第一章 三話 現実を突きつけてくるのはいつも親
その後、ナナと名乗った女の子と帰路を共にした。「女の子としゃべりながら帰った」といえば聞こえはいいが、この女の子、僕にしか見えていない。そして声も僕にしか聞こえていない。会話はできるが道行く人から僕を見れば、ただひとりごとを大声しゃべっているおかしい人だ。だから僕は声を発していない。そのかわり僕が一方的に説教されていた。
「まず五年も見えないのがあり得ない。」
「あの体育祭の走りは何だ。」
「あの時、あの女の子には告白しておくべきだった。」
「ごはん残しすぎ。好き嫌いするな」
などなど、僕がこの子を認識できない間の様々なことをぶちまけてきた。きっと認識されていなくても、こんな小言をずっと言っていたのだろう。誰にも認識されずにずっと一人だったのかと考えると少し申し訳なくなった。
でもちょっと言いすぎやしないか?女の子にここまで言われた経験がない僕のライフはなくなる寸前だった。
うるさい小言は続いているが、それは置いておこう。
みなさんは幽霊と聞いてどんなものを想像するだろうか。大抵の人がこういうだろう。
「半透明でちょっと浮いていて、怖いもの。」
僕もそう思っていたさ。今日までは。正確には三十分前までは。しかし僕の隣にいる幽霊は、透明でもなければ普通に地面を歩いているし、怖くない。むしろかわいい。超かわいい。僕のタイプ。
僕も本人に聞くまでは、普通の女の子だと思っていた。そのせいでさっきの信号では周りの人から白い目で見られていたわけだし。実際に幽霊という概念が大きく自分の中で変わったのだ。もう一人で夏、テレビの恐怖特番だって見れそうなくらい。そんなことを考えているとナナちゃんの小言もいつの間にか終わっていた。
というか拗ねていた。やっと会話できるようになっていっぱいしゃべっているのに無視されればそうなるか。
お詫び代わりとして家に帰ったらいっぱい話をしてあげよう。僕からも聞きたいことがたくさんあるのだから。
いつもなら三十分で帰り着く自宅だが、今日は倍の一時間もか買ってしまっていた。やはり横断歩道の場所で時間を取られてしまっていたみたいだ。僕の家はちょうど晩御飯の時間だった。今日はハンバーグだ。
いつもなら会話の少ない食卓なのだが、今日は違った。
「ナツの帰りが遅いから、てっきり女の子の一人や二人でも連れて帰ってくるのかと思ったけど、淡い期待だったわね。クリスマスまであと三日だっていうのに、いつになったら彼女ができるやら。」
母親から息子に発せられたと思えないセリフが僕を大きく傷つけるのだった。
まぁ、今日は一人じゃなくて女の子と二人で帰ってきたのだけど、僕以外にはナナちゃんの姿はみえないしなぁ。
ちなみにナナちゃんは僕の部屋でまだ拗ねている。
「いつになったら彼女ができるかなんて僕が聞きたいよ。努力はしてるのにできないのだから仕方ないだろ。気になる人はみんな彼氏がいるんだから。浮気相手にでもなれっていうのかよ。」
「まぁ確かに、好きな人とナツを選べって言われたら母さんも迷わず好きな人を選ぶ自身しかないけど。」
母よ息子をそんなに傷つけて何が楽しいのだ。
「孫の顔を見たいから、一生独身だけはやめてくれよ、父さん楽しみに待っているからな。」
父よ、もう追い打ちはやめてくれ。
「父さんも母さんも、少しは息子をいたわってくれよ。ったく、ごちそうさま。」
「こら。ナツ。半分以上残してるじゃない。せっかく作ったんだから、しっかり食べなさい。」
バカみたいな母親だが、食べ残しだけは昔からうるさかった。食べ残しがいけないことだというのはわかっているが、食べれない日だってあるじゃないか。
「食べたいけど今日は色々あって食欲ないんだ。おいしかったよ、明日の朝温めて食べるからそのままにしておいて。」
今日は本当に食欲がなかった。食材の皆さん明日食べるので許してください。などと心で呟いていると
「あれは、フラれたわね。」
「そうだな、かわいそうに。」
父さんたちの攻撃は終わっていなかったようだ。
「フラれてないからな!」
そう叫んで僕は食卓を後にした。