始まらなかった物語
「かぁさま、あれはなに?」
「あれは...
あなたと同じ歳くらいの貴族の男の子のお墓よ。」
「おはか...」
「この村に療養できていて、療養の甲斐なくあの世に旅立ってしまったのよ。
それで、この村でいちばん綺麗なこの丘の、いちばん景色の美しいあそこに、ひっそりと眠っているのよ。」
「ねむってる...」
「そうね、眠っているの。」
「1人でですか?」
「ええ、1人でよ。」
「さみしくないですか?」
「さみしいかしら...
そうね、寂しいかもしれないわね。
ここは、だれもこないから」
「かわいそうです...」
「ええ。可哀想ね。
お母さんがいなくて、お父さんも滅多に会えないまま、1人ローマからこんな離れたところに追いやられて、病気で苦しいまま死んでしまうなんて...うちの子たちは、みんな元気だから、想像も出来ないわ」
「一人ぽっち...」
「もし、生きてたら、プリューラはお友達になれる?」
「おともだち...うん!
プリューラ、
おともだちになりたかったです!」
「そうね。じゃあ、この摘んだお花、あの子にも分けてあげようか。」
「はい!」
「あなたがいきていたら、
プリューラはおともだちに
なりたかったです。
いつかどこかでめぐりあって、
きっとともだちになりましょう。
なむー」
あの丘で。
あなたに初めて出逢えたこの丘に。
私と巡り会う前に旅立ってしまったあなた。
かあさまがいきていたら迎えるこの終わりには私にも続きがない。
文字を読めるようにも、本を読むこともなければ、予言をすることもなく、災害に襲われ家族全員がそちらに行くまであと半年。
5歳の普通の少女として、かあさまに、とうさんに、兄たちに。
せめてめいっぱい甘えよう。
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