊舎の裏庭に面した縁側で、手入れしていた『蛍丸』を月明かりにかざす。
深い青い光を放つその刀を見つめ、つぶやく。
「橘右京・・・か」
何で俺なんだ?と聞いた俺に、藍は深刻な顔で声を潜めて言った。
『誰にも言わないでくださいね・・・彼は『水鏡』を遣う可能性が高いんです』
『水鏡』。
『蛍丸』と同じ刀工の作とされているその刀は、先々代の王が諸国平定の際に遣ったとされる王家に伝わる『神器』だ。
何でそんな由緒あるものを・・・紺青に縁もゆかりもない燕支の皇子なんかが?
おまけに彼は剣術の達人だというではないか。
『面白そうだね』
俺が教育係を仰せつかったことを告げると、一夜はいつものように楽しそうに言った。
『俺としてはその剣術の方が興味あるけど』
『・・・まあな』
『剣護は興味ない?』
いぶかしげに見つめる俺に手にした煙管を向けて、不敵に笑う。
『・・・試してみようよ』
『試すって・・・何をだ?』
『決まってるじゃない?彼の実力さ』
楽しみだな、と天を仰いで笑った一夜が何を企んでいるのかも、俺を憂鬱にさせる。
「大事にならなきゃいいけど・・・」
『藍から何か聞いてないか?』
無線から聞こえてきた孝志郎の声に眼鏡を外して答える。
「『水鏡』のことか?」
『『水鏡』?』
孝志郎に話していないなんて、藍にしては珍しいことだ。
『さっきは龍介もいたからな・・・話しづらかったのかも知れないが』
「霞姫がおっしゃったようなのだが・・・『水鏡』が橘右京を呼んだ・・・と」
でもそんな話信じられる?藍は難しい顔でそうつぶやいた。
『来斗はどう思う?』
「まぁ・・・ない話ではないだろうな。『神器』との同調性が高まればその声を聞くことが出来る、というのは古くから書物にも書いてあることだし、実体験としてもないことじゃない。ただ『呼ぶ』というのは・・・」
『陛下や霞様は『神力』が恐ろしく高い・・・それに『水鏡』は王家に伝わる『神器』だからな。そういうこともあるんだろう』
「『水鏡』・・・少し、調べておくか?」
『ああ、よろしく頼む』
橘右京・・・か。
橘紫苑・・・・・・以前燕支での反乱における中心人物であり、橘右京の兄。
「過激な人物でないといいがな」
少し笑ってそれはないだろう、と孝志郎が言う。
『聞く所によると玲央の幼馴染だそうじゃないか』
「そうか・・・確かに玲央とは故郷が近いな」
『それに藍だ』
「藍?」
『あいつすげえ楽しみにしてるんだぜ、右京様のお越しをさ』
それは・・・初耳。
『藍は勘がいいからな。あいつが警戒してる様子がないんであれば大丈夫だと思うけどな』
「確かに・・・そうだな」
孝志郎がそう言うのであれば、そうなのだろう。
だが『水鏡』をよその人間に託すとなると・・・波紋を呼ぶことにもなりかねない。
ただでさえ、愁が何やら神経質になっているというのに・・・
『そいつのこと、よく見てやっといてくれないか?藍や龍介だけではちょっと不安でな』
「了解した」
『明朝やったかな?その・・・燕支の皇子さんのお越しは』
この話題は何度目だろう、ため息が出る。
「そうでーす!随分と首を長くして待ってらっしゃるみたいですけど、遠くからのお越しですから数日ずれ込む可能性はありますけどね」
別に待ってるわけじゃ・・・と言葉を濁す愁くん。
「楽しみですねー、どんな方なんでしょう?」
『藍はんは・・・楽しみなん?』
「まぁ、それなりに」
好奇心は人より強い方だ。
それに『水鏡』。霞様から聞いて、まだ来斗と剣護にしか話してないけど。
『孝志郎はんは・・・何て?』
孝志郎もかなり興味を示していることは確かだが・・・
それを愁くんに告げると色々面倒そうだ。
「別に何も。いつ着くんだ?ってそれくらいでしたよ」
『そ・・・そうか』
少しほっとしたような声。
「いい加減・・・孝志郎離れしなよ、愁くん」
『な・・・何言ってはるんや!?僕は別に・・・』
認めたくないらしい。
けど・・・孝志郎離れしなきゃいけないのは私も同じなんだろうな。
「何でもありません。すいません変なこと言って・・・聞き流しといてください」
「到着は明日、とのことだ」
そう、と明るい声が響く。
『よろしくお願いしますね!私の大事な一番弟子・・・貸して差し上げたんですから』
「無論だ」
『右京が強いからって・・・あんまりいじめちゃ駄目よ?』
ため息をつく。
「花蓮・・・何だ?その・・・いじめるというのは」
『だって秋風さん意地悪だから』
笑って言う花蓮の声はこの20年、ほとんど変わりないように聞こえる。
『あなたが燕支にお越しになるなんてこと・・・無いんでしょうね?』
寂しそうに言う彼女に、申し訳ない気持ちもある。
「すまないな・・・苦労をかけてしまって」
『いえ、いいんです!私信じてますから・・・』
「何をだ?」
ふふ、と笑って花蓮は言う。
『いつか秋風さんと舞と、三人で幸せに暮らせる日が来るってこと!』
その想いは私だって同じだ。
しかし・・・硬い表情で私を見つめる舞の姿を思い出す。
仕方なかったなんてこと・・・あの子には到底理解してもらえないに違いない。
『夏月の息子・・・元気にしてる?』
花蓮は風の存在を知らないし、舞が偶然紺青に帰ってきたことも知らない。
花蓮の唯一の楽しみは、夏月の忘れ形見の成長なのだった。
「ああ。最近更に夏月に似てきたように思うが」
『それは・・・モテるでしょうねぇ』
モテるなんてものじゃない・・・なんて、花蓮に言っても始まらないのだが。
「剣術の方もすごいものだよ、さすがは夏月の息子といったところかな」
『体のほうはもういいの?』
一夜という青年は昔体が弱くて、夏月がひどく心配していたことを思い出した。
「ああ、大人になってからは全く・・・そういった話は聞かないぞ」
『そう!よかった・・・ねえ、秋風』
「何だ?」
『今は紺青も大変だから我儘言わないけど・・・いつか会わせてね、一夜くんと・・・舞に』
遠く燕支と繋がっている星空を仰ぐ。
「ああ・・・約束する」
夜風を受けて歩く。
穏やかな春の星空と裏腹に、心は冷たく凍り付いてしまうようだ。
ふと、通りかかった騰蛇隊舎の窓を覗き込む。
隊舎の中では藍が一人、本を広げてぽつんと座っていた。
戯れに戸を開けて、中に向かって声をかける。
「藍いるー?」
返事が無い。
よく見ると彼女はうたた寝をしているようだ。
「・・・風邪ひくよ?」
俺の声に気づかないらしく、こくり、こくりと体を揺らしている。
大きく息を吸い込む。
「・・・こらぁ三日月!!!何やってんだ勤務中だぞ!!??」
びくっと立ち上がる彼女。
「す、すいません!」
寝ぼけて大声で叫ぶ藍に、可笑しくなって笑いながら言う。
「・・・って、龍介に怒られるぜ?」
はっとした顔をして、恨みがましい目で俺を見る。
「・・・何か御用ですか?」
「別に用なんてないけど」
彼女の目の前の椅子に腰掛ける。
「だったら帰って休まれてください・・・古泉隊長明日もお仕事ですよね?」
事務的に言う藍に、甘えた調子で言ってみる。
「ここにいちゃ駄目?」
「・・・何で?」
「別に何ででもないけど」
彼女は呆れたようにため息をついて席を立つ。
やがて流れてくる、濃いコーヒーの香り。
机に突っ伏して、酔った頭でぼんやりと思い返す。
『お母様と同じご病気の可能性があります』
母の主治医だった、もう引退した医者に言われたその一言。
『病院できちんと検査されたほうがよろしいかと』
なんとなく、そんな気はしていた。
それを認めたくなくて彼の元を訪ねたのだが・・・裏目に出てしまった。
親父は何て言うだろう?
十二神将隊に入隊してからは、親父に会うことなんて年に数回くらいのものだ。
未練がましく俺が後を継ぐ気がないことについて文句を言う、その寂しい姿を見たくなくて、ついつい足が遠のいてしまう。
それに・・・剣護は?
こないだ咳き込む俺の姿に心配そうに声をかけてくれたあいつに・・・何て話そう。
それに・・・
コン、と小さな音がして、目の前にコーヒーの入ったカップが置かれる。
「それ飲んだら帰ってね」
ありがと、と笑いかけると、仕方ないなぁと藍は微笑み返してくれた。
「何か変だよ?今日の一夜・・・」
「・・・そう?そういやさっき白蓮にもそう言われたなぁ」
むっとした顔で俺を見て、開いていた本に目を落とす。
沈黙が流れる。
「・・・軽蔑してるんだろ?」
びっくりしたように俺を見つめる藍。
思わず口をついて出た言葉に、自分自身も驚いた。
だが、流れ出した言葉は止まらない。
「色恋にうつつをぬかすなんてナンセンスだって・・・藍はそう思うんだろうな」
「そんなことないけどなぁ」
何でそう思うの?藍は優しい声で訊く。
「どんなに他人を求めたって、所詮人間死ぬときは一人だっていうのにさ」
「そうだけど・・・それでも」
藍の細い指が俺の髪を撫でる。
「目を閉じるその瞬間まで大好きな人が傍にいてくれたら・・・寂しくも、恐くもないんじゃないかな?そういう人を見つけることって、無意味なことだとは思わないけど」
机に顔をうずめて目を閉じ、彼女の指先に全神経を傾ける。
「藍は・・・やっぱり孝志郎に傍にいて欲しいと思う?」
そうねえ、とつぶやく彼女に若干気持ちが波打つ。
「でも・・・そうだな。一夜もいてくれたら嬉しいかな」
「・・・俺?」
「大丈夫だよってあなたがにっこり笑って言ってくれたら安心しそうだもの。それがどんなに無責任で適当な言葉であったとしても、ね」
「・・・・・・失礼だなぁ」
楽しそうに笑う彼女につい、聞いてしまう。
「藍は・・・傍にいてくれる?」
髪を撫でていた手が止まる。
「俺が死ぬとき・・・大丈夫だよって笑ってくれるの?」
「あなたには・・・白蓮がいるでしょ?」
黙り込む俺に、明るい声で藍は言う。
「まぁ、白蓮も売れっ子だしねぇ・・・あなたが白蓮に捨てられちゃって、他の女の子達から見向きもされなくなっちゃってたら・・・」
「・・・なんだよそれ」
「いいよ、その時はね」
「約束・・・してくれる?」
「約束する!・・・だからちゃんとおうちに帰って寝なさい。きっと疲れてるのよ、一夜」
ここで気持ちを伝えて全て洗いざらい話したら・・・藍は俺の傍にいてくれるだろうか?
藍はすごく優しい子だから・・・きっとそうしてくれるだろう。
でも・・・
「藍ありがと!ちょっと元気出た」
そう言って席を立つ。
そんな風に彼女を縛りつけたとしても・・・俺は本当に幸せなんだろうか。
「忘れてね、俺が言ったこと」
「勿論!弱気な一夜なんて気持ち悪いもの」
藍は平然と言って、俺の顔を見てにっこり笑った。
「おやすみ!藍・・・」
「あっそうだ!一夜に言っとくことがあったの」
何?と聞き返すと真面目な顔で彼女は言う。
「明日到着される燕支の皇子様のことなんだけど・・・」
なんだ・・・仕事の話か。
「剣護から聞いたよ、うちで面倒見てくれって?」
「そうなんだけど・・・変なちょっかい出さないでね」
「・・・何それ?」
「紺青のこと、右も左もわからない子なんだから・・・いじめないでねってそういうこと!」
・・・さすが藍、鋭いな。
「俺も大人なんだからそのくらい分かってるよ!」
「うそばっかり・・・本当にお願いよ?一夜・・・」
はあい、と子供のような返事をして騰蛇隊舎を出た。
小高い丘の上から見える、大きな城と砦に囲まれた賑やかそうな街。
こんな夜更けだというのに街には灯りがともり、星空を地面に写し取ったようだ。
紫苑兄さんの形見の脇差を握り締める。
「兄様・・・見えますか?あれが紺青の街です」
紫苑兄さんの笑顔を思い出す。
沢山の国を束ねる紺青という国。
僕を召し上げるという紺青の王とは一体どんな人物なのだろう?
『頑張ってね!体に気をつけて』
花蓮様は笑顔で言っていた。
『正直・・・あまり行きたくはないんですが』
『そう?』
紺青の持つ大きな軍事力に興味はないし、自分が離れた後の燕支のことを考えると不安だった。僕に何をさせようとしているのかも、全く見当がつかない。
『あなたなら吸収出来ること、沢山あると思うけど』
『・・・そうでしょうか?』
『あなたが色々なこと学んで帰ってきてくれたら、燕支はもっといい国になると思うわよ?それに・・・』
花蓮様は思いもよらないことを言った。
『私ね・・・若い頃紺青にいたことがあるの』
訳あって紺青に戻ることが出来ない・・・という花蓮様のために紺青の都を見てくることだけでも、僕にとっては価値あることのように思えた。
あの大きな街で一体何が待っているのだろう?
どんな人々と出会うのだろう?
今僕に出来ることは一つ、ただ前に進むことだけだ。
「右京様、そろそろお休みになられませんと・・・」
従者の一人の言葉に笑って返事をして、僕は宿へと戻った。
こんな感じで順不同に掲載していきたいと思っています。お付き合いいただけると嬉しいです。