悪役令嬢の密やかな憂鬱
今日は今までの一生で、一番嬉しい日になるの。
朝の早起きは小鳥たちのおかげ。きっと私の噂をしてる。
召使いが用意した衣装、縛り上げるコルセット。
細い腰がいいなんて、殿方はみんな勝手なのね。
今日のドレスは薄緑がいいわ。清楚な私によく似合う。
傷を隠す手袋に、ふわりと巻いた髪もオーケー。
さあ、乙女の戦闘準備は万端。貴方に会いにいきましょう。
白い柱と緑の葉、それに朝露が輝いて。
滴を飲んだチューリップ。あなたたちは今日も綺麗ね。
庭園の隅の四阿でぼんやり待てば。
優しい貴方は「やあ、待たせたね」なんて。
いいの、私が勝手に待っただけ。
貴方の髪が揺れる。
七つのときに貴方を見つけた。
私の誕生パーティーで、主役よりも輝いていた貴方。
今でも素敵よ誰よりも。
貴方のために着飾るの私。
誰の目にも止まらなくていいわ。ただ貴方が綺麗と言ってくれたら。
裏返る声を扇子で隠して。
さあ今日は何をしましょう。
どこに連れていってくださいますか?
どこでもいいの。
貴方と一緒なら、今日も人生で最良の日になる。
今夜は私と踊りなどいかが?
出くわした端女。
私は知っているの。いつも貴方はあの子を目で追う。
知らないとでも思って? 貴方の目を、いつも私は見つめているのに。
あかぎれだらけの綺麗な手。深緑の目が貴方を見てる。
羨ましいわ。
私があの子に勝っているのは、お父様の地位とお金だけ。
それと胸もちょっぴり勝っているかしら。
十のときに貴方をねだった。
お父様のおかげで手に入れたわ貴方。
それでも心はあの子のもの。お父様は私じゃないもの。
貴方のためなら何でもするわ。少しはお料理も出来るようになったのよ。
貴方はあの子のお菓子に夢中だけれど。
今度あの子に綺麗なドレスを着せてあげようかしら。
きっと似合うわ。私より。
貴方とあの子、見ていれば誰でもわかるわ。
貴方の隣に立つべきは誰か。
いいの。貴方の隣には、世界で一番綺麗な人が立っていてほしい。
でも、それまでは。
いつか貴方が離れていくまでは。
抱き寄せた温かい腕。今日はちょっと大胆にいきましょう。
いつか貴方が他の女の手に渡るまで、貴方はまだ私のもの。
それまではちょっとの意地悪も許してね。
今はまだ、見つめあったりしないでくださる?
「早く道をあけなさい、この貧民上がり!」
……ごめんなさい、ちょっと言いすぎたわ。